光のゴーレム
「なんだ、あの光るゴーレムは……、くふふ、まあいいどちらにしろサイズは前と変わらぬ。光るだけで大したことはない。やれ魔臣ゴーレム。再び破壊しろ。力の差を見せ付けてやるのだ」
「了解しました」
漆黒のゴーレムが自分の足丈ほどのゴーレムに拳を振り下ろした。
ドンっと地面を穿つ衝撃が木々を薙ぎ倒していく。
「くふふ、光ったところで何も変わらん。ほら終わった」
「ゴーレムさん!」
漆黒のゴーレムの拳がぐぐぐっと押し上げられる。
そこにゴーレムの光が漏れ出る。
「――な、なんだと!?」
「今度はこっちの番ね。いっけーゴーレムさん」
「御意」
光のゴーレムは漆黒のゴーレムの腕を掴み、一本背負い。
一瞬空が真っ暗になる。
轟っと音共に大気が揺るぎ、森を押しつぶす音が響く。
「「……」」
時が止まる。
池目君や魔族たちは何が起こったと唖然とその光景を見ていた。
あの大樹ほどの大きさのゴーレムを、体格差的には十分の一ほどのゴーレムが一本背負いで、その背中を地面に投げつけたのだ。
あまりのことに被害から逃れた周囲にいた者は一様に目を白黒させていた。
そして、時が進むことで大歓声が起こった。
「やりやがったぞ、あのゴーレム!」「なんだなんだ何が起こったんだ!?」
「おいおいおい、なんだよそれ、なんだよあのゴーレムのでたらめは」
次々の驚愕の声があがる。
「おのれ――っ! 手加減していればつけあがりおって」
激昂が泉を沈黙させる。
「起きよ魔臣ゴーレム」
「了解、しました」
ゴゴゴゴゴっと、漆黒のゴーレムが起き上がる。
みな静まり返る。
「やるではないか? だが今度は油断はない。目にも見せてくれるわ。やれ、魔臣ゴーレム!」
「了解しました」
漆黒のゴーレムが光のゴーレムに腕を伸ばす。光のゴーレムもまた突き出された腕を掴む。
「力比べが始まったぞ!」
ラビから少し離れた場所から池目君が興奮した声をあげる。
漆黒のゴーレムがその巨体を駆使し光のゴーレムの上から圧し掛かる。ドラゴンと二等兵ほどの体格差に光のゴーレムは地面に沈み込む。
「そうだ魔臣ゴーレムよ! そのまま押しつぶせ」
アザリーの言葉に反応したのは、光のゴーレム。体半分沈みこんでいたところを地面から這い出し、漆黒のゴーレムの腕をぐいっと押し戻す。
「――な!? ぐぬぬぬ」
「ゴーレムさんいい調子―! そのままバックドロップよー!」
ラビの言葉に光のゴーレムの眼光がキランと輝き、漆黒のゴーレムの腕を振りほどき体制が崩れたところをゴーレムさんは巨体の足をがっしりと掴み、そのままバックドロップ。
巨体が再び森に沈みこむ。
「ええいお遊びは終わりだ! 魔臣ゴーレムそいつを粉々に吹き飛ばせ!」
魔臣ゴーレムがアザリーの言葉を受け、立ち上がり隕石のような圧力で拳を打ち込む。
「ゴーレムさん! 今よー!」
「御意――――っ」
光のゴーレムの眼光が煌く。落ちてくるようなその一撃に合せるように拳を打ち合わせる。
打ち合った瞬間、衝撃波が森に波及した。
業っと森がなぎ倒される。
魔臣ゴーレムの腕が稲光が走るように亀裂が走り光のゴーレムの拳によって爆発するように粉砕した。
「――――っ」
アザリーは信じられないものを見るようにその光景に愕然とした。
光のゴーレムによって、漆黒のゴーレムは右腕を失ってしまった。
「バカな、バカな、バカな――っ、こんなことがあるはずない! 何かの間違いだ! 魔臣ゴーレムよ、そのゴーレムを打ち倒せ! 打ち倒せー! 打ち倒せー!!」
再度の命令。
「了解しました」
残った腕が光のゴーレムを襲う。そして、その腕も光のゴーレムが拳を打ち合わせることでまるで枯れて、ボロボロになった朽木のようにバラバラに粉砕された。
止めに光のゴーレムがジャンピングキックを胴体にお見舞いすると、どでかい穴ぼこを穿つ。もはや光のゴーレムの攻撃は止まらない。バックドロップからの馬乗り、そして雷のような乱打。挙句の果てのジャンピングギロチン。
頭部と胴体が破砕する。
勝負は決した。
圧倒的な強さだった。池目君、フジミノ、キューリーなど他の魔族たちもその攻防に巻き込まれながらも見入っていた。
「なんだ、なんだこれは、私は魔王様一の部下、四天王魔臣使いアザリーだぞ? その魔臣はドラゴンさえ赤子のように捻り潰す強さだ。なのに、その魔臣をまるで赤子のように、だと……。そうだ、以前、過去の同じような体験をした記憶が……」
アザリーの瞳がラビをマジマジと見つめ、はっと青ざめる。
「貴様、幼き頃に出会った、イカレ女!」
「……イカレ、女? 私はラビという名前です」
ラビはアザリーの言葉にちょっと頬を膨らませる。
「あれ? じゃあ、あのときの女の子がもしかしてあなた?」
ラビがぱっと顔を輝かせる。
アザリーが顔を真っ青に染め上げ、崩れ落ちる。
「また、また、私は、こいつに負けたのか……」
ラビはアザリーに駆け寄り、手を差し出した。
「また、プロレスごっこしましょ! すごく楽しかったわ」
「~なんなんだお前は! あの時のそうだったけど、私のゴーレムを壊しちゃって!」
「なによぉ、今回はあなたのほうが先に私のゴーレムさんを壊したんじゃない。お互い様でしょ?」
「お互い様じゃない! 結局、私のゴーレムだけ壊れたじゃないか! もう! 魔王様のために頑張ってきたのに~、うぇ~ん」
ついにアザリーは泣き出してしまった。
「やだっ、ちょっと泣かないでよ」
その姿を見ていた魔族たちもどこか拍子抜けしていく。
「泉が」
誰かの声が響く。
その声に誘われるようにラビは泉に目を向けた。
泉の輝きが増していく。
「月が消えた」
夜空の月が消えるとともに『顕花の儀』が行なわれる。月と泉の間に繋がる魔道が途切れることで、泉は月に代わる供給先を探す。その時に選ばれる対象は命ではなく魔力によって動くモノ。
つまりゴーレムであった。
「儀式の瞬間だ……」
アザリーが顔をあげる。
「石神! ゴーレムと共に泉に入るんだ! そこで『顕花の儀』が完遂される」
「させるかっ」
待ったの声をあげたのはフジミノとキューリーであった。
二人はいつの間にかラビの背後に忍び寄り、彼女の体を捕らえた。
「え? え?」
状況に追いついていないラビが戸惑いの声をあげる。
「悪いがゴーレム使いよ、やはりあなたに『顕花の儀』を行なわせるわけにはいかない。さあアザリー様! 今です! 儀式を受け、更なる力を手に入れてください」
「やめろ!!」
どよめく群衆が、その一括で鎮まりかえる。
アザリーは立ち上がりフジミノに告げる。
「これ以上、私に恥をかかせるな。私は負けたのだ。それは事実だ。それにだ」
アザリーの視線がラビのゴーレムに向けられる。
ゴーレムには泉の光の粒子が際限なく纏わりつき始めていた。
「泉はもう、選んでいる」
その言葉に、フジミノとキューリーは力なくラビの腕を放した。
魔族たちが見守る中、ラビはゴーレムさんと共に、泉へと入水した。
水面が喜びを表すように輝きを増した。光る粒子が二人を包み込んでいく。
ラビはフジミノやキュリーに体を支えられ情景を見守るアザリーに少し申し訳なさそうに瞳を向けた。
「お前の勝利だ。好きにするがいい」
「でも、あなたもこの『顕花の儀』を受けるためにここに来たんでしょ? 先に来ていたのはあなただし、あの……アザリーちゃんが受けるべき、かな~と」
「アザリー、ちゃん?」
もじもじと恥ずかしそうに告げるラビは、ちらりと幼い頃に出会った女の子を名前で呼んでみた。
彼女は鼻をフンと鳴らした。
「『顕花の儀』を終えたら、また、ぷろれすごっこするぞ。お前が、その……ラビ、がどれだけ強くなったのか、試さないとな」
「――名前」
ラビは幼い頃からわだかまっていた心の靄が晴れていくのを感じた。気持ちがすっきりと軽くなっていく。
「ほら、早くしろ」
アザリーがぶっきらぼうに言ってくる。
「うん」
ラビは泉の中心にゴーレムさんと共に進んでいく。
それに反応した泉が、彼女達を完全に包み込んだ。水の光がラビの視界を埋め尽くしていく。




