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第17話 とある火水木金土

 約束一つ、連絡先一つで、優芽の学校生活が大きく変わるようなことはない。

 その日の放課後にだって、部活終わりに合流してボウリングを楽しんだ。

 いつもの女子グループに加えクラスの男子数人も交えてのちょっとした勝負に勝って、即席チームで喜びを分かち合ってハイタッチ。

(こういうところが量産型パリピ陽キャってこと?)

 冗談と理解しつつ、そんなことを思う優芽だった。

「いぇーい! 私たちすごー!」

「マジかよ!? ここでストライク三連とか!?」

 10ゲーム目にチームメイト三人で連発したストライクには優芽も涼も含まれていて、テンション上がった優芽は親友の華奢な体を抱きしめたりもした。

 もう一人、逆転劇に絡んだのは男子で、調子づいて両手を広げたから「調子乗んな!」と同性たちから激しめの突っ込みを受けていた。

 抱き着かれた側は腕ごと拘束されたことに迷惑顔で身を捩る。

「暑苦しいです。離れてください」

「やだーですー」

 抵抗されるからわざとしばらくは放さなかった優芽だった。


 その頃、琴樹は久方ぶりの迷惑客に笑顔で応対していた。

「待たせたくせにそれ? ここ、汚れてるって言ってるでしょ? 綺麗なのをちょうだいって言ってるの」

「申し訳ありません。先ほど申し上げたように、確認しましたが在庫がないようで。再入荷の際に連絡させていただくことも可能ですが如何でしょうか」

「ないわけないでしょ! ちゃんと探して!」

(ねぇ、っつってんだろ。そんでそんな強く握んな、商品をよ)

「失礼しました。もう一度確認して参りますので、大変申し訳ありませんが少々お待ちください」

 そう言ってバックヤードに引っ込んで、店長を呼んだ。


「うわ、当たった」

「なんがー?」

 次の日のお昼休みのこと。スマホを見ていた優芽の呟きに、パンを齧りながら友人が訊ねる。

「当たった! 見てこれ! ほら!」

 そう言って見せるスマホ画面に表示されているのは『当選』の二文字。優芽はとあるファッション誌のプレゼント企画に当たったのだった。

「マジじゃん。なになに、ってA賞じゃん! 寄越せ!」

「ざけんなっ。あげないっての!」

 今話題のイケメン俳優のサインだ。譲るわけがなかった。

「あたしの方がファン歴長いのにー! なんで優芽が当たってんの!? それあたしも応募したんですけど!?」

「ま、運がね。あげないけど、見せてあげるからさ、生サイン。あげないけど」

「写真撮ってい?」

「好きなだけ撮んなさい」

「優芽さま~」

 そういったことに興味のない別の友人に「ちょいうっさいぞー」と窘められたからそのあとはお淑やかに努めた。


 同じお昼休みの時間に、琴樹は昼弁当としてははじめての失敗をした。あ、という間に、箸を滑らせて掴んでいたものを床に落としてしまったのだ。

(お、俺の卵焼きがぁあああああ!!!???)


 木曜。

 優芽が朝の占いで一位だった代わり、琴樹は最下位だった。同じ朝番組を見ているとは、互いにまだ知らない。

「やたっ」

「おねえちゃん、いちばん! おめでとうございます」

「ありがとねー。芽衣も三位おめでと。お勉強頑張るといいって言ってたね」

「うん! めいね、おべんとー、がんばう!」


「最下位ね、なるほど。……いって!? なんでこんなとこに歯ブラシ落ちてんだよ!? 最下位だからか!?」


 金曜日には午後から雨が降り、琴樹がここ数日の陰鬱気配をいよいよ強めた頃、さすがにクラスの男子が問いかけた。

「幕張よぉ、おまえなんか、ここんとこ暗い顔してんな。どした? 相談乗ろうか?」

「ありがとう。……いや、大丈夫だ。なに、傘忘れただけのことさ……」

「いやそんだけかよ! 職員室でも行って借りりゃいいだろ!」

「……もしかして、天才?」

「……バカにしてんのか?」

 もちろんそんな意図はないし、あると思ってもいない。そのあと適当な雑談だけして、クラスメイトはすぐに琴樹の机から離れていった。


「傘忘れたん? 入れてってあげよっか?」

「いや、職員室で借りるんで。大丈夫」

「真面目ー。ね、優芽、ほらほら、幕張にかまちょしてあげてないでこっち来てこっち」

 もちろん本気とは思われていないし、本気だった。別に大降りでもないし、家までとはいかなくとも学校近くのコンビニくらいまで入れてあげたのに。


 土曜日は芽衣の園も母の仕事も休みで、優芽は「いいのよ。休日はお母さんに任せなさい」と言われているから、最近はもう遠慮する方が返って申し訳ないかななんて思って、存分に出掛けることにしている。たまには芽衣の相手もするけれど、母の願いを汲んで、自分は自分の青春を楽しまなくっちゃ、というわけだ。

「涼、これどうかな?」

「よいのではないですか? それならこっちの……これなんて合うんじゃないでしょうか」

「あぁーいいかもそれ」

 仲良くお買い物。服のセンスは近いから、アドバイスしたりされたり。

「ところで、今選んでいるのは明日のための服という認識でよいですか?」

「よいわけないでしょ!? そんな……そんなわざわざ新調したりとかっ、ないからっ」

 もちろん嘘で、長年の友人にはバレている。上から下までとは言わないまでも、幾つかの服、あるいはアクセサリー、それらを季節の変わり目を言い訳にして今日この日に買い換えていた。

(そろそろ新しいの買おうと思ってたし? お小遣い貰ったばっかだし?)


「うーわ、マジか……急にくるじゃん」

 優芽が試着室であれこれ鏡に服を合わせている頃、外出から戻った琴樹は履いていた靴の底が盛大に剥がれた。

「家着いてからでよかったぁ」

(けどどうすっかな、明日履いてく靴がない。てか靴を買いに行く靴がない)

 制服用のスニーカーを流用し、公園で遊んで汚れて問題ない普段使いを買いに行くことにする。

 奇しくも、クラスメイトの女子二人がカフェに小休憩をとる、同じ駅ビルへ。

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