婚約内定決めました……王族権限、行使します
俺は目を見開き、頭の中で何度も何度も繰り返す。
クラリス・アルフォント嬢の魔法が発現した……
クラリスの魔法が……?
クラリスの魔法が発現したのか!?
「それは真か」
「はっ、間違いありません。あの魔力量を持つご令嬢の発現です。魔道士最高ランクSSクラス魔道士になる事、間違いなく、急ぎご報告に参りました」
「わかった。下がれ」
「父上!」
俺は真っ直ぐ見据え、はっきりとした声で父上に声を掛ける。
そして、次の言葉に繋げた。
「クラリス・アルフォント嬢を婚約者に」
父上は俺の決意した目をみて「ほぅ」と感心したような声を出し、頷く。
「お前がずっと待っていたのはこれか」
「クラリス嬢でしたらSSクラス魔道士になるも同然。王族に迎えるのに、これ程の令嬢はいません」
「わかった。候補に名を」
「いえ、内定で」
さすがに父上もこれには驚きの表情を見せ、少し考え込んでいた。
婚約者候補をすっ飛ばして内定をだすのは異例だ。
普通は候補に選ばれた令嬢と交流し、仲を深めてから、お互い納得の上で婚約内定となる。
ただ俺はそんな悠長な事をしているわけにいかない。
「内定とな……クラリス嬢の気持ちを無視するようなことは許さぬぞ」
「わかっております。それは私も本意ではありません。婚約者の立場が欲しいのです。でないと……」
俺は親友2人の顔を思い浮かべる。
ジェスター・シトリン。
ミカエル・アルフォント。
親友であり、厄介な恋敵。
候補なんてのんびりしていたら、あの2人に猛烈に邪魔され、結婚まで絶対にたどりつけない変な自信が俺には、ある。
それほど、あの2人も本気なのだ。
父上の吸い込まれそうな濃いブラウンの瞳は、同じく濃いブラウンの俺の目をじっと見ていた。
「お前は真剣なんじゃな?」
「はい」
父上の質問に間髪入れずに答える。
そう、俺は真剣だ。
クラリスを絶対に誰にも渡したくない。
「わかった。アルフォント家に伝えよ。アルベルト王子の婚約者はクラリス嬢に内定したと」
父上の言葉に「はっ」と側近達が頭を下げ、慌ただしく動き出す。
「アルベルト、わかっておるな? 余の声掛けの婚約の意味を。クラリス嬢は我が国でも大事なSSクラス魔道士。無理強いはならぬぞ」
「はい、肝に銘じております。私は大切なクラリスを傷つけるのは本意ではありませんので」
「下がって良い」
「はい」
俺は自室に戻り、緊張を解くように大きく息を吐いた。
頬が緩むのを止めることができない。
ああ、俺、今、すごくだらしない顔してるかも。
あいつら、激怒するだろうな……でも、クラリスだけは俺は絶対に譲らないから。
2人とも悪いな。
俺は恋敵達の顔を、再び頭に浮かべ、ニッと笑う。
家柄も顔も性格も良いあいつらは、クラリスを諦めても、いくらでも婚約者候補がいるはずだ。
そんな事を考え、側近のナクサスが用意した紅茶に口をつける。
ニヤニヤが止まらない俺を見て、ナクサスは呆れ顔で俺を見ていた。
口には出さないものの「王子、気持ち悪っ」と言いたげなのが、ありあり伝わってくる。
ほっとけっ!
俺も口には出さなかったはずなのに、なぜか「はいはい」と肩をすくめた。
「王子、にやけているところを申し訳ないのですが、こちらの書類にサインを」
公務の書類の束をドンッと机の上に置くナクサス。
今日の俺はナクサスの毒舌なんか、全然気にならない。
今日という最高の日に、にやけてて何が悪い!
俺は緩みっぱなしの顔を隠す事もしないまま、ペンを取り、書類に目を通し始めた。
俺は、まぁ、浮かれていた。
長年の片思いが叶った…………と、思ったから。
だから、すっかり忘れていた。
恋敵達の諦めの悪さとクラリスの……
鈍感さを。