亡者の大軍
魔王軍幹部の本拠地。コノゴロ山の森の中。
そこには様々な族種の魔物の陣営が森の中心にある泉を囲いこんでいた。
「魔王軍四天王アザリー様。レドの村を監視させていたスノーウルフ達の群から連絡が途絶えました。よもややられたとは思えませんが……」
アザリーと呼ばれた少女は、跪き報告するヴァンパイアの男に視線を落とす。
「ほう。何者かがスノーウルフの群を打ち倒したということか?」
「いえ、そこまでの情報は。ただ、途絶えたとしか――」
ヴァンパイアの男の言葉が終わらぬうちに、雷のような衝撃が隣で炸裂する。
そこには巨大な岩石の拳が穿たれていた。粉塵が収まるとともに、ヴァンパイアの男はその先に鎮座する自身の主を恐怖とともに見上げた。
そこには粉塵が治まるとともに漆黒のゴーレムが現われる。その肩に、我が主である魔王軍四天王の一席、アザリー・エリス・エクテラスが冷酷な視線で見下ろしていた。
「つまり、不確かな情報だということだな?」
その冷酷な目は、ならばどうすべきか? ということをプレッシャーとともに告げていた。
「――これよりレドの地に赴き状況を確認してまいります。そして、もしスノーウルフ共が何者かにやられたというのであれば、その者の殲滅も」
「ならば行け。どんな小さな歪みも見逃すな。これより行なわれる魔王様の計画は完璧でなければならない」
「――はっ」
ヴァンパイヤの男の体が霧散する。
「ふん。無能め。魔王様の部下はこのアザリーだけでよいのだ。いずれおとずれる顕花の儀。その時が『賢者の泉』に訪れれば、この私だけでこの世界を支配するのに事足りる。魔王様もそれをお望みだ」
アザリーの視線の先には青白い光を発光させている泉に向けられていた。その光が中心よりその泉全体に行渡ったとき『顕花の儀』が行なわれる。
偉大な力を手に入れる為の。
●●●
夜天の下。黒霧が静かな霊園へと降り立つ。黒霧が飛散すると、ヴァンパイアの男、カミル・グリム・サラミランドが姿を現した。
「っおのれ、アザリーめっ。このヴァンパイアの王子であるカミルを借りてきた猫のようにあつかいおって! いつか見ておれ、あの細首いつの日か掻っ切ってくれる!」
カミルは蝙蝠傘をバシバシとそこら中にある墓に叩きつけ当たり散らす。
「はあ、はあ、はあ……、まあよい。スノーウルフ達が消え失せたと同時に、巨人の目撃情報があったな。もしそれが、あのパワハラ上司のゴーレムと同質のものであれば、ぼくがそのゴーレムを奪い、逆に『賢者の泉』で『顕花の儀』を受けてくれる」
カミルはほくそ笑んだ。
あのこまっしゃくれた小娘には黙っていた情報。その情報を突破口に魔王軍幹部に上り詰めてやるそんな算段を立てていた。
「アーミラホーミラアブラカタブー」
ヴァンパイアの王子はその手首を切り、血を垂れ流す。地面にぽたりぽたりと赤黒い血が滲み渡っていく。滲は声に反応を示すように地面に広がっていく。
「この世に未練をもつ亡者の亡骸よ、地獄の底から這い出、その姿、ぼくの元に見せよ。蛇の道はすでに作りたもうた、安穏を貪る生者の生き血ほしくば、その意を示せ!」
カミルを中心に魔方陣が広がった。そして、その魔方陣に入った墓の地面から白骨と化した腕が突き出てきた。
次々に地面に腕が伸び、そこから白骨と化した人間の成れの果てがその体躯すべてを現わした。その数――十万。
その光景にカミルは歪みきった笑みを浮かべる。
「さあ、ぼくの血により再びこの地に蘇った亡者共よ。ぼくの命に従い、ぼくの手となり足となれ」
地獄の底から噴きだしたような怨念のような声が夜天に響く。




