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第116話 隠し通せないなら隠し事はやめましょうって話

 暑い暑い。ちょっと暖房効きすぎじゃないかな。

 ということにして優芽は火照った体の言い訳にした。

 脱衣所で浴衣を脱ぐ間もずっと暑さを感じていた。じわりじわりと熱がこもっていくのだ。心に。それが体温の上昇にも繋がっている。そんなのわかっていて環境のせいにした。

 告白された。告白した。彼女になった。彼氏になった。

 恋人同士。

「うわぁ……ひえぇ……」

 なんとなく縮こまって浴場へ向かう。誰に見られるのもなんだか恥ずかしい。

 速攻、見つかったが。

「お、優芽。んー」

 洗い場までの道のりに声を掛けてきたのは希美で、時計を確認して思案顔をしている。

「合格」

「なっ、なにがっ?」

 なになに何の話? 合格って何が? 何に? 優芽は大いに混乱した。常ならば軽く流す程度のことなのにである。

「ほどほどに時間経ってるし。肝試しの後にすぐ来たんでしょ? 温泉」

「へっ? あ、え、そう、そうだけど……え、なんで?」

「んあ? 部屋に書置き残しといたし、優芽も幕張も卓球の後で汗流したいだろうし」

「書置き、ああ、書置きね」

 希美は首を傾げる。

「人魂見れた?」

「見れてない見れてない」

「写真は?」

「撮った撮った」

 優芽は首を横に振ったり縦に振ったり忙しい。その間、ずっと背中を丸めがち。

 しかもどうしてか洗い場の仕切りを盾に隠れるような様子があった。

「なんかあった?」

「なっ!? なっ、んにもっ!? なんにも!? なかったけど!? なんにも全然? これっぽちも、なかったけど!?」

 希美は白けてにやけて、どっちつかずに呆れて腰に手を当てた。

「聞かせなさいな」

「……う……うん」


 適当な端っこの浴槽に思い思いに腰掛けたり半身浸かったり、緊急の女子会の開催である。

 優芽は早々に全てを白状した。言葉にすれば短いものなのだ。

 告白された。告白した。彼女になった。彼氏になった。

 恋人同士。

「ということに、なりまして……あはは……」

 反応も三者三様だ。

「やっっっとか。……あ、だめだ、なんか気が抜けた~。パワーが~」

 希美は緩々と背筋を曲げた。言う通り、気と力が抜けきったへにゃりとした状態で文の隣に半身浴になって浴槽の縁に腕をかける。

「うそ、ほんとに進展したんだ。旅こわ。うーわ」

 小夜は若干引き気味である。旅行と温泉の効能のおそろしさに慄いている。

「おめでとう。よかったね優芽」

 文が一番真っ当に祝福を贈った。もちろん他の二人もそれでハッと気付いて文のあとに言葉を重ねる。根底の気持ちは一緒なのだ。友達の恋路の成就を、祝わないわけがない。

 ないが、それだけで終わるものなのか、と小夜だけは希美に一瞬の視線を送る。

 気が付かれるつもりはなかった。気付かれた。

 ふっと浮かべた笑みの意味を小夜は測りかねる。

 希美としては、大丈夫、を伝えたつもりである。むしろそう、本当にやっと、なのだ。これでやっと、おしまいに出来る。

「ありがと。ありがと、文、希美、小夜。えへへ。……は、恥ずかしいね、なんか……」

「なーにを言ってんだか。……これで今日から、恋人同士か……優芽と、幕張と。……ちゃんと仲良くしないと……ちゃんと仲良くすんだぞー。でも良すぎは裏でやってな?」

「もちろん、仲良く? 仲良くっていうか……あの、ところでちょっと、聞きたいことがあるんだけど……恋人同士って、なにしたらいい、のかな」

「……知らんがな」

 希美の端的な回答に小夜も文も首肯で続いた。

「あ、それはやっぱり、涼に訊くのが一番じゃないかな」

 文は提案も添えておいた。


 男子二人の方はずっとずっとシンプルだ。

「優芽と付き合うことになった」

「そうか。おめ。てか遅いんだよ」

 告るのも来るのも。

「わるいわるい」

 またも露天の空の下、琴樹と仁は頭にタオルを乗せている。

「このあと部屋に戻らずにいてやろうか?」

「しなくていいわんなこと。準備してねぇっての」

 水筒の代わり。仮に手元にあったとしても返す言葉は変わらなかったろうが。

「普通に戻ってこい。今は、修学旅行の方が大事だよ」

 今だけは、になるがそれは本音だ。

 気分が落ち着いた今、琴樹にはこれ以上を求める心はない。少なくともこの修学旅行の間は、恋人だのなんだのというよりもっと広く多くの話をしたい。何かをしたい。優芽以外とも。

「そうかい。このあと俺らの部屋でトランプ大会っつってたからよかったわ」

「……そうかよ」

「罰ゲーム付きだそうだ」

「篠原が?」

「篠原が」

 言っていたことだった。

「部屋戻ったらトランプね、トランプ大会。もち罰ゲームあり」

 今度はどんな罰ゲームを考えているのか。琴樹は苦笑と共に天井を見上げた。

「ありがとな仁」

「けっこう素直ないい子ちゃんよな、琴樹はよ」

「ははっ……いや捻くれ者の問題児よ?」

「それはそう」

「おい否定しろ否定」

 仁は声を出して、それは無理だと笑った。だろうな、と琴樹も笑った。

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