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第18話 思い込みってこわいねって話

 ばったり、したのは何処ということもない通路上だった。強いて言えば電器屋の前だが、琴樹にも優芽にも涼にもそこへ立ち寄る用もつもりもない。


「わ、偶然!」

 進行方向が真反対だったから立ち止まって、まずは優芽が偶然の遭遇に手を合わせた。

「あそっか、家近いもんね! 幕張もここよく使うんだ?」

 それは事実を言い当ててはいたが、琴樹と優芽では『よく使う』の頻度に差がある。琴樹としては二週間に一度程度来るなら『よく使う』の範疇だ。対して優芽は、放課後に立ち寄るのも含め今週三度目の来店だった。


「まぁ使うけど。……じゃあ……気を付けて」

「だからありえんくない!? って!?」

「いや俺、用があるから」

「え、それなら……まぁ」

「用というのは? 差し支えなければ教えていただいてもいいですか?」

「本買いに行くだけだよ」

「じゃあいいじゃん! なんだぁ~、もー、じゃあ本屋行こっかぁ」

 踵を返して先頭を張る優芽の後ろをついて歩くことになりながら、琴樹はひとまず隣の涼に訊ねるのだった。

「そっちはいいのか? どっか店行く途中だったんじゃないの?」

「ただのウィンドウショッピングでしたから」

「あそう」

 この場の男女間にあって、私服を見るのは文化祭の打ち上げ以来だった。


 いつもはストレートの髪に今日は緩めのウェーブをかけ、暗くなりがちの秋冬ファッションに対して反抗的な青色をふんだんに使った私服。

(前は結い上げてた気がするし……印象変わるよなぁ)

 琴樹が主に気になるのは、優芽の頭髪だった。前、というのは打ち上げの時。学校では見ない女子の一面の中で、やはり目立つ部分に目がいく。綺麗に染め抜かれた栗色が、いつもより少しばかり鮮やかなように思えた。

(なんかちょっと……黒が少なくなったか?)

「て、どこ行くんだよ」

「どこって……漫画コーナーでしょ?」

「ちげーしそっちは少女漫画コーナーな。まいいや、適当に見ててくれ、五分くらい」

「わ、わ、まってまって。どっちどっち、どこどこどこ行くの」

 どうやらついて来るらしい優芽と涼を伴って、琴樹は目的の棚の前に陣取る。

 たしかこのあたり、と見当をつけたところにお目当ての名前を見つけた。

「小説かぁ。私、読まないんだよねぇ小説。活字」

 すぐ横で優芽がテキトーな本を手に取ってあらすじに目を通している。涼も涼で、こちらはたまには読んだりもするので面白そうなタイトルに手を伸ばしていた。それらを一切気にすることなく、琴樹は同じ著者の本を三冊、見比べる。今週読んだSF小説が思いの外面白かったから、他作品にも期待をかけてみる気になったというわけだった。

「SFですか」

「そなんだ。SFかぁ……なんかうるさ……知的?」

「いまうるさそうって言いかけたろ」

「あははー。中学の時も本読んでる人けっこういたんだけど、SFっていうやつ? 好きって人が……まぁ、その、アレだったんだよね……」

「アレ、というのは?」

 優芽の苦そうな思い出が涼に掘り出される前に「これにするわ」と琴樹は半ば会話を断つためだけに購入する本を決めた。その作品は映像化されていて、そちらで見たものと原作の描写の差異というのを確認してみるのも一興と考えたというのもある。


 それから暇か否かと至極あっさりとした問答があって、今日のバイトを終えていた琴樹は両手に花を経験することになった。

 両手に花柄の紙袋。

(ウィンドウショッピングには付きものか……)

 自分で言い出したことだから文句はないが、荷物持ちってけっこう虚しいということを知った琴樹であった。


 三十分ほど、あちらへこちらへと店舗を梯子し、少しお高めのブランド店に立ち寄った時だった。

「白木に涼じゃん」

 なんて声がかかった。かけてきた女子と琴樹には面識がなかったから、そこは目線だけ。

 同じ学校、同じ学年、別クラスの女子二人と男子二人。

 女子から琴樹に対する認識はなくとも、琴樹の方からは知っていた。

 違うクラスながら優芽と涼が繋がりを持つくらいは同じタイプ、要するに見た目と言動で目立つタイプだから。


 お邪魔だな、と考えて楽し気に話しだす女子四人からすぐに距離を取って、琴樹は琴樹で男子組で手を挙げ合う。

「よっ。おまえが白木さんや黒浜さんと休日に一緒にいるってのは、けっこう驚きなんだが?」

「見ての通りの荷物持ちだよ」

 気安いのは、男子の一人が友人だったから。

「久しぶり、ってほどでもないか。ベンチ行くか?」

 もう一人も知らない仲ではなく、それは琴樹としては非常に助かる偶然だった。女子四人組、男子二人組、自分一人組、というんじゃ流石に少しばかり居心地が悪かったことだろう。

「いや大丈夫だ」

「けっこう疲れて見えるけどな」

 そう言って笑う友人に、琴樹はそんなに疲弊して見えるかねと首を捻る。

「そっちは……」

(ダブルデート、では、ないだろうけど……)

 男2女2で休日に遊んでいる理由として真っ先に思い浮かんだ候補を、琴樹は口には出さなかった。

「ん? 俺たちは……なんだろな? 人生相談会?」

「人生まで乗っけてくんな」

 琴樹にはよくわからない会話をしながら、友人の振りに苦笑を零す男子が。

(たしか……涼と付き合ってんだよな)

 と、知っているから。

 割と最近知り合った相手だが、その時にはもうそういった関係だった。琴樹としては、涼に彼氏がいるのは驚くことではなく、むしろそれはそうだろうと納得しかない。外見的な印象でしかないが。更に失礼を承知で言うなら、その点で両者の釣り合いもとれている。


 そして、そんな勝手な判断を、琴樹は優芽にもしている。

 自分が知らないだけで彼氏の一人や二人(てのは冗談にしても)、付き合っている相手くらいはいるのだろうと。

 全く勝手に思っているのだった。

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