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ゴーレムさんゴーレムさん  作者: 九重 まぶた
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カミルの誤算

 焚き火の灯りを見つめる少女を視界におさめ、カミルは笑みを浮かべた。

 スノーウルフ達は森に仕掛けておいた眠りの魔法陣により、昏倒している。森の奥で陣地を張っている魔王軍に知られてもやっかいだからなとカミルは森に視線を向ける。


(まあいい邪魔モノは消えた)


 あとはあのゴーレム使いの娘からゴーレムの主導権を奪い、『顕花の儀』をこのぼくが受ける。そして、魔王様に匹敵するほどの力を手にいれ、あのにっくきアザリーを八つ裂きにしてくれる。

カミルは音もなく霧へと変じ、焚き火の元で座り込む少女の目前に姿を現した。


「――だれ?」


 少女はきょとんした顔でこちらを不思議そうに見上げている。

 カミルは改めてゴーレム使いと対峙しその顔を確認した。そして、小さな戸惑いを覚えた。


(こんな、小娘がぼくの骸骨兵達を一掃したというのか?)


 あくまでゴーレムの力を引きだすのは術者だ。どれだけの力をゴーレムが内包していようとも使いこなすのは術者。


(その術者がまさかこんなどこにでもいそうな小娘だというのか? まあいい)


 カミルはにやりと笑み、牙を除かせる。

 この牙によってぼくのしもべにすれば、あのゴーレムも事実上ぼくのものである。


「娘よ。ちくりとするがすぐに終わる。すぐにぼくに仕えることが至上の喜びに変わるのだ。誇るがいい」

 

 カミルは娘が戸惑っている間に決着をつけようと、さっと娘の傍らへと跪き、その首元に自慢の牙を突き立てようとした。


「――え?」


 カミルは娘の匂いに青い処女の香りを感じ取り、更なる旨みを見つけたことに喜ぶ。


「おまえは一生ぼくのものだ」


「――あなた、腕に痣があるわっ、大変! ゴーレムさん」


 カミルは娘が自分の腕の痣に気づいたことに虚を突かれ動きを止めてしまった。


「――っ」


 娘の言葉にゴーレムがビクンと振動する。


(――まずいっ)


 一瞬で勝負を決めなければいけなかった。術者にゴーレムを使役させてしまってはならない。カミルは叱咤した。


(骸骨兵を一掃したあの力を使われてはやっかいだ。一度ひくか? いや、勝機はこの時だけだっ)


 ゴーレムがカミルに向かって変化をしながら触手を伸ばしてきた。

 蔓の触手がカミルの腕に巻き付く。


(こ、こんなもの――)


 カミルは霧へと変じ、この拘束から逃れようとする。が――、


(霧へとなれない!? どういうことだ)


 術者の意図によりゴーレムは魔力を消失する力を発動することを知らなかった。

 触手はカミルの四肢へと一瞬で巻き付き、動きを封じてしまった。――ガタンっと、ベッドに変化したゴーレムの上に寝かされる。


「しまったっ。まさかこれほどとは」


 術者を侮っていた。


「放せっ、何をする! ぼくを誰と心得るか!」


 ジタバタともがくがゴーレムからは逃れることができない。

 娘がジャリっと地面を踏みしめ近づいてくるのが分かった。


「やめろっ、やめてくれ、こっちにくるなっ」


 カミルは娘の異様さをその身で思い知る。


「あなた、腕に痣があるわ。とても痛そうよ?」


 娘の目がとても虚ろに見えて、足先から言い知れない恐怖が這い上がってくる。


(――やられるっ)


 カミルは愕然とした。こんな小娘にこのヴァンパイア家の王子が赤子の手をひねるようにあっという間に捕らえられてしまった。

 みやまっていた。用心したつもりであった。ここ最近の動向を観察し、そこまでの用心には値しないと無意識に判断を下してしまったのかもしれない。


 術者はにこりと微笑む


「――――やっゃ――――っ」


 ゴーレムのベッドから何十本もの触手がにゅるりと飛びだしピタリピタリとカミルに吸い付き、ブルルっと振動し始める。


「気持ち悪いっ、やめ、やめろっ、んっ、や、やだっ」


 ヴァンパイアの王子は頬を紅潮させ、体に巻き付いてくるその触手から逃れようと身を捩る。だが逃れることはできずに触手が体に食い込んでいく羽目に……。


 鍛えられた胸筋に触手が走り、形のよい胸がより強調される。

 恥ずかしさのせいか、逃れようと力入れている為なのか、肌は桃色に染まり露になる。衣服は少しずつ乱れ、鍛えられた太ももが露になる。


「やめろといってるっ。やめてっ。こんなことして只ですむと思うなよ。ぼくはヴァンパイアの王子だぞっ」


 その涙ながらの訴えはゴーレムと術者の少女に届くも、少女はにこりと微笑みを返すばかり。


「大丈夫ですよ。すぐにすみますから」


「――なにがっ?」


 カミルがじたばたともがいているとゴーレムが張り付いている部分からポワンっと温かさが広がっていく。


「――な、なんだ?」


 カミルははっと気づく。体中に巻き付いたゴーレムの触手がポワンと温かく、認めたくはないが心地のよいものに変化していく。


 しだいにカミルの顔は固結びが解けるように綻んでくる。そのルビー色の瞳は徐々に潤み、まるで天に昇るような表情へと氷解していく。

 体から力も抜け、今はゴーレムの触手に身を委ね始めている。


「ああ、なんだぁ、この心地よい温かさは……。久しく忘れていたこの安らぎは……」


 カミルは意識が遠のき、記憶の片隅にしまい込んだ想い出が蘇ってくるのが分かった。あの頃はとても我がままでパパとママをよく困らせていた。

 ママがとても好きだった薔薇園の薔薇をいたずらに摘み取ったときにはすごく怒られた。でもそのあと、一人庭園の隅っこで泣きじゃくるぼくをぎゅっと抱きしめてくれて「ごめんね」って言ってくれた。

 パパの大事にしていた棺をぼくの秘密基地にしてたことがバレたときは、ちょっとムっとしてたけどすぐに「しょうがないな、今日からこの棺は君のものだカミル」と笑って許してくれた。

 たくさん笑って、たくさん怒られて、たくさん泣いて、そして最後は笑顔で。


 あの頃は幸せだった。


「なのに、なのになんで、ママ、なんでぼくとパパをおいて出て行っちゃったの?」


 カミルの閉じられた目元から涙がつーっと流れ落ちていく。

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