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ゴーレムさんゴーレムさん  作者: 九重 まぶた
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すれ違い

「ちょっとちょっとほんとうに~!」

 

モブ子の言葉にラビはこくりと頷いた。


「まさか私たちが別れたあと、そんなビッグイベントがおきていたなんて、モブ江一生の不覚だわ」


 モブ江の言葉に顔を赤くする。

 朝のホームルームが始まる前。ラビは二人に昨日のことを相談していた。

 彼女たちは目をきらめかせキャーキャーと手を取り大はしゃぎする。


「わ、わ、わたしどうしたらいいのかな? 彼、池目君と、その――」


 自分の言葉に俯き、さらに顔をリンゴのように赤くする。


「つきあっちゃえば?」


 モブ江がラビの耳元に息を吹きかけあまい声でつぶやく。


「つ、つきあうっ!? そ、そんな私、池目君のことよく知らないし、それに、私その男の子とそんな――考えられないというか、何、話していいのかわからないし」


 ラビは指をモジモジさせる。

 二人は互いに見合わせ肩を竦め、にーっと笑う。


「こっの、幸せものめー!」


「それで、どんな告白だったの? ベターに俺とつきあってくれ? それとも、お前の栗毛を毎日のようにモフモフしたいとか? それとも――」


「告白の内容は、覚えていないの。でも、池目君すごく必死に真剣な目で私に伝えてきたのだけ、その、覚えているっていうか……、きっと私のこと好きだっていったのだと、思う」


 ラビはまた頬を染め、もじもじと指をいじりだす。

 そんなラビを見て、モブ子とモブ江は違和感に顔を見合わせる。


「それって――」


 モブ子がなぜか汗を垂らし、ラビの肩に手を置こうとすると、


「石神ラビはいるか!」


 声とともに教室の前の扉が勢いよく開かれる。

 そこには池目正義君の姿が。

 急な来訪者に教室内はどよめく。そして一部が歓喜の声をあげ、その中心にいる人物からわざとらしく離れる。


 ラビは極限に顔を真っ赤にさせ、池目君の姿を視界にいれた瞬間、マグマのように沸騰するように蒸気がバシュッと噴きだす。


「そこか! 石神。昨日は取り乱して失礼をした本当に話したいことは別にあるんだ」


 ずかずかと好奇の視線の中を歩いてくる池目君。ラビの前にたつとその場に跪いた。

 その光景に歓喜の声があがる。

 ラビが口元に手をあてる。

 池目君の視線は机を凝視している。正確には机に変化したゴーレムであった。驚きの眼で凝視し、ラビを見上げてくる。


「使い方にはやはり一言いいたいが、ゴーレムをここまで自由自在に行使できる術者は世界には一握り、やはりぼくの目に間違いはなかった。君に、君にぼくの世界に来てもらいたい」


 歓喜の声は最高潮。


 ――私に、ぼくの世界――つまりは嫁に、来てもらいたい?


 いきなりのプロポーズ! 


 ラビは鼻血を噴出し、昏倒した。


「はらひれほろはれ――」


「ぼくの村は今魔王軍によって滅ぼされようとしている。ぼくの村を救ってくれ! 君にならいや君のゴーレムならそれができるはずだって、聞けよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」


 教室内もお祭り騒ぎである。

 チャイムの音がなると角田先生が入ってくる。


「おーい。お前らいつまでも青春しているんじゃないぞー。席につけー。点呼いくぞー。ん? 池目、お前はここのクラスじゃないだろ? 早く戻れ」


 力尽きたような顔で池目君は「はい」と告げ教室を後にした。


「さあ、いよいよ文化際の準備が始まる。お前ら青春しろよ!」


 しかし、池目君はくじけなかった。

 休み時間になるたびに、ラビのクラスに足を運んできた。

 その度にラビは恥ずかしさと興奮のあまり昏倒し、クラスメート達はお祭り騒ぎになった。

 あっという間に放課後。

 ラビは鼻血の出しすぎで保健室のベッドの上で寝ていた。

 ベッドから起き上がり窓の外になんとなしに視線を向けた。夕陽が彼女の頬をほんのり染めている。潤んだ瞳は目玉焼きのようになっている夕陽をうつす。

 校庭では文化際の準備がすすめられていた。大きな舞台が設置されはじめている。

 ラビは身近な人の気配に気づき、振り向く。

 ベッドの傍らにあるパイプ椅子に池目君が心配そうに座っていた。


「――ぶっほ」


 再び鼻血を噴きだし昏倒。


「おい」


「あら? また寝ちゃった? 池目君お願いがあるんだけど石神さんをご自宅まで送り届けてくれないかしら? ご自宅に連絡したのだけど繋がらなかったのよね」


 保健の先生がカーテンの端っこから顔をだす。


「いいですよ。ちゃんと送り届けます」「おいたはしちゃダメよ?」「まさか」


 池目君は半笑いでベッドの傍らに鎮座するゴーレムを見上げた。

 ゴーレムはまず主の命を最優先させる。もし彼女に何かしようものなら、自分など一瞬でひき肉にされるだろう。確証はないが、というか確証を得る為にそんな危険を冒す気は毛頭ない。

 池目君はラビを背中に担いだ。


「あら? もしかして力持ち?」


「普通のことですよ。ぼくの村は木材を生業にしている村ですから。村人は木材を載せた荷車を毎日運びますから、このくらいのことなんてことないですよ」


「村って、君は海外の人?」


「いいえ、異世界の人間です」


 保険の先生はあさってを見上げ、桜色のマニキュアの塗られた人差し指を赤い紅の引かれた唇にあて唸る。


「……イセ、カイ? そんな、国あったかしら?」


「別の世界のことですよ」


 今度はきょとんとした顔を向けてくる。


「べつの、世界?」


「ええ、こことは違う別の世界です。ぼくは別の世界から来た人間なんです。ぼくの世界は今大変なことになっている」


「貧困、かしら?」


「貧困……、間違っていないですね。あるモノたちのせいで満足な糧を得ることもできずに、村人は飢えに苦しんでいる。ぼくはレドの使命を果たさなければいけない」


「……シメイ?」


 池目君は背中に伝わる体温を確かに感じ、視線だけがラビを見る。


「村に伝わる伝説。井戸よりつながる異界において、魔人を操る者、ナァーザより与えられし糧により神を操る力を得る」


 池目君は一息つき、先生に振り返る。


「ぼくの村に伝わる伝説ですよ。そして、ぼくの使命」


 保険の先生は驚きのあまりか表情を凝固し、返答に困っているようだった。

 当然だろう。異世界の人間が眼の前にいるのだから、池目君は唖然としている先生の手から石神ラビの自宅の住所の地図を受け取り、保健室を出た。

 保険の先生は肩を竦めて微笑む。


「そういえば、最近は中二病ってのが流行っているらしいわね」

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