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第111話 男の戦いは更に省略

 男子の部は仁が勝った。以上。

「うそ……だろ……」

「これが現実っ。本番に勝ってこそよのぉフハハハハ」

「ぐっ……普通に悔しい」


 罰ゲーム:幕張琴樹(全敗)


「うん、その(全敗)やめろ? 俺が負けたの一回だけだぞ」

「つまり全敗じゃん」

「なぁ優芽? よく考えてくれ? リンゴが一個なのにすべてのリンゴと呼ぶのは違和感があるだろう? ……一緒にしてくれるな」

「知りませーんありませーん。やーい全ぱーい。負け組ー」

「三戦三敗に言われたくないんだが?」

 小さな黒板に殴り書きのスコアに琴樹が文句を言い優芽が反論しているわけで、つまり敗者たちのたわ言である。

「はいはいはーい、そこまでっ。一回も勝てなかったお二人さーん? こっち向けー?」

「俺は一回勝った!」

「え、いつ?」

「……一番最初のやつ」

 希美はぽやんと浮かぶ記憶に琴樹の姿を思い出す。あれか。

 あれからのこれか。

「だっ……さ」

 心底思う。

「器ちっちゃ」

 優芽からも追撃を貰えば琴樹は口を噤むしかない。不服は眉の間にだけ表にしておいた。

「小物の噛ませ乙。と、敗北者を弄るのはこのくらいにして。ふぅむ。ほんとは罰ゲーム、一人のつもりだったけど……二人で勝負しとく? 最弱決定戦」

「二人で最弱でいいと思いますっ!」

 優芽が勢いよく挙手する隣で琴樹の眉間の皺は深くなる。せめて最下位とかにして欲しい。弱かったんじゃなくて運だから、運。一回は勝ってるし。

「うむ」

 と二回深く頷いた希美は我が意を得たりと人差し指を立てた。

「では、罰ゲームを発表しましょう。二人でもおーけーおーけー」

 立てた指を振る。おーけーどころか好都合というものだ。

 指を下ろして、指すのはもちろん優芽と琴樹。

「二人には……肝試しをしてもらいます」

「肝」

「試し」

「そ。肝を試すと書いて肝試し。冬にやるのも、乙なものでしょ?」


 琴樹たちが泊まる旅館は手入れはもちろん、そもそもとして内装や設備が見るからに新しい。綺麗で清潔。趣や風情という観点では少々、物足りないかもしれないが、草臥れたところのない館内はそれはそれで気分がいい。

 しかし外観内観の真新しさに反し。

「ふっる~い歴史があるんだって、この旅館」

 希美が言うように、古く長い歴史を有する由緒正しき温泉宿なのである。

「ほんとに遡ると戦国時代くらいから? ここの温泉っていうのが、まぁ、なんやかんや利用されてきてる……んだそうですな」

「なんやかんや、ね」

「はいそこ黙っててください」

 希美は親友の茶々入れを許さない。

「とにかくそんな感じで、だから色々あるわけ、逸話とかエピソード、怪談話なんかもね」

「その一つが、庭の奥の祠に纏わるものでな。曰く人魂が出るんだと」

「人魂って、あれ誤認だろ? ガスとか蛍とかの」

「つまりここのもそうだと?」

「いや……わかんねぇけど」

「つーわけだ。わからんものを、じゃあ確かめてみようか、お二人さん」

「祠行って写真撮ってくればおっけーだから。人魂はでてたら撮っといて。出なかったらしゃーなし。さすがにそこまではね、要求しないから」

 琴樹と優芽は顔を見合わせた。やることはシンプル、簡単。頷き合う。

「わかった。それじゃとっとと行ってくるわ」

「写真ってスマホでいいんでしょ?」

「もち。あ、でも祠直行して速攻帰ってくるだけはなしね? ちゃんと庭をぐるっと人魂探しすること」

「人魂ねぇ」

「なんだね幕張君、文句がおありで?」

「ないよ、ないない」

 希美のジト目に両手で降参しつつ答え、琴樹は優芽に視線を移した。

「行こうか」

「うん」


 離れていく二人の背中に希美は両掌を向ける。念を送る。「は~」と声にも出す。

「なにやってんだ?」

「アクシデントが起きるように念じてんの。は~~~」

「アクシデントって。……起こるといいな、いいアクシデント」

「うん、いいアクシデント。そんくらいないと、進まなそうだし、あの二人」

「それは中々……心労が絶えないな篠原」

「……ばーか。そんなんじゃないっての」


 ところで文と小夜はソフトクリームを片手にベンチに腰かけている。

「ん~おいっし」

「あ、そっちちょっと貰ってもいい? 一口でいいから」

「そっちのくれるならね」

 文のもの欲しそうな目に小夜は苦笑した。

 罰ゲームの行方は気になりはするものの、年頃に甘いものを見つければ吸い寄せられるのだ。

 女の子だから。

「あぁ! 文、小夜、なに食べてんの!? アイスだ、ソフトだ。ずるい、わたしも食べるっ」

 恋バナと甘いものは甲乙つけがたい。

 ベンチが三人掛けになる。

「で、どうなるかな」

「うまくいかない、はないよね。なにもないかうまくいくか。でもなぁ、優芽だし、幕張だし」

「優芽だし幕張だもんねぇ」

「いちおう、少しは背中押して、おいたというか、そんな大したことはしてないけど」

「およ? どういうこと文?」

「さっき、ほら、芽衣ちゃんからの電話からどのくらいで帰ってくるかって賭け、したでしょ?」

 両方なら、お喋りは止まらない。

 またも多勢に無勢の仁が一人、若干の所在なさを感じるだけだ。

 ソフトクリームの甘さだけは同じだった。

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