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ダンスが始まりました……婚約者はうそつきです


 パーティーの時間が迫り、公爵とミカエルは招待客を出迎える為、ジェスターはゲストとして、渋々パーティールームへむかった。


 俺と2人きりになったクラリスは視線を外し、話したい事があるのに話すのを躊躇しているような素振りを見せる。

 その様子を横目で見ていた俺は、好きな男の話をされるのではないかと、胸中穏やかではない。


 せめてダンスが終わってからにしてくれ……

 

 クラリスは意を決したのか、フンヌッとガッツポーズで気合いを入れ、俺を見た。


 ああ、意を決しちゃったかぁぁ……


「あの……アルベルト様……私と今日ダンスして大丈夫ですか? 今更ですが……」

「えっ? どういう意味だ?」


 少し意外な方向の話に俺はポカンとしてしまう。

 

 それはこっちの台詞だろ……


「今日、世間に婚約者として認知されてしまったら、後々、破棄するにしても……アルベルト様の想い人に誤解を……」

「されない」

「えっ?」

「誤解なんてされない」


 俺ははっきりときっぱり否定をする。


 まだ勘違いしていたのか……俺に好きな人がいるって……まぁ、いるのは事実だけど。


「えっと……今夜は名のある貴族のご令嬢は招待しておりますので……あ、ご令嬢ではないのですか?」

「そうじゃないが……」

「では、今夜、パーティーに参加しているのでは?」

「まぁ、いるけどな」

「そう……です……よね」

「あのな……」

「アルベルト様、お嬢様、パーティールームにお越しください」


 メイドの声に俺達は顔を上げ、目を合わせた。


 なんていうか……こう核心に迫る話をしようとすると、何故か邪魔が入るのは、そういう星の下に生まれてしまったんだろうか?


 俺はこの時間がない状況で、好きな人が誰かということを話すのは得策ではないと判断をする。

 この後、踊るのだから尚更だ。


 この話題を止め、立ち上がりついでに思いっきり伸びをし、気持ちを整えた。クラリスに右手を差し出し、王子スマイルでダンスに誘う。


「さぁ、踊りましょう、婚約者殿」


 クラリスは俺を見上げ「アルベルト様?」と目を白黒させ、瞬きを数回し、きょとんとする。


 おいおい、びっくりするなよ。俺だって、たまには王子らしいことをするんだぞ?


 ダンスの誘いに薄っすら頬を染めたクラリスは俺が差し出した手にそっと触れ、真っ直ぐ見つめた。

 そして、はにかんだ笑みを浮かべる。


「はい、アルベルト様」


 クラリスをエスコートし、パーティールームの扉の前に立つと緊張しているのか、クラリスは俺の手をキュッと握った。俺はクラリスの耳元でそっと囁く。


「大丈夫。俺がいるから」


 クラリスは少しホッとした顔をして、微笑する。


 そして、パーティールームの扉が開いた。


 溢れんばかりの花で飾られた華やかなパーティールームに一歩踏み出し、招待客へ深々とお辞儀をする。

 それを合図に音楽が流れ、ざわついていた会場がしんと静まり返った。


 音楽と俺達の足音だけが聞こえる空間で俺とクラリスはパーティールームの中心まで進み、踊り始める。


 クラリスも緊張が解けたのか、目が合うとかわいく笑い、それだけで俺は幸せな気分に満たされ、今ここで大声で叫びたい。


「クラリスは俺の婚約者だぁぁ」


 と。

 しないよ? しないけどさ。したらおバカさんすぎでしょ? 


 まぁ、このダンス自体が婚約者の特権だから、恋敵(ライバル)達に牽制しているようなものだけど……だけど……俺の心に刺さった小さな(トゲ)(うず)く……クラリスの好きな男……か。


「クラリスはいいのか? 俺と婚約者と認知されても……」

 

 踊っているからなのか、俺が質問したからなのか……クラリスは視線を落とし、息を整え、顔を上げる。


「はい。私は構いません。婚約破棄した後も良い思い出にします……」


 小声でモソモソと言うクラリスを見て、破棄云々はさておき、嫌がっているわけではないということに胸をなでおろす。


 ダンスも終盤になり、クラリスと目を合わせ、微笑んでいた俺の心に物悲しい気持ちがじわりと広がってきた。

 このままずっと踊っていたい。ずっと独占していたい……と我儘な事を思ってしまう。


「クラリス……この後、誰かと踊るのか?」

「はい、ジェスター様とミカエルと……レドモンド様にバード様……あと……」


 えっ? まだ出てくるの?


 クラリスの口から次々出てくる男の名前に嫉妬が抑えきれない。

 社交界デビューのパーティーだから誘われれば、踊るだろう……でも……


「……他の男と踊るな」


 俺は無意識に心中を吐露してしまい、ハッとする。

 無意識とはいえ、嫉妬の言葉を発してしまった事に猛省しまくった。社交の場で踊るも踊らないも決めるのはクラリスだし、俺が口を出していいことではない……ああ、俺、最低だな。


「わかりました」

「すまん……忘れてくれ」


 俺の謝罪とクラリスの声が重なり、驚いて顔をあげると、ニコニコ笑顔のクラリスが「わかりました」ともう1度返事をする。


「えっ? だって……誘われているんだろ?」

「はい……でも体力が残っていたらって伝えてありますので。ふふっ、もう私、体力、ありません」


 俺の目を見つめ、えへへっと悪戯っ子のように笑うクラリスは本当に愛らしくて、俺は泣きそうになった。


 うそつき……お前、授業で何曲でも踊ってるだろ……俺が疲れてもまだまだ踊れるってはしゃぐ、体力無尽蔵じゃねぇか……うそつき……俺の我儘に付き合ってくれたんだな……大事な17歳の誕生日に。


 狂おしいほどの愛しさが俺の心を埋め尽くす。

 クラリスの手をギュッと握り、ブルーの瞳をじっと見つめた。


 そして、大切な大切な言葉を紡ぐ。




「クラリス、俺と結婚しよう」



 

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