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第123話 今度こそほんとにおわり

 優芽に対してはっきり言った手前、琴樹は作戦を練った。

 例えば、週明け月曜の朝っぱらにいきなり「俺と優芽は付き合ってます。恋人同士です。俺が彼氏で優芽が彼女です」などと教室に乗り込んで宣えばそれはもう変態の類似だ。琴樹自身はどうでもいいとして、優芽の今後の学校生活に障りが大きすぎる。

 それはあかん。というわけで作戦、策、手立て、方策である。

 まず手始めに一緒に登校する。お手軽であるから。ただしこれまでにも優芽の朝練が休みの時などにしていたことであり効果は期待できない。それでもまぁ、やらないよりはやった方がいい。

 プラスしての作戦:手を繋いで、一緒に登校する。

 が、微妙。

 優芽が朝練で朝早くの登校だったから目撃者は少ない。

「いっそ部室棟まで」

 は流石に優芽が無理を主張した。「部活の友達に冷やかされるのはほんと無理」とのことだった。「そっちは私が言っとくから」とも。

 たしかに琴樹は優芽の部活仲間についてはほぼ知らない。同学年ならまだしも他学年となると顔と名前が一致する人の方が少ないくらいだ。

 自分の机に座ったまま、琴樹は部活動の活気を聞くともなく聞いている。そういう時間帯。

「おっす。今日の昼飯はよろしく」

 誰もいないはずの教室内に響いた声に振り返った。

「なんだ朝練は……してるとこか。抜けて来たのか?」

「ちょっとした休憩だ。すぐ戻る。やるんだよな?」

「おう。今日、優芽のクラスで」

 入り口のドアまでの来訪。優芽と同じクラスの友人。いわゆるサクラとして昼食一回で琴樹が雇った男子である。

「しかしめんどくさいことしてんなぁおまえも」

 そう言って苦笑を残して部活に戻る友人に「あとでな」と手を振って、琴樹は文庫本を取り出した。

 作戦なんて大層なものじゃない。切っ掛けの一言だけ、貰えればそれでいい。


「おまえら、ほんとに付き合ってないんだよな?」

 名演であった。ごく自然に、あんまり仲が良いからまた呆れて口にしたと、そんなセリフが台本には聞こえない。

 休み時間に優芽のクラスで茶番を演じる。

「それな……実は少し前から……付き合ってる」

「……うん」

 ギリギリ大根ではなかった。

「は? マジ!? いやいやいや付き合うのは、わかっけどっ。マジか、あんたらやっと今更くっついたん!?」

 声の大きい女子には助かった。

 数人の男女で雑談している中で齎された情報を盛大に拡散してくれる。

「うわぁ! おめでと!」

 あと普通に良い人だから優芽の手を取って我が事のように喜んでくれる。普通に罪悪感。

「あたしこの唐変木、どうやって矯正してやろうかって思ってた!」

 いやそれは初耳。琴樹は肩に受けた衝撃ついでに驚愕した。

「あ、やば、じゃああんまこういうのもやめとくねっ! ごめんごめん!」

 はしゃぐ女子が謝るのは優芽に対してだ。


 そういうことを、希美は外から眺めていた。

 聞いてはいた。今日のこと、土曜日のこと。誰、は優芽はやはり言わなかったが。

「希美……」

 あの輪の中にいることを拒んだ理由はすぐに耳に入った。仲の良いクラスメイトの心配そうな声。

「なになに? あ、卒業旅行の話?」

 完全にいつもどおりにいられるかはわからなかったからここにいる。

 完全にいつもどおりに。

 すぐなってやると意気込んで、それは結局、一学期の終わりのことになった。


 幕張琴樹と白木優芽との交際はすぐに多くの人の知るところとなった。

 優芽の知名度故。それと琴樹の若干の悪名みたいなもの故。

 優芽は祝福ばかりを受け取ったし、琴樹はもしかしたら暴力と言っていいレベルってくらいの、これも一応は祝福を受けた。

 優芽の場合はこう。

「白木さん聞いたよ。このこの」

「えへへ。聞いちゃったかぁ」

「あーあー……幸せそうなことで」

 時には。

「で、もうヤっちゃった?」

「ま、まだそんな、付き合って間もないわけですしっ」

「キスの話ね」

「……や、それも……まだだけど……」

「そうなの? びっくり。幕張って手が早いイメージだった。チューもまだとは思わなかった」

「なにそのイメージ……」

「ごーめんって。イメージイメージ、怒んないで。んーでも実際、切っても切れないでしょ……進んだら教えてねー」

「誰が教えるかっ」

 時には本人の知らないところで琴樹がちょっと刺されたり優芽が頬を少し赤く染めたり。

 琴樹の場合は。

「おまえほんと、白木さん泣かせたらアレだかんな、校舎裏だから」

「おまえは優芽のなんなんだよ……」

「ファン4号」

「は?」

「知らんのか? 知らんだろう。白木さんを応援する会は今日ここに悲願を達成したのだ。でもやっぱ羨ましいからもっかい殴らせろ」

「なん……だと……」

 衝撃の事実に琴樹は驚愕を超えて愕然としたものだ。まさかそんな会が発足していたとはっ……!!!

 もちろん冗談の類だが。会もなにも別に集まったことなどない。ファン4号は当然思い付きの自称でしかない。

「おまえほんと、白木さん泣かせたらアレだからな」

 ただ気持ちに嘘はない。

 琴樹は甘んじて更にもう一発を腹で受け止めた。

「てっ……め……ガチで殴る奴がいるかよ……」

「あ、わるい」

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