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ゴーレムさんゴーレムさん  作者: 九重 まぶた
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学園祭

 それから数日が過ぎ。


「さあ、今日から文化際が始まるが、しっかり青春しろよ! お前たち! 角刈り」


「「「最高!」」」


 朝のホームルームの終わりが告げられると「ひゃっほー」と歓声があがり三年C組の生徒は各々が準備に取り掛かりはじめる。


「いこ! ラビ、最後の準備に取り掛からなきゃ!」


「うん!」


 ラビも取り巻きのモブ子、モブ江とゴーレムともにグラウンドへと向かう。

 その後ろ姿を、池目君が「決してあきらめないぞ。石神ラビ」と窓の外の木の枝から見ていた。


  ●●●


 二人はどこか呆然とご都合高校の校庭を歩いていた。


「今日はお祭りか? フジミノ」


 校庭一杯に生徒たちと他校の生徒たちが溢れかえっている。

並木道には屋台がずらりと並び、活気のある声と匂いが通りがかる人の足を止める。

校舎も文化際仕様に彩られ、のぼりや旗、花があしらわれた看板などが飾られている。


「そのようですわね。キューリー。しかし、逆に侵入しやすくなりました。見たところ半分ほどは半端者の情報とは違う恰好をしている。わざわざ、衣服室に忍びこみにこの衣服を手にいれなくても良かったのかもしれません。キューリー確認しておきます。我らの目的はまずはこの集落に潜んでいるレドの村の者を探し始末する。そして可能であればゴーレム使いも」


 二人はご都合高校の制服を着ていた。


「ああ、分かっているさ。そして邪魔する者はすべて殺していいってのもな」


 キューリーは瞳に嗜虐的な笑みを浮かべ視界に映るすべての生徒たちが自身の玩具に見えていた。


「キューリー。今はまだ騒ぎを起こすときではない」


「分かっているよ。それにしても、いい匂いだな」


 キューリーの目前に丁度、煙がもくもくと上がっている。そこから香ばしい匂いとソースの匂いが流れてきていた。


「いらっしゃいませー! お好み焼き一つどうっすかー!」


「お好み焼き? なんだそれは? 美味しいのか?」


「がんばって焼いてます! 美味しいです――なっ!」


「キューリー。無駄な時間を過ごしている暇はない。急ぎますよ」


「いいではないか少しくらい。この世界の食にはわたしは興味がある一つ頂こう。ん?」


 キューリーがお好み焼きを一つ所望しようとすると、屋台の男子学生の様子がおかしいことに気づく。どこか呆れたように男の視線の先に映るフジミノに振りかえる。


「おお、お一つ、どうですか! ぼ、ぼくの作ったお好み焼きをあなたに食べてほしいですぅ!」


 男子学生は目をハートマークにさせフジミノにお好み焼きを興奮した犬のようにハアハア言いながら差しだしてきた。


「おいおい、なんだよあの美魔女。この学校にいたか?」


「あの出るとこでてそれでいてへこんでいる所もきゅっと絞まって」


「天女様だわ」


 周囲の視線が集まってきた。

 キューリーはじと目でフジミノを見ている。

 フジミノは魔王軍のなかでも屈指の美貌をほこっていた。元の世界ではその美貌で人間共は油断し、あっさりと彼女の餌食になる。ただし本人にその自覚はあまりなく、だからこそ始末に悪い。軍人気質のくせに周囲を惑わす美貌をもち、ちょっとズレているのだ。

 キューリーはその無自覚軍人に溜息をつく。

 フジミノは周囲を気にすることなく突然差し出されたお好み焼きを手にとる。


「なんだ? まあいい。あなたがくれるというのなら頂きましょう。ん、存外にこの世界の食も捨てもんではない。どうしました? キューリー」


「どうしたじゃない! 何が騒ぎをおこすなだ。貴様が一番周囲の目を集めているじゃないかっ! それにわたしにもそれをくれ! おいそこの男! わたしにもそれだ」


「ああ? なんだこのちびっ子。わるいけどお金持っているの? 五百円ね」


 男子学生はキューリーに手を差し出しひらひらと金銭を要求してくる。フジミノとの格差をしっかりと感じる対応にキューリーは額に青筋を立てる。


「おい、貴様? このキューリー様の逆鱗にふれたぞ? その罪、死を持ってあがなえ!」


「キューリーっ――」


 幼女が何事かつぶやくとその木の葉のような小さな手からシュっと異音を発すると蔓が飛びだす。

 それは森で男を捕らえた魔法の力。

 植物の蔓のようなものが線となり男子学生に一瞬で絡み付く。


「あ? うぐぁっ――」


 キューリーが嗜虐的な笑みを浮かべ、その指を上に向ける。すると、植物の蔓に捕らえられた男子学生が屋台の屋根を突き破り宙に吊り上げられた。

 男子学生は何が起こったのかと手足をバタつかせている。


「くっくっくっく――、わたしとフジミノに妙な格差をつけるからこうなるのだ。だいたい軍での扱いでもわたしは文句があるのだ! そもそも同じ仕事をやっているにも関わらずなぜ、フジミノばかりが評価をされるのだ! おかしいだろ!」


 なんだか私情が混ざった文句とともに、キューリーの指の動きに合わせて男子学生が宙でマリオネットのようにくねくねと動かされる。


「や、やめてくろっ――」


「キューリーっ、急に何を言い出しているのです。とにかく騒ぎが大きくなる前にやめなさい」


 しかし、キューリーはフジミノの言葉にフンっと顔を逸らし、


「それはこっちのセリフだ。そもそも貴様が注目を浴びているのに気づいていないのが性質が悪いんだ。それに――、もう遅いようだぜ?」


 その言葉を証明するように周囲には人だかりが出来上がっていた。

 宙ずりになっている男子学生に、何事かとどよめきが起こっている。


「仕方ない。キューリー作戦変更だ。この集落の人間を皆殺しにします。そしてレドの村の者をいぶりだす」


 フジミノは呪文を紡ぐ。すると何もなかった空間に水の塊が宙に出現した。その水が周囲の野次馬を吹き飛ばそうと、二人を中心に回転する。突風のような回転が人だかりを吹き飛ばしていく。


「めんどーなことはせずに、初めからこうすれば良かったんだ」


「キューリー、この失態に対する罰はあとで受けてもらいますからね」


 そんな突風を掻い潜り、二人の眼前に人影が踊る。


「――っ」


 虚を衝かれ一瞬動きが遅れたのか、人影にフジミノの腕をがしりと握られた。

 この集落にまさかこんなことができる人間がいるとは、油断していた。フジミノは自分に舌打ちをした。その腕を振りほどくために周囲に展開している水の塊を呼び戻す。

 だが、遅い。

 人影がぐいっと顔を寄せてきた。


「あなたたち! すごいじゃない。あなた、わたしの劇のイメージにぴったりよ。まさに水の女王様、それにあなた! その煙みたいな黒糸どうやって出しているのかわからないけど、わたしの劇にほしいわ! そこでお願いなんだけど助けると思って、ちょっとだけ来てちょーだいよ!」


「――な?」「――へ?」


「こらー! 誰だ暴れているやつはー! 青春だからって羽目を外しすぎる生徒には生徒指導だー!」


 角田先生の声が聞こえてくる。


「やばい! ほら、早く、こっちよ。つかまると面倒だから、急いで」


「ちょっと待て、私達は――っ」


 あれよあれよと言うまに二人の腕をがしりと掴んだ女生徒は強引にぐいぐいと引っ張っていく。


 そして二人が連れて行かれたのは、体育館だった。

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