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第12話 弁当は旨いし小説は面白いしクラスメイトの女子は怒ってるし

 優芽が衝撃の事実を知った頃、琴樹は自席で弁当箱を片付けていた。

 今日の弁当も大変旨かったです、ごちそうさまでした、と手を合わせた後、茶色の箱を風呂敷に包んで鞄に仕舞う。

 母の手作り弁当。入学当初には口さがない一部にマザコンだの言われたそれも、半年以上も続けていれば最早とやかく言う人間はいない。逆にたまにはおかずを交換して、旨いだろ、くらいは自慢してやっているのだった。


 小説の続きでもと思って机の中に手を差し入れ、教室の入り口の声に目を向ける。手は止めない。

「あ、優芽! ちょうどいいとこ来た! ねね、今週の土曜空いてるよね?」

 そういう、よく聞く、呼びかける或いは呼び止める声だ。また捕まってんなと、ほんと忙しい奴と、若干の諦観で、小説>優芽への事情説明、になりかけている琴樹だった。

(なんなら涼に頼んでもいいし)

 考え方が合うのか、朝の内に話し合えた相手も、優芽に遅れて教室に戻ってくる。目が合ったから会釈はしておいた。

 そしてすぐ、文庫本を探し当てたから一人のんびり過ごそうとする琴樹だったが、優芽にそれを許す気はもう、更々ないのだった。


「土曜ね、うん空いてる。ごめんちょっと、またあとで」

「おっけー」

 いい意味で軽いノリで教室内を突っ切って、優芽はとある机の前に辿り着く。とあるというか、琴樹の机の真ん前に。

「……お?」

 活字を追ってはいても気配はわかるもので、上目遣いに様子見した琴樹は思わず声を漏らしたのだった。

「幕張……ちょっと時間いい?」

 笑顔の優芽が、琴樹を見下ろしていた。と、他人にはそう見えただろう。琴樹と、それから優芽の背後に佇む涼には、笑顔ともいつもの明るい口調とも、感じられなかったが。



 琴樹が連れ出されたのは何の変哲もない廊下の片隅で、開口一番は、こうだ。

「どうゆうこと!?」

 優芽の気が立っていることは琴樹にもよくよく伝わった。

「あ、あぁ、わるい。説明するの遅くなったのは、わるかった」

(のんびりし過ぎたかぁ、申し訳ねぇ)


「そうじゃなくって!」


(そうじゃない……?)

 立っている理由はまるで伝わっていない。

「なんで……なんで涼には、涼に……涼と話してんの!? 先に!」

(そこ!? あ、いや、まぁ、当事者……涼も当事者っちゃ当事者では?)

 たしかに当事者たる優芽に先に話すのが筋だったと思いかけ、琴樹としては涼も立派に当事者の一人なのだった。当人は優芽の後ろでにこにこと笑みを浮かべている。


「それはそういう……タイミングがあっただけだって。白木さん、ずっと誰かと話したりしてて……いいタイミングなかったから。わるかったよ」

「んぐっ、ぐ……べ、別に……謝んなくって、いいけど……」

 殊勝に謝られるとバツが悪いのは優芽だ。妙な言いがかりを言っていると自覚もでてくる。

(や、や、でもでも、それはそれとして話しかけて欲しかったし!)


 優芽が細々と憤慨する間に琴樹はもう一人のクラスメイトに確認をとる。

「涼からは、何か伝えてあったり」

「しませんよ。余計な解釈が入ってはよくないと思いましたから」

「……そうすか。……わからなくはないけど……まいいや」

 親切心なのだし、と思う琴樹だった。涼がただ面白そうな方に舵を取っているだけとは露ほども考え至らない。


「それなら、最初から説明するけど……」

(大した話でもないんだよなぁ)

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