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ゴーレムさんゴーレムさん  作者: 九重 まぶた
18/33

婆様

 朝陽が荒野をいく巨人と魔狼の群をうす闇から浮かび上がらせる。村から三里ほど離れた場所。その大行進の先にアイカ達の隠れ里があった。


「えーっと、アイカ、これ、どういう状況?」


 池目君に問われた少女は頭をふるふると「わかりません」と答える。

 二人は今、毛並みふわふわ、触るとつやつやのスノーウルフの背に乗っている。

 大行進の先には蔦が蔓延り、外壁が崩れた幾世紀前の遺跡が見えてきていた。


「あ! あれが、アイカちゃん達の隠れ里かしら?」


 どこか場違いな楽しそうな声が上から落ちてくる。


「ああ、そうだよ。あれが僕たちの隠れ里なんだけど……」


 池目君はアイカが持っていた回復アイテムでなんとか体の傷を治していた。そして隣にはボロボロにしてくれたにっくき宿敵が、何事もなかったがごとく颯爽とした物腰で一団を先導している。

 その瞳はきりっと逞しく威風堂々とした立ち姿だ。

 だからこそ池目君はちょっとむかっときていた。


「石神? どういう状況か教えてくれるとありがたいんだが。もうすぐ、隠れ里だしわけもわからずにこの魔狼の集団を隠れ里に入れるわけにはいかない」


「グルルウっ」


 魔狼という言葉に敏感に反応したスノーウルフの長が池目君に威嚇の声を上げる。

 その様子にゴーレムが肩に乗ったラビに顔をむける。


「あら? ふんふん。なるほど~。そうなの。池目君。この子達、その魔狼って言葉が嫌いみたい。我らは人間達が知恵をつける以前は、神として崇められていたんだって。だから、その呼び方はやめろって」


 見上げると朝陽の光で逆に真っ黒に見えているラビが言ってくる。


「――ふん。分かった。いわないよ」


 今も威嚇を続けるスノーウルフにビビリそう告げる。


「それで、なんでこんなことになってるんだよ?」


「ふんふん。あら、そうだったの」


 ラビは再びゴーレムから通訳をしてもらい事情を理解した。


(おい、お前も知らなかったんかい)


「なんかね。私が新しい主になったから、そんなの当然だろって」


「いや、説明になってない説明」

 

 池目君はちょっと疲れてきていた。


「アーバン兄ちゃん。とりあえず味方になったってことじゃないかしら?」


 それを察して間を取り持ってくるアイカが苦笑して言ってくる。

 ほんとにこの子は物分りがよくいい子に育ってくれたよ。と池目君は心中で神に感謝とともにつぶやく。


 池目君は納得できないながらも姪っ子の顔を立てることにした。

 一団の行進はどんどんと遺跡に近づいていく。

 その付近に武装した村人の姿が見えかくれしている。正直とまどっているのだろう。朝の訪れとともに魔狼の群が迫ってくるのだから。


 その脅えを払拭するために、池目君は手を大きく振った。


「おーい。俺だ、アーバンだ! 今帰ったー!」


 池目君に倣い、隣のアイカも背伸びして同じく手を振る。

 その姿を認められるほどの距離に達すると、村人達から歓声が上がり、慌しく入り乱れ始めた。

 池目君の顔なじみの村人が手を振ってきているのがわかり、手を振り返した。

 そして、周囲がざわめき群衆の中から群青のローブを纏った一人の老婆が前へと進み出てきた。


「おおお! その者、異世界の衣服を身に纏い、岩石の巨人を従え、白きふさふさの道を歩み、我が民を導く救済者になるであろう。で、伝説じゃ。伝説の通りじゃァァァァァァァァァっ」


 老婆は天を振り仰ぎ、咆哮を上げた。


「ババ様の目が、ババ様の目が開いた」


 群衆から沸き起こるどよめき。

 その老婆の様子に周囲の村人達も雰囲気に乗っかってしまえとばかりに歓声を上げた。


「池目君みんな私たちを歓迎してくれているみたい。とてもうれしいわ」


 その様子にすっかり気をよくしたラビもまた手を振り返した。

 その姿にまた村人達は絶叫と聞き違うばかりの歓声をあげた。

 しばらくその繰りかえしが行なわれ、池目君はげっそりした。


「……俺、この村、出ようかな」


  ●●●


 ラビ達は村人達にスノーウルフの群を手なずけた英雄として受けいれられた。

 遺跡のあちこちには魔物がせめて来たときのために武装され、村人達は、武器に使えそうな農機具を手に周囲の警戒にあたっていた。

 スノーウルフの群は事情を説明し、なんとか遺跡の入り口付近に止まることを許された。


「そういえば、石神。あのスノーウルフ達を手なずけたゴーレムの力、あれって――」


「ええ、あれは、学園祭で出会った二人の不思議な技を参考にしたのっ。あの蔓のふわふわブラシはもちろん、あの美幼女さんの蔓っぽい力をアレンジして。そして水はもちろんあのボンキュッボンの美女さんの力よ。二人の技のおかげで、洗車機能とマッサージ機能を搭載した見事なゴーレムさんができたわっ」


 あのあと、どうやってスノーウルフを手なずけたのか池目君は知りたくなり見せてもらっていた。正直なんだこりゃ? とは思ったが。

 彼女は考え方からして規格外であることを再認識した。


「ああ、なるほど、そうなんだ」


 とりあえず、適当に相槌を打っておいた。

 ラビ達が通されたのは、いざというときの為に人が住める環境を整えていた遺跡の地下室であった。そこには最低限の住居設備が整っていた。

 

 そして、村長であるさきほどの絶叫婆の居間にラビ達は通された。

 ゴーレムはその体躯を自由に変化させることができるので、今は人間大ほどの大きさに縮みラビの背後に付き従っていた。


 蝋燭に魔法の火が灯され、部屋に明かりが満ちる。

 その中心にはさきほどのお婆と、村の長らしきいかつい髭をたくわえた中年のおじさんが隣に立っていた。


「この異世界の勇者よ。我らが隠れ里によくおいでくだされた。伝説の勇者よぉぉぉぉっ」


「婆様が婆様がまた目を開かれたァァァァァァっ」


 婆様はごほんっと咳払いし、再び、しわくちゃの顔で見えているのか見えていないのかというほどの細い糸のような目をラビに向ける。


「しかし、勇者様。あなたはまだ魔王を倒すほどの力は持ち合わせてはおらん。これよりあなた様は我が村に伝わるもう一つの伝説である『賢者の泉』にいかねばならぬぅぅぅぅぅぅっ」


「婆様が婆様が再び目をぉぉぉぉぉぉっ」


 婆様がごほんと咳払いをすることで、隣の男の絶叫が止まる。


「行ってくれるか勇者よ。道のりは険しく危険なものになるであろう。魔王軍も刺客を差し向けてくるやもしれん。いや、十中八九現われるだろう。命の危険もある。しかし、この世界の為……行ってくれるかァァァァァァァァァァァァァァァァァァっ」


「婆様の目がァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァっ」


 二人が絶叫する。

 その二人を見て、ラビはおずおずと池目君に視線を向け言ってくる。


「あれやらないと話せないのかしら?」


「そこはつっこむんかい」


 会話が聞こえていたのか、婆様と髭おじさんがぽっと顔を赤らめる。どうもやりすぎたと反省しているようだ。


 その様子を隠れながら見ていたアイカがやってきた。


「おねーちゃん。話を纏めると、アイカたちの村には『ゴーレム使いの伝説』と『賢者の泉の伝説』があるの。そしてそれは世界が魔王により支配されるときに、勇者として『ゴーレム使い』が現われると言い伝えられていたの。そのゴーレムの力はドラゴンさえ倒し、その魔力は賢者さえも凌ぐと言い伝えられている。そしてアーバン兄ちゃんはおねーちゃんを異世界で見つけ、この世界まで連れて来てくれた。実際、おねーちゃんのゴーレムは使い方は間違っているとおもうけど、驚くほどの力を持っているわ。常識では計り知れない力。そして、その伝説はもう一つの伝説に続いている。『賢者の泉』よ。そこにいけば、ゴーレム使いは更なる力を授かり、魔王を打ち滅ぼすであろうと言い伝えられている。その力どんなものなのか分からない。でもそこに行き、力を授かることができれば、この世界は救われると言われているの」


「へー。じゃあ、もっとゴーレムさんに新機能をつけることができるのね。つまりスペックが増えるということなのかしら?」


「それは、よく分からないけど、きっとゴーレムさんがパワーアップすることだけ確かだと思うわ」


「じゃあ、そこに行くわ」


 ラビはアイカと手をタッチしてじゃれあいをする。

 その様子に、動機はどうあれ、池目君はほっとした。


「石神。出立は明日の朝だ。それまで今日はしっかりと休もう。さあ、こっちだ」


 池目君はラビとアイカを引き連れて部屋を後にした。

 その部屋には婆様と髭おじさんが顔を赤らめたまま、ちょっと恥ずかしげにチラチラとお互いを見ていた。


「出番を取られましたな?」


「あの子は神童じゃァァァァァァァァァァっ」


「婆様の目がァァァァァァァァァァァァァっ」

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