『深夜開封』 ※【挿絵アリ】
◇『深夜開封』
金曜深夜、午前零時すぎのファミレスで。
俺と虎門さんは山積みになったとある“箱”を前にして互いに財布の紐を開いた。
闇取引だ。
「お約束の品たい」
「……確かに。シュリンク包装も破られてない、新品だ。釣りは取っといてくれ」
俺は一万円札を数枚、虎門さんに渡した。
虎門さんはちろっと舌で指先をねぶって「ひー、ふー、みー」と念入りに確かめる。
「よかよー、これでそいは公知くんのもんとよ」
「ふっふふふ……」
俺は笑った。この“箱”を手に入れた。
トレーディングカードゲーム。その入手困難な予約商品の“箱”が五つ。
この“箱”は希少なカードだけでなく、特製スリーブなど備品がついてくる限定生産商品だ。
俺は虎門さんにも抽選販売に応募してもらい、当たったら高値で買い取る約束をしていた。
購入は一人三箱まで。四店舗に応募して、俺は全滅、虎門さんは二つ当選した。
虎門さんはちょっとしたラッキーガールだ。
「さぁ――開封だ!」
「開封や~」
念願が叶ったのだ。こんなにうれしいことは滅多にない。
あとは“引き当てる”のみ。
十数分後……。
「あー、爆死たいねー」
「なぜだ、なぜ出なかった……! 【運命と牢獄の女神バスティーユ】、一枚も……!」
お目当ての品が当たらず、俺はテーブルに突っ伏して絶望の沼に沈んだ。
するとまねっこするように虎門さんもぺたんとテーブルに突っ伏して、横顔を覗き込んできた。
にへっといたずらげに微笑んで。
「女神さまに嫌われとっとかもねー、こいつ彼女おるーって」
「はは、そりゃまいったな」
「どんまい、どんまい」
俺はカードを片付けて、ファミレスのメニューを開く。
するとおもむろに虎門さんは自分用にとっておいた最後の“箱”を取り出して、開封。
「あ、これ? 【運命と牢獄の女神バスティーユ】いうとは?」
燦然と輝く超絶美麗カード。
それは希望の光。
そして絶望の闇。
親しき仲にも礼儀あり。
愛しき仲にも交換あり。
俺は追い諭吉を覚悟して、財布に手を伸ばしたが、しかし。
「はい、あげる」
「――女神だ」
「うん、女神とよ?」
その時、虎門さんの微笑みはプラズマシークレットレア仕様の女神様よりまばゆかった。
虎門さんは俺の素敵な彼女だ。