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第37話 一輪のひまわり : 1

たん。たん。たん。たん。たん。たん。たん。たん。


たんたん。たんたん。たんたん。たんたん。たんたん。


手足すら見えない夜の真っ暗闇を歩く。


たん。たん。たん。たん。たん。たん。たん。たん。


たんたん。たんたん。たんたん。たんたん。たんたん。


次第に昼のあたたかさが消え、夜の凍えが押し寄せてくる。


たん。たん。たん。たん。たん。たん。たん。たん。


たんたん。たんたん。たんたん。たんたん。たんたん。


足元で埃が舞う。


たん。たん。たん。たん。たん。たん。たん。たん。


たんたん。たんたん。たんたん。たんたん。たんたん。


一筋の月明かりが、遠く、細く降り注いでいた。


たん。たん。たん。たん。たん。たん。たん。たん。


たんたん。たんたん。たんたん。たんたん。たんたん。


照らされているのは、蜜蜂ですら乗るだけで折れるほどの小さな灰色の花。


たん。たん。たん。たん。たん。たん。たん。たん。


たんたん。たんたん。たんたん。たんたん。たんたん。


一輪咲いている。


それは、まさしくひまわりだった。


たん。たん。たん。たん。たん。たん。たん。たん。


たんたん。たんたん。たんたん。たんたん。たんたん。


踏みつぶせるまで、その花に近づけた。


一輪とは、太陽と、月を言う言葉。


花言葉は太陽あなただけをみつめる。


義手が、その花を握り潰した。


それは終わりの始まり。


暗闇が晴れ、まばゆい灰色の光が上からすべてを照らす。


灰色に包まれた、新たな小さき天地。


巨人が両腕で抱えて運んだような、六角形の、敷き詰められた石床。


大空と見紛う灰色の天井。そこから、17本の巨大なひまわりが真上で垂れ下がった。


その数のひまわりが示す花言葉、それは絶望の愛。


太陽を見上げるひまわりが、月のように光を降り注ぐ。


「ロス後ろ来い」


並んでいたふたり。義手の男が赤毛の男の前へ出る。


「ん?!」


義手が鏡のようにきらめく。


直後、ひまわりから放たれた一直線の極光が、ふたりを飲み込んだ。


しかし、義手を境目にそれは途切れている。


赤毛の男は、その誇らしい大きな背中越しへ、剥き出しの笑みを向けた。


極光はすぐにおさまる。


「おいおいおいおいおいおいおいおい」


王冠を思わせる太い光輪が17の束、その花びらを囲んだ。


そこに収束するまりょくは、実在だけであらゆるものを押しつぶす。


ふたりは体勢を低くして足腰に力を入れる。ふくらはぎまで、脚が石床へめり込んだ。


「おいこれもいけんのか」


「無理だな」


光が増すとともに、ますます圧迫が強くなる。


ふたりは顔を背けて、扉のように前腕をかざした。


極まった気配の増大に、後頭部を強く打つ勢いで背中から押しつぶされる。


耳をつんざく音と共に、光輪が弾けた。


視界が真っ白になり、高熱が肌を焼く。


「うおおおおおおおお!」


手甲の棒線が消えた気配。あとは、己の力のみ。


皮膚爛れないように。

きしみを上げる骨が裂けないように。

まりょくの循環量をうなり上げて爆増させる。


「ああくっそ痛ってぇ!」


光収まれば、一時的な失明の暗さに襲われる。


視界を除いた六感駆使して、距離を取るように走り出した。


石床から、ひまわりの尖った太い蔓が三つ飛び出す。


「おらああああ!」


赤毛の男は、感じられない気配に耳を澄ます。背後に右足の蹴り、左足の蹴りで上を突く。


膝が逆方向へと曲がりかねない痛み。


暗い視界、左右から、逸れた蔓ふたつの石床砕く音。


義手の男は、3つめの蔓へ手をかざす。義手は紫にきらめき、熱線を放った。


燃える紙のようにしおれる蔓。しかし黒焦げはせず、もとの灰色のまま。


ふたりの暗い視界が晴れてきた。


「お前の腕!たまわりものだったのか!?」


「ああ」


義手の男は左腕、肘から先を取り外して赤毛の男へ投げつける。


なくなった腕から、細い金属の骨格が伸びた。それは透けた外骨格だが腕の再現をする。


「使え!」


冷や汗で濡れる大きな手が赤毛をかきあげる。


「どう?!」


「vjoʁɑstɑ(ヴィオラスタ)様に祈れ!金属敬う感じ!」


「よくわかんねぇけどよおおおおおお!」


再び、ふたりの走る方向へ蔓3本飛び出した。


義手の男は細い紫の熱線を横なぎにし、一本切り取る。


橙色へと変じている、赤毛被さる目は、叩いても反応しない義手を見ていた。


「動かねぇぇぇよ!」


「とにかく祈れ!まりょく納めるつもりで!」


心の中、どこかへ何か通じたような感覚を得た。


すると、持っていた義手が紫の光を帯びる。


その手を握り、迫る2本の蔓をなぐった。


「おらぁぁぁ!」


萎えていく蔓。しかしその重さは、腕の関節へ痛みを蓄積させる。


「腕ひん曲がりそうだぁぁぁ」


風よりも早く、地面から鋭い蔓3本赤毛の頭へ飛び出してきた。


それぞれ顔、胸、背中。


義手を振るい、胸と背中を狙う蔓を弾く。顔を狙う蔓は、肘をぶつけた。


ひび割れたかのような痛み走る。


逸れた蔓は地面へと潜った。


すぐに足元へ義手を払う。


直後、飛び出した蔓が弾かれた。


「いってぇぇぇぇ!」


耳をつんざく轟音。それが意味するのは、ひまわりの束に、王冠状の光輪が収束すること。


ひまわり本体から伸びた蔓が、石床を砕き、大きながれきをすくい上げた。


「埒あかん!」


空中舞う義手の男は、空のひまわりへ斜めに右手をかざす。


腕の、ぎっちり詰まるほど折りたたまれていた金属板の仕掛けが回転しながら拡がり、巨大化、蜘蛛の脚のように突起が大きく八つ展開。


体よりもはるかに大きい熱線が照射された。


地面に叩きつけられるほどの反動と威力、背中がぶつかることをいとわず、左手で制御する。


しかし、蔓が掴んでいたがれきに、いともたやすく防がれた。がれきの形に沿って、紫の光が分裂する。


その分裂した光が、花弁をわずかにかすった。そこがさらさらと埃のように散る。


「だめじゃねぇか!」


収束していた光輪、その輪が地平線まで呑み込むように弾けた。


目と肌を焼く閃光、爆風。


ふたりは再び循環量を上げ、その衝撃に耐える。


回転する木の棒のように、きりもみしながら吹き飛んだ。


遠のいていくひまわり。


ただ浪費しているまりょく


赤毛の男は歯をくいしばる。


「ぶち抜くぞとりま一本」


「ああ[短期火力集中だな]」


目を閉じ、循環量をさらに高めるふたり。


義手の仕掛けは組み変わり、赤毛被さる目は赤色へと変じる。


閉じられた目。


「すぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」


埃が舞う。


「ふぅ~~~~~~~~」


肺から出し切った息。


赤と蜜の虹彩。目が開かれた。


ひまわりへ一直線、割れるほど石床を蹴る。


音の壁を突き破った。すでに目の前は、17のひまわりのうちひとつ。


伸びてきた蔓の束17本。


それを切り飛ばすように、赤毛の男は斜めに鋭く蹴り上げる。


弾けた鎖のように重々しく吹き飛んだ。


跳ぶ勢い殺さず回って、ひまわりの平たい管状花中央を右足で突き飛ばした。一本、首がもげるように束からはぐれる。


直後、義手がその花弁の根元、がくを、拡張された腕の仕掛けで掴んだ。


その手から溢れる紫のきらめき。


閃光一直線。


厚い埃舞い上がった。


強烈な反動に男は斜め後ろへ遠く吹き飛ぶ。そしてひまわりは、がくから先の部位が散った。人体の断面のようなものがあらわになり、はな中央の種がばらまかれた


ここまでわずか数秒。


吐いた息を吸い込む。


「げほっげほっ」


宙に浮いている赤毛の男へ迫る大蔓。


16本のその蔓が赤毛めがけ、鞭のように降り下ろされる。


まばたきが終わるよりも速く、石床へ叩き落とされた。


肺の空気が背中打った衝撃で全て吐き出され、呼吸ができなくなる。


「がっ」


はるか遠く、そこから大蔓狙って手をかざす義手の男。


16の蔓が風よりも速く、槍のように赤毛目掛け落ちてくる。


義手の拡張された腕、八つの突起、威力を落し、偏差に注視して放たれた。


蔓がぴたりと動きを止める。


その下、紫の熱線が通り過ぎた。


焦りに目の色を変えるふたり。赤毛の男は、空っぽでへこんだ肺と、体に蓄積している負傷によって、ちからが出せず、腕も脚も咄嗟に動かない。そして叩き落とされて一秒未満。


だが循環量は上げられる。


全身全霊で力む。


蔓が突き立った。


そこは、目、鼻、口、喉、その他あらゆる急所。


わずかに刺さったが弾き返した。


義手から再び熱線が放たれる。


その時にはすでに、蔓は上空へ引っ込んでいった。


赤毛の男のもとへ駆けつける義手の男。


杭矢の手当て残る腕が斜め上へと伸ばされ、義手がそれをしっかり掴む。


風に並ぶ速さで、ふたりはひまわりから距離を取った。


すぐに倒れ込む赤毛の男。肩で息をする義手の男。


「おれ巻き込むなよ」


「聖別された力だ心配いらん(人体と創造物ならば)」


髪をぐしゃぐしゃに散らして、頭を掻く赤毛の男。


「てかどうすんだよ。あと16回繰り返すとかそんな次元じゃなくて、死ぬぞこれ」


蜜色の目が、ある異変を捉える。


一本吹き飛ばした時、一緒に飛散した種が芽吹いていた。


空の蔓と地面から生えてくる蔓に比べて細いが、こちらへ着実に近づいてきている。


ふたりの胸中、それは蟻地獄の中。

地下と天井へと無限に伸びる壁に囲われているような閉塞感が去来していた。


休ませる暇はないとばかりに、蔓は近づいてくる。


「気合い出してこうぜぇぇぇ!」


唇からの息でふわりとする赤毛。

手のひらに拳をぶつける金属の音。


石床に突き刺さるほどの、鋭い脚力でひまわりの真下へ。


義手の平から力を噴出させて、ひまわりと赤毛の間を滞空。迫る細い蔓を紫の光、聖別の力で焼き尽くし、すぐに手のひら上へ向けて16本の蔓を牽制。


赤毛の周囲、3本の太い蔓が石床を割り、急所を狙って槍のように飛んできた。


まばたきするよりも速い、人間の知覚を超えた速度。


しかしすでに体を逸らし、ひとつの蔓を蹴り飛ばしていた。


その威力に風の刃が吹き、石床に切れ込みが走る。


左回し蹴りの勢い殺さず、右の脚でもうひとつも蹴り飛ばした。


その威力に、風が爆発音を響かせる。


すでに躱した、残る一本。赤毛の男は指を食い込ませるつもりで掴みかかった。


義手の男はその場で急降下。


赤毛の男へ渡した義手を掴み、体の皮膚が慣性で置いていかれそうな加速度で横へ離脱する。


すると、16本のひまわりのうち、ひとつが、進んだ分だけ短くなった。


「いけるぞおおおおおお!」


肘と肩が外れそうな痛みに、歯をくいしばる赤毛の男。


熱を持った義手の腕、肌が焦げ付く、その臭いを噛み締め、男はより出力を高める。


「こらえろぇぇぇぇぇぇ!」


蔓を引っ張り始めてから5秒。


赤毛被さる赤色の目が、焦燥に濁った。


蜜色の目、同じ色。


16の蔓が、音速の壁を越えてまっすぐ伸びてきた。


“ちょっと痛いぞ”


同時に、義手の金属が赤毛の男の体を侵食し、もうひとつの義手が生成、6つの突起を伸ばして背中から生える。


痛みをこらえるあまり、奥歯に小さなひび走った。


16のうち2の蔓が石床を弾き、がれきを飛ばす。これでは、聖別の力は届かず防がれる。


背中から生えた、紫の光帯びる義手。そこから、ただのまりょくによる熱線放出。


がれきは消し飛ぶ。直後、聖別の力が蔓へ向かって放たれた。


4本の蔓が盾のように広がり、残りの10本は泳ぐたこの脚のように引っ込む。


その4本の蔓が埃のように崩れていったとき、ひまわりのひとつが大きく沈み、ふたりの引っ張っていた蔓がすっぽりと抜けた。


「抜けぇぇぇぇぇぇ!」


熱線の反動で熱くなった背中に生えた義手がぱらぱらと、飛ぶ勢いに吹き飛び、そして石床からひまわりの花弁出るまで引きずる。


遠くから見れば、それは大木が地を滑るがごとき。


ぽんっと石床からひまわりの花弁が現れた。


そこ目掛け、義手の男は手をかざす。


赤毛の男は音速超えて迫る10の蔓へ、跳び上がった。


蹴とばす。


蹴った反動で移動し続け、全ての蔓を蹴とばす。4回、落雷を思わせる空気の破裂音。大蔓は暴れるように弾け飛んだ。


8つの突起が伸びる腕から照射。ひまわりの花はその種ごと焼き尽くされた。人体のような断面から埃っぽい煙が上がる。


16本目が消えると同時、勢いよく広がる埃。


「げほっげほげほ」


せき込む音。


ひまわりが小さく見えるほど距離を取るふたり。


「燃費悪すぎだろ……」


焦げ付く臭いを放つ義手の男。


脚衣の下、真っ赤に腫れ、擦り傷で青い血うすらにじむ赤毛の男。


ふたりの気配は、最初のそれよりも半分小さくなっていた。


尻を掻きながら、頭を掻く義手の男。


「おい……してたんじゃないか」


「んだよ………できるわけねぇだろ」


その時。


15のひまわり、その花弁がすべてふたりに向いた。目と目が合う錯覚。


巨大な光輪が収束、その圧倒的力まりょくの膨大さに、気圧差のごとき気配の突風が吹く。


服の袖が激しくたなびいた。


「腹ぁっ立つなぁもう!」


大空と大地が震動。


暗く鈍る目の色。


埃が舞う。


「げぼっげほ」


薄皮ささくれるように焦げた肩から出る臭いに、埃加わり咳が強まる。


「げほげほ」


咳のたび、全身痛み走ったように、赤毛被さる眉間が強く皺寄せられる。


「げほげほっげほ」


「げほ……げほ」


歯を食いしばるが、その隙間から絶えず咳が漏れる。


「がはっげほげほっげほ」


“いきぐるしい“


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