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第5話 幼女に抗えない

「おねえちゃん!」

 メイが、今度は姉の足に抱き着く。そして幼い声に幼い怒気を乗せて言う。

「ねてないとだめ! めー!」


「あー、うん。てかなんで芽衣が……うぅ、頭いたぁ」

 ふらり、と白木優芽が立ち眩み、琴樹は一歩駆け寄りかける。幸い、優芽は玄関ドアに身を預けてバランスを取り戻した。が、誰がどう見ても具合はよろしくなく。実際にいま、優芽の体温は38度を超えている。


「おくすり! おねーちゃ、おくすりっ!」

 いそいそとレジ袋から風邪薬を取り出した芽衣が、押し付けるように姉の眼前に差し出そうとしている。背丈が足りなくて、優芽の豊満な胸をぽよんぽよんと揺らすことになってはいる。


(ありがとう……じゃねぇ!)

 思わず感謝した琴樹だったが、状況はおおよそ把握した。

「白木さん、とりあえず家に入ろう。外は冷えるから」

 なにせ11月も中旬。陽も落ちかけの夕方に寒風晒しは絶対に良くない。

 だからさっさと踵を返してドアを閉めてしまえ、とは琴樹の本心だった。ついでに五分か十分か、不審者になる覚悟もしている。

「うん。……よくわかんないけど……明日聞く」

「あぁ。じゃあな。お大事にな」

 明日は土曜日ってことにすら頭が回らないなら、本当に早くおねんねした方がいい。琴樹は片足、白木家の敷地に踏み込んでいた足を道路に戻す。

 それを良しとしないのが芽衣だ。


「おにーちゃおにーちゃ!」

 子供ながらに目の前の人がこちらへ来ないという雰囲気を察し、芽衣は慌てて琴樹に走り寄る。

「おねえちゃんお熱なの! めいね、めいね! おにいちゃんといっしょ! ごかんびょー! する!」

 これもそう、偏にドラマの影響で、優芽が『王子様』と例えたものとはまた別のドラマの影響が、芽衣の幼心を焦らせていた。

 女の人が寝込んだ時には、男の人が優しく看病してやらなければいけない。そうでなくとも、とりあえずの看病を。

 それが自分では出来ないことはわかっている芽衣だから、ここで琴樹を帰らせる選択肢はなかった。もともとなかったわけだが。

「こら芽衣! 戻ってきて!」

 熱のせいで反応の遅れた優芽が芽衣を呼び戻そうとする。連れ戻そうとするには、体が重くて動けなかった。

 琴樹も言葉で芽衣を離れさせようとするものの通じず、仕方なくまたも小さな体躯を持ち上げることで意思を押し通す。


「はい。メイちゃん、おねえちゃんと一緒にお留守番、できるよね? ママが帰ってくるまで、お留守番。ね?」

 優芽のすぐ隣に芽衣を下ろし、琴樹は説得を続ける。

「ごかんびょー!」

 手を引く芽衣の様子に、効力のほどは自分で疑いはじめてしまっている。

(どうすっかなぁ)

 屈んでいるから見上げるが、優芽も「芽衣、言うこと聞いて……」くらいの力ない声掛けしかしていない。というか、出来ないくらいに弱っているというのが真相ではある。


(わっかんない、なにこの状況……頭いたいなぁもう)

 物理的に。優芽は二重に頭が痛くて参りそうな気分だった。

(さむいし……)

 ぶるり、と体が震えて、急な悪寒が優芽の体に居座る。とにかく早く布団に戻りたい。

「いいよもう、とりあえず……上がって、幕張」

「いや」

「うっさい。早く」

「ごかんびょーーー!」


 芽衣の強引が優芽を諦めさせる形で、琴樹は白木家にお邪魔することになった。

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