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第14話 生き方



太陽教会、礼拝堂。


奥行きのある、空のように高い礼拝堂には横たわった人々。周囲を見回しながらそれらを見守る流浪の民たち。


横たわる者ら、イシュの民の中に、いくつか流浪の民が見られる。


目を閉じているその流浪の民らは、あるいは傷を受け、あるいは冷たくなっていた。


冷たい者の損傷した頭部は空っぽ、もしくは肩から横腹にかけて断裂、下顎を失っていた。


そして、一部、仰向けではなく伏せられている者がいる。共通の特徴は、背中に十字の、深い切れ込み、自然治癒で消えない傷跡があること。


息ある流浪の民を診ている者、ある地では医師、ある地では薬師、癒師、と呼ばれる、ヒトの体をよく知る民である。


その診る者は手首に、鉱石、骨を丸く削った数珠をいくつも重ねており、長方形の布を、体と両腕に垂れ下げたような長衣をまとっている。


「傷を早く、正しく治します」


その声は老いた女。


診る者は膝を折りたたみ、足の指先で立って重心を保ち、横たわる流浪の民へすり潰した薬草を傷口へ与えていた。


教会の正面、扉が開けられる音に、診る者は顔を上げ、手首の数珠を鳴らしながら腕を上げる。


「こちらです」


扉を開けた者はふたり。


診る者はじとりとその者らを凝視する。


流浪の民ふたりを肩に担いだ赤毛の男。流浪の民ひとり背負った琥珀の少女。


面長の顔、赤毛に被された薄緑の目は鋭く研ぎ澄まされている。琥珀の少女の浮かべる表情は柔らかく、その目の奥底は血生臭さで淀んでいる。


「(粘土の)蛇に噛まれた」


「なんの(蛇)?」


「ん?[言わねえと伝わらんわなこれは]あー粘土」


「粘土?いったいどのような(蛇か)?」


「んん?[力まりょくで作られたもんに決まってるだろ]あー毒があるかもしれん」


診る者の音立てる数珠に呼び寄せられた、赤毛の男と琥珀の少女。


担がれている流浪の民3人が、落とすように横たえられる。


診る者は目を閉じ、一人ずつ、両手で、包み込むように首へ触れた。


「よろしく」


一度どこかへ視線を合わせた赤毛の男と琥珀の少女は急ぐ脚で教会を出た。


「ヤーラ」


診る者は高らかに声を出す。


「はい!お呼びでしょうかばあさま」


横たわる人々の列、怪我負う者らのいる場からひとり立ち上がる。


その者は、診る者の長衣を、動きやすく短くしたような身なり。


診る者の、さらけ出した老いにがさつく髪と対照に、その成熟していない体の者は長布で丸く髪を隠している。


「来なさい」


「ただいま!」


呼ばれた者は横たわる者たちを跨がず注意を払って歩き、診る者の下へ駆けつけ両膝を曲げて跪く。


「何用でしょうか」


「やってみなさい」


髪隠す者は、己の細首の横を、人差し指の腹で掻く。


「………わかりました!」


髪隠す者は、息が弱い3人の首筋を両手で包み込んで触れ、服を剥ぎ、検める。


「見たかね」


髪隠す者は一度眉をひそめ、明るく目を開き、眉を上げる。


「ああええっと、あの(赤い髪の)人のことですよね」


診る者は遠くを見た。


「あのような方のおかげでわたしらは生きながらえているの、忘れてはいけないよ」


髪隠す者は剝いた服を戻しながら、眉下げて、笑う。


「(急に)どうなさったのですか」


「おまえ睨んでいただろう」


髪隠す者はへの字に口を歪めた。


「いや、そんなのしないですよ」


診る者は髪隠す者の唇を手で引っ張る。


「いらららら!ごれんらさい!」


「お方々にみつかっているんだから。嘘つきの舌は引っこ抜いて天日干しだね」


診る者は手を離す。髪隠す者は老いた女のその顔を見ると、目を伏せる。


そして横へ目を逸らした。


「ごめんなさい」


「心の中で繰り返しなさい。わたしたちはあのような強き方のおかげで今日の命がある」


髪隠す者は口を尖らせた。


「何だいその顔は」


診る者はその頬を、叩くように両手で挟み込む。


ぱちんと音が響いた。


「命を縮めるよ」


両手が離れた。


髪隠す者は叩かれた頬を片手でさすって目尻を下げた。


「気に入らなければ強くありなさい。己を貫くためにね。強くもないのに自分を通そうとしたら潰れて死ぬだけだよ」


「ばあさま………」


「ほら、さっさと診なさい」


口がきゅっとすぼめられた。運び込まれた3人へ髪隠す者は目を閉じ、触診を行う。


一呼吸、目を開けた。


「どうだったかい」


髪隠す者は頷く。


「はい。折れたあばらがくっつき始めてました」


髪隠す者は目を閉じて再び彼らの首筋に触れる。


「一晩寝ればもう大丈夫です」


「そうかい。たいしたもんだねぇ。同じ人なのか信じられないわい」


しかし老いに垂れたまぶたの奥、その瞳は憂いに曇っている。


髪隠す者は首をかしげた。


「どうかされましたか」


診る者は深く息を吐く。


「忙しくなるよ」


「イシュは暇だと聞いていたのですが……それにこんな丈夫だし」


「あたしらには関係ないよ」


まりょくが轟く。


診る者は壁越しに遠くを見つめた。





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