ああ、主人公は俺じゃなかったよな。そうだよそう。
遺跡の真上に太陽が浮かぶ。昨夜の騒ぎが嘘のように荒野には静けさが満ちていた。その静けさのなか、遺跡では村人たちによって旅支度の準備が勧められていた。
スノーウルフ達の背に荷物が括り付けられ、池目君、ラビ、ゴーレムが跨っている。ゴーレムが跨っているスノーウルフは潰れている。
「ゴーレムさん」
「御意」
言葉とともにその体が縮む。体積も軽くなったのかスノーウルフの顔がホッとする。
「アーバンよ。必ず勇者様を『賢者の泉』にお連れするのだぞ」
村の長老である婆様の隣でヨイショしていた髭のおじさんが神妙な顔で告げる。
「分かっておりますダイス様。このアーバン命に代えても必ず」
「うむ。分かっておるならばよい。我ら村の者は、大人の事情で、旅に同行することはできない。分かってくれるな?」
池目君は(こいつ何言ってんだ?)と首を傾げるが、口を挟んでも話が長引いてめんどくさいのでこくりと頷くことで会話を終わらせることに終始した。
「では、ダイス様。行ってまいります」
「うむ。気をつけるのだぞ」
しばしの別れを告げ、池目君は遺跡の入り口へと視線をむける。
すぐ近くでラビとアイカが抱きあい別れを惜しんでいる。
「きっとだよ、おねーちゃん。帰って来てアイカにカイガイドラマ見せてね」
「ええ、もちろんよ。あの後はね主人公のダニエルが――」
「きゃーっ、おねーちゃんネタバレは禁止よ」
などと若干、異世界文化に触れたアイカがいつの間にか言葉を覚えてラビとやりとりをしていた。その後も中々、会話は終わらずに海外ドラマの話題で盛り上がっているようだ。
池目君はスノーウルフの背に乗ったままダイスと対面したままに沈黙がおちていく。
「では、ダイス様行ってまいります」
「うむ。気をつけるのだぞ」
池目君はスノーウルフの背を手でポンポンと叩き合図を送る。池目君の乗っているスノーウルフが欠伸をした。
村長と視線がまた重なる。だんだんと気まずい空気が流れだし、にへらと笑う。
「んっ、んっ、んっ、さあ、充分に別れを告げたし、そろそろ旅に向かうかっ。よし魔狼スノーウルフよ! 『賢者の泉』にいざ行かん!」
池目君は足の踝でスノーウルフの腹をトンっと打ち、出発を促した。
スノーウルフはそれが気に喰わなかったのか、ブルンっと振るえ、池目君を振り落とした。
「わっ――てててっ、何しやがんだっ」
フンっとあさってを向くスノーウルフ。
「さあ、いきましょう! 目指すは『賢者の泉』よ」
ラビの号令とともに、寝そべっていたスノーウルフ達もずざっと立ちあがり、その一団がラビの乗っているスノーウルフ先頭に遺跡を出て行く。
アイカがその後ろ姿に涙ながらに手を振っている。
「きっと、きっとよ! 続きが気になっているんだからねー」
その声にラビもまた振り返り手を振る。
一団が遺跡から遠ざかっていく。
池目君は村人とともにそれを見送っていた。
村長ダイスは池目君を憐みの視線で見つめていた。
「ちょ、待てよーーーー!」




