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ゴーレムさんゴーレムさん  作者: 九重 まぶた
13/33

奇術師ラビ

 舞台は体育館から移動し特設会場が設置されたグラウンド。高校生が作ったとは思えないスポットライトがまばゆく光る。

 その舞台裏の控え室ではご都合高校の女生徒たちがキャッキャとこれから行なわれるミスコンを待ち望んでいる。そこにフジミノとキューリーの姿も。まるで異空間に放り込まれたよううに戸惑いの表情を浮かべている。


「おいフジミノ、これはいったいどういう状況だ?」


「周囲の村娘からの情報だと、どうもこの集落の村一番の美人を決める大会のようだ」


「……そんなものに私達がでてどうするのだ? もっと目立ってしまって任務の遂行の妨げになるだろう?」


「行き掛かり上、仕方なく……」


「おい?」


 言葉で濁しこの状況は仕方ないことなのだとフジミノはつぶやくが、その顔はまんざらでもない。

 きびしい軍律の中で育ってきたフジミノの中で何かが変わりつつあるのかもしれない。

 事実、キューリーもまた裏方の仕事を通じて、花やかなものだけがすべてではないと認めつつあった。

 だからこそフジミノに疑問を投げかけながらも反対の意を唱えないのは自身にフジミノに共感する部分があるからだろうと感じていた。

 キューリーは舞台袖にあがり、にぎわう舞台を覗く。

 そこで信じられない光景に目を奪われた。


「……フジミノ……」


 喉から搾りかすのような声が漏れる。

 そこにはこの集落の村娘と、ゴーレムが舞台に立っていた。

 指に蔓を集束させていく。


   ●●●


「レーディスアンジェントルメ~ん」

 

 マイクを持った男子生徒が調子よく声を張りあげる。それを受け、集まった観客たちがまばらな拍手を送る。


「お待たせしましたー! ついに我が高が誇る希代の魔術師、石神―ラビの登場だー!」


 すると舞台袖からトコトコとシルクハットとマント、そしてチョビ髭を携えたラビが登場した。まだあまり温まっていない観客たちに大仰に手をあげ、一礼をする。

 気分はすっかりトップマジシャン。その背後からゴーレムがドスンドスンと舞台がつぶれるのではないかという地響きを携え登場する。

 実際にぎしぎしと軋みをあげている。


「石神さん。今回はどんなマジックを見せてくれるのでしょうか?」


 男子生徒が興味深々とマイクをラビに近づける。


「脱出マジックです!」


 ラビは自信満々に告げる。

 拍手がぱちぱちと起こる。


「脱出マジック!!!!?」


 男子生徒がわざとらしくひゃーっと驚く。

 観客からおーっと調子を合わせる声があがる。

 ラビは大歓声を受け再び大げさにマントをなびかせ、一礼。


「わたしが、この水で満たされた水槽に入り、そしてこの鎖で手足をしばります! そしてゴーレムさんを変化させた箱型密閉空間に閉じこめられます! 種も仕掛けもありません!」


 ラビの目の前に台車に乗った水槽がタプンタプンと運ばれてくる。

 運んできたのはモブ子とモブ江だ。かなり重いようで勢いをつけなければ動かなかったのか二人は力の限り振り絞り運んできた。そのため勢いが付き過ぎて二人は急には止まれない。


「ちょっと、モブ江! これ、止まらない」


「モブ子逆! 逆に回りこめば」


「ダメよ! 水槽の下敷きになってマジックどころじゃなくなるわ」


 勢いを付けすぎたのかラビの前を通り過ぎ、そのまま逆の舞台袖に水槽を載せた台車が突っ込んでいった。

 二人はラビから少し離れた場所でビタンとうつ伏せに顔を床に打ちつけ転ぶ。

 舞台袖の向こうから悲鳴と破砕音が聞こえてくる。

 司会の男子学生の額に汗が伝う。


「わたしが鎖に繋がれ、ゴーレムさんにより変化した箱型密閉空間に閉じこめられ、脱出します!」


 急遽、項目を減らすラビ。


「ゴーレムさん!」


「御意」


 ラビの言葉にゴーレムはラビに巻きつけるための鎖を取りだすが、力加減が難しかったのかバチンっと鎖が千切れてしまう。何度も試していると細切れになった鎖が床に散乱していく。


「えーっと……」


 さすがのラビも言葉につまり苦しい笑みを浮かべ、司会の男子生徒に助けを求める。が、男子学生は視線をずらした。


「わ、わたしがゴーレムさんにより変化した密閉空間に閉じこめれ脱出……」


 さすがにダメかと諦めかけたその時――、


「よくもやってくれたなゴーレム使い!」


 突如響く声。振り向けば水槽が突っ込んでいった舞台袖から血だらけになった幼女の女生徒が姿を現した。


「フジミノ! 作戦変更だ! まずは我らの障害になりえるであろうゴーレム使いをここで叩く!」


「いたし方あるまい。レドの村の者は後回しだ。しかし、やるならば一気に攻めるぞキューリー!」


 同じく舞台袖から凜とした美女が姿を現した。

 二人のいきなりの舞台乱入に観客がどよめき、二人の美貌、とくにフジミノの美貌にどよめき、歓声に大きく変わっていく。

 観客は展開が変わったことに期待に胸を高鳴らせているようだ。

 一方のラビは二人の顔も名前も知らないし、なぜ二人が自分に敵意を向けているのかも分からずに戸惑うばかりである。どうもうちの生徒のようであるが。


「……えーっと。三年生の方ですか?」


 ただ分かっているのは問答無用で二人は次の行動に移っていることだ。

 キューリーと呼ばれた幼女がその手に緑の蔓を集束させ、解放った。

 事態が飲み込めないラビの四肢に蔓が巻き付き自由を奪う。


「え、え、えーっと、なんですこれ? きゃーっ」


 キューリーが蔓を操りラビを宙吊りにした。

 勘違いした観客が歓声を上げる。


「フジミノっ! ゴーレムを使わせるな。やっかいだ」


「分かっている。我の支配する水の化身よ。その力を示せ!」


 フジミノが呪文を紡ぎ、周囲に水を出現させる。行動は早かった。すぐに水の化身に指示を下す。

 水の塊が弾丸のような速度でラビに直撃。


「――ぐがばあ、ごばごば」


 水塊はラビの顔に直撃しそのまま顔を包み込む。水は膨れ上がり、すっぽりとラビの体ごと包み込んでしまった。


「これでゴーレムに指示をだすことは不可能だな。声が出せないのだからな」


 幼女が勝ち誇った笑みを浮かべる。

 その光景を唖然と見ていたマイクをもった男子生徒が目を覚ましたように慌ててマイクに声を奮わせる。


「おおおっと! 急に舞台に乱入してきた美幼女と、美女の2人組み! 妙なマジックを使い、奇術師ラビーの四肢の自由を奪い、あろうことか水の塊に沈めてしまったー!」


 男子生徒は二人組みに片目を瞑りウインク投げる。

 二人は急に実況を始めた男子生徒に「ん?」と眉を潜めるが「気にするなっ」とフジミノが叫ぶ。


「ああ、どちらにしてもゴーレム使いはこれで終わりだ。もはや手も足もでずに溺れ死ぬだけだ。見ろ、フジミノ。命令を受けることができずに突っ立ったままのゴーレムの姿を滑稽じゃないか、主人が目の前で風前の灯だというのに、微動だにもしない。くふふふ」


「ああ、本来であれば何も命令せずともゴーレムに主人の命を最優先に守ることを組み込んでおくことは必須。だがその反応が見られないということは、その程度の術者だったということだな。買い被りしすぎたかもしれない」


「まあ、悪い芽はさっさとつんでおくに限るのだろ?」


 宙吊りにされ、水中に沈んだラビは息ができずにもがき苦しむ中、すぐに事態を理解した。


(――ゴーレムさんっ)


 ラビは心中で念じる。


「さあー一時はどうなることかと心配したが、さきほどまでのドタバタ劇はどうやらブラフ! 本命はこちらの美少女二人による緊縛術による脱出劇どうする奇術師ラビー! 絶体絶命の事態、どうやって脱出するのかぁぁ!」


「それにしてもあの男はさっきからあの声を増幅させるマジックアイテムで何を言っているんだ?」


「わからない」


「……御意」


「なにが御意なんだキューリー?」


「御意? わたしはそんなこと言っていないぞ」


 心中で命じられた指示により仁王立ちしていたゴーレムがゴゴゴゴゴっと動きだした。


「おい、ゴーレムが動いているぞっ」


「まさかそんなはず。あの術者は声が出せないはずだっ。それともゴーレムに命を守らせる命令をやはり組み込んでいたか」


「どうするっ」


「どうするもなにもいくらゴーレムが主人の命を守ろうといたところで、私たちを倒さないかぎり魔法は解けることはない。落ち着くんだキューリー」


 ゴーレムは振動を繰りかえし、ラビの眼前へとその巨体を移動させた。

 そして――、ゴーレムの体が重低音をだし、その巨体を変化させていく。


「ああっと! 主人を救うかに思われたゴーレムさんが、予想とは裏腹にその巨体を変化させていくー!」


 男子生徒の実況にも熱がはいる。

 体がガキンガキンっと変化していく。腕、足が引っ込み、頭部が引っ込み、大きな四角の箱が出来上がった。


「だあああっと箱だぁ! 当初の予定通り巨大な箱と変化したゴーレムさん。その扉が開き、奇術師ラビをー、閉じ込めたー! 更に過酷へと放り込まれたラビー!」


 男子生徒の言葉どおり、大きな箱へと変化したゴーレムはもがき苦しむラビを更にその内部に閉じ込めたのだ。


「な、なにが起こっている? なぜ、ゴーレムは主人を? いや、そもそもあれは主人だったのか?」


 今更ながらの疑問を口にするキューリー。本当に今更だ。


「お膳立てはすべて整ったー! さあ、いよいよ奇術師ラビの脱出劇だー! このまま彼女は溺れ死んでしまうのか? それとも奇跡の大脱出が成功するのかー!?」


 突如鳴り響く太鼓の音。激しく赤、黄、青、などの点滅を繰りかえすライト。

 観客席側からあがる興奮の歓声。

 どこか置いてきぼりをくらい唖然とする二人。


「な、なにが起こっているんだ? フジミノ」


「わ、わたしにもわかりませんキューリー」


 自分達の立ち位置を完全に見失っている二人は熱気につつまれる会場の異様な空気に完全に呑まれようとしていた。

 ゴーレム使いはゴーレムの箱に捕らわれたまま姿を見せない。

 鳴り響いていた太鼓の音が止む。激しく縦横無尽に照らされていた幾重ものライトが箱を中心に照らしだす。

 沸き起こっていた歓声がピタリと止んだ。

 キューリーとフジミノはその異様な雰囲気に喉をからりと乾かせ、眼前に展開されていく光景に観客同様に見入った。


「……」「……」


 マイクを持った男子生徒が一歩前に進み出る。片手を大仰に掲げ、マイクに熱のこもった声量で告げる。


「レーディースアンジェントルメーン? まだまだこのまま終わらないぜー!」


 キューリーとフジミノがスポットライトに映し出される。二人はゴーレムの箱の両脇に置かれた脚立に上らされ、黒子から箱を両断できるほどの剣を持たされる。


「なんだ? これを刺すのか? このゴーレムに?」


 黒子がこくこくと頷く。

 なにが行なわれているのか理解はできない、ただ何をするのかは察することはできる。二人は呆気に取られた顔でお互いを見つめる。そして、意を決した。


「やってやろうじゃないかっ」


 キューリーが渡された剣をゴーレムに突き入れる。あっさりと剣は貫通する。妙に手応えのない感触に戸惑う。フジミノもまた剣を突き入れ同じ表情をしている。

 観客がどよめきの声をあげる。

 また黒子に剣を渡される。キューリーはまた突き刺した。フジミノも刺した。また渡される。

 二人はすでに意地になりこれでもかとゴーレムの箱に剣を突き入れた。

 気づけばハリセンボンのようになったゴーレムがそこにはあった。

 これだけ刺せば、もはや箱の中には逃げ場はない。それほどの剣を突き刺した。だがフジミノの手は震えていた。

 なんの感触もないのだ。

 いや、そもそも私はいったい何をやっているのだ。

 それはゴーレムの箱を挟んだ向かいにいるキューリーも同じ顔をしている。

 まるでいつのまにか別世界に放り込まれたような感覚。ぶるりと背筋が震えた。


「レディース、アーンドぅ、ジュントルメぇ~ん? 今、今世紀最大の奇跡がここに、この舞台で起こります! 誰が予想できたでしょうこの展開! 驚天動地とはまさに今あなたが目撃している目の前の光景! 今夜あなたは歴史に刻まれる偉大な奇術師の誕生を目にする目撃者となるでしょう! それではオープン!」


 ゴーレムの箱が開いた。


「「…………」」


 瞬間、鼓膜が破れるほどの大歓声が起きた。

 その地鳴りのような轟きに二人は圧倒される。

 そこに術者の姿はなかった。

 震えた。全身全霊震えた。


「あああっと! 石神ラビの姿が消えたーーーー! 見事、脱出成功! しかし、ではどこに?」


 男子生徒がわざとらしく周囲をきょろきょろと見回し始める。

 すると、ファっと視線が止まる。

 それは舞台のスポットライトが取り付けられた天井部分。


「ここで~す!」


 そこに奇術師石神ラビが立っていた。

 男子生徒の視線に吸い寄せられるように観客の視線、そして二人の視線も集まる。

 そして、また地鳴りのような歓声が舞台に怒号のように浴びせかけられる。

 注目を集めている石神ラビは大きく一礼をしたり、とにかく歓声に応えていた。

 いつのまにか復活したモブ子とモブ江も目に涙を溜め、ささやかな拍手を送っている。まるで我が子の巣立ちをやさしく見守る母鳥のようであった。


「な……なんだ、これは」


 フジミノの震えが止まらない。異常な空間に放り込まれたからなのか体の奥底から熱い何かが噴出してくるのだ。


「なぜ、あの術者は私達の魔法を解除できたんだ?」


「恐らく、あのゴーレム自体が魔力を跳ね返すことができる魔力障壁になっているのでしょう」


「つまり、ゴーレムの中に入った瞬間、私達の魔法は解除されていたということか」


「そういうことです。あとはゴーレムの内部を変化させ、舞台下に入り口を作らせでもしたのでしょう」


 冷静に状況を分析しているつもりだがキューリーもまたその声は震え、顔が紅潮していた。

 そう、そんなことはもうどうでもいいのだ。

 それよりも自分達はこの異常な状況に歓喜しているのだ。


「なんなんだこの気持ちわーーーー」


 歓声、賞賛、そして栄誉。それすべてを一身に受けるこの甘美な高揚感。


「先輩たちのおかげでショーが成功しました。ありがとう」

 

 気づけばゴーレム使いが握手を求めてきていた。


「い、いや、わたしは……」


「それにしても先輩の技はすばらしいですね! 是非ともゴーレムさんに取り入れさせてください」


「や、やめろっー、私は私は認めなーい」


 フジミノはその握手を振り払うように、この場を逃げだした。


「フジミノっ」


 その後をキューリーが追いかけていく。

 そしてそのすべてを見ていた池目君が叫んだ。


「ゴーレムの使い方と、魔法の使いかた間違っとるー! ってそんなことを言っている場合じゃない。石神!」


 奇術師の恰好をしたラビのもとに池目君がやってくる。


「もう時間がない! ぼくの世界に来てくれ!」


 池目君がラビの手を取り舞台から去っていく。

 黄色歓声が飛び交うなかを二人は駆け抜けていく。


(ああ、やぶさかではない、やぶさかではないわ~)

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