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第31話 硝子の裂開:運命の劈開



琥珀の少女、赤毛の男、義手の男は新たに増えた担当区域を徴収して回りながら、それぞれ王宮へと向かう。


赤毛の男は、その王宮近くの区域、石造りの高層建築群へと足を運んでいた。


ここは、王の官僚のための居住区。


今日のために、各領地へ配属された者が帰ってきている。





「徴収に来た。ロスアリグ」


寝台と、その隣に家具、その上に蝋燭台、離れに机、その上に書物、没食子いんく、紙の束。押印。


「ご苦労様です」


机で筆を走らせる、首飾りを服の下に隠した青年は、出入口に立つ赤毛の男へ、できる限り体を向けて口を開いた。


「ああ」


「ちょっとお話でもと思ったのですが………あまり(教会語は)得意ではなさそうですね」


青年は目を閉じて寝台へ横たわった。


「さあどうぞ」


赤毛の男は、鎚を振り上げ、下すという複雑な表情をする。


「…………おや?疑問があると(動き)鈍くなる種類のお方ですか」


赤毛の男は拙い教会語をもつれる舌で回す。


「なんで?」


青年はため息交じりの笑みをこぼす。


「ところで(あなたは)………どちら側の人ですか」


片眉を吊り上げる男。


「共和派の人ですか」


薄緑の目は静か。


「教会の人ですか」


まばたき。


「太陽の御子ですか」


まばたき。


「全ての人のための、人ですか」


赤毛の男は最後の言葉に力強く、頷く。


それを受け止めたように、青年は目を開く。それは碧色だった。


「誰もこの話、聞いてくれないので、ちょっとだけいいですか……立場上、あなたのような方にしか言えないものでして……」


顎をやる赤毛の男。


「その固いお顔を見るに……陛下のご容態について聞き及んでいるようですね……ちなみにご子息はいらっしゃいませんよ。つまり、イシュという国は先月で滅んでいます」


眉間の皺はさらに深まり、鎚を握る手がより緩んだ。


赤毛の男は黙って相槌を打つ。


「イシュは割れた硝子のように分裂しています。共和派勢力が国をまとめてくれるでしょうが……同じ派閥でも主にふたつに分かれています。一方はご存じの通り、そしてもう一方は国外勢力です」


筋骨隆々な老人の、枯れ葉色の目と、塀上にいた、りんご色の目をした弓兵が思い出される。


「個人的に頑張ってほしいのがカルプラクト家を筆頭とした王政派です。しかし……最も現実的でないのもこちら。………神授の証を、血縁でないものが継承する、という前代未聞の試みをしなければならない」


かの貴き青い血の、決意に満ちた悲痛な顔が思い浮かぶ。


「仄暗い噂が多いにも関わらず最も中立的なのが教会派。おそらく何人かはもう王宮に潜んでいるでしょう」


青年の碧眼がきらめく。


「私にも力があれば、信じるもののために闘えたのですが……それに及ばず。そこであなた方にお願いです」


目を閉じて息を整える青年。


閉じられたまぶたは、くしゃくしゃになっている。


「誰よりも早く陛下を、あなた方が討ち取ってください」


開かれた瞳は、ただただまっすぐ。


「討伐に届いた者が、治世の行方を握ります。そしてその恩恵は握ったものだけにしか降り注ぎません。誰もが、世界の反対側にいる人のことを気にしないように」


その碧い瞳の視線を受け止める、薄緑の目。


「あなたの属性は流浪の民です。ですがそれを無視して、オーロア様へ捧げる、と、陛下を討ち取った時に宣言してください」


赤毛の男には、それが何を意味するのかを理解する程度の知識があった。


「そうすることで、特定の誰かではなく、全てのあらゆる人が全ての恩恵を授かることができます」


再び、心の中で言葉が思い浮かぶ。


『人類みな兄弟』


赤毛の男を立派な流浪の民へと導いた義父、その信念。


「お前………」


薄緑の目が、青年の目を凝視する。


青年の碧眼、それがひび割れていることに気づいた。


「…………どうかしましたか」


赤毛の男は己の目を指して、それを指摘する。


「…………?え!?ああ………」


青年は落ち着かない様子で、にやにやとする唇を指でつまんで引っ張る。


「私にはいろいろこの先のことが見えています。この立場にいるのも、この力のおかげ。でもそんな運命の力を知られてしまえば太陽と多くの人に見放されてしまいます。まさに、この目を持って、お天道様のもとに生まれたことが恨めしい」


青年は人差し指で頬を叩くと、おちゃめさ、とでも呼ぶべき表情を作る。


「力は使い方。その源がどのようなものであれ、使い方そのものが、その在り方を決定する」


青年の目は、男の胸骨を見ている。


薄緑の目は、疑問符を浮かべて宙をさまよった。


「いつかわかりますよ。とまあ(あなたの)おかげで元気がでてきました。いいことを教えてあげましょう」


青年は首飾りを取り出す。それは、運命たいよう石。硝子と異なり、必ず同じ形に割れる、劈開へきかいという特性を持つ。その性質の方向を表すように、石は三角を思わせる紋様があった。


「さては招待状をお持ちですね?持ってるんでしょう?誰かから受け取りませんでしたか」


筋骨隆々の老人が想起される。


「最短になるよう書き換えておきますよ」


いかめしい顔をする赤毛の男。懐から布切れを取り出し、青年へゆっくりと手渡す。


青年は寝台隣の家具から筆を執り、さらさらと何かを書く。書かれたものは、すぅっと消えていった。


「そこに行けば、彼女が何者なのか知ることができるでしょう。では、頼みましたよ」


仰向けに横たわった青年。


「おいどういうことか説明しろ」


すでに青年は寝息を立てていた。


赤毛の男は青年の頬を優しく叩く。


寝息の音。


目元をばしばし叩く。


寝息の音。


額をびたびたと叩く。


寝息の音。


熱気のこもった、苛立ちのため息。


「はあぁ~~~~」


首がもげるほど、激しくびんたをする。


寝息の音。


目覚める気配はない。


「くそ。わけわからん」


赤毛の男はその腹へ、鎚を静かに触れさせた。



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