第 話 別れたように見えていた道
イシュの都、主道へ繋がる、細い副道。
その道幅は、人が3人並んで歩ける程度で、4階建ての建物が連なる。
そこで、琥珀の少女は足早に赤毛の男を追いかけていた。
声を出せば届く距離にあるその背中は、遠い。
首飾りを握るように、少女の胸元には固く結ばれた拳がある。
夕日を見上げて歩いている、赤毛の男。その薄緑の目は冷たい色をしていた。
少女の眉尻は下がり、くしゃくしゃになった眉間と、くしゃくしゃになった鼻筋の周り。
小さく赤い唇は、声を出そうとするかのように、何度も開いて、唇を巻いて、噛み潰す。
東から吹く夜の凍える風が、ぎゅっと少女を縮こませた。琥珀色の髪が、凍てつく風で乱れる。
怯えるような枯葉色の目は、上目でずっとその背中を追いかけ、右へ、左へとさまよった。
副道の細道、そこから大きな主道が見えてくる。
少女はそれを見て、より強く、胸元の拳が固くなった。
風が少女の髪を乱す。
赤毛の男の、その淡々とした足音。一度大きな道に出てしまえばそのまま二度と振り返らないような気配があった。
足取りが重くなる少女。置いていかれるように、ふたりの距離は離れる。
小さく赤い口、その下唇を強く噛んだ。
胸元の拳を解き、少女は手を降ろす。
風が強く吹き付けた。その中に、あたたかな一筋の風が混じる。凍えに鳥肌立つ少女のうなじを、なだめるようにそのあたたかな一筋が撫でつける。
上空後ろから近づく気配。それは義手の男。建物を大きく跳び超えて移動していた。
跳び上がるとき、手のひらから力が放出される。その熱が、夜の凍える風に混じった。
ふたりを跳び越えた義手の男。背中で振り返らず、首だけで後ろへ視線を向ける。
ゆっくりと流れ出す時間。
その蜜色の目には、淡白な薄緑の目と、震える枯葉色の目が映っていた。
薄緑の目と、枯葉色の目には、温かな蜜色の目が、映り込んだ。
ふたりの足が止まる。
大通り向こうの建物に着地した義手の男は、そのまま左、西へと跳んで行った。
温かい色の、枯葉色の目。
少女は噛んでいた唇を放した。
「忘れものだよ……これ」
少女は鞄から、赤毛の男が落とした長布を取り出した。
そっと前へ差し出す。風で前へとたなびいた。
「……ちゃんと自分の手で返してよね」
背骨を捩じって振り返る赤毛の男。
淡白で温か、温い色へと変じた薄緑の目。
捩じれを戻して、少女を正面に前を向く。
「……ああ」
赤毛の男は歩み寄り、少女の手元へ手を伸ばしかけ、一度止まる。
凍える風が強く吹き、その忘れ物がたなびいた。吸い寄せられたようにそれが、男の大きな手へと吹き上がる。
それは大きな手に触れ、巻き取るように掴まれた。




