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第58話 『現代詩編 下』

 長期休暇は書き入れ時だ。バイトだって同じこと。クリスマス頃から三が日過ぎあたりまでは色が付いたりもするから猶更に。

 今年も残すところあと二日となった今日も、琴樹は金策に勤しんでいた。ただの本屋のアルバイトだが。

 そしてこの日、予期せず見知った顔と顔を合わせることとなったのだった。

「え、幕張君?」

「……こんにちは西畑さん」

 目が合ってしまっても数秒はごく普通の客と店員のやり取りをしていたから、もしかしてバレずに済むかなぁ、と思い始めた矢先のことである。

 西畑(にしはた)(あや)の後ろには他の客もおらず、早く行けを強く言いだすこともし難かった。

「バイト、ここだったんだ」

「ああ」

 琴樹は最低限の返事だけで会計作業を進行させていく。

「優芽もどこでしてるかは知らないって言ってたし……秘密にしておいた方がいい?」

「出来ればそうしてくれるとありがたい」

「わかっ……ごめん、やっぱり無理かも」

 琴樹としては、なんで? という具合だ。答えはすぐに聞こえてきたしやって来た。

「西畑、買うもん買った……おお? 琴樹じゃん……うわおまえここだったんかバイト先!」

 騒がしさには強めに出られる。

「静かにしろって。バイト中だぞこっちは」

「おっとわり。……何時に終わんのよ? ん?」

「……18時」

 嘘を吐いても良かったが、バレた時のリスクの方が高そうで、琴樹は素直に30分後の時刻を口にした。

「すぐですねぇ! 待っといてやるから飯でも行こうぜ!」

 そうなることはわかっちゃいたけれど。と、諦念はため息で吐き出した。


 定時に上がって、ビルの一角の書店区画から出れば、二人がベンチに座って待っていた。あと、壁に凭れているのも一人。

 一人の方が仁で、エレベーター横の休憩スペースに陣取っていたのが文と、希美だった。

「どういう集まりで?」

「たまたま会った。よっ、バイトおつかれさま」

 希美が気楽に手を上げるから琴樹も「どうも」と上げ返す。手をクイクイと合図されたから手の平を打ち合わせておく。視線は、ほんとのところを話してくれそうな相手に向けた。

「ほんとにたまたまだよ、浦部君とは。私と希美が買い物に来てて、さっき会ったばっかり」

 文がそう言うんならそうなんだろう。本当に。

「オレは遊びに行ってた帰りにな。特に用もねぇんだけどなんとなく楽器見に来たんだよ」

「へぇ、楽器」

「興味あるなら見に行くか? レクチャーしようか?」

「やめろ、めんどくせぇ」

 手をワキワキと勧誘モードに入った仁に対しいい思い出はない。

「飯行くんだろ?」

「わたしパスタぁ。パースターがいいなー」

 希美以外の三人で顔を見合わせる。特に異論もないから、デパート上階のレストラン街に美味しいパスタ屋さんを探しに行くことになった。


 適当に見つけた店に腰を落ち着けて、取り留めなく近況なんかを報告し合う。

 仁は相も変わらず部活、バンド活動に励んでいる。来年には学祭以外の披露の機会を作るのが目標で、その時には見に来てくれ、と言われれば琴樹たちも深く頷いた。義理というのもあるが、興味もあった。自分で演奏する気は全く持てない三人だが、ライブを観に行くのなら意欲がなくもない。

 希美が「チケット、友達料金でよろ」と言い放ち、仁から抗議の声が上がる前に文へ最近どうと水を向けた。希美自身は何食わぬ顔でパスタをくるくるとフォークに巻き付ける。

「私は別に、これといって何もないかな。冬休みの課題終わらせたくらい」

「え、もう!?」

「はやいな」

 仁の驚愕に琴樹も続く。希美は希美で「ふほーい」と口は開かずに仁と同じ顔をしている。

「年明けだとやる気起きないから早めに片付けただけだよ。というか、そのくらいのつもりで取り掛からないと、三学期の始業式前になって泣く羽目になるんじゃない? 特に希美は」

「んぐっ……そんなことないってぇ! わたしもちゃんと計画立ててるんだからっ」

「どんな?」

「正月ぐーたらが一段落したら全部やる」

「はい絶対泣くやつぅ」

 仁の言葉に琴樹も激しく同意したいところだが、軽く言い争う二人を見てやめておいた。

「幕張君はどうしてたの? クリスマスも来なかったけど」

「バイト漬けだな、基本的には。あとはたまに芽衣ちゃんと遊んだりとかしてる」

「……優芽とも?」

「一応はそうなるな。白木さんは保護者枠だから、あくまで芽衣ちゃんが中心だよ」

 いつの間にか、仁と希美も琴樹に注目していた。それは年相応の思春期的好奇心でだ。

「ん、んん。えー、幕張、そろそろ聞きたいんだけど……優芽と付き合ってるわけではない、と。そういうことでごぜーますか?」

「ごぜぇますよ。たぶん、白木さんにも否定されてるだろ?」

 琴樹と優芽では一考の余地もなく優芽の方が希美と近しい。琴樹が考えるに、たぶん先に優芽に同様の質問をして、そしてきっと同じように否定されているはずだった。

「まー……そだけどー……」

 グラスを両手で持って傾ける希美に代わって仁が継ぐ。

「それにしたって、なぁ。勉強会の時だってほぼほぼ付きっ切りみたいな状態だったろ」

「付きっ切りは言い過ぎだと思うけどな。とにかく、そういう話ではないんだよ。好きとかなんとか、そういう話じゃ」

 琴樹は、そんなことより、と話題を変える。

「丁度いいから篠原さんと西畑さんに訊いてみたいんだけど」

 このごろ、琴樹は女児服のセンスを磨くことに勤しんでいる。

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