泣きそうになりました……注 泣いてません
俺のバカーーーー
なに、返事してるんだよっ!
否定をする為、慌てて声を出そうとした……が、俺達のやり取りを静観していた、ジェスターとミカエルのニヤニヤした顔を目の端がとらえ、ゾクッとする。
あれは、そう。
悪魔が楽しく悪巧みをしている顔だ。
あんなに怒っていたのが嘘のように、2人はニコニコと楽しげな様子でクラリスに話しかけた。
「婚約破棄に協力するよ」
「もちろん、僕も」
「ありがとうございます。2人とも! アルベルト様、2人が協力してくれるなら心強いですわね!」
クラリスは、ぱぁぁと顔を明るくし、俺に向かって無邪気に「良かったですね!」と笑い、俺は目の前が真っ暗になった。
心強い……ああ、2人は全身全霊をかけ、協力してくれるよ……
「いや……そんな、2人に迷惑かけるわけには……」
予想外の展開に呆然とし、言葉をなくしていたが、これではいかん、とささやかな抵抗を試みる。ささやかだけどな!
「いやいや、義姉さまの婚約。義弟の僕としても無関係ではないからね」
「僕だって、大切な友人2人が意に染まない結婚をするなんて、心が痛む」
俺に満面の笑みをむけるジェスターとミカエル。その目には強い意志が読み取れる。
『お前の思い通りにはさせない』
と。
ささやかな抵抗は、即、消し飛ばされた……
クラリスは俺達のやり取りを微笑ましく眺めては「男の友情ねー」なんて、とんちんかんな事を嬉しそうにつぶやく。
「喧嘩中だったというのに、やはり、親友同士。困っている時は助けてくれるなんて、ジェスター様もミカエルも頼りになりますわぁ」
「いやいや、当たり前の事だよ。義姉さま」
「僕らは親友だしね」
クラリスに優しく微笑みかけるミカエルに、早速、頭の中で婚約破棄の策を練っている様子のジェスター。
なにが当たり前だよっ! なにが親友だよっ!
3人で話を進めるなぁぁ!!
ちくしょー
反撃の言葉を思案していると、クラリスは屈託ない顔で、とどめの一撃を放った。
「アルベルト様、2人はいつでもアルベルト様の味方でいてくれますよ。アルベルト様も大船に乗ったつもりでご安心ください! 必ずや、婚約破棄を勝ち取ってみせますわ!」
「任せろ。アルベルト」
「安心してね。アルベルト」
「お、おう……」
満面の笑みを浮かべる3人。(純粋な笑顔はクラリスだけだが)
口下手な俺は、なんて言っていいのやら、どうしたらいいのやら、あまりにも想定外の事の成り行きについていけず、泣きそうである。
王子だし、泣かないけど、泣かないけど……泣くもんかぁぁぁ。
そんな俺を横目で見ながら、ミカエルとジェスターが顔を見合わせて、ニヤリと笑った。
「徹底的にぶっ壊そう……そう、徹底的……にね」
俺が更に頭を抱えたのは、言うまでもない。
ああ、そうだ、クラリスは婚約が嫌で泣いちゃうような令嬢ではない。っていうか、俺の方が泣きそうだし。
初動がまずかった。
こんなことなら、ロマンチックなんか捨てて、公開告白でもなんでもすりゃあ良かった……
しかし、今の段階で告白しても、振られるのは火を見るより明らか。
それこそ、公開処刑じゃないかっっ!
一体、俺は、どうしたら良かったんだ?