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第45話 夜

イシュの都。


貴い血が住まうところ、赤い血の民が住まうところ、持たざる貧しき民が住まうところ。


教会では、人々がところ狭しと殺到、押し合ってひしめき、その人々を囲むように、神官たちが長い鉄棒を構えていた。


一様に、みな、蝋燭の灯火すら消し、息をひそめている。


それぞれが握るのは、片手棒、ほうき、壊れかけよれよれの靴。


ぴたり風が止まった後、すぐに窓、扉が凍える風でがたがたと音を鳴らした。


それは夜の合図。


真っ暗な部屋、隙間風が収束し、熱となる。


きりきり、きりきり。


そこから、手のひら程度の黒い肉塊が現れた。


寝台の上。棚の下。革椅子の上、机の下、石床の上、丸椅子の下。


きりきり、きりきり。


小さい体すべてが顎であるかのように大口を開ける肉塊。


真っ暗闇に、真っ青に光る口浮かび上がる。


きりきり、きりきり。


それらは鉄の棒、ほうき、よれた靴で叩き潰された。


肉塊の夜泣きと、人の悲鳴が重なる。


時々大きな牙のような角もしくは棘を持つ肉塊が現れた。


きりきり、きりきり。


それはその時までじっと口を閉じている。


人が振り返ったとき、その顔へ肉塊は飛び込んだ。


きりきり、きりきり。


大きなまりょくを残している者は、自らの存在と小さい存在の気配の高低で気づく。


並みのまりょくを残している者は、かろうじて気づく。


小さいまりょくしか残らなかった者は、自らと同じ小さな平坦な気配に気づけない。


鉄の棒が叩き潰す。ほうきが叩き潰す。


よれた靴は、夜での役目を果たせなかった。


きりきり、きりきり。


貧しき民の顔に肉塊の角が突き刺さる。


周りが見えなくなった。


慌てふためく。足がもつれる。倒れる。噛まれる。かじられる。


きりきり、きりきり。


そこから黒いしみが拡がる。


その者は叩き出される。


扉を開けた隙間風は大きくなり部屋の肉塊が増える。


追い出された者は、走り、もしくは噛みちぎられ、もしくは深く噛まれる。


体の黒いしみは広がり脂のようにやわらかくなる。


倒れる。


噛まれる噛まれる噛まれる。


真っ黒になった体は肉塊となり人型のようにうごめき出し新たな命となる。


きりきり、きりきり。きりきり、きりきり。


または、あらゆる生命の一部が生え、膨張で押しのけられた顔がときどき残り、新たな命となる。


きりきり、きりきり。きりきり、きりきり。きりきり、きりきり。


夜。それは命が芽吹くとき。


きりきり、きりきり。

きりきり、きりきり。きりきり、きりきり。

きりきり、きりきり。

きりきり、きりきり。きりきり、きりきり。きりきり、きりきり。

きりきり、きりきり。

きりきり、きりきり。

きりきり、きりきり。

きりきり、きりきり。きりきり、きりきり。

きりきり、きりきり。

きりきり、きりきり。きりきり、きりきり。

きりきり、きりきり。

きりきり、きりきり。

きりきり、きりきり。きりきり、きりきり。きりきり、きりきり。きりきり、きりきり。


灰の月が御力を降り注ぎ、その灰色ので命を見守る。





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