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第33話 珍事

 中一日ぶりの登校後、朝の教室に姿を見せた担任が発した第一声は「よーしおまえらー……すまん!」だった。

 中年にさしかかりの男性教師が笑いながら打ち明ける。

「ま、他のクラスの生徒に聞いてる奴もいると思うが? 来週の校外学習の班分けな、一昨日やんなきゃいけなかったのを忘れてた! そういうわけで今日の一限はホームルームに変更だ。決めるぞー、班分け」


 月の初めに実施の周知だけはされていた校外学習について、琴樹は当然いまのいままで意識の端にもなかった。

 優芽をはじめ、交遊の広い生徒はそうでもない。

「やっぱりそういう感じなんだ」

「みたいだね。じゃあ言ってたとおり?」

「うん。よろしく」

 席の近い文と確認し合う。昨日、別クラスの友人から仕入れた情報を元に、事前に一緒に班を組む約束をしていた。優芽と文と、それから涼の三人だ。優芽の自室で四人で卓を囲んで話し合った結果、希美は他の人に合わせることになっていた。

「頼んだぞ、文、涼」

 まるで使命を託すが如く言われても、文には優芽のやる事を逐一監視する気はない。「校外学習終わったら報告よろ」なんていうのは勝手な話すぎた。


 でも、とは思う。希美の言動は軽くあしらいつつも、文も少し気になってはいる。

「はいじゃあはじめ。好きに組めよー」

 と担任が言い放ってすぐ、立ち上がって迷いなく歩いていく優芽の選択がどんな結果につながるのかは。


「ね、幕張、一緒に班組もうよ」

 話しかけながら、実のところ優芽には勝算があった。母から、昨日のスーパーでの出来事については聞いていた。

 そしてその時に、琴樹が芽衣に「またね」を言っていたとも。

「いや、どうだろ……えーと白木さん、他のメンツって決まってる?」

「うん。涼と文。いいよね?」

「駄目だわ」

「え?」

「あー、駄目っていうのも、違うんだけど……」

 非常に渋い顔で周囲を見回す琴樹に、優芽の理解は追いつかない。

(だめ……? えっ!? なんで!? ……き、嫌われた!? もしかして? え? え?)


 もちろんそんなわけもなく、琴樹としてはただただクラス内の立ち位置を気にしていた。

(白木さんに涼に西畑さん……うむ……あかん)

 一年一組の女子の中でも指折りの人気どころが集まっているわけで、そんなところに入っていっては折角の機会を心から楽しめない。かもしれない。

 失礼を承知で、地味で静かなメンバー集めをしたい琴樹である。


「待った待った! 幕張はなぁ、オレと組むって百年前から決まってっから」

「決まってねぇから」

 初耳もいいところであり厄介もいいところだった。

 意気揚々と闖入してきた仁に、とりあえず訊ねたいのは「なんでそんな話になったんだよ。おまえん中で」ということ。

「や、チャンス到来みたいな? 最近よく話してくれるからそろそろ幕張もデレてきたかなぁと」

「デレねぇよ。ほんとのとこは?」

「余った、オレ」

 遠巻きに琴樹たちを窺う視線が三つ、だけではないが、とりあえずその三つは仁のよくつるむ男子たちだ。

 優芽たちと同じような流れに、だいぶノリ重視の議論の末、仁は一人あぶれたのだった。

「つーわけでよろしくっ」

「まぁ……よろしく」

「なんでよっ!? 私私! 私が先に声掛けたじゃん! ありえんくない!?」

「それは……わるい」

「だっはっは、振られてやんの白木」

「うっさいっ。浦部は他で組んでよ。幕張はダメ。私が先約だから」


(なんだぁ? この状況はぁ?)


 突然湧いて起こった自分の取り合いなどという思いがけない出来事に、琴樹は頭を抱えたい気分だった。

「人気者ですね。焼いちゃいます」

「いつでも代わるぞ」

 いつの間にか傍に立っていた涼に微笑みだけで言外に遠慮された琴樹は、正直に言うことにする。

「助けてくれませんでしょうか」

「んー……こういう優芽は、もう少し見ていたいですけど」

 涼は人差し指を顎に当てて、それからやんわりと断ろうとする。

「そこをなんとか」

「では貸し一つということで」

「なんでもいいよもう」

 現状打破優先で承諾し、琴樹はすぐに後悔することになる。


「約束ですよ。では……優芽、浦部君……幕張君も含め全員で同じ班を組めば良いのではないですか?」

 校外学習の班員は、男女それぞれ2~3人の、4~6人一グループが定員だった。

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