旅立ち
「奴ら、君に負けたかどうかは置いておいて、きっと援軍を呼び寄せるつもりだ! もし援軍を呼ばれたらこの世界は、この世界はっ。ぼくが訪れたせいですまないっ。でもこうするしかなかったんだっ。こうなったら仕方ない。石神ラビ! ぼくの世界に来て魔王討伐を協力してくれ!」
少々強引な池目君の言葉に、ラビも満更でもない様子だった。
事実彼女は夜の森を池目君に手を引かれながら駆けていた。ラビはまるで愛の逃避行のようだわと心中叫んでいた。
やがて視界を遮る森の木々が開け、夜の森を照らす光の下に辿りつく。
「こ、これは……、また大きな電球ですね」
「これが、異世界への扉だ。やはり、奴らすでに元の世界へ……」
池目君が異世界への扉と呼んでいる化物のような電球の傍には脱ぎ捨てられた女生徒の制服が二着。きっと先ほど出合った不思議な先輩たちが着ていたものだろう。
「石神、覚悟を決めてくれ。あいつらはきっとこの次元の道を記憶している。この異世界の扉をぼくが閉じても、記憶された次元の道はもう一度開くことはあいつらなら朝飯前だろう。魔王軍を止めなければ、いずれこの世界にも様々な力を持った恐ろしい軍がやってくるだろう」
池目君はラビの足元に崩れ落ちるように跪き、泣きながら懇願した。
「すまないっ。すまないっ。ぼくがこの世界に災いを招いたことは分かっている。筋違いなのは承知だ。それでも君に来てほしいっ。君のゴーレムの力が必要だ。さきほどの魔王軍の魔法を破った力を見て確信した。ぼくの世界を――」
ラビは池目君の肩に手を置いた。ビクっと肩が震える。
侵してしまった過ちに懺悔の色を瞳に浮かべた顔が見上げてくる。
ラビは笑みを浮かべ、手を挿しだした。
「立ってください。池目君。わたし行きますあなたの世界へ――」
池目君の顔から苦しみが取り払われたように光が射した。池目君はラビの手をとり立ち上がる。
「――ほんとうに――」
「だってさきほど二人の先輩のような不思議な力、もっと様々な技をもった方達がいるのでしょう? ぜひ私のゴーレムさんに取り入れたいです」
池目君の眉がピクピクと痙攣する。
「えっと、あの、ぼくの話聞いてた――」
「いざ行かん! 別天地!」
ラビは煌々と輝く電球の光に歩を進める。
すぐにその姿が掻き消える。
「……」
地響き引き起こし、ゴーレムもまた主人に付き従う従者のようにラビの後を追う。巨体は電球の光に掻き消えた。
夜風に煽られ森がざわめく。森を住処にする住人たちの息遣いが聴こえてくる。
池目君は一人と一体の後ろ姿をどこか呆然と眺め、時間が進みだしたようにはっと我に返った。
「――おいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい――っ。ここはもっと躊躇いながらもぼくが「大丈夫」とか言いながら手を惹きながら新天地に赴く場面だろ―――っ。間違っているっ、動機もそうだけど、さらりと「あ、あの服欲しかったの」的なノリで異世界の扉をくぐるあっさりとしたその感じ、間違ってるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ」
池目君はぼくの人を見る目自体が間違っていたのかもと不安を覚える。
ただ、とりあえず一人と一体の後を追わないとこの置いてきぼり感に堪えれそうにないからと自身も慌てて自分の世界の入り口に慌てて飛び込んだのだった。
魔王軍の者がこの入り口を使いぼくの後を追ってきたということは、扉の近くにあるぼくの村もきっと危機的状況に陥っているのだろうから。
「ちょ、待てよーっ!」




