RE:Contact-8 晩飯ヲ守リ抜ケ
~ ウィィ~ン、ピピピピピ! ~
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<ウルエナ>
和名:腐食狼
年齢:5歳(メス)
体重:64kg
体長:102cm
肩高:72cm
属性:無
<レベル:12>
HP:927/927(VIT:+9)
MP:34/34
DE:0
能力値
STR:7.9
PER:12.4
VIT:9.2
AGI:15.1
INT:2.7
LUC:0.6
MAG:0.1
[ Strength ]
<身体強化 Lev.2>
<犬歯強化 Lev.2>
[ Perception ]
<嗅覚強化 Lev.5>
[ Vitality ]
<体毛擬態 Lev.3>
<忍耐 Lev.1>
[ Agility ]
<強壮 Lev.4>
<強靭 Lev.4>
《詳細情報》
バレッド王国辺境「スップリ森」など、ウォーダリア各地に必ずと言っていい程生息する、狼に酷似したの魔物。
性格は残忍かつ狡猾。
他の魔物が狩り得た獲物を、平気で横取りする様が良く確認される事から、「屍肉喰い」・「腐肉漁り」などと蔑称され、忌避されている。
しかしながら、実際は真逆な事実であり、彼らが”横取り”をするのは……”成功率の高い”自身達の狩りよりも、狩られた獲物入手する方がより確実だと”理解”しているからだ。
その上、彼らが”屍肉”や”腐肉”を積極的に食す事で、死体が腐食していく過程で蔓延される病気を未然に防いでいるのだ。
また、一部の冒険者の間では「ドウモウな魔物」と認識されているが、それも誤解である。
確かに、屍肉や腐肉を漁っている際のウルエナは気性が荒く、近づく者には容赦無く”威嚇”や”攻撃”を行うものの、それ以外ではほぼ人間などには”無関心”と言っていい程に興味を示さない。
しかしながら、それでも人間に興味を示すのは……何かしらの”獲物”を人間が持っている時や、”群れ”に人間の魔の手が向けられた時のみである……。
もう一つ、彼らが”狡猾”だと言う事を証明する事象に、彼らの”体毛”が挙げられる。”ウルエナ”の体毛は、”自身の感情”によって変化する奇妙な特徴を持っているのだ。
それは言葉通りに、相手を”威嚇”したり……”仲間が討たれた”際には目まぐるしく体毛の模様が変化し……! 特段”冷静”な場合には周囲の風景に完全に溶け込む……”蛸”の如き天然の「光学迷彩」を活かし、獲物に気付かれない内に仕留めるのである……!
因みに、何故か地球の一部ハイエナ同様、”雌”が「群れのリーダー」になる女尊男卑な社会を築いているが、この世界ではまだそれは解明されておらず、「”コーカサス・ボア”や”ゴブリン”よりも頭が悪い」……と上記の狡猾さを無視された上で、誤認までされるている始末である……。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
――「……無自覚だろうがコイツ、”逆ハーレム”って奴を築いてんなぁ」……とボスは、皮肉るように呟いていた……。それは、初めに茂みから現れたこの”スキャンしている個体”の周囲に、ゾロゾロと別のウルエナ達が現れたからだ。
スキャンしていた個体……ここは便宜上、「ウルカノ(ウルエナの彼女)」と呼ぼう。そんな、ウルカノの周囲に現れた複数の個体達を、彼が”スキャン”してみたのだが……。
結果は、見事に全員”雄”。
一回り程小さいモノの、それが「計4体」とスキャンにあった女尊男卑な社会を証明するかのように、お偉い政治家を守るSPの如く……彼女を守るように取り囲んでいたのだ。
ただ、ザッとは見てみたものの……”ウルカノ”と比べれば彼らの戦闘力は「平均LV.8」と、彼女より下回っていたため戦闘時の最も警戒すべき対象は、”彼女”に限定すればいいと、ほんの少しボスは安心していた……。
「ぼっ、ボスゥゥ……ッ!?」
――思考の海にドップリと沈んでいたボスであったが、銃を持たない右腕にしがみついてきたオルセットの顔を咄嗟に見た途端……現実に引き戻されたのだ。
今にも溢れんばかりに、目に涙を浮かべている彼女を見た彼は、自身の気を引き締めるためにも言葉を紡ぐ……!
「しっ、心配すんな! オルセットッ!
大丈夫だ! コイツらに勝てるから安心しろッ!」
「ちっ、違うよぉ! ボスゥ!
に、逃げようッ! 逃げようよッ! ボスゥ!」
――しがみついた腕を必死に揺さぶりながら、彼を説得しようと試みるオルセット。しかしながらボスは、極力目の前の魔物達に聞こえないよう、声を潜め……?
「ダメだって、オルセット……!
コイツらの目的は多分、オレらの後ろにある晩飯だ!
ここで逃げたら、明日以降の飯が食えるかわからねェんだぞ!?」
――と「スキャン」から得た”屍肉喰い”の一文から、魔物達の狙いを推測し撤退は出来ないと反論するボス。オルセットは一瞬、自身の後ろにある解体済みの「コーサス・ボア」を一瞥すると共に、非常に未練がましそうな表情をするが……?
「だっ、ダメだよ! ボスゥ! 逃げようッ!
こんな……魔物がいるのに、勝てるワケが……」
~ バッ! プウェェエェェェッ! ~
「ッ!? ボスゥ! 前ェェッ!」
「ッ!?」
~ ジャキッ! ……ピタッ、スルスルスルスル……~
――「なっ、ナイスな判断だ……オルセット……」しどろもどろながらも、彼女の警告に反応できた事に安堵するボス……。
何が起こったかと言えば、二人が話している最中……一瞬の隙を突いてウルカノが彼の首筋目掛け、飛び掛かろうとしたのだが……オルセットの声に気づいた彼が銃口を向け、瞬時にフリピスの引き金を引こうとした……!
だがしかし……何故か銃口を向けられたウルカノは、唸り声を上げつつもゆっくりと雄達がいる場所まで、後退して行くのだった……!
「ほっ、ほらな? アイツらは狡猾……”頭が良い魔物”だから理解してんだよ!
さっきのオレの狩りを見て! この銃が”ヤバイ武器”だって事をなッ!」
――と、得意げにウルカノに向けていた銃口を軽く上げ……軽く銃を左右に振り、オルセットにアピールするボス。
……まぁ、しかしながら「理解している」と言う事は、”恐れを抱く”と言う事と同時に……警戒されていると言う事も意味している筈なのだが……? 彼自身もそこは理解しているのだろうか?
……まぁ、そこは一度置いておこう……。
話題は変わるが、彼は”骨董銃”と評していた「フリピス」なのだが……唐突に、偉く自信満々になっている所が気になっている”○者の諸君”も、居るであろう……? 一応、その根拠として……「フリピス」を”スキャン”した結果を紹介しておこう……。
~ウィィ~ン、ピピピピピ!~
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<フリントロック・ピストル>
全長 約36cm
重量 約1.00kg(銃のみの重さ)
装弾数 1発
使用弾薬 60口径リードボール
供給コスト MP:100
略称「フリピス」、「FP」。
1620年頃、フランスで考案されたフリントを使う発射方式……「フリントロック式」を元に作成された拳銃。
<世界初の拳銃>……とは、「マッチ・ロック式」、「ホイール・ロック式」と言った先輩達である作動方式があるため、声高々には謳えないであろう……。
ただ……最も広く、多く、実用的な拳銃として普及した点で見れば、<世界初の拳銃>……とも言えなくないだろう。
装填数が”一発”しかない、引き金を引いても”発射までに若干のタイムラグ”がある、再装填には慣れていないと”30秒近く”も掛かる、現代の拳銃ではアタリマエにあるライフリングがない為、”命中精度が低い”……。
このように、世界初故の多くの欠点を抱えているがために「即応性」、「精密射撃」、「対多数戦」には非常に弱い銃である。
しかしながら、……「60口径」というのは、現代の「最強の自動拳銃」や「対物狙撃銃」の口径である「50口径」よりもデカいという事である……!
そのため……”適切な距離”と、しっかりと”敵の急所”に当てる事が出来れば、唯一の利点となる「高い威力」が、遺憾無く発揮されることであろう……ッ!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<基本性能>
(A) 1000(有効射程50m圏内)
(F) 「(R)」+約2秒。(点火時間)
(M) 1
(R) 約30〜60秒(熟練程、短くなる。)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
――と言うように、先程狩った「コーカサス・ボア」の”HP”が、「1044」もあったのに対し、”HPに届かない威力”でボスが一発で仕留められたのは、「急所(弱点)」を撃ち抜いたおかげではないか……と彼は考えていた。
……”銃”や”飛び道具”が登場するゲームではお馴染みな、「”弱点”に当てると、与えるダメージが”倍”になる」……という奴だ。
ただし、今はまだあくまで予想……。
彼の戦闘実績が非常に少ないため、「”弱点”に当てると、与えるダメージが”2倍”になる」……と言った”断言できる確証”までには、彼は至れていなかった……。
危険だが……今後確かめる際には、フリピスの威力以上の”HP”を持つ「強力な魔物」との戦闘で、検証しなくては……とも、彼は心のメモに書き留めていた。
しかしながら、ここで彼は……”脚”や”下半身”と言った「急所から離れた部位」に当てない限りは、充分にこの「ウルエナの群れ」に対しての勝算はあると、確信していたのだ……!
「うっ、うん……。
その”ジュウ”……って武器がスゴイのは、さっきのボアで分かってたケド……。
でも……でも、ボスゥ……!」
「……逃げるワケには行かねェよ……」
「どうして……ボスゥッ!?」
――今し方、未遂に終わったが……”襲われた”事実があるのにも関わらず撤退を拒むボスに、若干の苛立ちが口調に現れ始めるオルセット……!
まぁ、無理もない。現実的に考えれば、”5対2”……と少数ながらも、「数の暴力」は目に見えているのだから……。
私がその場に居れば、間違いなく彼女の意見に乗っているだろう……!
だが……警戒したのかウルカノ達が、再び彼女を囲むようにしつつ”犬のお座り”に似た姿勢で、ボス達に鋭い睨みを利かせているにも関わらず……?
「それはな……オレが、英雄を目指しているからだ……!」
「エイ……ユウ……?」
「……普通の人よりも、何処かしらスゴイ所があって……普通の人じゃあ出来ない様な事をやってのける……スゴイ奴! ……って事だよッ!」
「……」
――ウルカノ達に注意を払うがために、横目に捲し立てるよう話すボスは……彼女が不穏な雰囲気で口を噤んでいる事に気づかない……!
「……それにな? オレはこの世界に来てから決めてるんだよ……!
もう”逃げ続ける人生”になんて、絶ッ対ッに戻りたくない……って。
だから……オレは逃げない。こんなちっぽけな逆境でも、英雄を名乗る以上……何が何でも切り抜けて見せるって……ッ!」
「……」
――自身の”戦う動機”を力説するボスであったが……相変わらずオルセットの視線は、何故か冷ややかなままであった……。
「そっ、それによう……?
かっ、カワ格好良いオルセットを守るのは……おっ、男として当然だろッ!」
〜 ザッギュゥゥゥゥンッ! 〜
「……へッ!? おっ、オルセットッ!?」
――唐突すぎる事に、ボスは呆然とするしか無かった……!
それもその筈、彼は格好付けたかったのか……話の終わり辺りに、彼女の方に振り向きながら叫んでたのだが……再び”消失マジック”の如く、何故か彼女は走り去っていたのだ……!
ボスも……解体したボアも……何もかも残し、逃亡して……!?
〜 ガブッ! ガブガブッ! プエェェッ! 〜
――だが、ボスの不運は続く……。
走り去った際に立ち込めた”一本の土埃の筋”から、彼女の姿を捉えようと目を凝らす彼であったが……。”耳障りな笑い声に似たウルエナの鳴き声”が、自身の足元付近から聞こえたので思わず視線を向けたのだ。すると、そこには何時、何処から現れたのであろうか……!?
一匹の”ウルエナ”が、彼が苦労して解体した”ボア肉”の背中部分を喰い千切り……「美味い!」と言わんばかりの鳴き声を、上げていたではないか……ッ!?
「ッ!? この野郎ォォォッ!?」
〜 キンッ! シュボッ! ズバンッッ! ニャインッ!? 〜
――状況を察したボスは、即座に銃をウルエナの頭部目掛け、発砲していた……ッ!
無論、結果としては……生まれて初めて味わう”弓矢以上の高速の礫”になぞ対抗出来る訳もなく……。肉を喰らっていたウルエナは、あっさりと犬とも猫とも似つかない”奇妙な断末魔の声”を上げながら地に平伏し、眉間あたりから血を流していたのであった……ッ!
~ ……ピタッ、プニャ〜ンッ! プニャ〜ンッ! スルスルスルスル……~
「ッ!?」
――再び背後……先程、ボスがウルカノ達を見ていた方向に、またまた不穏な唸り声を聞いた彼が恐る恐る振り返ると……? そこには、ウルカノを含めた”5匹”のウルエナ達が彼に飛び掛かろうとしていたのか……情けなく怯えたような唸り声を上げつつ、5匹が元の位置へと後退して行く光景を目にしたのだ……!
「……マジかよ、群れは元々”6匹”だったって事か……ッ!?」
……減っていないウルカノ達を見て驚愕の余り、思わず呟いてしまう彼。
……彼の内心では、冷や汗を流すしかなかった……。
今し方のウルエナ達の攻撃が、余りにも人間臭かったが故に……。
木の枝や天井の隅に、獲物がくっつく巣を張る”蜘蛛”……砂地にすり鉢状の窪みを作り、落ちてくるアリを待つ”蟻地獄”……そして、移動しながら時々短期的に待ち伏せによる様子見や、狩りを行う”ライオン”……。
自然界では、様々なアンブッシュはあれど、基本的には”待つ”だけなのである。
それが、”ウルエナ”の場合は――”戦力”などで大事なハズの”群れのメンバー”を躊躇なく囮りに使い、獲物を奪おうとする上に……失敗した場合には、背後を向いた敵に対して群れによる一斉攻撃という、アンブッシュを仕掛けたのである……ッ!
こう言った動物にはない”あり得なさ”が、「動物」と「魔物」を明確に分ける違いなのかもしれない……!
「……クソッ! 無線とかあればなぁ……オルセットに何で”逃げた”か問い詰められんだが……! それに、さっきの背後から来た奴を倒した際に、「……ほらな? 当てれば勝てる」……って、キメたかったのに……ッ!
……何なんだよ、コイツら……ッ!?」
……そんな自惚れも、アンブッシュを仕掛けてきたウルカノ達が、初めて間近に聞くであろう”銃声”に、怯えなかったらどうするつもりだったのだ?
……。
……考えてなかった……ヤバかった……。
……その沈黙は、そう言った”図星”なのだな?
……分かった、もう舐めねェよ……ッ!
――今更感しか感じらないが、やっとマトモな心構えになったのか……?
……頼むから”黙る”か、もっとマシな”実況”をしてくれよ……!
……善処しよう。
そして、私の言葉を聞いて安心したのか……未だ怯えを見せるウルカノ達に対し、長い深呼吸の後にボスが切り出す……!
「……フゥゥゥゥゥゥゥ……OK、ウルエナ供?
正直見縊ってたよ……いや、そんな首を捻って傾げるような動作をしても、事実は事実だ。正直恥ずかしい事この上ないが……ホント、認めるよ……!」
――首を傾げたり、お互いの顔を見合わせを続行していたウルカノ達であったが……ボスの”高圧的な物言い”は理解していたのか、もう怯えた”唸り声”や”態度”は鳴りを潜めていた……。
「その犬畜生に似合わない”狡猾さ”に敬意を評して……!
……今から……テメェらを……”敵”として認めてやるよ?」
――物凄い”上から目線口調”なのが尺に触るだろうが、ご理解を願いたい……!
語っている最中の彼は、ジョジョにだったが”顔中”から次々と、汗が吹き出し始めていたのだから……。
だが、これまた驚きだ……! 再び、ボスの”言動”か……はたまた、彼の”徒ならぬ雰囲気”を察知し、理解したのか……!? ウルカノを皮切りに、彼女を囲む雄たちに波紋状に広がるかのように――彼女達が唸り出し威嚇をし始めたのだ……!
そして、彼もまた負けじと威嚇代わりの”不適な笑み”を浮かべ……左手に握っていた銃を、スポーツジャケットの胸ポケットへと仕舞った。
そして、左側の蟀谷に左手で指差し、右手でウルカノを指差す……という、何処か”ジョジョな策士”っぽいポーズを取ると……?
「一応、狡猾……”賢い”って事で言ってやるが……。
テメェら……こう思っているんじゃあないか? 「コイツ、ブキ、モッテナイノニ、ナゼ、アキラメナイ……!?」……って、感じに?」
――ボスの言い分を聞き終えた瞬間、ウルカノは「ッ!?」……と、息を飲むかの如く臨戦態勢に低くしていた姿勢を、”神社の狛犬”のように……その尖った両耳と共に”ピンッ!”と一瞬伸ばすのであった……ッ!?
……ただその時の周囲の雄達は、そんな彼女の態度をただ見つめて「?マーク」を頭上に浮かべ、首を捻るばかりなのが何とも滑稽だったが……。
「……ホント、テメェら人間臭ェなぁ……ッ!?
まぁ、いいや……じゃあ、何でそんな自信満々なのか……教えてやろうかァァッ!」
――と、両手を”斜め45度”……魔法使いが、魔力を溜める動作の如く、腰の両脇に広げたのだ。すると、野党との戦闘後……初めて銃を出した時の様に……!
彼の両手が再び”赤く”光出たかと思った瞬間、眩い閃光を発したのであるッ!
これまた初めての経験に、一瞬目を閉じ怯んでしまうウルカノ達……。
〜 キキンッ! シュボッ! ズバンッッ!
ニニャインッ!? ……ドサッ!〜
――だが、彼女達が目を開けるよりも早く……二つの銃声が鳴り響き……ッ!?
〜 ザッザッザッザッザッザッ……ブウゥゥンッ!
ザドシュゥゥッ! ……ドサッ!〜
――次に、何かが走り抜けるような音と……何かを切り裂く音が鳴り響き……ッ!?
〜 ブウゥゥンッ! ……ゲシャアァァッ! ニャインッ!?
ザッザッザッザッザッザッザ……ッ! 〜
――そして、何かが蹴り飛ばされる音と……再び走り出す音、聞こえたところで……ッ!?
〜 ……プッ、プニャ〜ンッ! プニャ〜ンッ! …… 〜
――自身の周囲に転がる4体……いや、3体の同胞の骸にオロオロと右往左往するウルカノ……! 自身の両脇に居た同胞は、眉間付近を撃ち抜かれ……後ろに倒れ伏していた同胞には、頭に斧が刺さっており……!?
〜 ……プニャ〜ンッ! ザシュウッ! 〜
――嫌な音がした方向を向けば……立ち上がるニンゲンの足元に、ピクピクと痙攣しながら首に出来た刺し傷から、ダラダラと血を流す同胞の姿が……ッ!?
「……フゥ〜とまぁ、こんな感じだ。打っ付け本番で心配だったが……。
筋トレついでに毎日、海辺の道路で”走り込み”をしていた甲斐があったぜ……!」
――いや……未だ困惑しているあそこのウルカノのように、そんな突拍子もない理由じゃあ訳が分からないぞ? ……ボス君? 一体、赤い閃光を放った後……何をしたのだ?
……何って、ガンクリ発生時の閃光で”目眩し”をした後……。
撃って、ダッシュして、斧を叩きつけて、近くのオスを蹴り飛ばして、またダッシュして、引き抜く暇がなかった斧の代わりに、解体用ナイフで止メを刺しただけだが?
……スゥ、OK……OK、OK……。
自覚はないかもしれないが……君も大概、規格外だぞ?
……ハァ?
――一応、○者の皆さんには補足しておこう……。
前話では、「ストレス緩和」のため調子に乗る発言をしていたボス君だが……だからと言って、自身の能力に”慢心”していた訳じゃあない。……むしろ逆だ。
……”フリピス”という貧弱装備しか出せない現状だからこそ、看病していた一週間……ボスは頭を捻り続け、検証を重ねていたのだ……!
「2丁、3丁と出したが……パッと見、見た目は変わらない感じだな……。
て言うか……何で、毎回手が光るんだ? しかも閃光なんて出るんだ?
発しているオレでも眩しいぐらいに……。 ……んっ? オレでも眩しい……?」
……と、先程の「ガンクリ発生時の閃光で目眩し」を編み出し……!
「ガンクリによる、スピードリロードは有効だが……魔力効率がバレクリの2倍って、悪いなぁ……」
……と空中に表示される”ステータス画面”と睨めっこしながら……。
「ガンクリ」の”創造コストの半分”で済む「バレクリ」の方がより多く弾を出せる事を検証……。
今回のウルカノ達による”対多数戦”や、”リロードに時間を裂けない”状況では、空になった弾倉を捨ててリロードする、”スピードリロード”が如く……緊急時も含め空になった銃をしまい、「新たに銃を創造した方が良い」と彼は判断していたのだ……ッ!
……おいっ、おいッ!
――んッ? 何かね……?
途中から、急に声が聞こえなくなったんだが……何してたんだ?
……少し、休憩していただけだ。
……まだ、敵が残ってるってのに呑気な……!?
それよりも、まだあのウルエナが困惑してるようだから質問したいのだが……。
……?
目眩し……と言う有用性でガンクリをする事は、さっき見ていて分かったのだが……。何故、予め複数丁の銃を装備しておかないのだ?
……はッ? しなくて当たり前だろ?
そもそも、オレは”アイテムボックス”や”インベントリ”……”ゲーム”や”ラノベ”なんかじゃあ当たり前な、「無限収納、次元収納、四次元ポ○ット」……そんな、便利な収納スキルを持ってねェんだぞ?
……だが、なくても複数丁は持てるだろ?
バカかッ!? ゲームとかじゃあ、あんまり表現されねェけど……拳銃だろうと重ェんだよッ!?
オレが好きな拳銃の一つ、「M1911」……通称”ガバメント”なんかは大体「1,1kg」、1ℓの水入りペットボトルよりもチョッピリ重いぐらいはあるんだよッ!?
んで、体感だけど……ガバメントに近いか、それよりも重い重量なんだよ……この銃は。……そんな重さがあるコレを、身体中のポケットとかにギュウギュウに装備して、軽快な動きが出来ると思うかッ!?
”銃弾”だって、たくさん持てば重いのにッ!?
――なっ、なるほど……。
要するに「装備やアイテムの重量制限」があるのか……。
だが……そろそろ私に怒鳴るよりも、あのウルエナの方に注意した方が……!
……気の性と思いたいけど、なんかお前と話している間……やけに時間の流れが遅くなってないか?
――まさか!? 君は、そんな”メタフィクション”が現実にあると思うのかッ!?
……気の性だと思っとこう……。
「……さて、ウルエナさん? 群れは壊滅、対処法は分からず仕舞い……。
つまり、圧倒的な形成逆転したワケだが……まだオレらの獲物を狙うつもりか?
……因みに、武器はまだまだだせるぞ?」
――と、左の胸ポケットから既に空になった銃を右手で抜き、その銃口をウルエナに向けながら強気に言うボス……! しかし、彼の額には私と話している間に拭った筈の汗が、再び滲み出ていた……。
何故なら、さっきの台詞は”ブラフ”だからだ。
”まだまだ出せる”とは言ったが、実際は「残り一丁分」を出す魔力しか残っていない。
出したら最後……気を張らないと、気絶しかねない”強烈な目眩”が襲ってくる事も、彼は看護の1週間の内に経験済みだったからだ。
獣との交渉なんてバカらしい……地球じゃあそれが当たり前だろうが、やけに人間臭い”ウルエナ”ならもしかしたら……!?
……と彼は、”魔力切れ”というもう一つの脅威を前に緊張感を押し殺しつつも、強気に言っていたのだ。
〜 ……プウェェェウェウェウェ! ……プウェェェウェウェウェ! 〜
「……あっ? なんだよその鳴き声……!?
さっきからその笑い声みたいな鳴き声に、ムカついてはいたが……。
そんなあからさまに、”笑っている”みたいな鳴き方を何でしてやがるんだよッ!?」
〜 ……プウェェェウェウェウェ! ……プウェェェウェウェウェ! 〜
「……おい、やめろ! とっとと諦めて、別の獲物を探せッ!」
〜 ……プウェェェウェウェウェ! ……プウェェェウェウェウェ! 〜
「……クッ、黙れって言ってんだろうがッ! このクソッタレェェッ!」
……不気味! ……圧倒的、不気味ッ!
ギリギリとは言え、未だ”切れる手札”があるボスに対し……まるで、まだ勝算があるかのように、一度頭を天にむけた後……一気に振り下ろしては、頭を小刻みに上下させながら笑うような鳴き方を続けるウルカノ……!?
この耳障りで不気味な雰囲気の鳴き声を前に……ボスは只々、困惑を隠すために彼女を怒鳴りつける事しか出来なかった……。
〜 ……ザッ、ザッ、プウェェェェェェェッ! 〜
「ッ!? のわぁぁぁッ!?」
――なんとなんとッ!? これまた予想外ッ!
ウルエナ周囲の”取り巻きである雄達”を倒したのに……背後から忍び寄っていた別のウルエナが、ボスの上半身目掛けて飛び掛かったのだッ!?
〜 バタンッ! プウェェッ! ガブッ!
プウェェッ! ガブッ! ガブッ! 〜
「クソッタレェェ……!
ホント……テメェら、奇襲が好きだよなぁぁ……ッ!?」
――飛びかかる直前辺りで、背後からの足音に気付けたボスだったのだが……。
ご覧の通り、一歩遅く……振り向いた瞬間に押し倒されてしまったのである……!
そして、”喉”や”首元”目掛け噛み付いて来るウルエナに、彼は”首”と”顎下”を何とか掴み、噛まれまいと必死の抵抗を試みる……ッ!
「けどなぁ……このまま喰われて……堪るかよぉぉぉッ!」
〜 プウェェッ! ガブッ! プウェェッ! ブゥゥンッ! バキァァッ! 〜
――数回に渡る攻防後、ボスはウルエナが一瞬高く首を上げる瞬間を見つけ、そのタイミングに右拳で奴の”目”を狙い、”右フック”で殴り抜いたのだッ!
これには、奴も堪らずよろけてしまう……。
だが彼はその隙を突いて、右脚の太腿に装着していたナイフケースから先程使っていたナイフを素早く引き抜き、逆手に持ち替え……!
〜 グサッ! 〜
――よろけから立ち直ったウルエナが、噛み付いてくる瞬間を狙って首に突き刺したのだ! ……だがしかし……ッ!?
「ッ!? クソッ! 逃すかよッ!?」
……しかしながら、ボスがそう思ってしまう程に……彼の1.5倍近い「STR」を持つ奴の、”逃走しようとする力”は強かったのだ……!
〜 ガバッ! ギュウ……ッ! グリッ、グリグリ……! 〜
――だからこそ彼は、咄嗟に馬乗りにされていた状況から……奴の胴体に両脚をガッチリ組み込ませたのだ! そして、念入りに刺したナイフをグリグリと動かして、奴の内部を抉り……一秒でも早く仕留めようと試みたのであった……ッ!
〜 ドサッ! 〜
その甲斐あってか、何とか奴は倒れたのだが……ただ、終わった後もその絵面的には……その……恐らく……一部の人以外、嬉しくないであろう……「性的なアレ」に……見えなくも……ないだろう……。
人が必死こいている時に、なんて実況してんだよッ!?
あるからなッ!? 武術としてッ! 「総合格闘技」や「ブラジリアン柔術」とかの、”寝技”にこう言う技あるからなッ!?
――とまぁ、内心は荒ぶっていたが……外見では奇襲してきた7匹目のウルエナを、撃破出来た事に安堵していたボス。
〜 プウェェェェェェェッ! ……ザザッザザッザザッ、バッ! 〜
「どわぁぁぁッ!?」
――しかし、彼の運命はとことん”ドS”なようである。
安堵して直ぐに起き上がらなかったボスも悪いが……それ以上に、今し方撃破されたウルエナを見たウルカノが、目まぐるしく体毛の模様を変化させながら……彼も予想外なスピードによって、再び彼が馬乗りにされるハメになってしまったのだ……!
「クッ! この……ッ! 退きやがれェェ……ッ!」
――さらに分が悪い事に、先程のウルエナと違い……ウルカノの「STR」は、ボスの2倍近い。先程は押されはしたものの、根気も充分あってなんとか乗りこられたようだが……ウルカノは別格だった。
言葉は全くないモノの、まるで撃破された雄が番いだったかのように……苛烈で……殺気に満ちた……「お前だけは……ッ!」……と聞こえんばかりの勢いで、彼の”喉”や”首元”を喰い千切らんとしていたのだ……!
「ハァハァハァハァ……クソッ! クソォォォッ! クソォォォォォッ!」
――根気も充分あって……そう語ったように、ボスの”体力”も、”根性”も限界に近かった。直前のウルエナとの格闘による消耗もあったが……。
それ以前に、友人の”シベリアンハスキー”に偶然馬乗りにされた際は、難なく退けられたのに……! 先程のウルエナは、そのハスキーよりも”チョッピリ重く強い”ぐらいだと思ってたのに……! 何なんだよコイツはッ!? この強さはッ!? 重さはッ!?
圧倒され続け、反撃の隙も見えない彼が出来た事は……疲弊していく”体力”と”根性”を更に粘らせ、先の見えない反撃のチャンスを何とか窺い続けたが……。
〜 プウェェッ! ガブッ! ガブッ! プウェェエェェッ!
ガブッ! ガブッ! ガブッ! ブゥゥンッ! スカァッ! 〜
「ッ!? ダァァァァァァァァッ! クソォォォォォォォォォォォッ!」
――運命はボスを嘲笑った……ッ!
最後の賭けにと、先程と同じように放った”右フック”が見事に空振りに終わってしまったのだ……! 慌てて返す拳による”右裏拳”で巻き返そうとするも、それすらも空振りし……思わず雄叫びを上げる程の絶体絶命……ッ!
しかしながら、そんな彼の雄叫びに一瞬怯む……と言ったご都合展開もなく、彼女の鋭い牙が……防御の間に合わないボスの”喉”目掛けて突き進む……ッ!
〜 ザッギュゥゥゥゥンッ! ドッゲシャァァァァッ! 〜
……しかし、運命はボスを突き放しはしなかったようだ……。
何故なら、どこか既視感のある”速さ”で……今にも噛みつかんとしていたウルカノが唐突に姿を消していたのだ……!?
……いや、正確に言えば消失マジックの如き速さで、彼の視界の右側から飛び込んで来た”トアル影”が……彼の目には見えない程の素早い”サッカーボールキック”を彼女の胴に減り込ませたのだ!
……そして、喰らった彼女は……その飛翔先にあった樹木に、プロサッカー選手張りの速さでシュートさせられたのだ……ッ!
〜 ヒュゥゥゥゥンッ! ドガァァァッ! ガサァァァッ! 〜
……その後、ウルカノは叩きつけられた樹木の根本にあった”茂み”に落ち、生死不明になってしまったが……少しの間は起き上がりはしないだろう……恐らく。
しかしながら、熟練の兵士や狩人は、こういう場合は獲物の生死を確認しに行く物なのだが……そのどちらでもない一般人らしいボス君はと言うと……?
「アァァ、イッテッテェェ……アレッ?
ウルエナは……ッ!? お、オルセットッ!?」
――そう言いながらゆっくりと上半身を起こすボスの視線の先には、チョッピリ息を切らしつつも平然と佇むオルセットの背中が見えていた……!
一方で彼女は、すぐには彼の呼び掛けに応じず……蹴り飛ばしたウルカノの方向を何故かジッと見つめていた……。
〜 ……クルッ ザッ、ザッ、ザッ、ザッ…… 〜
「な……何だよ? オルセット……?
何で……そんな……怖げな顔をして……!?」
〜 ……ガシッ! 〜
――少しの間見つめ続けた後……振り返っては無言のまま迫る彼女の威圧感に、思わず立ち上がる事を忘れ後退るボス……。しかし、再び彼の声に応答する事なく……ウルエナたちとの格闘で、すっかり土や草などの汚れに塗れた彼のスポーツジャケットの襟をガッチリと掴むと……ッ!?
〜 ザッギュゥゥゥゥンッ! 〜
「ドワアァァァァアァァァァアアァァァァァァッ!?」
――西部劇などで馬に引き摺られてしまう人の如く……ボスは彼女の”消失マジックの如き速さ”を実体験しながら、ウルエナ達と戦った場所から急速に離れて行くのだった……! 解体したボアも……討伐したウルエナ達も……何もかも置き去りにして……!
〜 バッ、キキキキキィィィィ〜ッ! ゴロンゴロンゴロン……ドサッ! 〜
――数分後、「トルガ村」付近の森で少し開けた場所に、オルセットは自身の脚に”急ブレーキ”を掛けるかの如く止まった。
だが、止まる直前に……何故かボスのジャケットの襟を掴んでた左手を離してしまう……。無論、その時は彼女の”消失マジックの如き速さ”は、消え切っていなかった。
……そのため、駅で急ブレーキする電車に乗っていた際の”慣性”以上の勢いで……彼は何度も後転を繰り返した後、ようやく止まったのであった……。
「……ゲホッ、ゲホッ! ……ハァハァハァハァ……。
デロリアンで西部開拓時代にタイムスリップした、主人公の苦労が分かった気がするぜ……」
……さて、何故か”具体的な例え”を出してきたボスはさておき……。
……おい、お前の好きな”オフザケ”だぞ? ノッテみろよ……おいッ!?
……何処が私への”皮肉”となるのか、”意趣返し”すらになるかは分からないが、それはさておき……。
オイッ!?
――ようやく諦めがついたのか、自身にゆっくりと迫る足音が聞こえて来ていたので、うつ伏せになっていた状態から顔を上げると……誰かの素足があった。
恐る恐るボスが更に見上げてみると、そこには勿論……自身を見下ろすように佇むオルセットが居たのである。
「……よっと、フゥ……。
……オルセット? まず……オレを助けてくれた事には、感謝してるよ……」
――全身に付いた汚れを払いながら立ち上がると、とりあえず”助けた事”にお礼を言うボス。
「けど……何でだよ?
何で、オレに何も言わず……突然、逃げたんだ?」
――語気が強まり始めるボスに対し……真っ直ぐ見つめていたオルセットは黙ったまま一瞬、目を逸らす。
「それに……! さっきみたいに、ウルエナ供と戦った場所から離脱……逃げ出す際、何でオレを引き摺るように運んだんだ!?」
――よりボスの語気が強まるも、彼女は目を逸らしたまま黙り続けた……。
「……なぁ? そのままダンマリとかやめてくれよ?
助けてくれた事には、ホント感謝してる……! けどな? 今、大事なのは……何で、逃げたり引きずったりした”理由”……! あぁ……”理由”をッ!
オレは今、聞きたいんだよ! オルセットッ!?」
――ジョジョに語気を強め、最終的には怒鳴るようにオルセットに言ってみるも……彼女は怒鳴られた際に、一瞬目を瞑って怯むも……その後も一瞬だけ横目にボスを見た後は、目を逸らしたまま黙り続けた……。
しかし、この態度に彼は痺れを切らしたのか……彼女の両方を掴むと、軽く揺さぶった後に強気に語り出す……!
「なぁ!? 頼むよオルセットッ!?
この質問に答えるのはそう難しい事じゃあないだろ!?
ボア肉もそうだけど……それ以前にオレは、お前を守るためにアイツらと戦って……!」
〜 ブゥンッ! パチィィンッ! 〜
「ヘボしッ!?」
〜 ズザザザザザァァァァァァ……ッ! 〜
――「……な、何が起こったんだ!?」
……自身の間抜けな悲鳴を棚上げしつつも、ボスはそう思っていた。
無論、そうだろう。言い終わろうとした際に、左頬に小さなフライパンでフルスイングされた如き……鋭い”痛み”と”衝撃”が走ったのだから……ッ!?
そして、先程の転がった際の慣性のように……今度は軽い土煙を上げながら、クロールの息継ぎ時に似たポーズで地面を滑っていってしまう彼……!
「ウッ……イッタッタッタ……」
〜 ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ……バタンッ! 〜
「……ボスのバカァァッ!」
――滑った部分の痛みを摩る暇もなく、上半身を起こしかけたボスは再び仰向けに地に伏してしまう。勿論、それは彼を殴り飛ばしたオルセットが……両手による”壁ドン”ならぬ”床ドン”で、彼を押し倒したからだ。
「……え?」
「バカッ! バカッ! バカァァッ! ボスのバカァァッ!」
「わ、分かった! 分かったからッ! 落ち着けッ! オルセットッ!」
――何やら、オルセットに勘違いされている模様であると悟ったボス……。
彼女を退かしてから、誤解を解こうと上半身に力を込める彼だったが……何故か動かない。
覚えのないダルさを前に……慌てて「ステータス」を確認すると、彼は目を見張ってしまう……!
ボアとウルエナとの連戦によるものか、いつの間にか彼自身のレベルが「2」にアップしていたのだ!
だがしかし……「HP:11/121(VIT:+7)」と、彼女のパンチ一発で瀕死になり掛けている、自身の”紙体力”も前にして、喜んで良いのか……嘆いた方がいいのか……彼は一瞬、分からなくなっていった……。
「おっ、落ち着く……? 落ち着いてられないよッ! ボスゥッ!」
――いつの間にか、話が進行している事に気づき……一瞬”ハッと”なりつつも、何とか現実に戻ってこれたボス。
「わっ、分かったよ! だけど”何が”なんだッ!?
”何が”オレがバカだった事なんだ!? ”何が”落ち着いてられないんだッ!?」
――「HP」の消耗からか、頭にガンガンと響くオルセットの怒鳴り声を前に……朦朧とする意識を何とか根性で保つようにしつつも、何とか激情に駆られている彼女の質問の真意を探ろうとしていた。
「だって、だって……!
さっきボスは、ボスは……! ギリギリ、死んじゃう所だったでしょッ!?」
「……えっ?」
「……えっ? じゃあないよッ! ボスゥッ!
何、オトボケな顔をしちゃってるのさッ!? 心配して当然でしょッ!?
逃げようって言ったのに、逃げなかったのもバカな事でしょッ!?
……戦って……戦って! 死んじゃうって事はッ!?」
――「オレが……死ぬ……?」
嗚咽にボスの顔に涙を零していたオルセットとは裏腹に……ボスは、”自身の感性”に困惑してしまっていた……。
これはどういう事かと言えば、ウルエナ戦時に彼の中で渦巻いていた「彼の思い」はこうだ。
「絶対にボア肉を守る!」、「絶対に逃げずに、テメェらを倒してやるッ!」
……それに関する事以外、微塵にも考えず感じていなかった事を悟ってしまっていたのだ……!
……”ちっぽけな逆境”という……避けられなくもない驚異に、むざむざ殺される寸前でも、「自身が死ぬ」事なんて考えず感じても無かった事を……彼は何故かハッキリと覚えていたからだ。
人間、誰しも”余程の事”や”覚悟”がない限り……「別に死んでも良い」なんて常に思わないだろう。ましてや……織田信長が「人間五十年、化天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり……」と歌われた、”敦盛”という曲舞の一節のような……命の軽い”戦国時代”みたいな「中世の生まれ」な訳じゃあない。
無論、彼の記憶にハッキリとあるのは「ショッピングモールで家族と買い物をしていた」事だ。
……そんな、自身の感性をオルセットに気付かされ、いよいよ自身の記憶喪失も……本当にただの記憶喪失だけなのか……と、自身が元から”真面な大学生”だったのか……? 怪しくなってしまっていたのだ……!
「……じゃあ」
「……ッ?」
「……じゃあ、オルセットは……そんな事を言うぐらい……戦った事があるのか……?」
……不意打ち気味に、呆然としていたボスから質問を掛けられ……思わず目をパチクリさせてしまうオルセット。少しした後、見つめ合うようにしていた視線を逸らし……右手の甲で涙をゴシゴシと拭いながら、彼女は口を窄めて呟いた……。
「……ないよ」
「……えっ? じゃあ、なんで……!?」
「ないよッ! そりゃあないよッ!
ボクだってボスと同じ、”キオクソウシツ”しているんだしッ!」
「……まっ、まぁ……そうだよなぁ……」
「でも! ”キオクソウシツ”しているけど……ッ! 覚えてないけど……ッ!
なんか……こう……スッゴク、イヤな気分なんだよッ! 戦うって事がッ!」
――「体が覚えていたんだろうな……。あの走りも、蹴りも……!」
驚きつつも、ボスは納得していた。彼女の自覚のない規格外の身体能力に……! だが、彼女の発言から大方予想は付くが……ある事に興味も沸いてしまう物である……。
「……じゃあ、オレに会うまでに遭遇……会ってきた”魔物”や”野盗”はどうしたんだ?」
「そっ、それは……」
――再び目を逸らしてしまうオルセット。
「……言いにくい事なのか?」
「……」
――目を逸らつつ、膨れっ面になってしまうオルセット。
「……大丈夫。
笑ったり、変に言ったりしないから……オレに教えてくれないか?」
――そう言われると、オルセットは目を逸らつつも何度かボスをチラチラと見た後、彼の耳元近くまで頭を下げて……?
「……逃げてた……」
「……えっ? よく聞こえないぞ?」
――オルセットが、表情を見れない事を良い事に……チョッピリ、悪戯っぽく微笑みながら言うボス。
「にっ、逃げてたんだよッ!
……”魔物”や、”ヤトウ”に……会ったらすぐ……”ピュ〜”……って……」
――思わぬ怒声に慌てて耳を塞ぐボス。
しかしながら、その後のオルセットの発言は……何故か、声が尻すぼみに小さくなって行ってしまう。
「アレ、おかしいなぁ?
オレと会った際は、何もかも記憶喪失していたって……言っていた気はするんだが……?」
「いっ、言いたくないでしょッ!
ボスが”優しいニンゲン”だって事、分かんなかったんだし!
後……はっ、恥ずかしいワケだし……」
――再びボスと目を合わせて怒鳴っていたオルセットだったが……またまた目を逸らしながら声が尻すぼみに小さくなって行く……。
その際に若干、頬も赤らかとなっていたためか……ボスは、その思わぬ彼女の”可愛さ”に思わず頬を緩めてしまう……。
「あぁぁぁッ! ボスゥゥゥッ! 笑わないって言ってたでしょッ!?」
「悪ィって……! 悪かったってッ……!
だからそう……軽くても、ポカポカ殴るのはやめてくれッ! マジで死んじまうぞッ!?」
「……えっ? あっ、ごっ、ゴメン……ッ!?」
――彼女の軽い”猫パンチ”が眼前で交差する両腕に当たる度……ジョジョにだが、先程のダルさが増して行く事に違和感を感じたボス……! そこで再び「ステータス」をチェックすると、「HP:11/121(VIT:+7)」とあった筈の表記が、既に「HP:7/121(VIT:+7)」と1桁代に突入していたのだ……!?
「……エッ!? 蓄積ダメージでもあんのかぁッ!?」……と、体感で”5発”くらい彼女の”猫パンチ”を喰らってからダルさを感じ始めていた事に気づいた彼は、慌てて彼女の攻撃を中止させた訳だ。無論、突然”死ぬかも”……と言われ、訳も分からず腕を止めざるを得ないと判断した彼女……!
「ねっ、ねぇ……ボスゥ?
何で……突然、”死んじゃう”なんて言うの?」
「……さっき、オルセットに殴り飛ばされて……オレは今、瀕死の重症……」
「……ヒンシノジュウショウ?」
「……さっき言ったように、”死にそうな大怪我”って事だよ……!」
「えっ!? ウソッ!?
あれ、軽いビンタでやったハズなのに……ッ!?」
――「……”パンチ”だと思ってたのに、”軽いビンタ”で瀕死にされるオレの”紙体力”って、一体……!?」
体と共に、自身の心にも重い”ヘビー級パンチ”を再度喰らったような感覚に、白目になりかけるボス……ッ!?
〜 ポタッ、ポタッ、ポタポタッ、ポタッ…… 〜
「……?」
「ウグッ、ヒグッ……ごっ、ゴメンねェ……! ボズゥ……ッ! ゴベンねェェェ……!」
――知らず知らず、ウルエナ以上に自身がボスを殺し掛けていた事実にショックを受けたのか……さっきの嗚咽をしていた以上に、咽び泣くオルセット……!
”紙体力”な事も含め……少し複雑な気持ちになっていたボスであったが、それ以上に彼女が純粋に自身を心配してくれていた事や、ビンタした事を今のように号泣する程に謝っていてくれていたため……彼女を嫌に思う気持ちは直ぐに四散していた。
そして、彼の胸元に顔を埋める彼女の”涙”と”鼻水”で、自身の”ジャケット”と”シャツ”がグチャグチャになって行く事に、内心タメ息を吐きつつも……彼は左手を”彼女の背中”に、右手を”彼女の頭”に回すと、”ポンポン”と軽く叩きつつ彼女を宥めようと試みる。
「分かった、分かったよ……オルセット……オレも悪かったって……。
オレが”死ぬかもしれない”……って、心配掛けちまったんだよな?」
「……うん」
「……で?
オルセットとしては、”逃げるべき”と判断した事を……オレは”逃げない”って言ったから、オレがした事は”バカ”だったと?」
「……うん……。やっと……分かった?」
「あぁ……身に染みて分かったよ……」
「……?」
「……今みたいに、”痛いと思うぐらいに理解した”って事!」
「……へ〜」
「……ただし、今後ビンタしたり、殴ってからのお説教は一切聞かないからなッ!?」
「……ゴメン」
「……分かったなら良いよ、オルセット」
――「……こんなにも、オレの事を思ってくれる奴って……家族以外にあっちで居たかなぁ……?」未だ自身に馬乗りになり、その眼前で”シュン”と落ち込んでいるオルセットの頭を撫でながらボスは思っていた。
記憶喪失の身であるため、正確には覚えてなかったモノの……少なくとも、家族以外でこのような何処かホッコリとした気持ちを感じたのは、初めてであった。
「……じゃあさ?」
「?」
「何で……何で、オレを助けてくれたんだ?
オルセットの忠告……あっ、イヤ……注意をオレが無視したから……愛想を尽かして逃げたんだろ?」
「……アイソヲツカス?」
「あぁ……好きじゃあないとか、相手にしてらんない……って事な!?」
――彼女の扱い方をまだまだ難しいと感じつつも、律儀に分かりやすく言い直すボス。
すると、未だ涙を流しつつも埋めていた上半身を起こし……小首を傾げていたオルセットが、ジッと彼の眼を見つめ始めたのだ。そして、今更気づいたように慌てて右手の甲でゴシゴシと涙を拭くと……軽く俯きつつも、ポツリポツリと語り出すのであった……!
「もう逃げない……って、ボスが言ってたから……」
「ッ!?」
「それをカッコイイなぁ……って何故か思って……。
だけど……戦う事はバカバカしいって覚えてたから、ボクは……逃げちゃって……。
……けど……戦いたくなかったけど……”オクビョウ”なボクだけど……。
それ以上に、「ボスを助けたい」って気持ちが……逃げている時に大きくなって……」
「……」
「だから……助けたんだと思う……。
ボクも……もう逃げたくない……って、ボスの事を考えたら……何故かそう思ってたから……」
「……これ程思ってくれるなら……オレも”戦略的撤退”って奴を、オルセットの”臆病さ”から学んだ方が良いかなぁ……? ”戦場では臆病な奴が生き残れる”……って、何処かの格言にもあったハズだし……」と、何処かの”ジョジョな策士”を思い浮かべながら彼は考えていた。
呑気に思えるかもしれないが、聞き終わった後に咄嗟に目線を逸らし……右手で両眼を覆っていたボスは、涙腺が崩壊寸前であった……!
「ぼ、ボスゥ? 大丈夫? ボクがビンタした所が……痛むの?」
「あっ? あぁ……大丈夫だ、大丈夫だ……。
ちょっと……目にゴミが入ってな……」
「えぇッ!? ほっ、本当に大丈夫ッ!? ボスゥッ!?
ボクのビンタで”ヒンシノジュウショウ”になったんだから、それじゃあまた……!?」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょ、ちょッ!?
そこまで、オレは貧弱じゃあねェよッ!? 」
「……ヒンジャク?」
「弱々しい……って事だけど、オレはそうじゃあねェぞッ!? ……たぶん」
「……えぇぇ〜? どっちなのさ?」
「とにかく! 目にゴミが入った程度じゃあ、オレは死なねェよッ!」
「……よ、良かったァァァ〜ッ!」
――そう言うと、ヘニャヘニャと体の力が抜けたのか……再びボスの胸にゆっくりとダイブして行ってしまうオルセット。「……また涙と鼻水塗れになるのかぁ……」と、再び内心でタメ息するボスだったが……そんな呆れとは裏腹に、彼の両手は彼女の背中と頭に回され、再び彼女を慰めていたのだった……。
「……ありがとな、オルセット……」
――小声で呟くボスだったが、彼よりも耳の良いオルセットには丸聞こえだったようで「えっ!?」……と顔を上げ、お互いが至近距離で見つめうような構図が出来てしまう。
こういう場合、洋画などでは……問答無用で気持ちが昂り合いあった男女が、熱烈なまでの”キスシーン”を唐突に見せつけてくる物であるが……?
「お前さん達?」
――舞台は海外っぽくも、これは日本の作品である。
腕を組み、右足の爪先を”トントン”と小刻みに上下させ……目の前で繰り広げられる寸前だった”甘ったるいシーン”に苛つきを隠せない”ベルガ”が、いつの間にか彼らの真横に現れていたのだ……ッ!?
不意打ちな声掛けに驚愕を隠せないボス達は、お互い飛び退くように離れ……その場に正座した。
無論……オルセットの方は、何故かボスを見て瞬時に彼を真似ただけなのだが……。
「べっ、ベルガ婆さんッ!? なっ、何でここにッ!?」
「……何で? 何でって、此処は”アタしゃ家のすぐ近く”だワサ。
薪割りしている最中に、そこの獣人の嬢ちゃんのギャーギャー声が、嫌でも聞こえて来たら……誰だって、気になって様子を見にくると思ワサけどねェ……?」
――冷や汗が止まらないボス。
そりゃあ、あの”B級映画”にもありそうな「ラブシーン」を聞かれてしまったから当然である。勿論、「……穴があったら入りてェェェェッ!」……と内心では絶叫し、悶えまくっていた訳であるが……。
……オルセット? 頭に”クエスチョンマーク”を浮かべながら、ボスの様子を見て「……暑いのかなぁ? それとも、なんかヤバい感じなのかなぁ……?」……と、ギリギリボケ切らずにいたのだが?
「所で……?
いい雰囲気を邪魔して悪いワサけど……今日、採ってきた食料は?」
「「……あ゛ッ!?」」
――その一言は、頭の中で必死に「ラブシーン」に対する策を練っていたボスに、”白旗”を上げさせるのに充分な一言であった……。
その後、ボスとオルセットによるお互いの必死な弁護も虚しく……その場でベルガに小一時間程説教された後、二人は日が沈む直前まで再び食料探しに駆り出されたのだった……。
しかし昼前辺りに出発し、既に夕暮れに近かった故か……オルセットがボスの救出のためにほっぽてきた”食料袋”も、新たに発覚した彼女の優れた嗅覚でも、”袋の残骸”までしか見つけられず……。
結果、その日の夕食は再びベルガが採ってきていた、兎やキノコなどの山菜をご馳走になるのであった……! 勿論、その料理は質素ながらも美味しかったが……二人は食事中、常に”気まずさ”が抜けず、終始もどかしかったんだとさ……。
チャン♪ チャン♪
<異傭なるTips> 部位攻撃
人間、”腕”や”脚”を無くしたとしても、即座に死に到る事はない。
部位を無くした事による”心の痛み”や、”幻肢痛”に悩まされる事はあっても……”義手”や”義足”を付ける事で、元の生活に戻れる可能性がある事が、良い証拠だ。
しかし、現代人はそうであっても……そのような知識を知らない”魔物”や”異世界人”にとっては深刻な問題となるであろう。特に……戦闘中では。
”魔物”は多種多様かつ、不定形な者も存在するため確実な事は言えないが……。
(頭部)
人体の急所。貧弱な装備でも、高いダメージを狙う事が出来る。
負傷すると、ダメージを受けたショックで視界がぼやけてしまったり、目眩によってフラついては動きがままならなくなってしまうだろう……。
負傷が深刻になれば……勿論、待つのは”死”だけである……!
(腕部)
人類の特許。高いダメージは狙えない部位の一つ。
負傷すると、近接武器であれば……”攻撃速度”、”投合距離”、”バインドの勝率”が低下してしまう……。
遠距離武器であれば……”エイム時の手ブレ増加”、”連射速度”、”リロード速度”の低下を招いてしまうだろう……。
負傷が深刻になれば……道具や武器など”手で扱う物”を一切使用できなくなってしまうだろう……。
余談だが……四足歩行の魔物相手では、”脚”と同じ効果が出る事もある。
(脚部)
人類のもう一つの特許。高いダメージは狙えない部位の一つ。
負傷すると、”移動速度”及び、”携行重量”が低下してしまうだろう……。
負傷が深刻になれば……ダッシュする事が出来なくなり、歩く事すらままならなくなってしまうだろう……。
(胴体)
人体のもう一つの急所。頭部程ではないが、当たり場所によっては高いダメージを狙う事が出来る。
負傷すると、生命維持に支障をきたしてしまい……通常時以上に”スタミナの減少”が早くなったり、狙撃銃などの一部の遠距離武器で、手ブレを抑える”ブレスコントロール”を行える時間が短くなってしまうだろう……。
負傷が深刻になれば……勿論、頭部同様に待つのは”死”だけである……!
……と一部を紹介したが、これ以上は彼らの冒険を見て行く事で、垣間見えて行くであろう……!