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第16話 井戸下会議



「義手ってすぐわかるじゃん。でも赤毛ってさ、いまいちわかりづらくね?」


「いやどっちもどっち。長袖とか手袋で隠してるかもしれんだろ」


イシュの井戸、底に掘られた長い横穴。


そこでは、灯火を持ち、息ひそめる太陽の信徒、その青年たち3人が膝を折って身をかがめていた。


暗闇に、彼らの碧眼が灯火の明かりに混じり合ってきらめく。


「死ぬほど腹痛い(からうんこしたい)[真剣に漏れそう]………」


口を開いたのは、綿詰めた布製の馬の頭を股間からはやした巻き毛の青年


「やめろよ。てかほんと邪魔だな!」


口を開いたのは、腰から偽の綿詰め脚伸ばし、イシュ王子の冠を帽子の形に模したものを被る、老け顔の青年。


「おならは……?」


口を開いたのは、馬の尻尾を革で模したものを尻の穴にあたる場所から垂れ下げた、虎耳の青年。


「やめろ」


「おしっこ」


「やめろ」


「うんち」


「やめろ」


「おならとおしっこ」


「いい加減にせい!」


「うんちぶりぶり」


「きっしょ!井戸だぞ犯罪的すぎる」


公共施設への排泄は犯罪だ。イシュでは、抜歯の刑があることを彼らは知っている。


「ひまだな~」


「ひますぎるな~」


「なんでそんな余裕なん……………緊張してきた。真面目におなかいたい」


「気持ちはわかる。これかられ!きし!的瞬!間に立ち会うんだからな!」


「区切り方と訛りきしょいな~」


「はぁ~!まじ抱き放題」


イシュが存在する国家周辺では、実際の出来事に基づく冒険譚、英雄譚などが娯楽としてよく話される。それらは詩人が実際に聴取を行い、詩の形として、何があり結果どうなったのかを形作られる。最後に関わった者の名前が全て歌詞として楽器に合わせて歌われる。強さと、異性からみる男性的な魅力はつねに紐づけられる。


「ひげちんこ野郎も死ぬし。まじやばいこの高揚感」


ひとり首をかしげる。


「死ぬ……って言い方あってんのか?専用の単語欲しいぜぇ」


「なんて言うんだろうな。埃被り灰被りなのに」


「どうでもいいてかまじあり得んくない?なんで?ここ以外(隠れる)場所あるだろ。宿とか。外国人非課税なんだからよぉぉぉ!」


「(そんなとこ)すぐみつかるだろ!ここ(は)隠れてるって考えもしねぇ」


「だからもっと別の場所あるだろ!ひげちんこの寝室とか!」


「じゃあほかの奴がそうなんじゃん?みんな井戸ってわけじゃないとか」


「……てかさ。正直どう思う?」


「何が」


「王様いらない運動[っていうかつまりまりょく税廃止]」


「ん~え~ま~もともと教会が埃臭かったからな~そのせいで王権神授の封建制だし」


「ん~でも(貴族同士)力の差あんまないせいで王様の言うこと聞かんし戦争けんかばっかされてもな」


「だからと言って中央集権化はちょっと……見過ごすには埃っぽいというか」


「は!まさかすべて俺たちを争わせるための灰色人形劇!?」


「陰謀論過ぎる」


早口でまくしたてられる。


「王様目線で考えてみようぜ。(夜の)へいの維持にまりょくたくさん食い始めて資源がかつかつなところ、言うこと聞かない貴族連中に絶対埃が混じってるに違いないでもそもそも教会の埃臭さから興った治世なのに教会に頼れば時代逆行」


「じゃあ貴族目線。王令はこっちの力削ぐようなもんばかりで忠誠誓わされてるっつっても搾取っぽい。乳首吸うみたいにな!」


「は?」


「……いや牛の乳搾りよ?えっと……まあなんていうかまあ、えーっと半分は取られ過ぎよな。力が半分だからってほかのも半分。いっぱい頑張れば頑張ってないやつよりいっぱい盗られる。」


「そんで(穀物とか特産品の)取れ高減ったっぽいって監査入ったら脱税まみれ。隣国に(粗悪品じゃないちゃんとした特産品の武具を)密輸までして完全に利敵行為。だけど国境だから下手に叩き潰して領地盗られんのもあかんし潰したあとの維持に時間割いてられない」


「ん~これは内紛不可避」


「(税が重くて)やっぱ(イシュの一族)皆殺しか王様も天誅されんことには贅沢できんわな」


「言葉が強いぞ~お~いげぇ~ふんげふん」


その時だった。


“すぅ~”


この狭い場において、もっとも恐ろしい気配が、行き止まり側から忍び寄り始めた。


ゆっくりと確実に、だがしかし瞬時に拡散していく。


虎耳の青年が、目玉を飛び出させるような勢いで嗚咽をした。


「くっっっっさおまえ!」


「おれじゃない!」


「いいだしっぺお前!おええぇなに食った」


シュールっぱいストレミング……」


突き飛ばされ、ごろんと倒れる音がする。


「あ?!」


「うそだろおまおえぇぇぇぇぇ!」


「おおえええええええ」


その時、井戸の壁貫いて生えた、灰色の根が伸びたように蠢いた。



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