RE:Contact-4 初戦闘ニ勝利セヨ
「あぁ〜!? 何だ? テメェ〜!?」
「……見かけねェ、格好だなぁ? お前何処の領からきたんだ〜?」
「ヒャッハー! 大人しくしてろよ獣女ァ〜!? オレらはちょ〜と、この頭の可笑しい格好をしたぁ……おにいちゃんとぉ、チョッピリばかし話してくるからよぉぉぉ〜ッ!?」
「……」
……何とか、オレ自身の勇気を奮い立たせ――「追い詰められた人」と「悪党A・B・C」が居るとこまで駆けつけたんだが……。
……ホント良かった。まだコイツらに”同情心”を持たずにいれて……!
……だが、”早とちり”で失敗した事もオレの人生には、多くあったんだ……。
……ここは本当に「悪党A・B・C」が本当に「悪党A・B・C」なのか……慎重に”確認”して決めてかなきゃな……!
そう……! ここは「ロバート・ダ◯ニー・Jr」とか、「ジョニー・◯ップ」だとか、「アー◯ルド・シュ◯ルツェネッガー」だとか……!
そして、「ビッ◯・ボス」……! 最も好きなゲームキャラクターである……あの人のように……ッ!
「……先程は怒鳴ってすまない。
だが、オレの勘違いであって欲しいんだが……アンタら、そこの樹にグッタリともたれ掛かってる……女性? ……にぃ〜何を――しようと――してた――のかな?
まさか、”殺す”だとか……笑えない物騒なジョークを言うつもりはないよな?」
「「「……ギャ〜ハァハハハァハハハハァハァハァッ!」」」
「ッ!? なッ、何だよ!?
そんな一昔前のコントみたいに、顔を見合わせた後……一斉に笑い出すとかって……!? 何が、可笑しいんだよッ!?」
……まさかと思うが、「バレッド王国共通言語 マスタリー」でも、オレがさっき言った言葉が「変な言葉」として伝わっちまってるのかッ!?
以前、興味本位で「外国の落語家による寄席」を動画で見た事があるけど……その際にあった”主人”と”囚人”の似た発音でも意味の違う言葉を説明しただけで、会場が”爆笑の渦”に巻き込まれていたからなぁ……。
……そのまさかまさかだが……さっきの会話の中で、オレ……共通言語じゃあ――恥ずかしい事でも言っちまっていたのかぁッ!?
「ヒィ〜ヒィィィ〜おいっ、兄ちゃん!? オレらを笑い殺す気か!?」
「……はっ?」
――ヤバッ、やっぱりなのかぁ……ッ!?
「”ジョーク”だが何だか知らねェがぁ、この状況を見て……オレらが穏便な”オ・ハ・ナ・シ”でもしてるとでも思ったのかぁ? お兄ちゃんッ!?」
「……」
「ヒャッハ〜ッ! こんなオレ達が未だ居続ける、この物騒なご時世だってのに〜そんな頭パープリンな野郎が居るなんて……珍し過ぎて腹が捩れるぜ〜ッ! ヒャッハァハァハァ〜ッ!」
「「だよな〜ッ!」」
「「「ギャ〜ハァハハハァハハハハァハァハァッ!」」」
「……」
「おっ? どうしたんだい、お兄ちゃん? そんな俯いちまって〜!? オレ達の事が改めて怖いと思って……玉金でもなくなっちまったのかぁ〜えェェ〜? お兄ちゃんッ!?」
……アァァ〜ヤッベェッ……。今、辛うじて俯けたおかげで誤魔化せてるだろうけど……。
……初めてだよ……こんなにコケにされたのは……ッ!
マジで、初めてだよ……ッ!
今も、表情筋が悲鳴を上げんばかりに引きつっている事も……! 人生で、こんな激情に駆られたのも……ッ! もう良い……もうフリピスでも良い……! ブッ放してェ……!
今すぐにでもブッ殺してやる……ッ! コイツらブッ殺してやるゥゥゥッ!
「ヒャッハ〜ッ! 何も言い返せないでやんのッ!
フランダのアニキ! ザカリーのアニキッ! 早くコイツもそこの獣女同様にヤッちまって、身包み剥いじまいましょうよッ!」
「おうッ、そうだなヒャルバ! アニキッ! 早くヤッちまいましょうよッ!
こんな”背がデカイだけのデクの坊”! オレ達三人で掛かればヤッちまえますよッ!」
「……待て、お前ら。コイツを見て……少しも奇妙だとは思わなかったのか?」
「「はっ?」」
「第一……この近隣の村どころか、城下町でチラ見した程度だが……他国でも、あんな服を着た奴を見た事もない」
「……はぁ」
「……ひゃあ、確かに……」
「そして第二に……今の会話から、この王国での時世を知っている素振りが全くなかった……」
「……ひゃっか?」
「……変な格好だけで、”ただの馬鹿な村人”なんじゃあないのか?」
「だから、そこが奇妙だっていってるだろ?」
「「?」」
「ハァ……おい、お前」
「……ア゛ッ? 何だよ……ッ!?」
「トルガ村……城塞都市マケット……サヴィオス教国……ディナトース帝国……。これらの地名や国名に、聞き覚えはあるか?」
「はっ? トルガ村? マケット?
何だよ……そんな海賊が居そうな名前の村って……」
「……じゃあ、王国と教国との情勢はどうなってるか説明できるか?」
「……チッ」
――何だよ急にッ!? 異世界に来たばっかのオレが――国名どころか、”国際情勢”なんて大それた事すら知るわけ……アッ!?
「……ほらな? ここが奇妙なんだよ。
もしも、第一の事が違うのなら……今言った地名を知らないなんて事は、ほぼあり得ないだろうし……。
もしも、第二の事が違うのなら……いくら辺境でも、この近辺のトルガ村とかじゃあ――珍しく情報が中々公開されなかった”マケット”を出入りしてるらしい、”変わり者の行商人”が居るんだ……。
少なくとも、王国と教国が休戦状態な事ぐらい知ってて当然の筈だぜ……?」
「……ッ!?」
「つまり……だ。疑うのがバカらしいが……こう考えるしかない……!
お前……何処の大陸から来たんだ……?
まさか、数百年前から音沙汰のない……「”北東の魔大陸”から来ました」……なんて言わないだろうな?」
「えぇぇッ!? じゃあコイツ……”魔族”だって言うのかッ!?」
「ヒャッハッ!? 本当ですかいッ!? 」
「全く、お前らは……あんなヤバイ盗賊供に惨敗しつつも、今日まで生き残れたのは……”ダ・レ・の・お・か・げ”だと思ってるんだ? バカ野郎供が……!」
「……」
……えぇぇぇぇ!?
何だコイツら……角も生えてないのに、オレが”魔族”って……。
想像以上に話が斜め上に拗れちゃってるんですけどぉぉぉ……ッ!?
いやでも……”感謝する”のは非常に癪に障るが……。
すぐに”フリピス”をブッ放すのはやめよう。その前に……”情報取集”だ。
……こんな下衆供相手にするのは、本ッ当ッにッ! ――癪だが……。
それでも、さっきまでペラペラと、”見当違いな推理”で情報を喋ってくれたんだ。
オレがやり込んで来たどんなゲームも、<最終的なゲームクリア>まで辿り着くには……「重要人物」だの、「必須のアイテム」だの、「ラスボスの場所」だの……どんな事にも”情報が必要”な事が付き纏っていたしな……。
だったら、英雄を目指すオレがゲームの主人公……”勇者”とかだったりするなら……! 今度はオレが聞き出す番……!
俺だって、”知恵が回る事”を見せてやるよ……ッ!
「……フッフッフッ……」
「「「ッ?」」」
「フフフフフフフッ……」
「「「……」」」
「……ハァァァァァハッハッハッハッハッハッハァァァァッ!」
――ど〜よッ! この”三段笑い”はッ! 立派な魔族に聞こえるだろうッ!? アニメやゲームを見まくって、物真似しまくった成果だッ!
「「「ッ!?」」」
「……バレてしまっては仕方ないなぁ……?」
「なっ、や……やっぱり……アニキの読み通り……魔族だって言うのか……ッ!?」
「……久しぶりだなぁ、下等な蛆虫供よ……ッ!
そうとも、我は魔族……! 余りにも愚劣な君達が目障りな物だから……近々滅ぼすために、お忍びでこの辺りに来てたのさ……!」
後……やっぱコイツら聞くのは止めだ、止め。
気持ち的な問題もあるけど……それ以前に、そこそこ喋りまくってくれていたし……話途中に”近辺に村がある”って、言ってたしな。
だから……何とかコイツらを追っ払った後に、そこの村から色々と情報を聞く方が――後々の気分も良いだろうしな。
「ヒャバババババババッ!? アッ……アニキィィッ! 逃げやしょうッ!
アニキだってガキの頃聞いたでしょう!? 魔族は、得体の知れない化物に変身しては、火を吹いたり……人を食い殺すって……ッ!」
――良し、ビビってるビビってるッ! このまま脅し続けてやれば……奴らが勝手に逃げ出して――戦闘ナシに、あの人を助けられるかもしれねェぞッ!
……改めて思ったけど、銃の試し撃ちもなく……全く、戦闘慣れもしていない時に――手強かろう”兵士らしい”人間様相手に戦うなんて、ゴメンだからなッ!
「……そういえば、しばらくこの森を放浪していた性か……腹が減っていたなぁ……。
では、そのアイディアを頂戴して……お前らを捻り潰し……じっくり美味しく焼き上げた後に……喰らってやろうかァッ!?」
……ついでに、それらしく”嫌らしい表情”と”舌舐めずり”もしておいて……っと。
「ヒィィィィ……ッ! アニキッ! アニキィィッ! 早く撤退しましょうッ!
こんな得体の知れない奴を相手にして喰われる可能性も考えれば、割りに合いませんよッ! そこの獣女を餌に、サッサと逃ましょうッ!」
……ヨシヨシ、逃げろ逃げろッ! そのまま逃げちまえ……ッ!
「……」
――な、何だよッ!? ”ザカリー”……だったか? そんな「お前……ホントに魔族なのか?」……って、睨みやがって! サッサと逃げろよッ! に……睨み殺すぞコラァッ!
「……おい、フランダ」
「アババババ……」
「フランダッ!」
「バババババ……ヴァイッ!?」
「……アイツを撃て」
「……へッ?」
「……アイツを撃てッ!」
「しょ、正気ですかいッ!? アニキィッ!? だ……だってアイツはぁ……魔族なんじゃあ……ッ!?」
「あぁ……そうだな……。
本当に、火も吹けるし……変身も出来る魔法に長けた”魔族様”なら……。お前が使える最下位級魔法の”ファラ”なんて……指先一本で、弾いて見せるだろうよ……」
「ッ!?」
――ハァッ!? そんな”設定”知る訳ねェだろッ!?
つ〜か、人差し指どころか……魔法を弾き返すなんて芸当、全く出来る気がしないんですけどォォォッ!?
「で……でもッ! モノホンの魔族だったら……ッ!?」
「お前がそんな震える程に恐れてるのは分かるよ……今にも逃げ出したい気持ちも……」
「あ……アニキィ! 分かってんのなら……ッ!」
「……けどな? もうオレらは敗残兵……。
王都に逃げ帰れば笑い者にされ、蔑まれるだけの存在なんだよ……。命辛々逃げ出して……あの盗賊供の情報を王国軍に伝えようともな……」
「「……」」
「そんな誰にも相手にされず……”お先真っ暗”なオレ達が、このまま”目の前のカモ”も狩らずに野垂れ死にしちまっていいのか?
あの盗賊供を討ち取れなかった”悔しさ”も胸に燻らせたまま、野垂れ死んでいいのかッ!? オレ達に魔族だと騙していやがる”腰ヌケ野郎”に、笑われながら逃げられてもよぉ……!?」
「「……ッ!」」
……なんか、途中「お涙頂戴な事情」が、アイツらにもあるような気もしたが……。ヤバイ状況になったなぁ……オイッ!?
……君のような勘のいいガキは嫌いだよ……だったか?
オレは錬金術師じゃあないけど――正に今そんな気分だよッ!?
何だよ!? あの”ザカリー”って奴ッ!? オレの折角の演技が台無しじゃあねェかよッ!? 下手に勘付かず、そのままお仲間二人と仲良く騙されててくれよッ!?
さっきの話で、お仲間二人に俺に対しての「殺る気」を焚き付けてるんじゃあなくてさぁッ!? 有名RPGの序盤の雑魚モンスターである”スライム”を、”ゴーレム”とか”悪○の騎士”とかの強敵なんかにするんじゃあなくてさぁッ!?
……ハァ、けど……ここで喚き騒いでも変わる訳じゃあねェよな……。
……改めて考えろ……ッ! この先、オレが動けばどうなるのかを……ッ!
避ければ、魔族じゃあない事がバレて戦闘開始は必至……ッ!
もしくは、オレの”眠れる可能性”に賭けて……魔法を弾く事にトライしたら、大怪我は必至……ッ! 後……無論ながらも、”逃げる事”は大論外……っと……!
……ウン、どっちにしろ――”退路を絶たれた”訳か……!
……ハァ……クソッ! クソォォッ!
”ゲームの格闘技”や”格闘教本”を、見様見真似で練習していただけのオレだぞ!?
この19年間の生涯、全く記憶に無い程……日課の筋トレ以外、喧嘩もした事がないオレがだぞ……ッ!?
……勝てるか……? ……勝てるのか……ッ!?
……いや……英雄になりたいのなら……!
怪我がどうのこうのとか……考えてる場合じゃあねェぞォォォ……オレェ……ッ!
……それにオレは平穏に暮らしたい殺人鬼じゃあないつもりだが……結局、戦わざるを得ないって事だよ……な? ……ハァァ……! 腹括れ……オレェ……!
成るんだろうッ!? 未だ気絶してるであろう、あの人の英雄に……ッ!
「……何やら、私を倒す事が英雄譚になるとでも思ってるようだが……。
勘違いしているんじゃあないぞ? クズ野郎共が……ッ!」
「「「……ア゛ッ!?」」」
「オレが魔族であるかどうか以前の問題だろ? そんな事?
……何だよ? 女でもない癖に、負けたからって”悲劇のヒロイン”でも演じてんのか? 笑われるのが怖いからって……罪もない人達を殺し続けて……何、奪い続けてきたんだよ……ッ!?
何、自分達が悪くないみたいに……! 平気で”強盗”や”殺人”を正当化してやがんだよッ!? クソ供がァァァァァァァァァァァッ!?」
……ヤバッ!? 何アイツらを煽るような事を言っちまってんだよォォッ!? オレェェェッ!?
言った言葉通り、アイツらの”身勝手さ”から悪党確定……ッ!
それと同時に――”並々ならぬ怒り”が、体の奥底から湧き上がって来ていたのは感じていたけども……ッ!
い……怒りの余り、テンパったのか言ってんじゃあねェよ!?
オレェェェェェッ!?
「……お前馬鹿か?」
「あ゛ッ!?」
「そこの獣女含め……オレらのような”負け犬”や”はぐれ者”が、真面に生きていけないこの王国で……。真面に生きていけないオレらがお前の言う通り……”強盗”や”殺人”をせず、どうやって”生きれば”いいって言うんだ?」
「はッ!? そんなん知るかよッ!? クソ野郎共がッ!
失敗も真面に受け止めらず、野盗に成り下がってるようなテメェらが生きてる事自体、迷惑なんだよッ!」
「……そう言う所を見れば、オレらからもテメェが”クソ野郎”に見えるぞ……? オレらは死ねッ! ……とでも言うのか?」
「……ウッ!」
ア゛ァァァァ……! クソッ! やっぱり怒らない方が無理だッ!
「オレらは”真っ当”です」……って思いながら喋ってる感じが、気に食わねェェッ! それが当然だなんて思ってる感じに言ってるのが、気に食わねェェェェェッ!
……けど、何だろう……羅生門だったか……? 芥川龍之介の……。
この世界の常識はまだ分かんないオレだが……この感じ……何なんだろうな……?
中学か高校で読み流していただけのあの内容が……今、この感じなんじゃあないかと思っちまうな……。
時間には関与しない『絶対的な敵』などいない……。
なぜなら、敵はいつも同じ”人間”だからだ……
”ザ・○ス”が言っていた事も……コレに繋がったりするのか……?
……だけど、それでもやっぱり……! あの人を”囲っていた光景”が……。
オレが最も嫌いな事の一つである、「イジメをしている現場」と重なった以上……ッ!
「ヒャッハ〜ッ! ……と言う訳だニイちゃ〜ん!
そう簡単にオレらは野垂れ死たくないんだから……大人しく死んでくれやァァァァァッ!」
〜 ザッザッザッザッザッザッ……! 〜
「おい待て! ヒャルバッ!? 勝手な抜け駆けは……!」
「アニキ達は、警戒し過ぎなんですよォォ〜!
このご時世! 武器どころか、鎧も着ていないこの間抜け野郎に……これ以上、警戒する要素が何処にアリやしょうかねェェェェェッ!?」
〜 ブゥゥンッ! 〜
「……(全く……相変わらずのデタラメな振り方だが……動かないようじゃあ、終わったな……!)」
「……」
〜 ……スカッ! 〜
「……ハッ?」
「……ど、どうした? 遅すぎるぜ……!
(あ……危ねェェェェェェェッ!? 何度も「オレは出来るッ!」……って、自己暗示気味に、オレを鼓舞し続けた余り、ボ〜ッとしてたけど……何とか躱せたァァァァァァッ!)」
「ハ……ハッ! ”マグレ”で避けられたからって、調子に乗るなぁぁぁ!」
〜 ブゥゥンッ! ブゥゥンッ! 〜
「……ハッ! ヨッ!」
〜 ブゥゥンッ! ブゥゥンッ! ブゥゥンッ!〜
「……おおっとッ! ヨッ! ハッ!
(……アレ? 思ってたよりも……躱せるッ!?)」
「……ハッ!? おいッ! フランダッ!」
「……えッ?」
「何、ボサッとしてるんだッ!? サッサとあの”詐欺野郎”に魔法を撃てッ!」
「えぇぇ!? この状況で、魔法を撃つんですかッ!?」
「ヒャルバの馬鹿に、気を取られてる今がチャンスだろッ!? 早く撃てッ!」
「無理ですってッ!? どうやるんですかッ!?
ヒャルバとあの野郎が、こちとらから見て重なるように戦闘し続けてるこの状況でェッ!? ヒャルバの奴に当たっちまいますよォォッ!?」
〜 ブゥゥンッ! ブゥゥンッ! ブゥゥンッ! ブゥゥンッ!〜
「…… ヨッ! ハッ! ホッ……とッ!」
「クソッ! クソッ! クソッ! クソッ! クソォォォッ!? 何で当たらねェんだよォォォォォッ!?」
「……ホッ……とッ! さぁ? ハッ! 盗賊家業で……ヨッ! 陸すっぽ訓練もしてないだろうから……ソッ! 腕が鈍……ハッ! ったんじゃあ……ホイッと! ないの? ……オッ……シィねェ〜?」
……大分、躱す事にも慣れてきたな……! けど……何だ?
この躱すのが”ドッチボール感覚”に似てきて……楽しくなってきてつい、”おちょくちまった”けど……怒ってる? 怒ってる性で、動きが単調になってきてる……!?
「ちょ、調子に乗るなァァァッ! このッ、デクの坊ガァァァァァッ!」
〜 ブォォォンッ! 〜
……おっ!? 予想外の大振り……! ……あっ、勢い余って背中を向けた? これなら……ッ!
「オラァッ!」
〜 ドンッ! 〜
……踏み込みからの”喧嘩キック”で、距離を稼いだ後……!
「どわぁぁぁッ!? とっとっとっとっとッ!?」
――良いゼェ……ッ! そう転ばず、踏み止まってくれたのは……実に良いッ!
〜 ザッザッザッ……バッ! 〜
「……テメェェェッ! このヒャルバ様に、一発蹴りを噛ませたからって何も変わら……ッ!?」
そう振り返って……! そんなバイザーもない、”洗面器みたいなヘルメット”で防御すらされてない……見るだけ鬱陶しい顔面に……ッ!
〜 グンッ……ブゥゥゥンッ! 〜
――”ジャンプパンチ”でェ……! ブン殴るッ!
〜 ……ゴッ、シャアァァァッ! 〜
「アビャァァァシィィィィッ!?」
〜 ゴロンッゴロンッ、バタァァァンッ! 〜
「「ッ!? ヒャルバァァァァァッ!?」」
〜 ゴロンッ、シュタッ! 〜
「ハァ…ハァ……マジかよ……! マジで……ヤれたのか……? オレはッ!?」
――ジャンプパンチ後の受け身から起き上がった後、自身の直ぐ傍で白目を剥いて大の字に伸びている”ヒャルバ”とか言う男を見たオレは……今も震える、殴り抜いた自身の右拳を見ながら……そう呟いていた……。
いや……だって、バカっぽいコイツのステータスでもこうだったんぞッ!?
-------------------------------------
氏名:~Unanalyzable~
<Code Name> 兵士H
年齢:~Unanalyzable~
性別:男性
職業:~Unanalyzable~第六部隊~敗戦兵~
属性:無
<レベル:15>
HP:366/400(VIT:+10)
MP:10/10
DE:6.0(~Unanalyzable~ +6.0)
能力値
STR:6.0
PER:3.0
VIT:10.0
AGI:2.0
INT:1.0
LUC:10.0(チキンソウル -10.0)
MAG:0.0
[ Intelligence ]
カス Lev.1
[ Luke ]
チキンソウル Lev.Max
Ex:~Unanalyzable~
所持金: 800Br
-------------------------------------
……ツッコミどころのある”スキル表記”があったけど、それは置いといて……
<レベル15>ッ! <レベル15>だぞッ!?
オレよりも14レベルも高い格上だったんだぞッ!?
木陰から様子を伺ってた際に、何気なく「スキャン」のスキルを発動させて、計ったんだから間違いないだぞッ!?
他の能力を比較するのを省いても、”STR:6.0”……って、オレの2倍の力持ってたし、他も”フランダ”って奴は「レベル14」ッ! アイツらのリーダー格っぽい”ザカリー”で、最高の「レベル16」だったんだからなッ!? そりゃあ、躊躇うわッ!
けど……今もこう「スキャン」発動させて、「HP:6/400(VIT:+10)」……と、”ヒャルバ”の体力が表示されているのを見て確信した。
イケる……! イケるぞ……ッ! アイツらをブッ飛ばして……あの人を助け出せる……ッ! オレは……あの人の英雄に成れる……ッ!
〜 メラァァァァァァンッ! 〜
「おわッ!?」
〜ボカァァンッ! メラメラメラ……〜
「チキショウッ! よくもヒャルバをッ!」
「おいッ! 落ち着いて狙えッ!
そこら辺の岩を燃やしても、ヒャルバの仇は取れねェぞッ!?」
「うるせェェェッ! 今のは当たった筈の玉だぞッ!?
何なんだよクソ野郎ッ!? ヒャルバを殴り飛ばした拳を見て……ボケッとしてやがった癖に、オレの「ファラ」を避けるだなんてよォォッ!?」
……伸びちゃいるが、まだ生きてるんだけどな……?
まぁ、助ける気は一切ないが……。
〜 メラァァァァァァンッ! ボカァァンッ! メラメラメラ…… 〜
「オラァッ!
そんな見え見えな場所に隠れてないで出てきやがれッ! クソ野郎ッ!」
「……ハァハァハァハァ……」
……イヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤッ! 威力おかしいだろッ!?
さっきチラッと確認した”外した岩”もッ! 今背中を預けてる、咄嗟に”隠れた岩”もッ! ドロドロに溶けて赤熱してるってッ!?
”グレネードランチャー”かよッ!? 最下位級(?)……って一番ショボそうな魔法で!?
あんな、岩をも溶かせる温度で燃える”ナパーム弾”的な奴を、ポンポン撃てるなんて冗談キツ過ぎるぜッ!?
〜 メラァァァァァァンッ! ボカァァンッ! メラメラメラ…… 〜
「オラァッ! さっさと出てきやがれッ! クソがァッ!」
「おいッ! フランダッ! 無駄撃ちするなッ! 後、一発しか撃てないだろッ!?」
――後”一発”? 確か……あいつの魔力は「MP:200/200」で、今まで撃ったのは”3発”……。
つまりは、あの「ファラ」って、魔法は一発撃つのに「MP:50」も必要なのか……?
……RPG序盤で使える魔法と考えると――意外と燃費が悪いな……納得な威力でもあるが……。
「うるせェよッ! ザカリーッ! テメェは悔しくないのかッ!? あんな腰抜け野郎に翻弄されてッ!?」
「落ち着けッ! フランダッ!
お前の気持ちは分かるが、落ち着かなきゃ本当にアイツに翻弄されかねんかもしれないぞッ!?」
「じゃあどうしろってんだよッ!?」
「……オレが引きずり出してくる。
お前は……引きずり出した所を撃て。そうすれば確実に当たるだろ……なっ?」
「……チッ、だったら早くしろよ……」
――ヤベッ!? 早く何かしら手を打たないと、オレが火達磨にされちまう……ッ!?
……チラッと見たが……あのザカリーって奴、直ぐにでも撃ちたいのか……魔法を出したまま構えてやがるな……。
どうする……? 石でも投げつけて、あの魔法を誘爆でも出来れば勝算はありそうだけど……。
〜 ……ザッ、ザッ、ザッ、ザッ…… 〜
――ッ!? 近づいてきてるッ!? ヤベェヤベェヤベェヤベェヤベェッ!?
もっ、もう迷ってる暇はねェッ! ヤルしかねェ! 当ててやるしかねェッ!
英雄に……英雄になれェ……! オレェェェェェェッ!
「ウオォォォォォォォォォォォォォォッ!」
「ッ!? なっ、何だッ!?」
――隠れた岩の傍に落ちていた”石コロ”を拾いつつ、雄叫び一発ッ!
岩の影から飛び出し、”エアソフトの擬似手榴弾”がボロボロになるまで鍛え続けた、投球フォームを瞬時に取ると、全力で生成されていた”炎の塊”に向けて投げ付けるゥッ!
〜 ビュゥゥゥンッ! ……ゴッ! 〜
……Noooooooッ!?
……しかし、唐突な気合の入れ過ぎで緊張したのか……。
全力で投げつけた石コロは、目標を僅かに逸れ……発動したフランダとか言う奴の顔面に命中したんだよ……ッ!
「ッ!? フランダッ! 大丈夫かッ!?」
――頼むッ! 倒れろ! 倒れてくれッ!
「アゥゥゥゥグググググゥゥ……ファ、ファナを……ファられたが……。
だ、大丈夫だ……ザカリーッ!」
……嘘だろ!? 全力投球で投げたんだぞッ!? しかも顔面にッ!?
気絶しても可笑しく無いだろッ!?
「……この野郎ッ! 何が狙いだったか知らないが……よくもフランダをォォォ……ッ!」
〜 ガクン……ドサッ! 〜
アァァ……終わった……! 誘爆させられなかった……。
当てた衝撃で魔法は消せたらしいけど……どっちみち終わりだぁ……!
傍にヒャルバとかいう奴が使っていた”ボロボロの剣”が落ちているけど……流石に色々と鍛えてたオレでも、格闘技の真似事ばかりやっていたモンだから……西洋剣術はモチロン――剣道すら齧っていなかった……。
「……ハッ! 何があったが分からんが、やっと大人しく死ぬ気になったか……!」
……つまり、他の異世界転生・転移ラノベのなんかの主人公のように、即座に剣とかを手に取り、勇者の如く、勇敢かつ颯爽と対処出来る自信なんて……これっぽっちもねェよッ!?
元々ヘタレだしッ!? だから自己暗示してたワケだしッ! それにモブだった訳だしッ!?
だから無理ッ! 剣を使って防げたとしても、それで終わりッ! それだからか……暴投した時から抜け掛かっていた膝が完全にヘタれて、両手を頭に抱えたまま崩れ落ちちまったよ……!
「……それで良いんだよ。
そうゆう風に、最初から大人しく……! 頭、カチ割れやがれェェェェッ!」
……「あぁ……これが走馬灯なのか……?」……なんて、スローモーに渾身の力を込めて振り上がる、”ザカリー”とかの言う奴の剣をボンヤリと眺めていたオレだが……その先端付近を見た瞬間、”奇妙な事”に気づく。
奴の剣の先端で……火の玉が燃えていたのだ……!?
えっ!? 火魔法!? 火炎剣ッ!? オレを倒すのにそんなに本気ッ!?
……なんて、普通は迷いそうだったが……何故か不思議と頭は冴えていた。
斬られそうな瞬間だというのに……オレにはあの火の玉が「打ち損ねたファールボール」の様に見え、同時に「魔法は消えたのではなく、石が当たった拍子に”上に投げられた”」……という事を理解していた……。
そして……そこからのオレの行動は……自身でも信じられないぐらいに、素早かった。
〜 ブゥゥゥン……ゴロンッ! 〜
「ハッ!?」
――まるで誰かに操られたかのように……オレは瞬時に団子虫の如く身を縮めると、同時に、振り下ろした剣をスレスレに躱していたのだ……ッ!
そして、先程まで身を隠していた”岩の陰”へと転がっていた……。
すると、入ったと同時に――自身の拳よりも少し大きい石コロを瞬時に掴み上げ……!
〜 ガッ、バッ! 〜
「オラァァァァァァァァァァァァッ!」
「ッ!?」
――岩を駆け上って大ジャンプッ! 自分より頭一つ分ぐらい低いザカリーの身長より、約1.5倍ぐらいの高さまで跳び上がっていたのだ!
「信じられない……!?」 オレがこんな事が出来るなんて……!? という、内と外の両方で驚愕の声を上げる事もなく、岩を掴んだ右手を大きく振りかぶって……!
〜 ……ガンッ、シャアァァァッ! バタンッ! 〜
再びの”ジャンプパンチ”で、ザカリーとか言う奴の顔面をブン殴るッ!
しかし――咄嗟に両手で剣を逆手に持ち、剣の柄で顔面をガードしたみたいだが……それもお構いなしにブン殴ったッ!
……というか態々、石を持って殴り抜いたのはこの事を予測してか? ……なんてオレの口は動く事もなく、殴った奴が頭から地面にダイブするよう、盛大にもんどり打つ中……
〜 ……ゴロンッ、ザッザッザッザッザッ……! 〜
体の方は殴り抜いた後の受け身を取るためにローリングした後、走り出す……!
勿論、向かう先は先程の”火の玉”を発動させた”フランダ”とか言う男の元で……!
「えぇぇぇ!? ちょぉッ!? ザカ……オブウェェェ!?」
……すれ違い様に、鎧のない鳩尾付近目掛け、助走を活かした”右ボディブロー”を叩き込む。そして、両手を腹に抱えて倒れ込む前に、背後に回り込むと……
〜 ……ガシッ、グンッ! ズルッズルズルッズル…… 〜
「おっ、おいッ……!? 何をする……ッ!?」
今にも地面でのた打ち回りそうな、青ざめた顔をしているフランダとか言う奴の戯言に構わず……。オレは、奴を”羽交い締め”にすると……そのままある場所へと引き摺って行った……。
〜 ……ズルッズルズルッズル……バッ! 〜
……そして、”火の玉の落下地点”にフランダとか言う奴を引き摺って来た後……オレは素早くローリングをして、その場から離脱していた。
そうして……状況を把握出来ず、未だ狼狽えていた奴に、ピッチャーフライの如く落ちてきた”火の玉”をキャッチさせたのだッ!
〜 メラァァァン……ボカァァンッ! メラメラメラ……グラッ、バタンッ! 〜
……グロッ!? 流石、”グレポン擬きの破壊力”があるだけか……。
無防備に受け止めた頭は、首の根本に焼け焦げた僅かな肉片を残すだけで、爆炎に喰われていた……!
……FPSやTPSのシューティングゲームにもハマり込み、グロ目なホラーゲームもそこそこ嗜んでいた所為なのか……。
不思議と殺人による”悲愴感”に打ち拉がれるとか、盛大な吐き気を催す……とかの”お約束”的な事は起こらなかった。
只々……「敵一体を撃破」……的にしか考えてなかった。
「まさか……オレの知らない間に、オレは人間をやめちまったのかッ!?」
――ローリング後、起こしていなかった体を起こしながら……好きだったラノベの一つを思い出していた……。
それは――異世界転移して、異形と成り人間としての感情をほぼ失った骸骨魔王様……みたいな事が、自分にも起こったのか……ッ! ……なんて、考えが頭を過ぎる。
まぁ良いや……今考えても、答えなんて出ないしな……。
それになんで、さっきの「ピッチャーフライ」みたいに――魔法に”重力の概念”があるのか知らんが……何とか助かった以上、今は「今後の戦法に使えるかもしれない」ということだけに頭に留めておこう……。だがしかし、それよりも……。
「結局、銃……使わなかったよな……」
――何とも言えない”寂しさ”を前に、思わずボヤきが出てしまう。
いやだって、骨董銃とは言え……生前(?)じゃあ、現代では中々お目に掛かれない「フリントロック・ピストル」さんですよ?
撃つのが久しく、「戦闘になったから直ぐ使えッ!」……って、状況でもなくなった以上……スキルの確認も兼ねて、出してみたくなるのが当然じゃあないですか〜! 特に……自称とは言え、<ガンマニア>なオレにとってはッ! ……良しッ! そうとなれば……ッ!
「ガンズクリエイトッ! フリントロック・ピストルッ!」
〜 ……ポワァァァァァァ……バシュンッ! 〜
――眼前に右腕を伸ばしながら、そう叫ぶ。
すると、右手が徐々に”赤く”輝き出し始め……少しすると、オレが思わず目を逸らしてしまう程の閃光を発した。……このファンタジーな展開に驚きつつも、恐る恐る自身の右手に視線を戻すと……そこには、「フリントロック・ピストル」を”しっかりと掴んだ右手”があった……!
「……おぉぉ! スゲェ……ッ!」
――思わず感嘆が漏れる。
だが、そこから右手首を回転させ、銃を舐め回すように鑑賞するだけじゃあ……ダメだ。これは実弾射撃場に来たら、どんな銃だろうと確実にやる事なんだが……。
「……火皿には、装填済みなのか……」
――まずした事……それは、フリピスの右側面にある”火蓋”を開く事だ。そこの蓋されていた”火皿”に、点火薬用の”黒色火薬”が装填されてるかを、確認した。
「弾は……弾も詰め込まれてるのか……!」
――続いて、銃身下部に収納されていた”槊杖”という、弾込め用の棒を引っ張り出し、銃口から突っ込んで弾が装填されているかの有無を確かめた……。
結果は勿論――棒越しにだが、ちゃんと鉛玉の球状の感触を確認する事が出来た。
……と、こんな感じにどんなに完璧な状態に整備された銃でも、確実に撃てるかどうか必ず「動作確認」をするモノなのだ。
……毎回、射撃場で言われてウザいと思っていたモノの……案の定、一度サボった際に暴発して怪我しかけた後からは、射撃場に行く度に言われずとも点検するよう……この癖がついていたと言うワケだ。
……とまぁ、この銃を調べた現状の結論からは、「ガンクリ」で出した銃は、「即座に撃つ事が出来る!」……と言う事が判ったワケだ。
「……ウッ、ウゥゥゥン……」
「ッ!? あッ、ヤベェ……忘れてた!」
――久しぶりに触れた銃に夢中になり過ぎてたのか……すっかり、本来の目的を忘れ掛ける所だった……! 済まない、名も知れぬ人よ……放置プレイしてて、スマン……ッ!
「さっき、腹とかを蹴られてたからな……待ってろ、今すぐ治療を……!」
〜 ……ザッ……ザッ……ザッ…… 〜
「ッ!?」
〜 グルンッ! チャキッ! 〜
「……何…のつもり……だ……?」
「さぁな? だが……”悪足掻きはやめとけ”……って事は忠告しておくぜ?」
……全く、ビックリしたぜ……!
「マジかよ、ザカリー!?」……って、”クサイ台詞”が飛び出そうだったよ……!
まさか、石で顔面をブン殴ったってのに……起き上ってくるだなんてな……!?
……異世界人、頑丈過ぎだろ……って、苦情を上げたいけど……。
背後へと振り返り、右片手で銃を構えるオレから約2〜3m先――奴の顔面は真っ赤に腫れ、チラチラ見える歯は、”すきっ歯”を軽く通り越してボロボロだ。
ブン殴った際に何本か折れたのだろう……。歯が折れた所から血もダラダラと流れていて……そう、簡単に想像出来た。
しかし……偶然にも、背後から忍び寄る足音を聞き取れたのはラッキーだった。……悔しいが、次からは敵を倒した後も”周囲の警戒を怠らない”事を、反省しておかないとな……。
「この…野郎……ッ! よくも……ヒャルバと……フランダを……ッ!」
――いや、だからヒャルバさんは生きてるって……。
フランダの野郎は、どう足掻いてもご愁傷様だけど……。
「……お前ら、言ってたよな? 「生きたいから、オレらを殺す」……って」
「……ア゛ァァ?」
「……クソで馬鹿な野党共だろうお前らにも、特別……! 分かり易く言ってやるよ……?
お前らを倒す理由……それはな? さっきの言葉を、そっくりそのまま返しするって事だよ……ッ!」
「ッ!? だから……だからって……二人を……ッ!?」
「自業自得だろ?
何時からお前らは、「狩られる側」にならないと思っていたんだ?
その言葉を口にして、一体何人の「犠牲者」に情けを掛けてきたんだってんだッ!? ア゛ァァァァッ!?」
「……ッ!?」
……ホント、偉そうに被害者面してんじゃあねェよ……クソがッ!
「それとな……テメェに言われるのが癪過ぎるから、先に言わせてもらうが……。オレの後ろで伸びている奴を”助ける理由”……」
「……助ける…理由……?」
……何だろう……人に銃口を向けたのは、エアガンしかなかったからか……腕が……震える……?
「オレは……オレはもう――逃げたくないんだよ……ッ!
苦しんでいたり……困っていたりする人を……”力がない事”を理由に逃げるのは……ッ!」
――震える声と照準を、銃のグリップを握り直す事で納めつつ……オレは言葉を紡ぐ。紡いで……紡いで……叫ぶ……ッ!
「だからもう……躊躇はしない……ッ!
この手に握る”力”を手にした以上……! オレはオレの”信じたい道”を突き進む……ッ!
つまりだな……もう負けは確定しているこの状況で、お前がその剣で”最後の悪足掻き”をしようってモンなら……!
殺す……ッ! お前の剣以上に”危険なコイツ”で、確実にテメェを仕留めてやるゥッ!」
……我ながら、カッコ悪い台詞だな……と思った物だ。
覚束無い、キチンとした脈絡もない宣言だったが……”嘘偽りない本心”だ。
これがオレのチート能力……”力”であるなら、もうオレは逃げ続ける人生には戻りたくない……ッ!
……だからこそだ。だからこそ……アイツにも、今後の自分ためにも……ここで言ってやったんだ。
「初めて人を射殺する」……震える腕に叱咤し、躊躇しない為にも……ッ!
「笑わせるなよ? そんな棒でか!? 魔力の欠片も感じないその棒っきれでかッ!?」
「あぁ、そうさ。勝ったも同然さ。テメェの握っているそんな”ナマクラ”よりも……圧倒的に恐ろしい武器を、今テメェは向けられているんだからなぁ……?」
「……クッソォォォッ! さっきから図に乗りやがってッ! どれだけオレをおちょくれば気が済むんだッ!? もう我慢ならん! ……殺してやる、二人の仇だ……! 絶対お前をブッ殺してやるゥゥゥッ!」
――いや、銃に関しては事実を言っただけだから。
おちょくれば、何となく<攻撃を躱しやすくなる>……って、分かったからやってるけどさ……。
けど……さっきまでは、「オレの正義感」と「自分がモブだって事実の臆病さ」で揺れ動きまくっていたけど……。なんだろう……今は、何故か……!
「ヘェ……「ブッ殺す」……ねェ?
ところでアンタァ? それって毎回、相手を殺す前に言っているのか?」
「あ゛ァァァッ!?」
「それってなぁ……? とある世界じゃあ、「マンモーニ」……「ママっ子」って意味で……臆病者呼ばわりされてるんだぜ? 知ってたか? まさかと思うが……今までお仲間二人に攻撃を任せてたのは……。
オレが初めて殺す相手だったからのかぁ? ……マンモーニのザカリーちゃん?」
〜 ……プルプルプルプルプルプル…… 〜
――自身の”チート能力”が分かり始めてきて……。
「フンッ、どうしたんだい? ザカリーちゃん? そんな俯き、生まれたての小鹿みたいにプルプル震えちまって?
まさか、オレの事が”初めて怖い”と思って……玉金でもなくなっちまったのかぁ?
えェェ〜? マンモーニのザカリーちゃぁぁん?」
「ッ!? テメェェェェッ! それはフランダが言ってた事ぅぉぉ……ッ!」
「……はて? 今、言った言葉の何処に”フランダ”……って、名前が書いてあったんだ?」
……楽しくなって来た……!
「……クッソォォォォォッ! ブッコロスッ!」
〜 ……ザッ! ザッザッザッザッザッ……! 〜
――”不敵な笑み”を浮かべながらザカリーって奴を挑発すると……案の定、奴も先程までの冷静さは何処へやら、オレに向かって無策に突っ込んで来た。
それに対してオレは、奴に冷静に照準を向けたまま微動だにせず動かないでいた……。
……恐怖心? 燻るようにはまだ有る……。
けど……それ以上に、オレの頭の中ではアニメなどの物語の主人公が、勝利目前に流れる音楽のような……ロックでノリの良い軽快な音楽が、漠然としながらも流れ続けていた……!
それがオレの恐怖心を緩和させ、逆にオレの闘争心を昂らせていた……ッ!
……”不適な笑み”が今も止まらねぇが……「処刑用BGM」だったか? こういうのって?
「死ねェェェェエェェェェェェッ!」
〜 ザッザッザッザッザッ……ブォォォンッ! 〜
――再び、上段からの大振り。しかも、助走付きで威力も増してるだろうと来た……。
当たったら間違いなく……オレは縦真っ二つの、”ボンレスハム”にでもなっちまうだろう……。……だけどな?
〜 バッ! ……スカァァッ! 〜
「……何ィッ!?」
……そんな上段の大振り、実戦経験ナシな素人のオレだって……タイミングさえキッチリ測れば、こうやって”サイドステップ”して躱せない事もねェんだよッ! そしてェッ!
「ウオォォォォォォォォッ!」
〜 ブゥゥゥンッ! 〜
――左に”サイドステップ”して、剣を空振りした”奴の側面”を捉えた今ッ!
俺に向けて振り直すにも隙が出来る今ッ! その無防備になった顔面に……ッ!
「……ラァァァァァァッ!」
――”右回し蹴り”を……!
〜 バッ、キャアァァァァッ!〜
――叩き込むッ!
「オッ!? ブウェェェェェッ!?」
〜 ゴロンッゴロンッゴロンッゴロンッ、ドカンッ!〜
「ハァ……ハァ……ハァ……漏らすかと思った……」
……いや、マジで怖かったよ……。
なんせ、言葉に出来ねェ程に鬼気迫る表情……って、言うか……。オレが憎くて仕方ない表情……って言うか……。うん、とにかく必死だったって事はよく伝わっていたよ……。けど、お前が伝えたい事には……一切同感できないな。
さっきの格ゲーなんかでありそうな、「回避からの強攻撃」がオレの答えだ。
〜 ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ……チャキッ 〜
「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」
……ホント、異世界人の体力にはビックリだよ……。
さっきの走りから、止まる最中に当たった性か……助走の勢いを殺しきれず、それが俺の回し蹴りと当たった事で「カウンター」みたいになってオレの予想以上の破壊力が出たらしい。なんたって、今ザカリー……って、もういっか……。
奴は当たった衝撃で、オレが初めに”ジャンプパンチ”で殴り飛ばした以上に転がって行き……その軌道の延長線上にあった”岩”に、盛大に後頭部を打ち付けてしまっていたんだから……。
今だって、ホラ……後頭部から盛大に出血して、足も満足に動かせず――何とか岩に寄り掛かるように座り込んでいるって言うのに……。
気絶もせず、額目掛けて銃口を突きつけるオレに対し、睨みを利かせてまだ反抗の意思を……って、オレが悪役みたいだなぁ!? オイッ!?
「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」
――まぁ、そんなこんなで「スキャン」で見ても「HP:44/363(VIT:+3)(出血中)」……って、”状態異常”付きの虫の息な訳だ。
今も、5秒に付き「HP:1」ずつ減って来ているから……後、三分の命……ってトコか……。って、何だよ……? 何でまたオレは悪役っぽい台詞を思い浮かべてんだ!?
……けどまぁ、ダークヒーローとか?
「正義じゃあ捌けない悪を、捌く悪」……的な物は好きだったりするけど?
とある”極道ゲーム”の主人公とか、そのライバルなんかは大好きだし?
「……そうそう、言い忘れてた事があったんだけどよぉ……?」
「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……?」
――「口に出して言わなきゃ、誤解される」。
それで今までの19年間、散々酷い目に合い、ラノベでも学んできたオレは――死に掛けであろうと、この勘違いをしていたコイツに言ってやる……。
「……オレは魔族なんかじゃあない。”北東の魔大陸”なんてのも聞いた事もない……。ただの一般市民……いや、”旅人”みたいなモンだ」
「ッ!? ハァ……ハァ……ハァ……旅、人ォッ!? ハァ……ハァ……その……実力で……ッ!?」
――おいおい、ラノベじゃあ”ド鉄板”な「自分は旅人or田舎者です」設定に、ケチ付けるつもりかよ……?
「……褒めてんのか、貶してんのか知らねェが……。とにかく、テメェに確実に言える事としてはさっきの事と……」
……逃げるな……オレは……成るんだろッ!?
「……テメェらみたいな理不尽をブチのめして……「英雄になるため」に、オレはここに来たんだからなァッ! 分かったかッ!? クソ野郎ッ!」
……言い切れたぁぁ……!
後は、コイツが何を言おうと……オレはコイツらに襲われていた”あの人”を助けるだけ……!
「ハァ……ハァ……ハァ……フッ、英雄だと……?
馬鹿馬鹿しい……ハァ……ハァ……結局は……ハァ……ハァ……オレらと……同じじゃあねェか……!
オレらを殺して……オレらの…獲物を……ハァ……ハァ……奪いやがった……ッ!
テメェは……英雄なんかじゃあねェ……! ハァ……ハァ……ただの……ハァ……人殺しだッ!」
……あぁ、分かったよ……さっきから感じてたこの違和感……!
アレだ。”海外の人達”と話しているような……多分、「価値観の違い」って奴なんだろうな……。だから……さっきから噛み合わなかったんだろうな……。
「人殺しが”アタリマエ”である世界」と「平和が”アタリマエ”である世界」……って感じに……。……アホ臭せェ……! オレの世界の”アタリマエ”……って奴が通用しないなら……!
「……勝手に言ってろ、クソ野郎。
ただ、決定的に違う事がもう一つ……出来たなぁ?」
……絶対に突き通してやるッ! 何だったら、このチート能力を使って……戦争(?)なんてやってるこの世界に、飽きる程の”平和”ってのをくれてやるよッ! ……だけどいい加減、コイツとの馬鹿げた問答も聞き飽きたよな……。
……オレは「フリピスのハンマー」を、右手の親指で引き起こす。
〜 チキキキッ、カチッ! 〜
「確かに、テメェらから見れば……オレはテメェらの獲物を奪ったんだろうよ……? けどな? オレから言わせて貰えば、オレは助けたんだッ!」
「……助けた? あの獣女……獣人を……ッ!?」
……チッ! 人種差別? ”差別”してんのかッ!? またオレが嫌いな事を……ッ!
「……へぇ、アイツ”獣人の女性”なのか……イイじゃん?」
――異世界の代名詞の一つだろッ!? ファンタジーだろッ!?
是非、お仲間にでもなって欲しいモンだねェッ!
「ッ!? バカか……お前……ッ!?
王国が……ハァ……ハァ……奴隷の……対象に……!」
〜 ドゲシャアァァァッ! 〜
「ゴボォォォッ!?」
「……もういい。
それ以上、”不快な事”を言うんじゃあねェよ、クソ野郎……」
……ヤベッ、地味に情報が聞けそうだったのに、「奴隷の対象」って聞いた瞬間に……手が出ちまった。
……いや、実際出たのは右脚か。腹にメリ込んでるし……。
それよりも、そろそろコイツの体力も”一桁台”に突入しそうだし、失血死されるよりも早く……トドメは差しておくか……。
「……まぁ、何だ。
これが本当の最後に……って事で言っておこう……」
「ハァ……ハァ……ハァ……?」
「ありがとよ。オレが英雄になるための、”チュートリアル”になってくれて……」
――「悪党じゃあない」……って事を示すため、オレはあえてコイツに礼を言う。
……勿論、心を込めて感謝する相手じゃあないから、皮肉の感情をたっぷり込めて言ってるけどな?
「ハァ……ハァ……ハァ……チュート……リアル……?」
「……意味は知らなくていい。ただ、”感謝されてる”とだけ思っとけ……」
「ハァ……ハァ……ハァ……?」
……意識が朦朧としてきてんだろうな……。
受け答えも、もう満足にできてねェし……白目になり掛けて来てやがる……。
……”切腹”って感じでもなく、銃だけど……介錯はしてやるか……。
「……”チェックメイト”だ……」
~ キンッ! シュボッ! ~
「ハァハァハァハァハァ……ッ!?」
~ ズバンッッ! ~
……この世界で……初めて、”命”を刈り取った武器の産声が……静かな森の中で、響き渡る……!
<異傭なるTips> 坊城 進(3)
前話でも彼が語っていたように、彼には少なからず「英雄願望」がある。
彼には友人が全くいなかった訳ではないが、ほとんどを”一人”で過ごす時間が多かったが故に……今の”趣味”や”サブカルチャー”をカジり回り、特に”ゲーム”や”ミリオタ”をこよなく愛す彼が居るのだ。
そんな人との繋がりが希薄だった彼でも、絶対に関わる事がない人の目の前を通り過ぎる際、ある事に対して非常に強い”嫌悪感”と”義憤心”を抱くのだ……。
しかし……それは、全て日本や地球という”秩序ある社会”に、抑え縛られ――いつも”通り過がらざるを得なかった”のだ……。
だが……彼は諦めたくなかったのだ……!
だからこそ――今日までに、彼は細々ながらも体を鍛え続けた……。
だからこそ――独学ながらも現実の武術や、ゲームや漫画などの自身が”再現可能”な技を鍛錬し続けた……。
だからこそ――今回のように、素人で無傷ながらも……”泥臭い勝利”を掴み取る事が出来たのだ……!
……いつか誰かを助けたい……!
誰かのためになれる”英雄”になりたいと……願い、努力し続けて来たのだから……!