第 話
灰色の王宮。
琥珀の少女は、ひまわりの葉と茎で固く閉ざされた、大扉の前に立っている。
肩に掛けた鞄から、深い青の血を思わせる外套を取り出した少女。それを石床へ広げる。
すると、人の形に膨らんだように立ち上がり、鋭い目の男が現れた。
ひまわりの蔓に覆われた扉へと触れる寸前、鋭い目の男は手を止め、口を開く。
「もう下がって良い。ここから先はお前に関係がない」
うつむいている少女は、右手の小さな固い拳を、左手で包み込むように握り、胸に当てている。
「何を考えている。できることは何もないが」
少女は、口を開いては、閉じてを繰り返す。
鋭い目の男は背中を向けたまま、口を開いた。
「……では仕事を与える。愛《ɡʁãn》しい大鳥《 ˈaːvɛ》の様子を見てこい。そろそろ(我が)騎士団が見えてくるころだ。扱いに心得がないとは思えないが、お前がいれば余計な考え事がひとつ減る」
日本語であれば、"が"の強調、と表すことができる、鋭い目の男のくどい訛り。
少女は黙ったまま。
「なんだ?笛を失くしたか」
それは、頭の中をかき混ぜるがごとく不快な音色の笛。
鋭い目の男は、ついに振り返る。
まるで、時が止まっていたかのようだった。
前触れなく、少女はすでに、鋭い目の男、その腹へと短剣を刺していた。
男は眠るように、まぶたを閉じて倒れる。
倒れると同時に引き抜かれた短剣、そこから、眠気を誘う甘い麻痺の香りが漂う。
周囲を見回す少女。
何もないはずの場所をじっと見つめた後、眠る男の懐を漁る。
男から離れた少女、その手には、鍵が握られていた。
男の腹の傷へと差し込む。
すると、男はみるみるうちに、肉が千切れる音、骨が折れる音を立てながら小さくなり、四角い錠前へと変じた。
その鍵が刺さったままの、青い肉の塊のような錠前。
再び何もないもないはずの場所をじっと見つめた後、口を開き、聞こえるように声を出す。
「こんなの刺すつもりだったとか」
入り口をふさぐ灰色の蔓。それが、大きく透明な手に開かれたように開けた。
埃の綿が詰まっているような境界線が現れる。
肩に掛けた鞄から、鉄板と、石を取り出した。石を床に置き、短剣の刃で叩くと透明な火が付く。
小さな両手で鉄板持ったまま、その透明な火へ手首から先をくべた。
数秒後、少女は熱くなった鉄板を胸の内衣嚢へと差し込む。
少女は体を埋めるように、深く一歩踏み込んだ。




