第18話 法の塔:統制
義手の男は口をへの字に曲げるような難しい顔で尻を掻く。その隣、流浪の民の長は鼻先を強く指で挟む。そしてもうひとり。
法の塔最下階。地下へも伸びた塔の端。
塔を貫くようにある、術陣刻まれた金属の柱。それを睨んで彼らはうなる。
「欠けてますね」
三人の内ひとり、胴体ほどある本を両腕で抱える、黒髪にくたびれた白髪混じりの男はかちかちと歯を鳴らす。
義手の男は尻を叩いた。
「ナーシェの知り合いか」
本を抱えた男は術陣から目を離さずに首をかしげる。
「ナーシェ?」
男の傾いた首はまっすぐになる。
「ああそうです」
長は威圧するように、男の肩へ手を置いた。その手に血筋が浮かぶ。
「いつからいる。勝手をするな」
本抱えた男は術陣辿るように目線を下す。
「いろいろあったんです。すみません」
男はゆったりとした長袖をめくって手の甲をみせる。そこに一本だけ、黒い棒が残っていた。
「名前は」
「アムネスです」
「知らんな」
「忘れてしまったのですか。胸がずきずき痛みます」
長は手を離し、肩に掛けた鞄から大きな巻紙を取り出す。その帳簿に目を通し、視線が止まる。アムネスという名があった。
長は鞄へ帳簿をしまい、腕を組む。
「お前、担当区域はどうした」
本抱く男は得意げな笑みを浮かべる。
「こういう術陣って鍵かかってるじゃないですか」
長は湯気立つようなため息を吐く。
「あ……つまり、我々を違法な手で叩いてくるやからにしっぺ返しできるということです」
男は振り返ってにたりと笑む。その黄色い目が嗜虐的に細まった。
「ここはまかせてください」
「質問に答えろ。担当区域はどうした」
ぴりぴりと乾くように、その唇の動きが鈍くなる。
目だけで押し潰すように、長は組んだ腕をより固くした。
交錯する、黄色の目と、黒い目。
怒りを鎮めるように矢継ぎ早に言葉がつらつら続けられた。
「あっと実はほっぽり出してここ来ちゃいましたというのもですねワズラル当主の気配がしたんですよ」
「こっち来い」
長の声は小さいが、暴力的な気配があった。
乾いた唇が裂けるほどの、早口。
「この事態まかせてくださいこれ持ってるの(今イシュにいる全勢力を含めて)僕だけです」
長をおしのけるように分厚い本が差し出された。それは法を作るためのもの。持つことが許された者は限られている。
長は苛立つように腕組みを解いた。
「法の塔に干渉する許可を与える。まったく」
長は義手の男へ視線を送り、蜜色目が頷くようにまたたく。
ふたりは螺旋階段を登り始めた。
しばらく。
日差しの強い空の下に出た。丸い広場の中央。
長は立ち上る黒い煙に目を細める。
「あそこ………ロスアリグがいたか。行ってこい」




