RE:Mission-7 食料確保二挑戦セヨ
――雀のさえずり……には程遠いモノの、それによく似た気持ちの良い鳥の鳴き声が朝日へと昇って行く頃……。
ボス達は「トルガ村」を囲む、森のとある一角を歩いていた……。
〜 パチン! パチン! パチンパチン!〜
「クリッカー、クリッカー、クリッカー……。
あぁぁぁぁぁッ!? 何でオレは出来ないんだよッ!?」
――舗装もなく、獣道が所々散見するぐらいの、森に広がる木々の合間を縫うように……ボス達は歩いていた訳だが…‥。
その最中、何故かボスは”指パッチン”を繰り返していたのだが……実に奇妙だ。先程から、立派な音を鳴らせているというのに……「出来ない」と叫び、両手で頭を掻き毟っているのだ……!?
「おっ、落ち着いてよぉ……ボスゥ……」
「でも、オルセットは出来んだろッ!?
魔法が苦手だって言ってたのにッ!?」
「苦手……って言うよりも、コレしか出来ないんだけどね……」
〜 パチン! ボッ! 〜
――オルセットが右手で”指パッチン”をすると……? なんと! 何処からともなく、彼女の右手人差し指に、”火”が点いたのではないかッ!?
無論……人差し指の第一関節が折れ、そこから火が出るような……”ライター機能付きの赤い義手”を、彼女が取り付けている訳でもない……。彼女は着火装置や燃料を手の中に仕込む事もなく、更には火の着いた人差し指を熱がる事もない……!
つまり、彼女はただ「指パッチン」をしただけで、人差し指の先に葉巻などに火を付けるには丁度良い……”小さな火”を灯したのだ! これを魔法と言わず、なんと言えばいいのだろうか……?
「それに……ボクだってすぐに出来た訳じゃあないんだしさ。
ボスだって練習していれば……きっといつか出来る様になるよ! 絶対ッ!」
「励まし、ありがとうなオルセット……。
……そんな日が来ればいいんだが……」
〜 パチン! パチン! パチンパチン……!〜
「もぉ、何そんな不機嫌になってんのさぁ……ボスゥ?
ボクが昨日のお礼に、その「クリッカー」の魔法を教えて上げたら――食い付くように「お、おせーて! おせーてくれよぉ!」……って、急に変な感じに頼み込んで来たってのに……?」
「なりたくもなるわッ!?
仕方ない事とは言えど、一週間寝込み続けてた”オルセット”を”狩り”に駆り出さなきゃ行けないなんて、危険だろ!?」
「……ボス……」
――ボスに注がれる彼女の熱っぽい視線と共に、心なしか口元が緩む。
「……それに、オルセットに教えてもらったってのに……オレに魔法の才能がないなんてよぉぉぉぉッ!? ……泣きまくりたくなるぜッ!」
「……やっぱり、そっちなんだね……」
――哀れ、オルセット……。
微笑ましかった気持ちが、ボスの残念な一言によって一気に四散してしまう……!
「けど……そんなに羨ましがるモノなの?
この魔法、誰が言ったかは覚えてないけど……誰でも簡単に覚えられる程、簡単らしいのに……」
「だからだろ!? オルセットッ!?
誰でも簡単に出来るって聞いたからやってるのに、全然出来ねェんだぞッ!? オレの居た”地球”じゃあ、こんな事絶対出来なかったんだぞッ!?」
〜 パチン! パチン! パチンパチン……!〜
「……そんな魔法よりも……。
ボクは”イセカイの事”をたっ、くさんっ! ……知っているボスが羨ましいよ……」
――急に俯き、自嘲気味に話すオルセット。
それに対し、魔法が出来る彼女に羨望の余り突っ掛かり気味に話し、再び「クリッカー」という魔法に熱中していたボスは、思わず手を止め意気消沈してしまう。……まぁ、無理もない。
昨日、彼女は自分自身が何者であるかも分からない程に、「記憶喪失」をしていた――そういった事実を、彼は知ってしまったのだから……。その事実を前に彼女を揶揄する程、彼も図太い精神を持ち合わせている訳じゃあない。
「……そんなにか?
魔物はいないし……魔法もないし……平和だからこそ刺激的な事も少ない……。
退屈がほとんどな場所だって、この道中で話したろ?」
「……だからこそだよ。
魔物もいない、ボクに酷い事をしたような人間もいない……いつも襲われたり、殺される事とかに怯える事もない……。お腹だって、空いたらいつだっていっぱいに食べられるんでしょ……?
……そんな魔法の代わりに、”カガク”が発達したボスの世界の方が……ボクは羨ましいよ……」
――「……金さえあればな?」……と、ボスは不粋なツッコミを胸中でするが、同時にこの彼女の一言によって、ある事も思い出していた……。
それは、趣味でミリタリー関連の調べ物をしていた際に見た一枚の写真……。
アフリカ大陸の北アフリカに属する「スーダン共和国」……そこで撮られた、とある”子供の写真”だ。
「……マジかよ……!?」……彼も思わず目を背けたくなるような光景……。
それは、まるでミイラの中身のような……”ほぼ肉と皮”だけに近い体付きの、5歳児にも満たない程の子供が、今にもポッキリと折れそうな細い脚でヨタヨタと歩いている写真であった……。
また、その子供らしき写真はもう一枚あった。お腹が空き過ぎたのか……サバンナらしき荒野に蹲り、その後ろで死肉を漁る”ハゲタカ”が、じっと……その子供の死期を待つかのように、背後から見つめている姿を……! どちらも、表情は見えなかったが……決して”幸せ”と言う物は、微塵にも感じ取れない代物であった……。
朝昼晩と、三食しっかり自分が食べている中で……この子供ような人達が……!? これが、この人達の”アタリマエ”なのか……ッ!?
写真越しとは言えど、何故か胸が抉れるような痛みを……彼はこの異世界に来ても覚えていたのだ……。
「……異世界って……現実で言えば、”発展途上”や”内紛”が未だ続くようなモノ……なんだろうな……」
……思い出した後に続く彼の胸中の言葉は、何処かズレている気もしなくもないが……。政府があまり機能せず……自分の身は自分で守らなくてはならないと言う事に関しては、異世界であれど”共通した事”であろう……。
そして彼は、ゲームのNPCの頭上に”名前”が表示されるかのように、オルセットの事を「異世界の住人」……とボンヤリとした認識をしていたのだが……。
それが急に「記憶を失くした難民」……という風に変わったのを、痛感していた……。
「ゲームの中なんかじゃあない……。オレは現実の中に立っているのか……!」……彼の心の中で、”何か”が変わり始めた瞬間であった……!
「……スゥ、帰る事に拘りはないんだけど……連れて行こうか?
……オルセットが良いならな……?」
「……えっ?」
「あぁ……けど生憎、今はオレが元の世界に帰れる術は知らないんだ……。
だから……」
「”アイニク”……?
……フワァ! ボスゥ! それって、どんな”お肉”なのッ!?」
――昨晩の夕飯で、”ウサギ(らしき)の腿肉”を口にした途端、やけに”お肉”にご執心になっていた彼女が無邪気にボスに尋ねる。
「……”あまり期待するな”……って事な? 生憎は……」
「……へぇ〜、そうなんだぁ〜」
――無邪気に納得する彼女に、思わずタメ息を吐きそうになるが……ボスはグッと堪えた。
「……とにかくだ。
いつかになるかは分かんないが……”帰れる時”があるなら……オルセットも来ないか? それまでは……オレが、お前のために戦って行くからさ!」
「……」
――彼の”愛の告白”とも取れそうな一言に、何故か彼女は浮かない表情をしていた……。
「……? どうした?」
「ううん、何でもない。
ただちょっと……ボスと一緒に”チキュウ”って”イセカイ”に行ったら……どんな楽しい事が待ってるか……って、ボンヤリと思ってただけだよッ!」
――だが、そんな表情もボスが声を掛けると……?
まるで”気のせい”かと錯覚しそうになる程に、ハニカミながらいつもの明るく無邪気な表情に、弾むような元気な口調へと早変わりし、オルセットは彼に返答するのであった。
「……そっ、そうか?
まぁ、どうなって行くか分かんないが……頑張っていこうなッ!
オルセットッ!」
「うん! ボクも頑張るよッ!」
――悲しいかな……生まれて初めてなのか、「女性からの肯定」……と言う物に浮かれてしまったのだろう……。
先程の「記憶を失くした難民」という認識は何処へやら……僅かに残る”口元のニヤケ”を、オルセットは見逃してあげたかも定かではないが……。
二人は呑気にボスが掲げたボンヤリとした”今後の目標”に、「ガッツポーズ」を決めていたのであった……。彼のポーズを見て、慌てて真似をしながら……。
しかし、そんな長閑な森林浴もそろそろ”終わりの時”が近づいていた事を……彼らは思い知らされるのであった……ッ!
〜 ジャリ……ジャリジャリ……ブホォ……ジャリジャリ……ジャリ……〜
――「……ッ! 隠れろ!」と、ボスと並んで歩いていたオルセットを、近くの茂みに押し込みながら彼は隠れる。「ちょっと! 何するのさッ!?」と勿論、彼女は抗議する。
しかし、彼女の叫びが森に響く前に、素早く彼女の口を左手で塞ぎ、右手の人差し指を口に当て……”シ〜ッ”と騒ぐなと注意する彼。
そう言われて不満そうな視線を向ける彼女だが、この後に見た物に対し、彼の行動を納得せざるを得なかった……。
それは、彼が口に当てていた指を首元付近で突くように”トアル方向”に向け、「そっちを見ろ」と促してくる方向先に居た……彼らが探していた「獲物」であったからだ。
血走った凶暴そうな目……右の鼻の穴だけが異様に大きい豚鼻……それ以外はパッと見、地球に居た「ニホンイノシシ」に良く酷似していたのだが……白と黒に分かれた”牙”と、眉間の間から”ニョキッ”と生えている一角獣の如き”螺旋状の角”が……ようこそ異世界へ……と、ボス達に”明確な現実”を叩きつけていた……!
~ウィィ~ン、ピピピピピ!~
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<コーカサス・ボア>
和名:三角猪
年齢:6歳(オス)
体重:96kg
体長:122cm
肩高:76cm
属性:無
<レベル:9>
HP:1044/1044(VIT:+7)
MP:59/59
DE:5 (厚い脂肪)
能力値
STR:9.4
PER:10.1
VIT:7.6
AGI:11.2
INT:0.8
LUC:0.4
MAG:0.1
[ Strength ]
<身体強化 Lev.1>
[ Perception ]
<嗅覚強化 Lev.4>
[ Vitality ]
<物理耐性 Lev.1>
[ Agility ]
<強壮 Lev.4>
<強靭 Lev.4>
《詳細情報》
バレッド王国辺境「スップリ森」など、ウォーダリア各地の森に必ずと言っていい程生息する、猪型の魔物。
鋭いトゲのように発達した二本の¨牙¨と、焦げ茶色の毛皮に、特徴的な¨一本角¨を額に生やす魔物であり、その気性は魔物らしく、荒く雑食性。
その上、とんでもない¨悪食¨であるため、目につけたモノは何であろうと仕留めて食するために、 見境なく突撃する習性がある。
強さ的にはその”習性”と、頑張れば戦闘経験がほぼ皆無な村人でも狩れる”行動の単純さ”相まって、冒険者ギルドの指定ランク最低の<ストーンクラス>である「ゴブリン」と大差はない。
しかし、実際に定められている指定ランクは、¨2つ¨も上の<アイアンクラス>であったりする。
これは、ゴブリンに勝るとも劣らない¨繁殖力¨を持つ上に、とある城塞都市で”2m近い”最大級の個体が、「厚さ¨3m¨にも及ぶ¨城壁¨を窪ませた」……との記録が残っている事が故である。
肉は、ジビエ特有の独特の匂いを発するモノの、美味である。
街や首都では大した肉ではないが……辺境などの庶民の間では”貴重な食料”の一つで、特に”子供の個体”を仕留められた日には、すぐにでもその日の食卓に並び、諸手を挙げて喜ばれる程のご馳走なのである。
余談だが、鼻の穴の”右”が大きい場合には”雄”。
逆だった場合は”雌”と言う奇妙な特徴を持っている……。
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……とボスは、右目の目尻付近に”人差し指”と"中指"を揃えて当て、「スキャン」のスキルを通して見ていた……!
視線の先に居た……地面の土を鼻先で掘り返し、時折周囲の匂いも嗅ぎながら食料を探す「コーカサス・ボア」を……!
因みに余談だが……実はボス、このボアを既に見た事がある。
ただ、オルセットを助ける際に蹴り飛ばした個体ではない……。
ベルガの家付近にヒョッコリ迷い込んだ個体をだ……その際に「スキャン」したのである。
因みに、この「スキャン」の情報量を前に、「……うわ、今まで見てきたどのラノベよりも詳しいなぁ……コレェ……!?」なんて、若干引くように思っていたが……?
その反面、「村とかの安全な場所に魔物なんて……居るゥゥゥゥッ!?」……と、未だゲーム感覚が抜けきっていおらず、”高を括る”中で初対面してしまったのである……! その衝撃の余り、その場で思わず硬直してしまう中で、「スキャン」をしていたボス……!?
だが、そんな彼の横を”スルリ”……と、その日の薪割りをしていた斧を通りすがるが如く、彼の手からひったくり、流れるように彼へと突進準備をしていたボアの頭へと、容赦なく振り下ろした”ベルガ”を目にした途端……すっかり忘れていた……。
まぁ、その日に食べていた「ボアのシチュー」が思いの外、美味しかった事も重なったそうだとか、ないだとか……。
そんなこんなで、彼は初見だから……と驚く事なく、冷静にオルセットを物陰に押し込み、隠れられた訳なのである……。
「ど……どうするの……? ボスゥ……?」
「ど〜するも、こ〜するも、病み上がりだし……。
その荷物を持ってちゃあ、オレを手伝うにも手伝えないだろう?」
――そう言うボスが向ける視線の先には、麻製らしき袋がオルセットの右肩に担がれていた。彼女の腰ぐらいまである大きさの袋は、そこそこといって良い程に膨らんでおり……緊張しているのか、袋を握る彼女の両手は少し震えていた……。
「だ……大丈夫? ぼ、ボクに出来る事は……」
「心配すんな。……それともなんだ?
飯抜き覚悟で、その袋を放り捨ててまでオレを助けたいとでも言うのかぁ……?」
――悪戯っぽい口調で、揶揄うボス。
「そ、それは……」
「……気持ちは嬉しいよ。けどな?
オレもベルガの婆さんも、腹ペコじゃあ狩れるモンも狩れなくなるって……。
それに、あの婆さんの説教……”食料が取れませんでした”……って事で、オルセットも受けたいか?」
――昨日の光景を思い出すかのように、少し天を仰ぐオルセット……。
すると、少しして彼女の表情が曇って行き……膨れっ面となったその顔は、横目にボスの方へと向けられた。
「……イヤだ」
「……だろ?
けど……そんなに不服……いや、納得出来ないのか? その表情……」
「……」
「……まぁ、本当にオレを助けたいと思うなら……今は、その袋をしっかりと守り通すようにしてくれ。オレに何があったとしても……お前自慢の”俊足”で、ベルガの婆さんの家まで走ってな!」
「……”シュンソク”?」
「メチャクチャ”脚が速い”……って事な?
ホラ昨日、部屋の壁や天井を含め……縦横無尽に走っていただろ?」
「あ、あれは……必死……だったから……」
「何だ? 自信がないのか?」
「い、いや……覚えてないと言うか……その……」
――ボスは思わずタメ息……をせず、何とか右手で口を塞いで未然に防いでいた。彼の行動に、小首を傾げるオルセット。
未だ慣れぬ、彼女への配慮の”難しさ”が8割……彼女の無学さに対する”苦労”が2割……と言ったタメ息なのだろう……。
「……いつかお互い、改善出来ればな」……そう胸中でボヤきつつも、彼はこれ以上彼女が不審に思わないよう、何とか言葉を紡ぐのであった……。
「ホラホラぁ、こうしてちゃあ……あのボアもどっかに行っちまうだろうし……。心配だと思うなら、今は少しでも離れておいてくれ……オルセット」
「う、うん……分かったよ。ボスゥ」
〜 ザッギュゥゥゥゥンッ! 〜
「早ァァッ!?」
――消失マジックの如き速さで、ボスの目の前から消えるオルセット。
思わず声を上げてしまった口を塞ぎつつ、慌てて周囲を見渡すと……?
まぁ、彼から見て”森の樹木10本分くらい先”の木の陰から、彼女はヒョッコリと顔を覗かせていたのである……!? 彼は、改めて彼女の規格外さを痛感し始めていたのだが……?
〜 ……ブホゥ? 〜
「……えっ? あっ、ヤベェ!?」
――まぁ、ここまでお互いが気づかないのも奇跡的であったが……。
ボスから見ておおよそ20m、その先に居た「コーカサス・ボア」がようやく彼の存在に勘付いたようで、茂みに隠れていた彼を探すかのように……周囲の警戒をし始めていたのだ。
「落ち着け……狩りなんて初めてだけど……こんな骨董銃しかないけど……やるしかねェんだ……ッ!」
スポーツジャケットの胸ポケットから、フリピスを抜き……それを眺めながら彼は覚悟を決めていた……!
そして……僅かに茂みから顔を出し、まだボアが警戒をしている事を確認すると、フリピスを右手に握り締めながらゆっくりと茂みから出たのだ……。
勿論、現実の猪も動く物には敏感なように……彼の存在を完ペキに認識したようだ。
〜 ……ブホォォォ!? ザッ! ザッ! ザッ! ザッ……!
……スッ、チャキッ……!〜
――ベルガによって頭をカチ割られる直前のように……威嚇も兼ねてか、右前脚で何度も地面を削るように、助走をつけるような動作を取る”コーカサス・ボア”。
それに対しボスは、ボアを真っ直ぐ見据え……右片手で”フリピス”を構えて、狙いを定めていた……。
道具も動物も違うが……何故かその光景は、”闘牛”――あるいは”西部劇の決闘”を思わせる、異様な雰囲気を醸し出している様であった……!
「……フンッ、来いよ……! ブタ野郎ッ!」
〜 ……ブホオォォォォォッ!? ザッザッザッザッザッザッ……! 〜
――蟀谷付近から流れ落ちた一雫の汗を舐め……拭きれない緊張感を誤魔化すかのように、ボスは挑発した。理解したかは定かではないが……明らかな興奮状態に陥ったボアは、彼目掛けて猪突猛進……!
……オルセットにも分かりやすく言えば、一直線に突っ込んで来たのであるッ!
〜 キンッ! シュボッ! ズバンッッ! 〜
――立ち上る硝煙……鼻に付く硫黄の臭い……。
残り10m……と言ったところで引き金を引いていたボスは、サイドステップで滑り込んでくる物体を避けていた。
〜 ズザザザザ……バッ! ……ザザザザザザァァァッッ! 〜
――勿論、その滑り込んできた物体とは……眉間を撃ち抜かれた”コーカサス・ボア”である。しかも……ただ、眉間を撃ち抜かれたのではない……!
何せ、眉間の中央……そこにはこのボアを象徴する立派な角が無傷のまま、その角のちょうど手前の根元辺りから血が流れ出ていたのだ……!
……まぁ、要するに”角に銃弾を弾かれずに、眉間に撃ち込んだ”のであった……ッ!?
「……フゥ……まっ、日頃の訓練の賜物かな?」
……シューティングゲームの?
うるせェ……。
……まぁいいだろう。
私の親切な補足を邪険にしながら、ボスはフリピスの銃口から立ち上っていた硝煙を軽く”フッ!”……と吹き消した後、取り出した胸ポケットへと収めたのである……。
しかしながら……良くもまぁ、ビビリつつも大胆な狩り方が出来たのだ……?
……まぁ、銃あるしィ〜? オレは転生者(?)だし〜?
無双して当ォォォ然言〜か……ァッ!
真面目な話……種明かしをすれば、ボスはベルガからボアに関するある情報を聞かされていたのである……。
その情報とは、”唐突に曲がる事はほとんどない”……と聞かされていた。
余程狩ってきたのか……何故彼女がそんな事を知っていたのか、何処か奇妙な感覚を覚えるボスであったが……その情報が功を成したようだ。
だからこそ、彼はそれを活かし……こうやって”棒立ち”という博打に近い形で、狩る事に成功したのだ。
……まぁ、下記のスキルもあったからそうなんだが……。
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「ガンスリンガー」
<拳銃>タイプの銃を扱う際に、命中精度に<50%>の補正が掛かります。
また、このスキルのレベルが上がる度に、補正倍率が<5%>ずつ上昇します。
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――「スキルも含めて」……と言う前提もナシに、その天狗な自慢を称賛する訳には……
ダ〜マ〜レェェ〜ヨォォォォッ!?
正体不明なのを良い事に、調子こきまくりやがってッ!?
あぁぁぁぁ!? 何だよッ!?
そんなにオレが”チートな無双”とかって、やっちゃあいけないのかよッ!?
地球じゃあ、絶対に味わえないような……英雄なオレに……ッ!
……随分と安っぽい”英雄”だな……?
彼女を「記憶喪失な難民」……と、思ったのは嘘なのか……?
ッ!? なっ、何で知って……ッ!?
――それに……今回の行動は”情報”という、”勝算”はあれど――”無謀”としか言いようのないモノだったぞ……?
……
〜 ……スッ、バッ〜
「よしっ、まずは肛門から……!」
……いいかね? ボス君……?
地球とは異なる種とは言えど、本来なら”猪”はそんな安易に拳銃程度で狩れる獲物じゃあない……。運良く狩れたとは言え、猪の突進を甘く見てはならないのだ……。
何せ……転生でお馴染みの”トラック”程ではないものの、猪はそのトラックのおおよそ半分……約”時速45km”で走る事が可能なのだ。
〜 ……ブスッ、ザクッ、ザクザク……ザクッ、ザクザク…… 〜
「円状に肛門の部分に切れ目を入れたら……次は、内臓が傷つかないように、薄く腹を裂く……っと……」
――トラックより”軽い”から大した事なさそう?
いやいや、そんな甘い認識じゃあ困る……!
トラックよりずいぶん軽いとは言え……その突進による一撃は、成人男性を軽々と跳ね飛ばす事が出来るのだ。
更には、突進してきたのが”雄”であった場合は最悪の一言に尽きる。
〜 ……ザクッ、スゥ〜ザクッ、スゥ〜ザクッ、スゥ〜 〜
「膀胱を摘むように……えっ?
中身があった場合は、飛び出るかもだって……ッ!?」
――それは何故か……?
〜 ……グッ……グイッ! 〜
「……ハァ〜良かった……何も無かった……。
えぇ〜っと……? 膀胱を持った後、引っ張りながら付近の筋を切り取って……最後は玉と尻尾を切り取る……っと……」
〜 ……ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ…… 〜
……それは”雌”とは違い、雄の個体は”立派な牙”を持つからだ。
「顎の裏から真っ直ぐに線を引くように裂いて……ナイフの刃が胸骨に当たったら、手斧で割ってっと……」
――こう言うのも、雄は衝突時に対象を”突き上げる”ような動作を取る事が多く、その際に(当たる高さの関係から)太腿に大きな裂傷を喰らい、最悪失血死する恐れがあるのだ……!
〜 ……ザクッザクザクザクザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ……。
……コンッ! コンッ! コンッ! コンッ! コンッ! コンッ! コンッ! ……バキッ! 〜
「……うわぁ、喉辺りから血がスゲェ出て来るなぁ……。
まぁ、けど……後はこの”食道”っぽいの? ……切り離した白く太い筋みたいのを、肛門に向かって引っ張り上げれば……!」
……大袈裟?
プロの猟師に飼われる猟犬が、縫合を必要とする大怪我を負う事があっても?
「……あっ、ジャッケットは脱いでおこう……。
もう手が血で真っ赤だし――これ以上、上着に飛び散るのはヤダからな……」
〜 バサァ! ……グッ、ググ……グググッ、ググググ…… 〜
……とまぁ、そんなリスクも知らずに無傷で狩れたのは、本当に”運が良かった”……としか言いようがないぞ? ボス君……?
……ボス君? ちょっと? お〜い? さっきから作業に夢中になり過ぎているようだが?
……聞いていますかァァァァァァァァァァァ〜?
〜 ……ベリッ、ベリベリッ、ベリッ、ベリベリベリベリッ……!
ベチャアッ! 〜
「よっとッ!?
フゥ……最後、大腸っぽいのを引き抜くのに苦労したわぁ……。
でもこれで……全部の内臓が、ジャガイモっぽく一気に引き抜けたわぁ……スゲェ……! ……しかし、解体時は二人以上推奨?
……今更な知識出されても困るつ〜のッ!」
〜 ベチャアッ! 〜
……作業に集中していて聞こえていなかったにせよ……。
苛立って、持っていた食道を投げつけても……その事実は変わらない。
……
――いいかね、ボス君? 君はスキルのおかげでここに生かされているんだ。
……うるせェよ……。
――彼女を助けられた事も……今回の狩猟に成功したのも……全てはスキルのおかげだ。
今し方の解体だって、「ディスメンティリング」という君のスキルから脳内に直接、”ガイド”してもらったお陰で出来たのだろう?
全く解体もしたことない君が……?
……黙れよ。今から解体したコイツ木に吊るさないと、血抜きが不十分に……
――君の実力のお陰じゃあない。
……
……そのまま”慢心”し続けていたら、いつかきっと……痛い目を見るぞ?
……黙れよ……!
――例えば……助けた彼女を失う羽目に……!
「黙れ言ってんだろうが!? このッ! 口先野郎ッ!」
……ボスは……ボスは、息も絶え絶えに天に向かって叫んでいた……。
とてつもなく……周囲に居た野鳥が一斉に飛び立つ程の……大きさで……!
私も初めて感じ取ったような……憎悪を込めて……!?
「何なんだよ……? お前は……ッ!?
只々、刺激のない……平凡で平和な毎日を送っていただけのオレが……!
ワケも分からず……! 転生だか転移だかも分からない中……!
”たった一人”でこんな森へ飛ばされて……ッ! 右も左もわからない中……ッ!
喧嘩もした事ないオレが……ッ! ”殺し合い”を……マジもんの”殺し合い”をしてッ! オルセットを助けて……ッ! 治療のために、死ぬ気で走り続けて……ッ! やっとこさ……やっとこさに!
見つけたこの世界の協力者である婆さんに! 借金吹っかけられて……ッ! 更に……! オレとオルセットのミスで、やった事もない狩りをやらざるを得なくなって……ッ!
それなのに……何なんだよ……ッ!? お前は何をしてきた……ッ?
……異世界に来てから、ずっと……ずぅぅっと……!
……孤独感が拭い切れなかったオレに!
ずっと苦労し続けているオレにッ! 何をし続けてたんだよッ!? クソ野郎ッ!?」
……
「あぁッ!? ダンマリってかッ!?
お得意の口先八丁で弁明してみろよッ!?
「調子に乗ってはいけないのは、乗った瞬間……”銚子”に行ってしまうからだ」……だとかッ! 「ジョークを言ったら、ピエロ面の”ジョー○ー”がやってくるぞ?」……だとかッ!
あぁぁッ!? どうしたッ!? おいッ!? お得意の下らない冗談でも言ってみろよッ!?
今は無理でも……いつか会った際に、細切れになる程の鉛玉をブチ込んでやるからなッ!?」
……
「ハァハァハァハァ……こんな……突拍子もねェ……! 訳も分かんない状況だってのに……ッ!
”英雄”に憧れても、戦士でも兵士でもない一般人のオレに……ッ!
笑わず、恐れず、油断しない……機械みたいな……完全無欠の超人にでもなれってのかよッ!?」
……
「オレが勇者かどうか分からないどころかッ!? まだ英雄ですらなっていないのにかッ!?
調子乗るフリや、魔法とかのファンタジーな”ロマン”に触れるとか、”ハードボイルドな男”を演じてないと、正気を保ってられるかどうか……ッ!?
オレ自身でも分かんない状況なのにかッ!?」
……すまなかった。
「……はッ?」
……すまなかった……言い過ぎた……。
そんな……ジョジョに……号泣していく程だとは……思わず……。
「……その程度? その程度の謝罪で許すとでも……ッ!?」
……二つ、お詫び”に確実な事は言っておこう……。
……確実な事?
そう……一つは、私は君の敵だから実況しているんじゃあない。
味方だと言う事は断言しておこう。
……確証はねェよな?
て言うか……味方なら今後一切、実況しないで欲しいんだが……?
……それは無理な話だ。
……じゃあ、会った際に確実に鉛玉をブチ込む話は……!
……だからこその二つ目だ。
……?
……二つ目、私の目的は君達の活躍を”実況する事”だけだったのだが……。
……”実況する”だけだった?
……それをお詫びに変えよう。
ごく僅かだが、この実況で君達をサポートしよう。
……実況でサポート? ……丸で話が見えないが……アレか?
このオレやオルセットの様子を盗撮して、それが地球側に流れて……オレの必死な姿をお茶の間の皆さんが笑い転げて……いつの間にか、オレ達はお茶の間のスーパースターにでもなってるのか?
……こちらこそ、何故そんな回りクドく笑えない皮肉を言っているのだ?
……お前、”詫び”の意味を知ってるか?
これは失礼……。
お詫びはこれ以上増えないモノの、心からの謝罪と……未だ現実感のない君に、私の”サポート”をお見せしよう……!
……なぁ?
イチイチ、オレをおちょくらないと発狂するとかの病気なのか? お前は?
では、始めようか。手始めに……!
<今、ボス君の背後の木の陰で、オルセットが心配そうに君を見つめている>……!
……背後の木? んなワケ……?
「……ぼ、ボスゥ……? 大丈夫……?」
……ッ!?
……どうだ? 本当だっただろう?
「お、オ〜ルセット〜ッ? も、もう来てたのかぁ……?」
……どうだ? どうだどうだ? 本当だっただろう?
思わず、号泣していた涙を慌てて腕で拭い取る程だろう……!?
黙ってろよッ!? クソ野郎ッ!
「……うん。
聞き慣れない”音”がして……その後、嗅いだ事もない”匂い”もして……。
何かボスにあったのかなぁ……って、怖かったけど……戻ってみたら……突然、ボスが叫び出して……! それで……ボク……怖くなって……」
「あぁぁ待った。
……オルセット? さっきオレが叫んでた事は……どこまで聞いた?」
「……えっ?
……え〜ッとぉぉ……「ヘイボンデヘイワ」……だとか。
……「チョウシニノッテハ」……だとか。
後は……「オレガユウシャカドウダ」……だとか。
う〜ん……叫んでいたのは、ほとんど聞いてたかなぁ……?
……ほとんど、意味分かんなかったケド……」
――思わず、ボスは両手で顔を大きく拭った……。
「ヤバイ、絶対にオレ……頭のおかしな奴だって……絶対思ってるよ、オルセットッ!?」……と、首を傾げている彼女に対し……彼は、心の中で押し寄せる”後悔”と”羞恥心”に、悶え叫んでいた……!
……もぅ、お前が弁明しろよ……ッ!?
――それも無理な話だ。
何せ、私の声は……基本的にボス君以外に聞こえはしない。
ハァッ!?
――それに、仮にできたとしても……私が出来るのは君の言う”下らない冗談”で、御茶を濁す事しか出来ないぞ? ……どうしても! ……と言うのであれば、私に任せて……。
……お前絶ッ対、直接会えたら鉛玉をブチ込んでやるからな……ッ!?
「ぼっ、ボスゥ……? ホント……大丈夫?」
「だ、大丈夫だって……!」
「……そう?
なんか……さっきまで”泣いていた”ような声も、聞こえてたケド……?」
「あっ、あぁぁ……急に……ボアが突っ込んできたからさ……。
初めての狩りだったモンだから、思わず……泣く程、怖かったみたいでさ……?」
「……怖かった?」
「? あっ、あぁぁ……臆病になっちまうくらいにな?」
「……オクビョ……」
「ちょっとした事でも、怖い……って思っちまう事な?」
「……そっか……」
「?」
「ボスも……ボクと同じ……オクビョウ……なところがあるんだね……!」
――そう言うと、彼女は両手を後ろに組み……思わず惚れてしまいそうな”微笑み”をボスに向けていた……ッ!?
「けど……イヤだなぁ……」
――しかし、唐突に彼女は視線を逸らして地面に顔を向け……表情も曇らせてしまうのであった……。
ボスからは見えなかったが、背後に回した手を忙しなく組み替えたり……踵を交互に上下させるなど、モジモジとした態度と共に……。
「……何が嫌なんだ?」
「ボクは……戦えない事が……」
「……戦えない?」
〜 ……ガサガサ……ッ! 〜
「「ッ!?」」
――素早く胸ポケットから銃を抜くボスに対し……両手を胸に当て、動揺したかの様に忙しなく首を左右に動かし、周囲を見回していたオルセット……。
各人各様に唐突に生じた”茂みの音”に対して、リアクションするボス達であったが……少しして、二人の目線は”トアル一方”に釘付けとなる……!
〜 ガルルル……ッ! 〜
――その視線の先には……茂みから姿を現した、一頭の獣がいた。
粒らながらも鋭く切れ長の目……頭頂部付近に”ピンッ!”と立った一対の獣耳……ガッシリとしつつも、どこかスマートさも感じ取れる焦茶と黄土色のフサフサの毛に包まれた胴体……!
そして、極め付けは……その唸り声を上げる口から見え隠れする、無数の”牙”であった……!
ここまで来れば”狼か!?”……と、誰もが思うであろう……。
だがしかし、ここは異世界である。
異世界であれば、何かしらの違いはある……ッ!
それを大いに示すかのように……この生物は、「ヨーロッパオオカミ」に似た体に、何故か現実の「ブチハイエナ」よりも目まぐるしくその場で変化する斑点模様により、自身を”魔物”だと主張していたのだ……ッ!
「これも……テンプレって奴に入るのかな……?」
胸中で緊張感のない言葉を呟くボスであったが、その額には数粒の汗が浮かんでいた……。
自身の横で、急に出てきた”魔物”に対し……面白いぐらいに震え怯えているオルセットが居たからだ……!
当然、「オルセットを失わせるか……!」……と考えている彼にとっては、自身が”逃げる”などの弱気な態度を見せ、「これ以上彼女に怖い思いをさせてはいけない……!」もしくは、「この状況で彼女を守り切れるか……!?」と言った緊張感から、あの”汗”は生じてるのだろう……。
……あるいは、より明確な「敵」の登場に……野党戦以上の「命の危機」というプレッシャーを感じ取った故か……?
残念ながら、それを知る事は出来ないであろう……。
何故なら、私がその”答え”を知ろうとするよりも早く……彼が己の前に立ちはだかろうとする”魔物”に向けて、「スキャン」のスキルを発動させたのであったから……!
<異傭なるTips> スップリ森
「バレッド王国」南部――「トルガ村」周辺を囲む、自然豊かな森。
「トルガ村」やその周辺に点々と分布する「ガリド村」や「グリプ村」などの、複数の村々の生活を支えている。
ボスはそんな村々の中で、「トルガ村」とその近辺にある「城塞都市」を結ぶ、”道”近くの森で目覚めていた。そのため、オルセットを救出後……時間は掛かったモノの、草がなく踏み均されていた”道”を発見し、それを頼りに全力で直進して走れたのだ。
チートに関する”運”はなくとも、彼は”不幸中の幸い ”……という物には、類稀なるチートが「ステータス」に表示されずとも、付いているのかもしれない……。
因みに、森内に生息する魔物は、勢力圏が大まかながらも構築されているようである。
具体的に言えば、「森の西側」は、東側の山々の上流から流れ、その下流が大きく広がる部分や山々からの地下水が湧き出る場所など……”水資源”に恵まれているためか、様々な森の恵みに恵まれている。
そのためか、このエリアで暮らす村々は多く……村の安全を守るために、積極的にここで生息していた”危険な”魔物達は狩られてきたためなのだろう……。
ここに生息するのは、総じて”草食”かつ”気性の大人しい”魔物ばかりと、言えるぐらいに多い。
平穏に暮らすには「食糧」「水」「安全」という点で、最高に近い条件が整えられた西側だが……あえて”欠点”を挙げるとするなら「高価に換金できる”植物”や”鉱石”、”魔物”など」が、滅多に見つからない事ぐらいであろう。
逆に「森の東側」は、森の奥地に存在する断崖絶壁の山々の麓となっており、トアル理由で木々や果実の実りが乏しく、総じて”肉食”かつ”強力な魔物”が生息している事が多い。
また、西側から「コーカサス・ボア」に追われた「ゴブリン」達が、広く分布するように住み着いたのだが……最近では、東側の森の恵みが豊富だった頃よりも……ゴブリンの数が急増し始めている……。
……これは、トアル理由により、東側の”まともな”食料の少なさから、飢餓が蔓延しているためだ。
そのためか、総じて食糧を得るため、死に物狂いになっているゴブリンが多く……自身よりも”格上な魔物”に襲い掛かる事が、王都付近などの”通常の個体”よりも多いとの見解が、王都で報告されているようだ。
そんな危険地帯な東側だが、先祖代々……と豊かだった頃からの土地を守るため、昼夜問わない魔物の襲撃に屈せず、何とか生活している極少数の村もある。
また、この特殊かつ劣悪な環境に陥っている中でしか生成されない、”植物”や”鉱石”、”魔物”などを狙って……「城塞都市」や「王都」から”冒険者”や”行商人”が、痛い目を見ようとも、懲りずに訪れているようだ。
天国のような”西側”と地獄のような”東側”……これらの均衡が保たれ続けているのは何故か……? ……それは、人間……。人間が、森の中央を陣取っているからである……。
「トルガ村」は、この”東側”と”西側”のちょうど中間辺りに位置し、両側の長所を良いとこ取りした、なんとも都合の良い環境に村が築かれていたのだ。
そして、人間によって出来た……「トルガ村」及び「村と城塞都市を結ぶ”道”」が、東側と西側の緩衝地帯となっているからこそ、この均衡は保たれているのかもしれない……。