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ゴーレムさんゴーレムさん  作者: 九重 まぶた
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半端者の願い

 聞き慣れない言葉に男は再び少女を視界に入れる。


「そう、あなたたちは丁度いいわ。かっちり嵌っているの。そんなの中々、独学で身につけるのも大変よ。すばらしい才能じゃない。ぜひ、私のゴーレムさんにも取り入れたいわ。さっきの話少し聞かせてもらったわ。ううん、聞き耳立ててたわけじゃないわ。ほんとうは聞き耳立ててたけど。あなたは居場所がない、中途半端だって言っていたわね」


 男は完全に少女に向き直っている。その手にはナイフがぎらついている。


「あなたのそのコスプレは中途半端じゃないわ!」


「……コスプレ? (この世界での状態変化の魔法名か何かか?)」


「あなたは知らないだけよ! 最近の若い人はテレビを見ないってよく聞くわ。だからあなたは知らないのね。海外ドラマのこと」


「……海外ドラマ?」


「そうよ! 海外ドラマよ。やっぱり知らないようだわ。海外ドラマ一口言っても色んなジャンルがあるの。そのジャンルの一つ、現代ファンタジーにあなたのそのコスプレ、ううん、特殊メイクはぴったりじゃない!」


 少女は訴えかけるように謎の言葉を男に投げかける。

 男は少女の言葉がなぜか心に響くのを感じていた。こんな少女にいや、その油断は捨てよう。この少女は少なくとも眼前に今か今かとその豪腕より放たれる拳を振り下ろす機を待っているゴーレムを作り出し者なのだ。

 それは、魔王軍の幹部の一席と同じ力。もちろん同等ではないだろうが、油断は禁物。

 だが、なんなのだ。なんなのだ、この胸に響き渡る甘美な感覚は。


「……ぴったり? このおれがぴったりだと?」


 その言葉に男の心中はかき乱され、なぜかハフハフした気持ちになるのだ。


「あなたは、二つの世界に俗さないことで、中途半端と悩み自分で自分を虐げている見たいですけど。それは違う! あなたはカテゴリーエラーなだけよ! 適材適所という言葉があるわ、あなたは別の世界にいけば、トップ俳優になれるわ!」


 少女は男を指差し断言した。


「……本当か? こんなおれでも……いや、そんな言葉にのせられねーぞ!」


 そうこれは少女がおれを油断させるための……。


「見せてあげるわ。ゴーレムさん、お願い!」


「――御意」


 逡巡していた瞬間、少女の呼び声にゴーレムが動きだした。やはり油断していた。男はならばと池目君にだけでも止めを刺し、この場から逃げだす算段を立てる。


 だが、そこに池目君の姿はなかった。


「――しまったっ。くそっ! 狙いは時間稼ぎだったかっ、ちくしょーー!」


 その巨体が、その豪腕が、その強石の足が、地面を踏み砕き、男に迫る。

 その圧力、威圧感はまさにドラゴンに勝るとも劣らない。

 男はその存在感に圧倒され、身動きが取れなくなっていた。


「ああ、ああ……ああ」


 見上げるとそこには巨石の壁が出来上がっていた。


 そして――、ゴーレムがブオンと震えた。


 次にゴーレムの手足が体に引っ込み、でかい石板が出来上がる。


「……へ?」


 微弱な振動はまだ止まらない。胸にあたる箇所からブワンと電子音をだし何かが浮かび上がる。横に少し長い長方形の黒い物体。


「な、なんだこれは――」


 男が戸惑いの声をあげる間もなくラビは次の指示をだした。


「電源オン! 電波受信! チャンネルは海外ドラマのファンタジー!」


 黒い物体にぱっと光が灯る。

 そして、音声が流れ、映像が流れ始める。

 テレビだった。

 男から距離を取っていた池目君もポカリとその光景を見ている。


「な、なんだ、なにが起こっている? これは、別の場所からの交信魔法のようだが……」


 そこには金髪短髪の外国人が映っている。その対面には人相の悪い男が映っている。

 二人が二言三言交わすと、男たちの眼孔が光、体が変化した。

 そう、顔に毛が生え、目の色が変化し、体が一回り大きくなったように感じる。そう彼らは番組でモンスターを演じている演者だ。二人の戦いが火蓋を切る。


「こ、――これは」


 男が驚愕に目を見開いた。それは自分の仲間達の姿だった。

 彼らは微妙な技の応酬でバトルを繰り広げている。

 そして、なんだか臭いやりとりのすえ、お互いを、認めあい酒を酌み交わす。所々で場面が変化し、これが映像記録であることが分かる。


「どうですか? これはある国で放送されているドラマです」


「どらま?」


「そうです。ドラマです。やはり見たことはありませんでしたか。最近の若者はテレビをみないと聞きますしね。ネット世代特有の興味のない事以外はうとい説ですね。彼らのドラマは決して大げさな変化をしません。この中途半端――いえ! むしろこのちょうどいい変化が観客に受けいれられ、今は爆発的な大ヒットを飛ばしている大人気ドラマなのです!」


「観客……、大人気? つまりこれは劇ということなのか? 交信魔法で離れた場所に劇をお届けしている。そういうことか!」


「そうです! あなたは今、二つの世界で自分の居場所がないことに悩んでいるみたいですけど、あなたは知らないだけ! あなたは自分が最高に輝ける居場所を知らないだけなのです!」


 男は衝撃を受けたように愕然とした。


「そして、彼らは大スターとして世界をにぎわしているのです!」


「――な、なんだと! このハーフ達が世界をにぎわす存在だと!」


 男は噛り付くようにテレビに見入った。

 劇の男たちが特典映像かなにかでにこやかに笑み、余裕たっぷりの態度で人間達の質問に応答していた。

 その姿は男にとって憧れ、羨望、夢であった。


「そうです! この世界では彼らが主人公なのです! 彼らが大げさな怪物と、欲深き人間との物語を紡ぎだすヒーローなのです!」


「――かっはぁ!」


 男はラビの言葉にその場に仰向けに倒れた。

 彼の瞳にはどこか晴れ晴れとした光が浮かんでいた。

 いつのまにか暗に染まる空を見上げ、何かが吹っ切れたようなすがすがしい顔。


「……目指して、見ませんか? あの夜空に浮かぶ、一番星」


 ラビは男に近づき、夜空を指ししめす。男は体を起こし、ラビを見上げる。


「おれに手に入れられるのか? できるのか?」


 男の瞳には何かの言葉を待つ色が浮かんでいた。きっと、この少女は俺が欲しい言葉をくれるに違いない。男にはそんな確信があった。

 ラビの瞳がきらりと光り、その小さな手が男の肩にトンと置かれる。


「確かに困難な道ではあるわ。でもね、不良さん。あなたには才能がある。ううん、これはあなたにしかできないことよ」


 ああ、俺にしかできない。俺はこの言葉が欲しかったんだな。男はそれ以上何も語ることなく少女の瞳から顔を背けた。目に浮かぶ涙を見られたくなかったから。

 そしてその光景を一人の男が見続けていた。池目君である。池目君は信じられないその光景に顎を全開にひらき、唖然として心中でつぶやいた。


(……ゴーレムの使い方、間違ってない?)


 ゴーレムは今も海外ドラマを流し続けていた。



 その後、不良たちは肩を寄せあい、少女に後ろ手に別れの挨拶を告げ去っていった。

 きっと彼らはこの先も苦難の壁に道を阻まれるであろう。

 しかし、彼らはすでに自分達の中の武器を持っている。その武器を手に、その壁を打ち払う姿が、ラビの目には映っていた。

 彼らが海外ドラマで活躍している姿が。

 その間もゴーレムは映像を流し続けていた。

 ドラマは最終回で次回作の予告が流されている。

 それは、バリバリのモンスターがバリバリのモンスターに変化した主人公とバトルを繰り広げている映像だった。主演の俳優がファンに向けたメッセージを出している。


「以前はどこか微妙なモンスターだったけど、次回は神話の世界に生きたバリバリのモンスターが活躍する物語だ」と。


「中途半端? もう古いよ」俳優が肩を竦め笑っている。

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