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宴の喧騒に火をつけるように、流浪の民たちは飯を喰らい、喉鳴らして酒を呑む。


見上げるように、湯気上げる汁物をすすり、肉を食い、飲み込む。


喉焼くような酒を飲み下し、舌回して、空気を味わう。


体へ宿るようなあたたかさが芯をあたためる。


赤毛の男は、辛い酒の息を吐き、埃を忘れるような酒帯の舌で風を食う。


義手の男は指を咥えて寝転がっており、空になったお椀を置いた少女は、男の耳元の赤毛を持ち上げた。


唇をその耳に近づける。


「ねえ、夜更かししよ」


蝿が一匹舞い上がる。


男は唇を巻き、乾いた口を舐めた。


「ほら行こ」


少女は男の腕を掴み、引っ張った。


それに引かれて、男はよろよろ千鳥足でついていく。


酒が入っていた空椀の香りは、火を近づければ燃え上がるほど。


ふたりは離れ舎を出て、凍える夜道を歩く。


「さむい~」


少女は男の脇から頭を出すように大きな腕へ飛び込んだ。


ふらふらと歩く男は少女を抱き寄せる。


「えへへ」


足元のたよりは、星空の明かり。手元がかすかに見える程度。


「あ!」


少女は大きな声を出す。


「布団忘れちった」


こつんと頭を叩く少女。男の腕から離れる。


男は少女を抱き寄せた。


「えへへ嬉しいけどちょーっと待ってて」


少女は離れ舎のほうへと走っていった。


赤毛の男は、しばらくぼーっと星を眺めていたが、歩き出す。


その方向は、背の高い観賞樹があるところ。


男はあたりを見回すと、その木を蹴り倒す。


木の枝はふさふさとした広い葉を持っており、茂みとなった。


その茂みの近くで、赤毛の男はくらくらと座り込み、頭をこくりと揺らす。


その時、蠅が男の脚元、正面に留まった。


両手をこすり合わせる。


すりすり、すりすり。


薄緑の目はその蠅を捉えた。


「なんだぁお前?覚えてるぞぉ交尾邪魔された腹いせか~?」


すりすり、すりすり。


2匹目の蠅が、斜め右前に留まった。


すりすり、すりすり。

すりすり、すりすり。


「うらやましいのかぁああん?」


3匹目の蠅が、斜め左前に留まった。


すりすり、すりすり。

すりすり、すりすり。

すりすり、すりすり。


「ああすまん悪かったあんとき邪魔してよおぉ」


4匹目の蠅が、後ろに留まった。


すりすり、すりすり。

すりすり、すりすり。

すりすり、すりすり。

すりすり、すりすり。


「なんだその手ぇ。えろい動きなんかしてよぉ」


5匹目の蠅が、斜め左後ろに留まった。


すりすり、すりすり。

すりすり、すりすり。

すりすり、すりすり。

すりすり、すりすり。

すりすり、すりすり。


「タフィ来たら追っ払うからなお前らぁ」


6匹目の蠅が、斜め右後ろに留まった。


すりすり、すりすり。

すりすり、すりすり。

すりすり、すりすり。

すりすり、すりすり。

すりすり、すりすり。

すりすり、すりすり。


「へっ。気持ちわりぃやつらだぜ」


すりすり、すりすり。

すりすり、すりすり。

すりすり、すりすり。

すりすり、すりすり。

すりすり、すりすり。

すりすり、すりすり。


「ん?」


赤毛の男は背筋を伸ばして立ち上がった。


すりすり、すりすり。

すりすり、すりすり。

すりすり、すりすり。

すりすり、すりすり。

すりすり、すりすり。

すりすり、すりすり。


蝿の体が内側から破れる。金属片、くの字の突起が飛び出した。


そこを起点に、六芒星のような術陣が地面に刻まれる。


大きな手と小さな手で全身掴まれたように動けなくなった赤毛の男。


すりすり、すりすり。

すりすり、すりすり。

すりすり、すりすり。

すりすり、すりすり。

すりすり、すりすり。

すりすり、すりすり。



それは、埃の掃き残し。


敵は、この瞬間を待っていた。


「おまたせ!」


視界の背後から、逆手に持った短剣が現れた。


下腹部へ、柄と皮膚がぶつかるまで突き刺さる。みぞおちまで一気に引き裂かれた。


ぼたぼた。だらり。


飲み込んだあたたかい食べたものがこぼれる。


「だーれだ」


小さく細い指で目が隠され、夜より暗くなった。


喉へまっすぐ短剣が刺さる。


耳元でささやかれた。


「正解は~」


手が離れた。


「わたしです」


薄緑の目に、琥珀色のきらめきと、醜い色の目が映り込む。




碧灰の、呪わしき、その瞳。

忌まわしき目は全て呪いし。





男は目を険しく細める。


「あれ?聞こえてる?お耳詰まっちゃった?」


動脈をなでるように喉の短剣を抜き取る。


琥珀の少女は男の耳に短剣を一突きした。


「聞こえる~?おーい」


少女は男の顔を削ぐように短剣で手を振った。


先端が目尻を裂く。


「あれ?わかんない?」


少女ナーシェは笑みを作った。


「ナーシェです」


初めてその輪郭が重なった。


薄緑の目の下、裂かれた目尻から血が流れる。


少女タフィリアは笑みを作った。


「タフィリアです」


その輪郭へ、男は震える手を伸ばした。


少女は首をかしげると、ぽんっと手を叩く。三日月のように歪んだ笑みを浮かべた。


「夜が怖い?」


少女はその大きな右手を掴み、心臓がある場所に触れさせる。


「あるかもわかんない心臓で思い出せたもんね?」


男はそのあたたかさを思い出した。


下限の冷たさに比べれば、その冷たさはあたたかい。


胸破れるような強さで心臓が脈打つ。


目尻から流れる血が増えた。


「あっれ~そういう意味じゃなかった?あ!こっち?」


男の右腕を開くように、琥珀の少女は短剣で裂いた。


「貸してあげるって言ったの覚えててくれたんだ!嬉しい!」


埋め込んだ赤い肉塊を手で抜き出した少女は、肩にかけた鞄から小瓶を取り出し、そこに戻す。


「頭に巻いてあげたやつも直接返してくれなかったし、借りパクされたらどうしようとか不安だったけど……」


少女は唇を三日月のように歪ませ、ほほ笑む。


「ありがと」


少女は男の表情を眺めた。


「知らんぷりしようかと思ったけど、返してくれたから答えてあげよっかな」


赤毛の男の体に、あざが浮かび始めた。もがけばもがくほど、骨が軋んで関節が反張する手前になる。


「ナーシェとタフィリアどっちも花の名前。花言葉もせっかくだから覚えて」


薄緑の目が、少女の首飾りに留まる。


砂時計の首飾り。


「存在しない嘘」


男の目を見て、少女は首をかしげる。


「え?わたしはわたしだよ?」


赤毛の男はもがき続ける。


肘が折れた。


少女はすっぱい表情を作る。


「うわ痛そー」


少女はじっと男の目を見る。


「何その顔。こうでもしないと殺されちゃうというか、お掃除されちゃうでしょ」


鞄から一枚の紙が取り出された。それは竜の鱗を繋げて作られている。


少女は男の顔の前でひらひら揺らした。


「この契約に署名したら好きにしていいよ署名の仕方わかるでしょ。でも読める?」


少女は男の目を見つめた。


「読めたらすごかったよ。内容簡単に言えば、胸の骨譲渡してくださいって話」


赤毛の男は少女の顔へ唾を吐いた。


その唾が吐かれる前に、少女は横によける。


「あーそんな顔しちゃうんだ。もとは賜りものでしょ?なんで自分のものだと思ってんの?」


少女は男の背後へ回った。


「今からするの関係ない話だけどさ、わたしの首絞めたよね?普通の女の子だったから首折れて死んでたよ?どうすんの?人殺しだよ?それでいてよくも」


少女は男の声を真似る。


「帰ろうーとか言えるよね。死体に言うつもりだった?今までもそんなことしてたの?そうじゃなかったとしても、きっとかわいい子誰か死体にしてたよね」


少女は男の、背中の古傷を短剣で切り開いた。


凍える夜の風が、傷を突き刺す。


「はいこれでおあいこ」


少女は男の正面に立つ。


「もっかい聞くよ。契約に署名して」


少女は男へ竜の鱗を突きつけた。


「3」


男の目に映る少女は、人の形をしていなかった。


「2」


人の皮を被った、灰。


「1」


その時、男を囲んでいた蠅が破け、中から金属片が散った。


捕縛を跳ねのけた男。そのまま、少女の顔目掛けて突くように蹴る。


少女はそれよりも早く、すでに一歩下がっていた。


小さな手が、砂時計を握りしめる。


時が止まり、今動き出したかのようだった。


「はあ………もういい」


男は地面に叩きつけられていた。


体は巨大なかかとですり潰されたようになっている。


「その目、やめて」


少女は鞄から小瓶を取り出し、蓋を開けてしゃがみこむ。


「あのさ」


少女は再び、男の声を真似る。


「“生まれたそのときから弱さを運命づけられてたら”とか言ってたよね?なんで?それでなんでこんなことできんの?なんで?灰だとか人間だとか弱く生まれた強く生まれたとか、選んでそうなったの?なんなの?」


薄緑の目は、同じ色で少女を睨んでいる。


「酷いことされたけど契約は守る。死んでも一緒なんでしょ?」


その目は、人の姿が映っていない。


人の皮を被った、埃。


「ちっ」


舌打ち。


男の底冷えした目に小瓶の中身を掛けようとしたとき、動きを止める。


何もないところへ振り向いた。


じっと何もないところを見つめている。


その碧灰の目は何もないものを見ている。


目の形をしているだけで、目の機能を持っていない。


少女は立ち上がった。








「じろじろ見ないでくれる?」








そうではない。


こちらを見ていた。


「どうせ悪者てきはわたしでしょ」


急ぎ手記を










































































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