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第31話 カラオケでストレス発散は科学的根拠があるとかないとか云々

 ストレスとか鬱憤だとか、考えすぎて頭に回った熱だとかも、あともやもやと心中に溜まった不満なんかも。

「ぱーっと歌ってぱーっと発散しちゃおう!」

 希美の提案でカラオケに1時間……2時間……3時間も滞在した結果、優芽は非常に気分良くなった。テンション上がった。ちょっとまぁ、はっちゃけ過ぎた。


「うおぉー! なんなんじゃーい! 友達になっちゃ駄目なのかぁー!? 昔の女がなんぼのもんじゃぁ! こちとら芽衣がすっかり懐いてるから芽衣とも仲良くして欲しいだけなんじゃぁああ!」

「荒れとる荒れとる(笑)」

「……アルコール入ってないよねコレ?」

「……入っては、ないですね」

 文が優芽の前のコップを軽く持ち上げて、横から涼もそれを眺める。文が匂いを、涼が味を確かめて、ただのオレンジジュースに違いなかった。


 友情を謳う曲を自分で選んでおいて自分で触発される優芽は、友人三人としては全く世話なかった。とりあえず盛り上がるからすべて良し。

 やけに語気の強い叩きつけるような歌唱が終わった後、拍手が三つ重なる。

「迫真でした」

「でもこれ……そんな怒鳴るみたいに歌う曲じゃないはずだけどなぁ。迫真っていうか……鬼気迫るみたいな?」

「んままままいいでしょいいでしょ。ほいジュース」

 希美から受け取ったオレンジジュースが優芽にはとても美味しく感じられた。


 少し余裕のあるスペースで立って歌っていた優芽がソファに戻り、次の曲ははじまらない。

「はーーー……すっきりした」

「それはよかったでございますれば」

 希美がススっと優芽ににじり寄る。

「でで? 昔の女ってなに? どゆこと? 幕張の元カノ? あいつ元カノいたんか。大人しそうにしてるくせにやることやってたんか」

 琴樹が芽衣を助けたこと。家に上げたこと。公園で三人で遊んだこと。包み隠さず語った。学校で頻繁に琴樹を見ていた事実も認めされられ、それでも一つだけ言わなかったことを、優芽はうっかり叫んでしまっていたのだった。

「あ。……それはぁ……」

「言えない。ということもありますよね」

 言い淀む優芽に涼が助け舟を出す。

「あまり根掘り葉掘り訊いても、幕張君の事情というのも、優芽は私たちより詳しいのでしょうし」

「えぇ? いいじゃんいいじゃん。元カノの百人や千人。コレが初心なねんねなんだからリードしてもらわんと」

「ふんっ」

 優芽のそこそこ本気のチョップが希美の脇腹に食い込んだ。

「そういうんじゃないって言ってるでしょ」

 悶絶する希美を冷たく見下ろす優芽だが、その発言の真偽については蹲る少女はもちろんこの部屋に居る他二名も多大な疑いを持っている。優芽が思う優芽の本心なのだろうとは思っているが、それが本当に本心なのかはまた別だ。あるいは今は本心なのかもしれないが。


「涼はどう思ってるの?」

 こそりと、文は隣に座る涼に耳打ちした。

「そうですね……優芽がすべて知っているとも限らないかと」

「……それはどっちについてよ」

 幕張琴樹のことか、白木優芽自身のことか。

「どちらもです」

 艶やかと思ってしまうような涼の笑みに、こっちもこっちでわからないなと、文は苦笑した。


「ひとまず、決めてしまいませんか? 優芽が明日……はお休みでした。明後日にどう幕張君と関わるのか、関わらないようにするのか」

「別にそんな……決めるとかじゃなくてもよくない?」

 文の尤もな意見に涼が言い改める。

「あぁいえ、こうと決めきってしまうのではなく。それにひとまずです。昨日今日のように今まで通りを心がけて遠巻きにしていても、優芽もまた心労が積もるだけでしょう。その都度、カラオケというのも悪くはありませんが……」

「なーほーね。とりま一回話しかければいいよね。うんうん。押し引きは恋愛の妙だけど……うん、まだ全然引く場面じゃないって。ガンガン押してけ優芽!」

「そういうことではなく」

「いんやいやいや。どうせここで引っ込んでも気になるだけでしょ。好きかどうか以前に、はじまってんの、恋愛戦争は。あとで後悔しても遅いんだから、真っ直ぐ自分に正直にいかなくっちゃ」

 涼の提案はありがたく、文の冷静は心強い。

 そして希美の強さが、優芽にはなにより光って思えた。

「それで最終的に友達に落ち着くんなら、それはそれでしょ」

「そうだね。そうかも。私やっぱり……また三人で遊びたいのかも。私と芽衣と幕張とで。芽衣もそれで、喜んでくれるはず」

「芽衣ちゃんか……」

 文の呟きを拾い上げて優芽は一つ思い至る。

「そだ、三人とも今度、芽衣と遊んであげてよ。涼はよくうち来るからまぁどっちでもいいけど」

「ひどい」

 涼が片手で顔を覆うようにするのに誰も突っ込まなかった。

「学祭ぶり? いいねぇ。芽衣ちゃんに色々教えてあぁげよっと」

「それはやめて。やっぱ希美は会うの禁止。芽衣がこんなになったら泣く」

「じゃあ、そっち決めない? いつどこで芽衣ちゃんと遊ぶかって方」

 文が続けて「私はほんといつでも大丈夫」と言って、四人は予定を確認し合うことにした。


「なんだみんな明日空いてんじゃん。はいけってーい!」

 という結論が早々に導かれた後、店を出た四人が見上げた空は雲の晴れた綺麗な星空だった。

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