RE:Mission-15 ¨事情聴取¨ヲ執行セヨ - 2
「あぁ〜ボスゥ! オソイよ〜」
「……ッ!?」
――”姉ちゃん”の視界が、この奇妙な空間の入り口らしき所に向けられ、そこから出てきた者を見た瞬間……ッ! 彼女は、一瞬にして体が凍りつくような感覚に襲われた後……奇妙な空間の奥の隅へと、尻餅を付いたまま……全力で後退りをしていたのだった……!
「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ……!」
――”姉ちゃん”は、その奇妙な空間の入り口から、顔を覗かせる存在……”人間”をずっと見据えたまま、ひどく怯えた呼吸を繰り返していた……!
「だ、ダイジョウブッ!? エルちゃんッ!? どうしたのッ!?」
「……おい、オルセット? お前、オレが来る前に……何か、変な物でも食わせてないよなぁ?」
――自身に何もして来なかったが……すぐ傍に居た”オルセット”と言う獣人に向けて、睨む人間。
「エェ〜! 何もタべさせてないよ〜? 今、オモチをヤいているだけだし〜?」
〜 スコン! 〜
「イッタァ!?」
「バカ! オルセット! まだミイラみたいなガリガリの患者に、何食わそうとしてんだよッ!?」
――オルセットと言う少女の頭上に、”手刀打ち”をしながら怒る人間。ただ……その手は、優しかった気もするが……矢張り、そんな事よりも恐怖が上回っていた……!
「エェ〜? オナカスイているトキィ〜オモチは、ハラモチがイイって……ボス、言ってたでしょ〜?」
「それは、健康な奴だけの話だ」
「エェ〜?」
「イイか? 健康なヤツでも……”餅”ってのは、最悪の場合……喉に詰まって窒息……呼吸出来なくなっちまう事があるんだぞッ!? 況してや、それをそこのガリガリな……”エルフの女の子”に食わせてみろッ!? ド〜なると思ってんだッ!?」
――呼吸ができなくなるッ!? じゃあ、やっぱり……! 私を殺そうとして……!? そんな失望な思いをジョジョに募らせながら、オルセットと人間の言い合いを見つめる”姉ちゃん”。
「ウゥ……ボスゥッ! ボク、そんな事キイテないよ〜ッ!?」
「……エッ? そ、そうか……? 話してなかったか?」
「モゥ〜ハナしてないよッ! ボスゥ!」
「わッ、悪ィなぁ……オルセット? けど……今の話は本当だから……今後食べる時、気を付けろよ?」
「ブゥ〜じゃあ今、ヤいてるオモチ! ボク、タベテイイ〜? ボスゥ?」
「……ハァ。チャンと、歯ァ磨けよ……?」
「ヤッタ!」
――謎な仕草を決めるオルセット。しかしながら……呼吸が出来なくなるかもしれないのに、食べたがるとは……そんなに”オモチ”……と言うのは、美味しいのだろうか……? そんな事を思い始めつつ、その光景を訝しそうに視界に収めていた”姉ちゃん”。
「ただし! 今日だけだぞ?」
「エェェェェェッ!? ボスのケチィッ!」
「ケチじゃあねェよッ!? 基本、夜の間食は禁止だって……そう、ルールを決めてんだろうがッ!? 健康面もそうだけど……そうポンポン、その焼いてる餅だって供給出来るモンじゃあねェぞ、オルセットッ!? 一つ一つ……もっと慎重かつ、節約するように有リ難く食えッ! イイなッ!?」
「ハ〜イ……ボスのケチ」
「……何か言ったか? オルセット?」
「ナニモ〜?」
「ハァ、全く……おっと! さっきから怯えさせて済まねェなぁ? お嬢さん?」
「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」
「おいおい、そう怖い顔で睨まないでくれよ……?」
「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」
「……恐縮だけど、オレがお嬢さん達を追い回していた……”鉄血傭兵団のクズ供”と同じだと思ってんのか? そりゃねェよ……?」
「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」
「なぁ? そんな過呼吸にならず、落ち着いて考えてみろ……? オレがあのクズ供の一味か……あるいは、お嬢さん達の抹殺を頼まれた”殺し屋”だとしてみろ……? ここに入って真っ先に、お嬢さんに向けてナイフを投げたり……弓矢を放ったり……絶対、何かしらの”攻撃”をしてるハズだろ?
でも……今はどうだ? そんな事になってるか? ンゥ? それよりもどうよ? この両手に持っている……”温かい飯”と”温かい飲み物”で、どうやってお嬢さんを”殺す事”が出来るんだぁ? ンンゥ?」
「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……?」
「おっ、やっと落ち着いてきたか?」
――”姉ちゃん”の呼吸が、チョッピリ落ち着いた所で……飄々とした口調で、自身に話し掛けていた人間が、ゆっくりと歩み寄って来た。……確かに、彼の言う通り……その両手には武器の類は一切なく、またも”見慣れぬ器”と、”見慣れぬ金属製らしき筒”を持っていた……。
そうして、彼女が許可する間も無く……その人間は、彼女の目の前にドカリと腰を降ろしたのであった……。
「よっと! フゥゥ……やっぱ、深夜は寒いモンだなぁ……。あぁ、そうだ? オルセットに頼んで、火鉢を点けてもらっていたんだが……テントの中、寒くなかったか?」
――そう聞くも、最初は”ヒバチ”が分からず軽く首を傾げていた”姉ちゃん”。だが、人間がそう言いつつ……先程の”奇妙な壺”の方を見ながら話していたのを思い出しては……彼女はゆっくりと、首を縦に振っていた。
「おぉ、そうか。良かった良かった。どうやら、オレが言ってる事も分かっているみたいだな?」
〜 ……コクリ。 〜
「おぉ、そうかそうか。じゃあ聞くが……何でさっきから、口を動かして喋ろうとしないんだ? ンンゥ? 変に疑うようで恐縮だが……何か、オレらに対して……疾しい事でもあるのか?」
〜 ……ブンブンブンブン……ッ! 〜
「……その首を振っているのは、”違う”って意味で良いんだな……?」
〜 ……コクコク。 〜
「……ウ〜ン、何で喋ろうとしないんだ……?」
――そう言いつつ、右手を右頬に当てては悩ましそうな仕草をする人間。それを視界に捉えていた”姉ちゃん”からは、ほんのチョッピリだけ……申し訳なさそうな気持ちが漏れ出ていた……。
すると……今まで、”ヒバチ”と言う壺の網の上に乗っていた”オモチ”を、ずっと眺めていたらしい……オルセットが、人間に向けて声を掛けたのであった。
「ボスゥ? そのシツモン、ボクもさっきキイタけど……エルちゃん、ノドにケガしてもないのに……ポーションをツカっても、ナオラない何かなんだって。ボク、ゼンゼン分かんなくて……」
「怪我でもなく、ポーションでも治せない……? なら……何か……宗教的な問題か……?」
〜 ……フルフル。 〜
「……ウ〜ン、埒が明かねェなぁ……。何が起こってんのか……色々と質問がしたいってのに……!?」
〜 ……グゥゥゥゥゥ……ッ! 〜
「……ん?」
「……」
――とてつもなく恥ずかしい感情を発しながら、急に人間から目を背ける”姉ちゃん”。
「ボスゥ? エルちゃん、オナカスイテるんじゃあ……?」
「おぉっと、そうだった……。せっかく、温めたってのに……このままだと飯が冷めちまうな……?」
〜 コトン。 〜
「食いな。一週間も逃げ続けてたんなら……マトモな飯も食ってないだろ?」
――そう言いつつ、歯を見せるような満面の笑みを見せる人間。そう様子を視界に捉えていた姉ちゃんは、特に破顔する事もなく……その人間が自身の足元付近に置いた”奇妙な器”の中身を覗き込んでいた……。
「……悪いな。お嬢さんらの来訪が唐突過ぎたモンで……今すぐ、モテなせたのが……今日の……”晩飯の残り”しか…なくてな……? 本当、済まないんだけど……」
「チリコンカン……だっけ? ”カーボーイ”のメシィ〜って、ボスが言ってたヤツゥ?」
「おい、オルセット? 済まないが、今は口を挟むな……!」
――人間の発言に対し、剥れるオルセット。だが、そんな彼女の言っていた”カーボーイ”には見当も付かず……。
更に目の前の”奇妙な器”の半分ぐらいまで入った……”チリコンカン”らしき液体は、もっと見当が付かない……! そう、視界に捕らえていた彼女は思っていた……!
「話途中で、済まなかったな……? 一応……食いやすいように、温める過程で”具”とかは全部……擦り潰しておいたんだ。まぁ後は、口に……合えば良いんだが……?」
――だがそれ以前に、あの地獄での仕打ち……! ”水”や”果実の搾り汁”だと言っておいて、飲ませた物が”家畜の母乳”だったり……挙句の果てには、”獣や魔物の血液”だったりした屈辱……ッ!
……そんな経験を持っていた彼女は、その”チリコンカン”と言う食べ物に対し……容易に手を伸ばさず、訝しげな視線を投げかけるままであった……!
「……よっぽど、辛い経験をしたんだな……?」
――そんな思いも寄らない発言に、”姉ちゃん”は素早く……睨んでいた”チリコンカン”から人間の方へと視界を動かす……! するとそこには……”悲しげそうな表情”をした人間が、コチラを見つめていたのであった……!
「お嬢さんが寝ている間……お嬢さんらを追い回していた、”鉄血傭兵団”とか言うクソ供と……その傭兵団の”ラグジャー”とか言うクソ団長を、フン捕まえた上で……色々聞いたよ。
まず、言える事としちゃあ……数十年もの奴隷生活……。そんなの、まずオレだったら……耐えきれず、野垂れ死んでたろうと……容易く思えちまって……ゾッとしたよ……」
「……ッ!?」
「ボスゥ!? そんな事ォ〜言わないでよ〜ッ!? ボスだったら、そんな事……!」
「あんまし持ち上げんなオルセット? この一ヶ月……ずっと言ってきただろ? ”オレは英雄じゃあない”って……?」
「エェ〜でもォ……ボスならぁ〜?」
「現状のオレは、あの”鉄血傭兵団”とか言うクソ供よりも……チョッピリ強いぐらいの、”人外(笑)さん”なんだよ、オレは。英雄なんて……程遠い程にな?」
「エェ〜そんなァ〜?」
「……」
「……オッ? さっきもそうだけど、そんな同情してくれる人間なんて初めてだ……って、驚いてでもいんのか?」
〜 ……コクリ。 〜
「……そうか。ソイツはありがとな? ただ……このままオレらの会話をただ聞き続けたとしても……お嬢さんのそのガリガリにやせ細った体が、治る訳じゃあないし……せっかく温めた飯も、ガンガン冷めていくだけだ……。それに……!」
〜 スッ、ヒョイ! パクッ……ゴックン! 〜
「……ホラな? 毒なんて、入ってないだろ?」
――どこから取り出したのか……!? ”見た事もない匙”を取り出しては、”奇妙な器”内の少量の”チリコンカン”を掬い取り、それを口に入れては飲み込む人間。
「……」
〜 カポン! トクトクトク……ズズズッ……ゴクン! 〜
「それに、ホラ? こっちの飲み物も、毒なんて入ってないだろ?」
――またも、どこから取り出したのか……!? ”見た事もない杯”を取り出しては、”奇妙な金属筒”から、少量の”液体”を注ぎ入れては……それを啜った後に、飲み込む人間。
「……」
「詳しい事情は良く分かんねェけど……その警戒心、いいセンスだ。オルセットも、チョッピリでも見習って欲しいモンだよ……!」
「エェ〜何ソレ〜? 何かヒドくな〜い? ボスゥ!?」
「言われたくなきゃ、普段の訓練から気をつけろ……! 後、お前は……その餅が焦げないように、警護してんだろ? 食いたい! ……って、言いだいしっぺはお前なんだから、最後までキチンと警護しとけ!」
「ハ〜イ」
「……フフ」
「……ん? 何か、変な事でもあったのか?」
〜 ……フルフル。 〜
――憎く思わなければいけない筈の人間なのに……何故か、羨ましい……。そんな感情が私に流れつつも、ゆっくりと首を左右に振る”姉ちゃん”。
「……そうか。まっ、事情を聞くにしても……まずを飯を食ってからだ。ホラ、冷めない内に食いな?」
――そう言いつつ、その”チリコンカン”を勧めるような……手の仕草をする人間。流石の”姉ちゃん”も、一週間近く文句を言い続けた”自らの腹”に堪え兼ねたか……”奇妙な器”の上に乗っていた”奇妙な匙”を手に取っては、まずは少量の”チリコンカン”を口に運んだのであった……!
「……ッ!? ムッ、ケホッ! ケホッ! ゴホッゴホッ!」
「ウワッ!? ナニィッ!? ……あぁッ! ボクのテントが……ッ!?」
――口に含んだ瞬間、”強烈な忌避感”を感じ取った”姉ちゃん”は……即座に、その”チリコンカン”を吐き出していたのだった……!
「オルセット!? チャンと後始末してやるから、騒ぐなッ!」
「エェ〜!」
「ケホッ! ケホッ! ケホッ! ケホッ!」
「おいおい……大丈夫か? 何か……嫌いな物でも入ってたのか?」
――一瞬、この人間の策略かと思った姉ちゃん……。だが、強烈に咳き込む自身に対し、あの地獄では絶対になかった……”本気で心配する目”をしていたのを、彼女は咳き込む中で、垣間見ていた……!
そのためか……ジョジョに沸々と募る怒りを抑えながら、ゆっくりと首を縦に振ったのであった……!
「……そうか。済まないな……? でも、マジで参ったな……。飯を食わせてやりたいのに、”ハイ”か”イイエ”しか聞けないんじゃあ……”好き嫌い”を聞くのに、どんだけ時間が掛かんのやら……?」
「モォ〜ボスゥ! ナヤんでないで、カタヅけるって言ったなら、カタヅけてよッ! 言い出しっぺはボスでしょッ!?」
「あぁ、分かったよ! ゴメンな、お嬢さん。そのチリコンカン、無理してそれ以上食わなくていいから……そのまま、置いといてくれ。オレはちょっと片付けに入るから……」
〜 ……フルフル。 〜
「……エェ? やんなくて大丈夫だって? ……まさか、片付けてくれるとか?」
〜 ……コクリ。 〜
「……気持ちだけ貰っとくな? 悪いけど、そんな重病人に任せられねェよ。飯については、何かしら対策考えるから……そのまま大人しく待っててくれ……」
……言葉を出せないのが辛い……そんな申し訳なさと、初めて感じるような”歯痒さ”が……私の中に流れ込んでいた。
「オルセット、オマエんトコの掃除用具借りるけど……良いか?」
「イイよ〜。早く片付けてねェ〜? ボスゥ?」
――一方で”姉ちゃん”の視界は……先程からこの”テント”言うらしき、”奇妙な空間”にさっきからあった”奇妙な箱”に向いていた。
彼女の記憶の中にあった……”聞かされた物語”の中にあったような”宝箱”の如く、その箱を開けては、中を漁っている人間……いや、ボスという人間の姿があった……!
「おい、オルセット……! オレ言ってたよなぁッ!? 日頃からチャンと! ”収納箱”の中身はキチンと! 整理整頓しとけってッ! 何処にあんだよ!? 雑巾とか……ッ!」
「……ボッ、ボク……”モチノケイゴ”ッテ、ヤツニ……イソガシイカラ……!」
「全く! 目ェ逸らしてんじゃあねェよ! オルセットッ!?」
「……アッ、オモチガヤケソウダナ〜?」
「たくッ! ……中身のほとんども……食いモンばっかだし……!?」
〜 ガサゴソ…ガサゴソ……! 〜
「……おっ、あったあった……! ……ん? コレは……!」
――その際に、”姉ちゃん”の視界に入っていたのは……ボスという人間が持つ”布”らしき物と、”四角い板と棒”であった……!
「……ボォ〜スゥ〜? 何してんの〜?」
「なぁ、オルセット? この”ホワイトボード”、借りていいか?」
「ん〜? アァ〜、”ニホンゴ”とかのオベンキョウにツカッテるヤツね〜? ベツ、イイけど〜?」
「そうか! サンキューなッ!」
「……ヘンナボスゥ……あっ、オモチヤケそう……!」
――奇妙に思うような表情をしつつも、すぐに”オモチ”の方に視線を戻してしまうオルセット。一方でボスという人間は、手早く”姉ちゃん”が吐いてしまった物を片付けると……”シュウノウバコ”という箱から出した”ホワイトボード”と言う”四角い板”に……”棒”を押し当てては、それを動かしていた。
少しの間、そんな光景が”姉ちゃん”の音だけが見える世界にあったのだが……?
<この文字、読めるか?>
「ッ!?」
――”ホワイトボード”という四角い板を、こちらに向けてきたボスという人間。何かと思った”姉ちゃん”は、久々に目を細めるように凝らした結果が、上記の反応だった訳だ。
そこには、自分達家族が奴隷として長らく暮らしていた国……”バレット王国共通語”で、そう書かれていたのだ……!
「……やっぱりか。あのクソ供……”目が見えない”とか言ってクセして、嘘だったじゃあねェかよ……ッ!」
――吐き捨てるように悪態付く、ボスという人間。だが、”姉ちゃん”にとってはどうでも良かった……! それよりも、その”ホワイトボード”は……! その”棒”は……! 一体、どんな仕組みで文字を書いたのか……ッ!?
その一点に、彼女の興味は集中していたのだった……ッ!
「……まぁ、とにかく。その”虚な目”でも、オレやオルセットの事……見えてたんだろ、お嬢さん?」
……何で……気づいて……ッ!? 驚愕の色を隠せない吐息及び、感情が……私の中に流れ込むも、非常にゆっくりとした動きで、”姉ちゃん”はその視界を縦に振っていた。
「……やっぱりな? 音だけで反応しているしちゃあ……オレの顔をシッカリ捉え過ぎなんだよ。まぁ……本当に、その目の通り……視力がもうないのかもしれないけど……何かしらの方法で、さっきからオレらの事を見ていたって事だよな? お嬢さん?」
〜 ……コクリ。 〜
「フゥゴ〜イ、ボスゥ! フォウヤッテファファッカノ!?」
「おいおい、今さっき言ったばっか……って!? いつの間に、二個目焼いてんだよッ!? なぁ、二個目食って良いって、何時オレが言ったッ!? 後、食いながら喋んなッ!? 行儀悪いだろうがッ! オルセットッ!?」
「フォク、”ニホンヒン”ファアファイカラ〜ヒファファ〜イ!」
「おいッ! 食いながら喋んなって、言ってんだろうがッ!? オルセットッ!?」
「ヒファファ〜イ! フォク、ファヒノフェイゴキュ〜!」
「この野郎……!」
「……フフ」
〜 ポン、ポン。 〜
「……ん?」
〜 スゥ……ピッ! 〜
「……んゥ? 何だ? ホワイトボード、使いたいのか?」
〜 コクコク。 〜
「……そうか。まぁ、元から使って貰って欲しかったし……願ったり叶ったりだ。ホラよ」
――そう言われつつ、”姉ちゃん”の視界には……手渡された”ホワイトボード”なる”四角い板”が、彼女の両手によって握られていた……! また、その板にくっついていた……”棒”の存在に、また彼女は驚かされるのだが……。
「……あっ、でも……ペンとかの使い方……!」
〜 カポンッ! キュ、キュキュキュキュキュキュ〜クルン! 〜
<この文字、読めるか?
この度は私達、姉弟を助けて下さり……本当に有難うございます>
「うわっ、メッチャ字がキレイだな〜!? あぁ、でも……案の定、オレのが消せてなかったな……」
〜キュ、キュキュキュキュ〜クルン! 〜
<この文字、読めるか?
この度は私達、姉弟を助けて下さり……本当に有難うございます。
あの……何を、消すのですか……?>
「あぁ、ホラ! 教えて上げるから……ちょっと貸して!」
――そう言っては、”姉ちゃん”の横に並ぶボスという人間。
【ホラ、こうやって……キャップに付いている”スポンジ”で消すんだ】――そう言いつつ、”文字の消し方”を教えてくれるが……この時彼女は、何故に走ってもいないのに胸の鼓動が早くなっているのか……?
そして、ふと目を逸らした際……オルセットが、彼女を軽く睨んでいた気もするが……それでも、文字の消し方を理解しつつも、その事が気になって仕方なかった……。
「……ホラな? 羊皮紙を使った事あるか分かんねェけど……コレなら、話せなくても”筆談”って感じに、オレらと話す事が出来るだろ?」
――そう言っては、”姉ちゃん”の傍から離れて行く……ボスと言う人間。そして、彼女はまた……その胸の鼓動が収まっては、今度は何故かチョッピリ切なくなるのを……不思議に感じていた……!
〜キュ、キュキュキュキュ〜クルン! 〜
<あの……有難うございます>
「別に良いって。……そうだ、さっきは何で”チリコンカン”を吐いちまったんだ?」
〜 ゴシゴシゴシ……キュ、キュキュキュキュキュキュキュキュキュキュ〜クルン! 〜
<その……簡潔に言えば……我々、エルフは……”肉”などの、”生きとし生けるもの”を……食べられないんです……>
「……ナルホド? つまり、さっきのチリコンカンに入ってた、”挽き肉”がダメだったって事か?」
〜 ……コクリ。 〜
「エェ〜? エルちゃん? オニクって、オイシイんだよ〜?」
「おい、オルセット? 人によって、”好きな物”や”嫌いな物”はそれぞれ違うんだ。そんな風に言うなら……明日からの飯は全〜部、燻製肉なしの”トマトリゾット”にしてやろうか……オルセット?」
「ウェ〜! ヤメテよ〜ボスゥ〜ッ!」
「ホラ、嫌だろ? そう言う事、そこの”エルフのお姉さん”に言ってたんだぞ? オマエはァ?」
「……ハ〜イ。ゴメンね〜、エルちゃん?」
〜 ゴシゴシゴシ……キュ、キュキュキュキュキュキュキュキュキュキュ〜クルン! 〜
<分かって頂ければ……大丈夫ですよ、オルセットさん。後、申し訳ないのですが……”エルちゃん”と呼ぶのは……止めて頂けないかと……?>
「……ウ〜ン? ボォ〜スゥ〜? 何て、カイテんの〜?」
「……ハァ。オレが”勉強しろ”って言う意味が、分かったか? オルセット?」
「エェ〜? ボスだけズ・ル・イ〜!」
「ズルいじゃあねェよッ!? 勉強の時間に、”バレット王国語の文字”も教えてんだろうがッ!? 真面目に学ばない方が悪いんだよ! 全くッ!」
「……エェ〜!?」
〜 キュ、キュキュキュキュキュキュキュキュキュキュ〜クルン! 〜
<分かって頂ければ……大丈夫ですよ、オルセットさん。後、申し訳ないのですが……”エルちゃん”と呼ぶのは……止めて頂けないかと……?
吐いてすみません、オルセットさん。そして、すみませんが……”エルちゃん”とよばないでください……!>
「ホラッ! 気遣わせちまったじゃあねェかよッ!? さっきより、簡単に書いてくれるのに……これでも分からないって、言わないよなぁ!?」
「エッ!? エェェ〜っと……あぁ! ゴメンねッ!? ……エェェ〜っと、”エルちゃん”がダメなら……何てヨンダらァ……?」
「……ハァ……」
〜 ゴシゴシゴシゴシゴシ……キュ、キュキュキュキュキュキュキュキュキュキュ〜クルン! 〜
<諸事情で名前は教えられませんが……私の事は、「イティア」とお呼び下さい……>
「……偽名か? どうしても……教えられないのか?」
〜 ……コクリ。 〜
――少々後ろめたい気持ちで、その視界をゆっくりと縦に動かす”姉ちゃん”……もとい、イティア。そんな彼女の気持ちを少し代弁すれば……”親切にして貰ったが、まだ信用はしきれていない”……のだそうだ。
そんな申し訳なさそうな気持ちを抱きつつも……目の前で腕組みをして、思案顔をしていたボスという人間が、口を開く……!
「ウ〜ン……とりあえず、オルセット? このお嬢さんの名前は、イティアさんらしい。今後は気軽に、変なアダ名で呼ぶんじゃあねェぞ?」
「ハ〜イ。ヨロシクねェ〜イーちゃんッ!」
「……オイ。言ったそばから……何、略して言ってんだよッ!? ホラ! イティアさんも、チョッピリ渋い顔してんだろうがッ!?」
「エェ〜だって〜? コッチの方が、ナンかカワイイカンジしない〜?」
「オルセット……お前なぁ……ッ!?」
〜 ゴシゴシゴシ……キュ、キュキュキュキュキュキュ〜クルン! 〜
<……大丈夫ですよ、ボスさん。構いませんから……>
「……ハァ……オルセット? イティアさんの寛大さに感謝しとけよ……?」
「……カンダイ?」
「あぁ、もう……!」
〜 ……グゥゥゥゥゥ……ッ! 〜
「……ウゥ……!」
「あぁ、そうだ。チリコンカンが食えないんだったよなぁ……?」
「……ボスゥ? じゃあ、ボクのオモチがヤケそうだから……」
「いくら肉を使ってない食いモンでもダメだ。お前なりの”優しさ”なんだろうけど……さっきも言ったろ?」
「エェ〜?」
〜 ゴシゴシゴシ……キュ、キュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュ〜クルン! 〜
<あの……大丈夫ですよ、ボスさん。奴隷になる前に、森に住んでいた頃……何日か、食べる物がなかったなんて……度々、ありましたから……慣れてます。本当、もう……夜遅いですし……大丈夫です……>
――そう書いたホワイトボードを見せつつ……なけなしの元気で、ボスという人間へと笑顔を向けるイティア。だが、彼女の視界に入っていた彼の表情は……ジョジョに曇って行く!
〜 パシィッ! 〜
「ッ!?」
「んな事言うなよッ!? イティアさんッ! そんなん書かれちゃあ……! 益々、飯を食わせてやんなきゃてッ! 思っちまうじゃあねェかよッ!? エェ!? 一週間もほぼ飲まず食わずで! 逃げまくっていたってのにッ!?」
――イティアの骨張った両肩を軽く叩きつつ……そのまま両手を置いた状態で力強く目前で語る、ボスという人間。
”治療”や”寝床”の提供だけでも……! ……と思っていた彼女なりの気遣いだったのだが、この思い掛けない”逆効果の反応”に戸惑いつつも……一瞬、何故か涙が溢れそうになった事については、聡明な彼女でも見当が付かなかった……!
「モォ〜ボスゥ〜? 何そんな声、出して〜?」
「バッキャロウッ!? オルセット! イティアさんの見たか? 過去に、何日か食い物が取れない日があったから……慣れてますからって……! 今日はもういらないから、大丈夫なんて言うんだぞ!? こんなガリガリな体でッ!?」
「……エッ? ……それは……ダメだよ……イーちゃん? ボク……ウマく言えないケド……」
――ボスという人間の力強い声に感化されたのか……ピンと立っていた耳を垂れさせつつ……イティアに、哀れみの視線を送るオルセット。
〜 カポン! トクトクトク……! 〜
「……?」
「まぁ、そう言うワケだ。今から新しく、イティアさん達の口に合いそうな飯を作ってくるから……これでも飲んで……待っといてくれ、ホラ」
――そう言っては、優しげな表情で……何かしらの液体に満たされた、”奇妙な杯”を差し出してくる、ボスと言う人間。
その杯から立ち上る……魅力的な香りに一瞬、心を奪われそうになるが……ハッと立ち止まっては、今まで余裕がなかったが故に聞けなかった事を、ホワイトボードに急いで書き始めたのであった……!
<重ね重ね、お気遣い有難うございます……! ところで、”私の弟”は……?>
「……弟? イティアさんが背負っていた……ダークエルフ……なのか?」
〜 コクコクコクッ! ゴシゴシゴシ……キュ、キュキュキュ〜クルン! 〜
<どっ、何処に!? 今、何処にいるんですかッ!?>
「そんな慌てんな……! 弟さんなら今、オレのテントで寝かせてるよ。勿論、結構酷かった怪我も……応急処置は終わっている。只まぁ……まだ、生きちゃあいるが……状態は良くない」
「ッ!?」
「特に……腕と…足がな……? 最善は尽くしたけど……現状のオレ達じゃあ、腕や足の骨を……完全に治せる保証は……出来ねェんだ……。悪いけどな……?」
――申し訳なさそうな……浮かない顔をする、ボスという人間。それが視界に入っていたイティアは、表現できないような”ごった煮”された気持ちを抱きつつも……ホワイトボードに向けて、筆を走らせていた……。
<ボスさん、弟の治療も……有難うございます。今……気持ちが、混乱してますが……貴方に、文句を言える……筋合いはありません……。ただ、一刻も早く……私の魔力が回復して……”回復魔法”を、弟に使えればと……!>
――書いた内容を見て驚いたような表情をした後……考え込むように、右手を口に当てるボスと言う人間。少しして……悩んだ末に、彼が語り出す……!
「……オレも、上手く言葉には出来ねェけど……完ペキには治せなくて……ゴメンな、イティアさん」
〜 ……ブンブンブンッ! 〜
「……そうか。でもまぁ……ただ、オレだけじゃあなく……そのお礼は、そこのオルセットにも……恐縮だけど……出来れば、言ってやってくんねェかな?」
「……?」
「君達の治療……。難しいのはオレがやったんだが、イティアさんを含めて……ほとんどの処置は、そこのオルセットが……最初にやってくれたんだ」
「ソ〜ダヨ〜? タイヘンだったんだよ〜? キミタチの体のヨゴレも……ボクが”オユ”でヌらしたタオルで……スミズミィ〜まで、フイテたりもしてたんだよ〜?」
――自由かつ、失礼な態度が多かったオルセットの”意外な事実”を聞き……一瞬目を剥くイティア。それからは何を思ったのか……軽い微笑みを、オルセットに向けた後……素早くホワイトボードに筆を走らせていた……!
……因みに、見せたのは”ボス”だったが……。
<ボスさん、恐縮ですが……「あなたの軽薄な態度などに若干、軽蔑していましたが……訂正します。治療などをして下さり……有難うございました、オルセットさん」……と言う風に……彼女に、お伝え……出来ませんか……?>
――それを見たボスという人間は、チョッピリ苦笑した後……オルセットの方に顔を向ける……!
「オルセット? 勝手にアダ名付けたりした、その軽い態度に怒ってたみたいだけど……イティアさん、治療をしてくれたからって、許してくれるみたいだぞ?」
「エェ〜何か、エラそ〜じゃあない?」
――その態度と言葉を見聞きしていたイティアは、ムッとしつつも何処か悲しいげな……そんな少し表現に難しい感情を、私に流してきていた……!
「コラ、オルセット? チョッピリ、言い方がキツイかもしれないけど……オマエのまだまだ未熟な応急処置でも、世話とかもしてくれて、ありがとうって言ってくれてんだぞ? 何拗ねてんのか知らねェけど……貰える感謝は、素直に貰っとけ……!」
――少し剥れた後……イティアに視線を向けてくるオルセット。
「……アリガト、イーちゃん。……アト、ボスのバ〜カ……!」
「……何だよ、オルセット……! オマエ……!」
「……フフ」
〜 ゴシゴシゴシ……キュ、キュキュキュキュキュ〜クルン! 〜
<ボスさん? 貴方……朴念仁って、言われた事はないですよね?>
「……エッ!?」
――【何で異世界でその言葉が……!? イヤ、スキルで翻訳された結果か……ッ!?】――と、ボスという人物が思っているとは露知らず……急に左手を口に当て、考え込む彼を見ては……イティアは、口元に微笑を浮かべるのであった……!
「とっ、とにかくだ! イティアさん!? オレは飯を作ってくるから……待っている間、このお茶でも飲んで……待っててくれ!」
〜 ゴシゴシゴシ……キュ、キュキュキュキュキュキュキュキュキュ〜クルン! 〜
<……オチャ? それがこの……杯? ……に入った、液体……あるいは薬? ……の名前なのですか……?>
「……ウ〜ン、まぁ……昔の人にとちゃあ……薬っちゃあ、薬だったけど……今は、嗜好品……まぁ、ちょっと手間の掛かる”飲み水”みたいなモンかなぁ?」
「……?」
「あぁ、因みに……コイツに肉とかは一切使ってないぞ? 使ったのは、百パーセント植物! ”緑茶葉”と”カモミール”ってハーブ……まぁ、薬草みたいなモンだ。効果は、飲むと気分が落ち着く……今にピッタリだろ?」
「……フフ」
〜 ゴシゴシゴシ……キュ、キュキュキュキュ〜クルン! 〜
<……お気遣い、有難うございます。では、頂きますね……?>
――そうボスという人間に伝えた後……イティアは一旦、ホワイトボードを寝床に置いた。そして、差し出されていた”奇妙な杯”を丁寧に両手で受け取り……その中身を恐る恐るながらも、少し啜るのであった……! すると……?
「……ッ!?」
「……どうした? まさか……また口に合わなかったのか!?」
――目を見開いて固まったままのイティアに、心配そうに声を掛けるボスという人間……! だが……?
〜 ゴキュ、ゴキュ、ゴキュ、ゴキュ、ゴキュ……! 〜
「おっ、おい!? そんな慌てると……ッ!?」
「……プハァ! ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……!」
「うわッ……そんな一息に……!?」
〜 ……バッ! 〜
「……ウェッ!? おっ、おかわり……なのか?」
〜 コクコクコクコク……ッ! 〜
「そっ、そんな頭を激しく振らなくても……! ホラ……!」
〜 カポン! トクトクトクトク……ゴキュ、ゴキュ、ゴキュ、ゴキュ、ゴキュ……! 〜
「ウワァ……スッゲェ、飲みっぷり……!?」
「……プハァ! ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……!」
――絶品とも言える味の”オチャ”なる飲み物を、一息飲み干した後……虚ながらも力強い眼差しを、ボスという人間……いや、ボスさんに向けていたイティア。
その視界には、驚きつつも心配そうな顔をする……ボスさんとオルセットさんがあった。だが……これで、お二人の心配は無くなる……! そして、弟も直ぐに助けられる……ッ! そう思うとイティアは、静かに目を閉じるのであった……!
「……おい? 大丈夫か? そんな慌てて二杯目を飲んで、喉を火傷したりとか……!?」
――随分と長くなってしまったが……ここからは今までのように、ボス達に寄り添った視点で、◯者の皆さんに実況をお送りしよう……!
突然だが……上記のセリフで、なぜボスが言い淀んだが……◯者の皆さんは、ご想像出来るであろうか……?
「……? ボォフゥ〜? ファンカフェンナフォトファ……ウワァ……ッ!?」
――それはある光景だ。それも、オルセットがいつの間にか、三個目の餅を火鉢で焼きつつ……頬張っていた二個目を、思わず口から落としてしまう程の光景であった……ッ!
「……蝶?」
――トアル拙くも、確かにあった……”パラレルワールド”の事を知る◯者の皆さんなら……もう、お分かりかもしれないが……。
「……キレェェェ……!」
――そんな”感動”とも言えるような気持ちで言い淀む……二人の目の前を横切っていたのは、ボスも言っていた一匹の蝶であった……!
〜 シュワァァァ……! 〜
――弱々しくも神秘的な…何かが……それが、溢れ出すような音が……! イティアの方から聞こえ始めていた……! 目の前を横切っていた蝶に、目を奪われていたボスが、再び目を向けた時……!
それは、彼女の体から……まるで”蛍の光”の如く……ジョジョに溢れ出していた、”小さな光”から……! 人間の胎児が……地球上に生命が発生してから、人類が出現するまでの三十五億年……その長き”進化の歴史”を、たったの四十週で辿るかの如く……!
実に奇妙ながらも……! その光景は、今まさに……彼女が生み出そうとしていたのだ……ッ!
「……まさか、今の蝶って……!?」
〜 シュワァァァァァァ……! 〜
――【……お願い……全てを…癒して……! <息吹の蝶>……ッ!】――それが、その魔法の名だった……ッ!
〜 シャラァァァァァァァン……! 〜
――神秘的かつ、神々しい……そう……! まるで、神によって作られた”ツリーチャイム”が響き合うような……そんな誰もが一瞬、心洗われるかのような音が響き渡ると共に……! その蝶達は……一斉に、イティアの全身から飛び出したのである……ッ!
「……奇妙な表現だけど……こりゃあ、神秘の雨だな……!」
「……スゴイ、キレェェェ……!」
――初めはまるで修行僧の如く……床に開いた両手を置いては、俯いていたイティアだが……今は、神に祈りを捧げる神官の如く……! 開いた両手と共に顔も天に向け……更にその全身から……後光の如き、優しい”緑の光”と……!
先程ボスが見ていた、神秘的かつ神々しいエメラルドグリーンの光を放つ”緑色の蝶”を、次々と溢れ出させていた……! その蝶達は、テントの天井を周回するように、ヒラヒラと飛び回っては……これまた神秘的な光を放つ、”キラキラとした鱗粉”を、テント中に振り撒いていた……!
……そう、ボスが言っていた”神秘の雨”と言うのは……この”蝶達の鱗粉”の事であったのだ。
「……『平和は歩いてこない。自ら歩み寄るしかないのだ』……これを言ってた奴はクソだけど……この蝶を見ていると……何か、思い出しちまうな……」
――そうボスが、何気なく差し出した……痛々しい切り傷の痕がある”右手人差し指”に止まった……イティアから出た蝶を眺めつつ、そう言っていた。その引用された言葉は、”トアルゲーム”に出ていた、事件の黒幕の一人であった。
またボスは……その黒幕が計画した事で生み出された、トアル”核搭載兵器”が……”トアル湖”に、自ら沈んでいくシーンを思い浮かべてもいた……!
そしてその蝶は、そのシーンの前後で……その兵器から突然溢れ出ては、その周囲を飛び続けていた蝶……”モルフォ蝶”に、どこか似ている気がしたのだ……!
そう、今も……この幻想的と言える空間の中、この世界にはある筈のない……”カーペン◯ーズの名曲の一つ”のような……そんな歌の如き声が、微かに聞こえるのも相まって……!
「……グゥッ!? 何だ……ッ!?」
――一瞬、その蝶が止まっていた指先に……鋭い痛みを感じるボス。一瞬であったが……痛みと共に閉じていた目を開けると……?
「ち……チリコン缶で、切ってたハズの……傷が……ッ!?」
――目を開けると、そこには止まっていた蝶の姿はなく……ボスの人差し指は、ほのかな”エメラルドグリーンの光”を発していた……! そこには、先程あった筈の”痛々しい切り傷痕”が……まるで初めからなかったかのように、綺麗サッパリと消えていたのであった……!
「ボスゥ! 見て見てッ!」
――驚愕の眼差しを……”奇跡”の起きた、自身の右手人差し指に向けていたボス。だが唐突なオルセットの声に、現実に引き戻されては……慌ててその方向に目を向ける……!
「……ハハッ、オイオイ……今更、シャワーの時間か? オルセット?」
――そんな冗談を言うボスの目には、キラキラと舞い落ちてくる鱗粉を……まるで猫じゃらしに戯レるように、何度も掴み取ろうとするオルセットの姿があった……!
「ブゥ〜! 何言ってんのさ〜ボォ〜スゥ〜!?」
「ハハッ、悪くは言ってねェよ」
――そう言いつつ、オルセットの頭上に数十匹と集まっては、彼の言うように鱗粉をシャワーの如く振らせている蝶達を含め……微笑ましい気持ちと表情で、眺めていたボス……!
「ムゥ〜まぁイイや。……ウッ!?」
「ッ!? ど、どうした!? オルセットッ!?」
――【まさか、オルセットも!? いや……今日、傷らしい傷は……!?】――一瞬、不吉な事を思ってしまうボスだったが、即座に思い直す。
「だ……ダイジョウブだよ……ボスゥ? イッシュン、ゼンシンが……ビキィッ! ……って、カンジに……スゴク、イタかったケド……?」
「全身がッ!?」
――意外な反応に、驚愕してしまうボス。だが同時に、オルセットには元からあった……トアル傷の事を思い出す……!
「……オルセット? ちょっと服を脱いで……腹を見せてくれないか……?」
「ッ? イイケド〜?」
――そう言っては、オレンジ色と肌色(?)ベースの”マウンテンパーカー”を……下から両手で捲り上げるように、豪快に脱ごうとするオルセット。その様子に、ボスは慌てて待ったを掛ける……!
「ちょちょちょちょちょ!? ちょ待っ……ちょ、待てよッ!? 全部、脱ごうとするなッ! オルセットッ!?」
「エェ〜なんで〜? ボク〜ボスに見られても〜? モンダイないんだけど〜?」
――ボスに向けて、捲り上げ途中の服を持ったまま……ニヤ付くオルセット。
「こ……好意は嬉しいけど……ッ! 今……大事なのは、そんな事じゃあないんだよッ!?」
――ブー垂れる声を漏らすオルセットを他所に、ボスは即座に目的の部分に目を向ける……!
「……やっぱり……! この魔法、最高だなぁッ!?」
――この一ヶ月でより健康的かつ、筋肉質に引き締まっていた”オルセットの腹部”を見ながら……ボスは歓喜の声を上げていた……ッ!
「エェ〜何ィ〜? ボスゥ? 何、ヨロコんでんの〜?」
――別に、変態を蔑むような目や声をしていた訳じゃあないが……そう訝しげに、ボスに声を掛けるオルセット。
「……喜べ、オルセット。お前が拷問されていた時に”負った火傷”……たぶん、全部治ってるぞ?」
「……エッ?」
「ホラ、今も腹の部分……ジワジワと消えていくかのように、傷が無くなってるぞ?」
「……ウソッ!」
〜 バサァァッ! 〜
「ダァァァ!? チョ!? オルセットッ!?」
――一息に、捲り上げていた服を脱ぎ捨てるオルセット。その突拍子な行動に全力かつ、慌てて目を逸らすボス。
「……ホントだ……ッ! ナオっている……! ゼンブ……ナオっているよッ! ボスゥッ!」
――細いながらも、出会った当初よりも”筋肉質になってきた両腕”などが、露となった……上半身裸の”スポブラ”姿の状態で、ザッと体を見回すオルセット。
そして、その”治った事実”を前に……ボスを押し倒すように飛び付いてはその喜びを、彼女は全力で表現したッ!
【おっ、おいッ! 嬉しいのは分かったから……! 今は、ジャレ付くなって!? オルセットッ!?】――そう言いつつ、自身の”頭”や”胸”に頭を擦り付けてくる彼女を……何とか押し退けようとするボス。
〜 ゴロン! 〜
「ウワァ!?」
「……フゥ。モォ……そんなアピールしなくても良いんだぞ? その身体ァ……!」
「エェ〜? ボスだから、サワッてイイのに〜?」
――押し倒したボスの左側に転がされるも……同じように並んで寝転びつつ、その悪戯っぽい笑みを、寝転ぶボスの顔に向けるオルセット。それを見たボスは、頬を赤らめつつも……そそくさと反対側に寝返りを打ってしまう……。
「なっ、何回も言ってるだろう!? 家か基地を持つまでは……お、オルセットが考えている様な事はナシだってッ!」
「エェ〜? ボスのケチィ〜!」
「ケチじゃあねェよッ!? ったくッ! ……エッ!?」
――そう驚く視線の先……ボスが視界に捉えていたのは、いつのまにか”先程の魔法”を終えていた……イティアの姿だった……! その彼女は、少し疲れたかのようなタメ息を漏らした後……床に置いていたホワイトボードに、何かしらを書いていた……!
<……お楽しみは……済みましたか?>
〜 ガバァッ! 〜
「エェ〜アッ、ハイ……! お気遣いどうも……じゃあねェよッ!?」
「……?」
「ド〜したの〜ボスゥ? ……って、エェェェェェッ!?」
「ッ!? ……?」
「いや、何を驚いてんの? ……的な顔してるけどサァ……ッ!? その”劇的ビ◯ォーアフター”な姿じゃあ、驚かない方が無理ねェよッ!?」
――ボスの盛大なツッコミの後……首が取れんばかりに、ブンブンと頭を上下させるオルセット……! まぁ、コレは私も同意である。何せ……上半身を起こし、座して対峙した彼らが、今まで目にしていた……ミイラはもういなかったのだ……!
そこに居たのは、飢餓や不健康、悲壮感といった言葉は無縁そうな……”太陽の光の如き金髪”を主に、”夕焼けを彷彿とさせる赤に近い金髪”が入り混じった……神秘的な美しさを醸し出す、ショートヘアの美少女……いや、美エルフが居たのであるッ!
〜 ゴシゴシゴシ……キュ、キュキュキュキュキュ〜クルン! 〜
<あの……何処か、おかしな所が…あるのですか? まさか……魔法が…失敗した所が……あるとか……?>
――今まで二人に、”感謝するような微笑み”を向けていたのだが……ホワイトボードを見せた後は、何処か不安そうな表情を二人に投げかけるイティア。
「いや、魔法に失敗があるのが初耳だよッ!? て言〜か!? 空腹とか大丈夫なのかッ!? その魔法使っただけで!? 痩せ我慢とか、無理してないッ!?」
「……だよね〜!? さっきのガリガリが、ウソみたいに……ホッソリ、フックラしてるゥ……!?」
〜 ゴシゴシゴシ……キュ、キュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュ〜クルン! 〜
<この魔法があったからこそ……私達、姉弟は……一週間近く……何度も傷を負おうと……逃げ切れたんです……>
「……て事は、発動させれば……多少の飲み食いはしてなくても、大丈夫って事か?」
〜 ……コクリ。……ゴシゴシゴシ……キュ、キュキュキュキュ〜クルン! 〜
<はい。ただし……完全には、空腹は満たせませんが……>
「……まぁ、そうじゃあなきゃ……あのガリガリ具合は、説明できねェよなぁ……」
「あのイヤなニンゲンタチに……スッゴク、オイツメラレてたんだね……マホ〜が、ツカえなくなるぐらいに……」
〜 ……コクリ……コクリ。 〜
――瞳孔が絶えず、ブルブルと動く焦点の合わない虚な瞳ではあったが……”イティアの魔法”か、あるいは”彼女の心の現れ”か……その瞳は、初対面よりも輝きを取り戻してはいた。
だが、オルセットの発言に……ふと、思い出してしまったのだろう……。そのエメラルドグリーンの瞳は、ジョジョにジョジョに……頷くと共に、曇ってしまっていた……!
〜 カポン! トクトクトクトク……! 〜
「?」
「辛かった時を、思い出してんのかもしれねェけど……今は忘れろ」
――彼女の前に置かれていた紙コップを取っては、再び”カモミールブレンドの緑茶”を注ぎ……同じ場所に置き戻すボス。
「この水筒に入ったお茶、好きに飲んじまって良いから……今は、弟さんと一緒に助かった事を……全力で喜んどけ……」
「……フフ」
――ボスの心遣いに感化されたのか……イティアは、ボス達二人に向けて、神秘的な微笑みを浮かべる。それに気づいたボス達も、チョッピリぎこちなくも微笑み返す……。すると、種族的な挨拶(?)なのか……右手を左肩前面に当てるようにしながら、彼らに向けて”四十五度程のお辞儀”をするのであった……!
【……ヘェ〜、この世界のエルフには、”日本っぽい文化”でもあんのかねェ……?】――そう思いつつもボスは、またも一息に注がれたお茶を飲み干す……イティアの姿を見ながら、ボンヤリとそう思うのであった……。
「……フゥ……」
〜 ゴシゴシゴシ……キュポン! キュ、キュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュ〜クルン! 〜
<お心遣い……感謝します、ボスさん。あの魔法……私の持つ、全ての魔力がないと……発動、出来ないので……この、”リョクチャ”なるマナ回復薬には……本当、助かりました……!>
――その文を見て、一瞬……驚愕するかのように目を見開くボス。
「そ……そっか……まぁ、あの古傷にも効く効果じゃあ……”納得の対価”って感じはするなぁ……」
「……フフ」
――自身の魔法を褒められて嬉しいのか……右手で口元を軽く隠しつつ、微笑むような声を漏らすイティア。
「ホント、アリガトねェ〜ッ! イ〜ちゃんッ!」
〜 ガバァ! 〜
「ッ!?」
――【おい、オルセットッ!? 嬉しいのは分かるけど……治りたてのイティアさんに、飛び付くんじゃあねェよッ!?】――そうボスが慌てて言うように、イティアを押し倒した後……驚いた表情のままであった彼女の頭に、自身の頭を擦り付けるオルセット。
無論、ボスは言ったまま傍観する訳にも行かなく……それ以上、イティアが揉みくちゃにされる前に、何とかオルセットを引き剥がしていたのであった……!
「モォ〜ボォスゥッ!? 何すんのさァ〜ッ!?」
「何すんのさァ〜じゃあねェよッ!? お前何してんの!? オルセットッ!?」
「……何って、イーちゃんにオレイ……」
「分かるけどさァ!? 分かるけどよォッ!? 助けて顔見知りになった言えど、初対面の人にッ! タックル咬ますような”アリガトウ”があるかァァッ!? なぁッ!? オレ、オマエに! ある程度の”礼儀”も教えてたよなぁッ!?」
――イティアに対して背を向けつつ……必死な形相で、オルセットにそう訴えるボス。
〜 ……プイッ! 〜
「……ボク、”ニホンジン”ジャアナイカラ、ワカリマセ〜ン!」
――そっぽを向いてはそう言って……膨れっ面になるオルセット。
「……オルセット……! オマエなぁ……ッ!?」
〜 ……ポン、ポン。 〜
「んッ?」
――額に青筋を立てつつ、ワナワナと怒りの声を漏らしていたボスだったが……背後からそっと叩かれた感触に、ふと後ろを振り向くと……?
<……だ、大丈夫ですよ……ボスさん。お構いなく……!>
「ホラ見ろオルセットッ!? またまたイティアさんに、気遣わせちまったじゃあねぇかよッ!?」
――苦笑い気味にホワイトボードを、胸の辺りに両手で構えていたイティアを見たボスは……即座にオルセットの方を見ては、上記のように軽く怒鳴り立てる……!
「……ボスのバ〜カ」
「何でだよッ!?」
――再び仏頂面となったオルセットが容赦なく……ボスに向け、ジト目にそう言う。それを見兼ねたのか……イティアは、再びホワイトボードに何かを書き込んでいた……!
〜 ……ポンポン。 〜
「んッ?」
<と……ところで、ボスさん? 先程……弟の治療も、ボスさん達と合わせて……やっていたのですが……弟の状態を、実際に見に行っても……宜しいでしょうか……?>
「んん〜? ……オレは魔法に疎いから、これは想像だけど……。もしかして、魔法で出した蝶を操作して……オレらが騒いでいる間に、俺のテントに蝶達を向かわせていたとか……?」
――自身の経験則にあったのか、恐る恐る尋ねるボス。その問いかけは正解だったのか……一瞬、驚いたように目を見開いた後に、再びホワイトボードに書き出すイティア。
<すっ、凄いですね……! 何で……分かったんですか?>
「……まぁ、そう言った事を想像出来る……”遊び”や”物語”を、たくさん……見たりやったりしてきたとだけ、言っとくよ……」
「……?」
――想像が付かないのか、小首を傾げるイティア。
「それはそうと……弟さんの事。飯より先に、どうしても……って、感じか?」
〜 ……コクリ。 〜
「……そっか。よし! じゃあ……オルセット?」
「……ナァニィ〜? ボスゥ?」
――テントの高さによって、少し腰を曲げてはいるが……立ち上がったボスとイティアに向け、ジト目かつチョッピリ不機嫌な声で、オルセットが応答する。
それを見たボスは、少し困ったような表情をするも……首の右側面の頸動脈に、人差し指と中指を揃えては……オルセットに見えるよう、ポンポンと軽く叩く仕草をした。
『重ね重ね済まねェが……お前のホワイトボード、しばらくイティアさんに貸してやれないか?』
『え〜ッ!? 何で〜ッ!?』
――前から”打ち合わせ”をしていたのか……スムーズに「コール」のスキルで会話するボス達。無論、イティアは……この様子にチョッピリ戸惑っていた。一言も喋らず……急に彼に向け、否定的な表情を見せたオルセットに対し……何が起こっているのかと、不思議かつ不安に思っていたからだ……。
『俺らに対する敵意はなく、友好的ですらあるが……彼女や弟さんは、俺らの仲間じゃあないからだ』
『……エッ? どう言う事……? ボスゥ?』
『チョッピリ不服……いや、納得出来てないかもしれないが……オレらが、さっきの傭兵団のクソ供に勝てたのは……何でだと思う?』
『エッ? エェ〜っと……』
〜 ……ポン…ポン。 〜
「んッ?」
〜 ゴシゴシゴシ……キュ、キュキュキュキュキュキュキュ〜クルン! 〜
<あの……ボスさん? さっきから何をしてるんですか……?>
――少々不安げな表情で、ホワイトボードを見せながら……ボスの顔色をウカガうイティア。
「……悪いな、イティアさん。今どうしても……イティアさんには、聞かせられない話をしてるんだ……」
――申し訳なさそうな表情のボスに対し……不安げな表情のまま、その場で俯いてしまうイティア……。
「まぁ、イティアさん達……姉弟にはこれ以上、悪い事はしねェよ……。ただちょっと……今はオレ達”傭兵団”の……決まり事みたいなモンを、確認してたんだよ……」
〜 ゴシゴシゴシ……キュ、キュキュキュキュ〜クルン! 〜
<……ボスさん達が……傭兵?>
「アレ? 言ってなかったけ? じゃあ……ようこそ! 我ら、まだ”名もなき傭兵団”の、ベースキャンプへ……ッ!」
――そう、アットホームそうに両腕を広げつつ……戯けながら、イティアに向けて語るボス。だが、前述の”不安”が残っていたのか……彼女は笑い声を上げず、”複雑そうな苦笑”を彼に向けるだけであった……。
「まぁ……イティアさんには申し訳ねェけど……話がマトマるまで、もう少し待っててくれ……!」
〜 ……コクリ。 〜
『……ボスのウソつき』
――不満げな表情で、自身の方に振り向いたボスを見ていたオルセット。
『……日本じゃあ”嘘も方便”……って。時には、嘘を言わなきゃいけない時があるんだよ……』
――『やれやれだぜ』……とでも言うような表情で、オルセットに応答を返すボス。
『……イヤだなぁ……』
『そう、そっぽを向くなって……オルセット? これだってある意味……訓練で教えている、”人間の汚い手段”の一つだぞ? 勉強だと思って、今は納得してくれ……』
『……』
『それはそうと、オルセット? さっきの質問……答えは出たか?』
『……分かんない』
『……ハァ、全く……”力”や”技”ばかりじゃあ、オレを守りきれないって言ってるだろ? オルセット?』
『……ゴ・メ・ン・ねェェェェ〜!? ボスゥッ!?』
――明らかに苛ついたオルセットの声が、ボスの脳内に響き渡る……!
『……まぁ……敢えて聞かないけど……そう言う風に、知らない事……理解されていない事があるからこそ……さっきの傭兵団のクソ供に、余裕で勝てたんだ』
『……ジュウとか……シーキューシーとか……?』
『そう! そのクソ供は、それらを知らなかった! だから、対処が出来ず……ブチのめされるしかなかった……! オルセット?』
『……なっ、何ィ……?』
『……やれば出来るじゃあねェかッ!』
『……そ、そう……?』
――【……フゥ……オルセットへの気遣いも大変だが……。ホント、ゴメンなぁ……オルセット? この一ヶ月間もそうだったけど……お前の”好意”に、堂々と答えれられなくてよぉ……】――満更でもなさそうな声と表情を見せるオルセット。
一方のボスは、申し訳なさそうな思いで……苦労と苦悩なボヤきを、胸の内で呟いていた……。
『まぁ、そんな風に……お前の”新しい”ホワイトボードを出す所を、このエルフ姉弟に見られたくないんだよ』
『……なんか……ヒドくない? ボスゥ?』
『じゃあ、もし二人が……猫を被った、凶悪な犯罪奴隷とかだったりしたらどうするんだ? あのクソ野郎共に追い詰められても……仕方ないような、”クソ供”だとしたら? オルセット? このまま助けた後に、夜中の寝込みに襲われたら……お前は、どう責任を取るって言うんだ……?』
『い……イチドにイッキに言わないでよォ……ボスゥ……! アタマイタくなっちゃうよ……!』
『この世界が安全じゃない事は、百も承知だろう? 何回、寝込みの最中に……”野盗”やら”魔物”やらに襲われたと思ってるんだ? そ〜ゆ〜のがない日が、珍しいぐらいだったハズだろ?』
『……でも……イーちゃんを、クソヤロウ……だなんて……』
『……オレも正直、そうは思いたくねェよ……ッ! けど……どうしても考えなきゃいけない可能性って事だけは、覚えといてくれ……!』
『……じゃあ、これから……イーちゃんタチは……どうするの、ボスゥ?』
『……まぁ、成り行きで保護しちまった以上、飯や寝床の提供はしようと思っている。偶然だとは思うが……オルセットの古傷も、治してもらった事だしな?』
『……ボスゥ……! あっ、でも……ボクタチのゴハンとかが……!』
――嬉しそうな声色をするも、途中からボスのスキルの事が気になったのか……心配そうな声色で話すオルセット。
『恩には必ず、恩で報いる……! まぁ、任侠も大好きなオレだけど……オレらが傭兵団な以上、滞在する際の二人には……作業を手伝って貰うなり何なりの、それ相応の”対価”は……払ってもらうけどな?』
『ニンキョウ……タシか、ツヨキヲクジキ……ヨワキヲタスける……って、ヤツだったけ?』
『おっ? 良く覚えてたな〜オルセット? そうだ。強きを挫き、弱きを助ける……! オレの元居た世界にあった……”ヤクザ”って、乱暴者集団の所為で曲解されがちだけど……元は”武士道”に近く繋がる……気高い精神の事だ……!』
『ボスがネルマエとかに、ナンドモ言ってたからね〜? アタマノ良くないボクでも、オボエちゃったよ〜?』
『もっとチャンと覚えとけ。この傭兵団の”標語”や、”目的”みたいなもんだぞ〜?』
『……ソ〜ユ〜なら、ボスゥ? イーちゃんタチの事……!』
『……オルセット? オレらはまだまだ弱い……弱いからこそ、守れない……守れないからこそ、疑わなきゃならない……ッ!
『……』
『イヤに思うだろうが……オレやお前の安全を守るためにも……! さっきのように……エルフ姉弟が、”クソ野郎供”かもしれないって……事とかをな……?』
――悲しげだったが……ジョジョに力強く、オルセットにそう言い聞かせるボス。
『……イヤだなぁ……ソレ……』
『……”ベルガ婆さん”みたいな人達を……もう見たくないんだろ?』
『……ウン』
――今にも泣き出しそうな声色で、そう呟くオルセット……。
『婆さんにイヤな余生を送らせた……王国迷宮の奥地にいるって言う、”クソッタレな化け物”をブッ倒すためにも……! 婆さんみたいな人を、これ以上出さないためにも……ッ! 武器、物資、そして仲間などなど……ッ! オレらは傭兵団は、”ありとあらゆる力”を……蓄えなきゃなんねェんだよ……ッ!』
――ジョジョに力強く……そう、オルセットに言い聞かせるボス。
『……じゃあ……イーちゃんタチは?』
『……めっちゃ、仲間にしたいが……”子供”はダメだ』
『エッ? そんなのキかなきゃ……?』
『……例え、オレらより遥かに年上だろうと……エルフの年齢で子供なら、絶対ダメだ……!』
『……ボスゥ、それじゃあ……ボクタチ……!』
『ダメなモンはダメだッ! 例え、この世界の常識の一つだったとしても……オレの世界でもあった”過ちの一つ”を……! オレは、繰り返したくねェんだよ……ッ!』
――『人は……過ちを繰り返す』……ボスが大好きだった、トアル”世紀末なゲーム”の一節を思い出しつつ……彼は、そうジョジョに強く……オルセットに言い聞かせていた……!
『……ナカヨクしたいのになぁ……』
『……一応、すぐに”バイバイ”……って事はしねェよ。あのスゲェ回復魔法で、怪我が全部なくなったとしても……二人の腹なり心なり……少なくとも、休息は必要なハズだ』
『ッ! じゃあ、ボクタチのナカマに……ッ!』
『いいか、オルセット? 絶対にコチラからの勧誘……いや、仲間になってくれ! ……って言うのはナシだ』
『……エェ〜』
『……納得してくれ。オレだって……子供じゃあなければ、即座に仲間にしたいけど……今後、どうするか決めるのは……あの”エルフ姉弟の意志”次第だ』
『……イーちゃんタチの……イシ……』
『そうだ。俺らがムリヤリ言って、ムリヤリ仲間にするのは……あの二人の首にあった、”奴隷の首輪”みたいに……それを付けた、”クソッタレな奴ら”と……変わらなねェ事になるからなぁ……?』
『……ウン、分かったよ……ボスゥ……』
――少々寂しげそうなオルセットの声が……ボスの脳内に流れる……。
『……ありがとな、オルセット。じゃあ、いつも通り……何かあったら、”コール”なり何なりで……オルセットの事を呼ぶな?』
『……ウン。そしたら、ボクがすぐにギュンッ! ……って、カケツケルねッ!』
『フッ、頼りにしてるぞ? オルセット?』
『……エヘヘ……ウン、ボスゥ……!』
――お互いが見つめ合うように……「コール」する事、数十分……ッ!
……と、そう思う◯者の諸君が多いかもしれないが……実は、ここまでのやり取りは、”三分以内”でしか経過していなかったりするのだ。
カップラーメンを用意していた訳でもないが、お互い……納得したように軽く頷く、ボスとオルセット。一方で……二人の”無言のままの百面相”や”ジェスチャーゲーム(?)”を、不安げに鑑賞していたイティア。
だが、彼が自身の方を振り向くのを……その”音だけが見える視界”に捉えては、背の高い彼の顔に向けて、視線を送るのであった……!
「待たせたな、イティアさん。じゃあ……行こうか?」
〜 ……コクリ。 〜
「じゃあ、オルセット? 邪魔したな。何も無ければ……また明日な?」
「ウン! じゃあねェ〜ボスゥ〜!」
――ボスに向け、胡坐をかいたまま両手をブンブンと振るオルセット。その満面の笑みに対し、ボスは申し訳ないような微笑みを返しつつ……イティアを先にテントから出した後、彼女の後に続くように……彼もまた、オルセットのテントから出ていくのであった……!
「あっ、そうだ……!」
――最後に残ったボスの左足が、テントの中から外の”コンバットブーツ”へと動こうとした時……彼は上半身だけを逸らしては、今何かを頬張ろうとしたオルセットに向け、こう語る……!
「おい、オルセット? 勝手に餅を”三個”も食ったんだよな?」
「……ニャ、ニャンノハナシカナァ……?」
――上半身をそらしたまま、自身を睨むボスに……ジョジョに目を逸らすオルセット……!
「……食っちまったモンは仕方ねェが……寝る前はチャンとッ! 歯ァ磨けよ?」
「……ハ〜イ」
――少々不満そうにしつつも……落としていた食べかけの”二個目の餅”を、一気に口へと放り込むオルセット。
そうして剥れるように、モグモグと口を動かす彼女を横目にして……ボスは、軽いタメ息を吐きつつも、再び上半身を外へと戻しては……今度こそ、彼女のテントから退散するのであった……!
<異傭なるTips> 息吹の蝶
不思議な見た目をしたエルフである、”イティア”が使用する……非常に強力な回復魔法。
現状の詳しい詳細は不明だが……その効果は、「あらゆる”外傷”、”病気”、”状態異常”の治療」。魔法によって生み出された”モルフォ蝶”らしき、魔法の昆虫(?)が振り撒く”鱗粉”を浴びる事で、その恩恵を得られるらしい……。
発動時はまず、発動した彼女の体から……魔法で生み出された”小さな光の球”が、ジョジョにジョジョに出現し始め……その数はドンドンと増えて行いくらしい……!
次に、光の球が生まれていくのと同時に……その生まれた光の球は、人間の胎児が……地球上に生命が発生してから、人類が出現するまでの三十五億年……その長き”進化の歴史”を、たったの四十週で辿るかの如く……!
瞬時と言っても過言じゃあないスピードで、幼虫から蛹へ……蛹から成虫へと、ジョジョに羽化していき……!
最後に、一定の蝶が生み出された後に、彼女の体から魔法による閃光と……誰もが一瞬、心洗われるかのような音が響き渡ると共に……! 全身から”エメラルドグリーンの光”を放つ、蝶を一気に放出するらしい……。
放たれた蝶は、彼女の近くであれば自動的に……負傷した者の元へと行っては、その者の頭上でこれまた”エメラルドグリーンの光”を放つ、”鱗粉”をバラ撒く。
この鱗粉に、この魔法の最大の特徴である「強力な治癒の魔力」が含まれており、浴び続ける事で……どんな”怪我”や”病気”でさえも治療出来ると言うのが仕組みらしい……。
(治る際は、傷の外側から内側へと……いわば”逆波紋”状に、傷がジワジワと治療されていくらしい……!)
更には、魔力が続く限り……無数の蝶を遠隔操作して、ある程度”離れた相手”に”鱗粉”を浴びせる事も可能。ただし、操作中は非常に繊細な集中力が求められるのか……その場から一歩も動けなくなってしまうらしい……。(イティアの”弟”は、この方法で治療されているらしい……)
また、比較的”軽症”だと……ボスが「”チリコンカンが入った缶”で負傷した指」のように……ヒラヒラと”負傷箇所”に蝶が止まっては、その傷の箇所に「強力な治癒の魔力」に変わっては、瞬時に浸透……。
傷が治る際に感じる痛み……と表現出来るような痛みが一瞬した後には、もう傷が塞がっているらしい……!
(”オルセット”や”イティア”も例外なく……この痛みを、治療が完了する直前に、味わっている。だが、傷の度合いが大きければ大きい程……その”一瞬の痛み”も、比例して大きくなるらしい……。)
因みに数値的な表現をすると……?
数秒間、鱗粉を浴びる:”HP”は「最大値の20%分」。”SP”は「最大値の10%分」を回復。”浅い切り傷”や”軽い打撲”などと言った「軽傷」、”睡眠”や”毒”などと言った「軽い状態異常」の治療……と言った感じになるらしい……。
数分間、鱗粉を浴びる:”HP”は「最大値の50%分」。”SP”は「最大値の25%分」を回復。”切り傷”や”打撲”、”骨折”などの「重症」……、”麻痺”や”混乱”などと言った「状態異常」の治療……と言った感じになるらしい……。
集中して鱗粉を浴びる:”HP”は「完全回復」。”SP”は「最大値の50%分」を回復。”古傷”や”複雑・粉砕骨折”、”内臓不全”などの「瀕死の重症」……または、”猛毒”や”呪いの解除”などと言った「対処が難しい状態異常」の治療……と言った感じになるらしい……。
……だそうだぜ? ボッヨヨ〜〜〜ン! (by,噂話が大好きな奇妙な石)