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第10話 説明を要求する(要求はしていない)

 明けて月曜日。琴樹はいつものように教室の隅の自席で朝のホームルームが始まるのを待っていた。

 クラスに特段仲のいい相手がいないことに引け目を感じることもなく、気紛れに買ったSF小説を読み進めながらだ。はっきり言ってしまって、琴樹はいわゆるぼっちに近い人間だった。とはいえ友人がいないわけでもなく、ただその友人はクラスメイトではないし、あまり干渉し合う関係でもないから、校内で多くの時間は一人で過ごしている。


 今日もいつものように誰かの背景でいるつもりだった琴樹だが、どうやら舞台上の小物が気になる人間もいるらしかった。

(見られてんなぁ)

 その人間こそ白木優芽であり、いつものグループというやつに休日の間の話題で華を咲かせつつ、ちらちらと琴樹の様子を窺っているというわけだ。

(教室くんのおせーんだよ)

 そして琴樹は毒づく。琴樹は、一時間も前に登校していたのである。基本的にイベント時以外に活動しない部活に所属しているから朝練があるでもないのに、わざわざ、常の登校時間を50分近くも早めて、まだ全く人気のないうちから、こうして文庫本を開いていたのだった。


 そうすべては穏便に事を済ませるべく。

 自分と優芽との立場を考えれば、人前に先週末の顛末を話すのは甚だ面倒なので、人知れず、琴樹はただひたすらに人知れず平穏無事に何事もなく説明を終えたいのだ。それで全部を、仕舞いにしてしまいたいと考えている。

 説明の約束をしたのは涼ではある。が、優芽に説明しないというわけにもいかない。だからいつもは避けている満員電車にも揉まれたというのに。

(朝一が一番楽だったんだけどな……昼はどうせ白木さんはいつもの人たちと食べるだろ……放課後は部活あるだろうし……休み時間にタイミングあればいいけど)

 説明といってそう時間を取らせるつもりはないが、10分程度の休み時間の、授業の準備やらなにやらを差し引いたその間に納得まで持っていけるかは微妙、というのが琴樹の考えだった。

(バド部……ま、朝練休めとも言えねーし、しゃーないか)

 とはいえそれらは琴樹の都合であって、優芽には優芽の都合と事情と考えがあるのだろうしと、琴樹は殊更、説明を急ぐ気もなかった。


 優芽は、そうでもないが。

(なにさなにさ、何食わぬ顔で本なんか読んじゃってさぁ。話しかけて来いってのぉ。説明しに来い!)

 そして受け身だったが。

「なんか、今日の優芽ってば……ソワソワしてない? なになに、どしたん?」

「そ、そんなことないってぇ。してないしてない。ソワソワ? 私キラキラ系女子だからっ」

「なにそれ、や、たしかにキラキラかもしんないけど」

 笑い合うことで誤魔化して、それでも忙しい視線に変わりはない。


 そんな状態だから、同じグループ内に笑顔を提供している涼としては、面白おかしい。早晩、誰かが優芽の目線の先に気付くだろう。それとも優芽が痺れを切らすのか。あるいは琴樹が動くか。

 どう転んでも面白そうであって、この状況が既に面白いわけで。今この瞬間に、この教室内で、一番楽しんでいるのは間違いなく涼だった。


(はやく話しかけて来いってばぁ! なんでそんなフツーに普通にしてんのさ!?)

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