RE:Mission-15 ¨事情聴取¨ヲ執行セヨ - 1
〜 ……ジャリンッ、ザッ、ジャリンッ、ザッ、ジャリンッ、ザッ……! 〜
ハァ…ハァ…ハァ……!
……しっかりして、■■■■……。次はきっと……良い…”ご主人様”に……会える筈ですから……!
――ここは一体、何処なのだろうか……? 見渡す限り、暗闇しかないのだが……?
〜 ……ジャリンッ、ザッ、ジャリンッ、ザッ、ジャリンッ、ザッ……! 〜
ハァ…ハァ…ハァ……!
しっかりしろ! 姉ちゃん! また酷ェ、クソニンゲンなら……オレが、”姉ちゃん”と…”母さん”を……守ってやるからよッ!
〜 ……コソコソ……見てみろよアレ……? ……クスクス……まぁ、醜い……! ……コソコソ……ヒッデェッ、元は相当な美人なんだろうが……台無しだなぁ……? ……クスクス……でもアレなら……領主様のお眼鏡にも……! ……コソコソ……やれやれ、こんな良い天気に……台無しにするような事を……! 〜
――台無し? 良い天気? 何を周囲は言っているのだろうか……? 私が見ている世界では……静寂に静まった、月明かりでさえない夜よりも……”真っ暗闇”だというのに……ッ!?
〜 ……ジャリンッ、ザッ、ジャリンッ、ザッ、ジャリンッ、ザッ……! 〜
この世に生を受け…早、百年以上……。たった数年……短い筈なのに……それよりも、圧倒的に長く感じてしまう……地獄のような苦しみの日々……!
〜 ……ジャリンッ、ザッ、ジャリンッ、ザッ、ジャリンッ、ザッ……! 〜
……あぁ……母なる大地よ……大いなる自然よ……! 私は……私達、家族は……何の罪を……犯したと言うのですか……!?
〜 ……ジャリンッ、ザッ、ジャリンッ、ザッ、ジャリンッ、ザッ……スッ…ガチャリンッ……! 〜
”お父さん”と”お母さん”が巡り合った運命ですか……!? それとも……私達が……”私”と、”弟”が……! この世に生を受け……生まれてしまった運命……それだと言うのですか……ッ!?
――成程。これは”誰かの記憶”と言う訳だ。
その証拠として、今の私が見ている視点というのは……以前、ボスが言っていた”FPS(一人称視点)”……と言う奴に、なっているからだ。
その視点から、ついさっき”両手”が挙げられたのだが……その両手には、全く見覚えのない手枷が嵌められていたのだ。無論、私の両手ではない。更に言えば、中世ファンタジーなどで”奴隷商人”が御用達として、使っていそうな……ジャラジャラとした”鎖付き”のだ。
だが、その手枷や鎖に色はなかった。ただ”明かりがない”と言う訳じゃあ無い。況してや、真っ白なキャンバスの如く”真っ白い”と言う訳でもなかった……! 只々、真っ黒な世界なのだ。この私が見ている”奇妙な視点”は……!
ふと、目を向けた際に見えた”人影らしき輪郭”……それは空を見上げ、眩しそうな仕草をしていたというのに……!
〜 ……ジャリンッ、ザッ、ジャリンッ、ザッ、ジャリンッ、ザッ……! 〜
諦めんなよ! □□□ー! 頑張れ! 諦めていたら今、何で君は歩いているんだッ!?
……ヴォンさん……!
――変わらぬ黒い世界の中……右肩側から声がする。この視界の持ち主が、ゆっくりそちらを見ると……? 何とそこには、”赤い光の球”が居たのだ……! 実に奇妙な物だ。それが声を発する度に、波紋の如く赤い円が広がり出る……!
〜 ……ジャリンッ、ザッ、ジャリンッ、ザッ、ジャリンッ、ザッ……! 〜
そうだよ、□□□ー! ガンバッテ! アキラめないで……!
……ヴォエナさん……!
――変わらぬ黒い世界の中……左肩側から声がする。この視界の持ち主が、ゆっくりそちらを見ると……? 何とそこには、”緑色の光の球”が居たのだ……! 実に奇妙な物だ。それが声を発する度に、波紋の如く緑色の円が広がり出る……!
〜 ……ジャリンッ、ザッ、ジャリンッ、ザッ、ジャリンッ、ザッ……! 〜
……そうですね……。そうでしたね……! 私が物心が付いた時から……貴方達、兄妹は……私に傍に居てくれて……お母さんとお父さん……そして、ずっと私達を守ってくれている……■■■■のように……!
〜 ……ジャリンッ、ザッ、ジャリンッ、ザッ、ジャリンッ、ザッ……! 〜
この地獄のような日々の中で……貴方達は、いつも私を励ましてくれた……! この地獄のような日々の中で……いつのまにか、目など失った私に……この色は見えなくとも……まだ、お母さんと■■■■の姿を見られる……!
この音だけが見える世界を……ずっとお二人から、お借りしているというのに……!
〜 ……ジャリンッ、ザッ、ジャリンッ、ザッ、ジャリンッ、ザッ……! 〜
すみません……。……ヴォンさん……! ヴォエナさん……!
そんな事ないぞ〜? 貸している分、貰える物は貰っているしな?
も〜! ヴォン兄ちゃん! イジワルな事、言わないでよ〜! □□□ーからモラう”マナ”、いつも少なめにしよ〜って、わたし言っているでしょ〜?
〜 ……ジャリンッ、ザッ、ジャリンッ、ザッ、ジャリンッ、ザッ……! 〜
……諦めていたら……ここまで……生きては、いなかったでしょうね……。
――あまりに追い詰められ過ぎた……この視点の持ち主の”妄想”でないと願いたいが……! 恐らく、純粋な心で考えれば……この視点の持ち主に語り掛けて来たのは、妖精か精霊の兄妹なのだろう。
ならば、チョッピリ話をまとめよう。この兄妹、どうやらこの”視点の持ち主”の生まれた頃から、傍にいるようで……日々に魔力を貰う(?)代わりに、”話し相手”や”遊び相手”……もしかしたら、”戦闘”や”魔法の補助”をしてくれたのかもしれない。
だが現在、確実な事を言えば……先程の”手枷などの物”や、”人などの生物”が……”白い輪郭”で強調表示されている……この視点の持ち主の、音だけが見える世界と言うのを提供しているのは、この”兄妹のおかげ”なのだろう。
ただ……身も蓋もなく、もっと分かりやすい表現で例えるのであれば……「メト◯イドプライム2」というゲームの、「エコーバ◯ザー」と言う”装備で見る視界”である。あるいは、空気漏れなどを探す際に用いる……(背景が必ず真っ黒になる)「超音波カメラ」で見る世界と言うべきか……。
そう言った視界が、この視点の持ち主が見ている”音だけが見える世界”と言うのに、一番近いであろう……!
……おい、歩調を乱すなッ! とっとと、歩けッ!
〜 ゲシャァァァッ! 〜
――失礼。この視点の持ち主達に関する事ばかりを実況していて、失念していた。恐縮ながら簡潔だが、周囲の状況も判る限り話しておこう。
今現在、一番前を歩く”母さん”と呼ばれるロングヘアーの”女性”。一番後ろから声だけしていた”男性”と思わしき”弟”と語られていた人物。そして、その二人に”サンドイッチ”されるように歩いているのが……この”視点の持ち主”である、「姉ちゃん」と呼ばれる人物だ。
その三人が”縦一列”に並んでは、石畳らしき道を歩んでおり……その周囲には、フードに顔が隠れた”物々しい男らしき人物”達が、グルッと彼女達を包囲しつつ並進していたのである。
恐らく、彼女達を連行している衛兵……いや、それにしては物々し過ぎるため、恐らく”奴隷商人”か何かの類なのだろう。あるいはその雇われ護衛か……まぁ、現状の事情が分からずとも……一眼見て”クソ野郎供”と罵りたくなるような面々であるのは、間違いないだろう……!
そして前述の”音”は、姉ちゃんの真横に居た”ソイツらの内の一人”に、蹴られた音であったのだ……。そうして倒れ伏しては……力ない、か細い声でウメキ声を上げていたのだ。
姉ちゃん! オイッ!? このクソ人間がッ!
〜 ブゥゥンッ……ピタッ! 〜
――右側に動く視点。そこに姉ちゃんと同じ背丈程の、”弟”と思わしき人物が……拳を振り被りつつ、現れる……! しかし、その拳が降り抜かれる事なく……弟は唐突に両膝を突いてしまう……!
〜 ブゥォワァァンッ……! 〜
グウォワァァァァァ!? クッ…ソッ……! このッ……”首輪”…め……ッ!
――奇妙な音がしたかと思えば……唐突に両手を掻きむしるように首に当て、地面でのたうち回る”弟”という人物。”姉ちゃん”というこの視点の人物の、悲痛な思いがヒシヒシと伝わってくる……!
だが同時に、その視界には弟の首から”ドス黒い雰囲気”に発せられる波紋の如き紫黒色の円が広がり出ていた……! 恐らくだが……この視界は、魔力的な反応も”音”と共に捉えるのかもしれない……!
オイッ! 毎度毎度、訳分かんねェ事言いつつ、殴りかかってくんじゃあねェよッ! このッ、クソ長耳がッ!
〜 ゲシャァァァッ! 〜
グゥゥッ!?
――横たわり、のたうち回る”弟”という人物の脇腹に……容赦無く”ローキック”が叩き込まれ、ウメキ声を上げる彼。
■■■■ッ!? やめなさい! もう、私達のためとはいえ……逆らわないで!
――”姉ちゃん”と言うこの視点が正面へと戻る。そこには、”母さん”という人物が……”弟”という人物の方に体を向け、声を発していた。その際の波紋の如き広がり出ていた円の色は、神々しいような”緑色”であった……!
〜 グイッ! 〜
ウッ!?
……おい、歩調を乱すなって、言ってるだろがッ!? 後、コイツらは大事な商品だろうがッ!? 魔物並みに手に負えないとは言えど、下手に傷付けるなッ!
――しかし、その後に言葉は紡がれず……”母さん”という人物は、両手を首に少々苦しげなウメキ声を上げつつ、”姉ちゃん”と言うこの視点の左側へと消えて行く……!
彼女を追ってみれば、その視界には首輪に繋がれた”鎖”を掴み引っ張る”フードの男”の頭から、波紋の如き赤黒い色の円が広がり出ていた……!
”姉ちゃん”と言うこの視点の人物の、無意識な”敵対心の表れ”なのか……あるいは、その口汚さに対する”妖精or精霊兄妹”が、そんなイメージを見せているのか……?
だが、いくら彼女らがそう思ったとしても、ヨロヨロと隊列へと戻り歩み出すしかない程……彼女達は、無力であった……!
〜 ギッ…ギッギッギッ……ギィィィィィィィッ……! 〜
――しばらくの間、俯いたり……心無い言葉を呟く大勢の、顔に輪郭のない”通行人”達を、時折眺めながら歩みを進め……その末に、”姉ちゃん”と呼ばれる人物は、そのゆっくりと響く”軋むような金属音”を耳にしていた……!
やれやれ……やっとこの”クズ商品供”を売り捌けるな……。
そんな事言うなよ……? ”黒肌のクソ長耳”以外なんて、メッチャ美人だし……! いらねェならオレが……!
バカ、その”黒肌のクソ長耳”に殺されたいのか? アイツの所為で……オレらが何回コイツらを、お貴族様から”返品”されたと思ってんだ?
わっ、分かってるって……! ただちょっと……言ってみたかっただけだ。クソ亜人なのが、惜しいぐらいだからな……?
――”母さん”と呼ばれた人物の、更に前の方からそんな声が聞こえてくる……! 恐らく、彼女らを連行する”奴隷商人”の、他愛のない会話なのだろう……。だが、言っている事はその対象となっている人物達に対しては、普通に最低ではあるが……。
ホラ、後方からは悔しそうな”歯軋りする音”が……! 前方からは、【……大丈夫、大丈夫……! 私は母親……この子達の母親なんだから……大丈夫……!】――そんな声が……! ”姉ちゃん”を挟む前後から聞こえていた……!
〜 ……ジャリンッ、ザッ、ジャリンッ、ザッ、ジャリンッ、ザッ……! 〜
そんなん言うなら、コイツらを売っぱらった金で……王都の娼館にでも行けば良いだろう? 特に、あそこのシルビアちゃん……! オレのオススメだぞ〜?
〜 ……ジャリンッ、ザッ、ジャリンッ、ザッ、ジャリンッ、ザッ……! 〜
嫌だよ、あんなチビ女……! あんな金髪女の何処が良いんだよ……!?
〜 ……ジャリンッ、ザッ、ジャリンッ、ザッ、ジャリンッ、ザッ……! 〜
おいおい……何言ってやがるんだッ!? オレのシルビアちゃんに、何て事を言いやがるんだッ!?
〜 ……ジャリンッ、ザッ、ジャリンッ、ザッ、ジャリンッ、ザッ……! 〜
ちょ、落ち着けって……! ジョー……!?
〜 ……ガチャンッ! ギィィィィィィィ……ッ! 〜
――”姉ちゃん”の視点はボヤけてはいたが……恐らく、様々な剪定がされた”植木のような物”が立ち並ぶ、”庭園”らしき場所を通り抜けていた……。
ただ、少々ボヤけていたのは、これが”記憶”である故に……彼女の”印象に薄かった物”は、鮮明には映し出されないのかもしれない……!
ホラ、お出ましだぜ? 気を引き締めて売り込めよ?
――その後、御大層な景観をした”大きな洋館”が……彼女の視界に、ジョジョにジョジョに大きく入り込んでくるのであった……! ある程度歩いた後……入り口らしき豪華な装飾のされた”両開きの扉”が見える辺りで、この彼女達”家族”と”奴隷商人”供は、立ち止まっていた。
この洋館の”主人”か”使用人”かは知らないが……。声を掛ける以前に、思った以上に奴らの談笑が弾んでいた。だがまるで……監視カメラか何かで”来訪した事を察知した”のか、一人でにその両開きの扉が開かれていくのだ……!
ヒェ〜アレが、この”商業都市マケット”の領主……噂のディシード男爵家の三兄弟って奴か……! 個性派揃いだなアリャぁ……。
――邪悪な居住者……彼女達にとっては、そんな風にしか見えないであろう……”地獄の亡者”供とも言えるであろう奴らが、その洋館の入口から……横並びに現れ出たのであった……!
……ヌッ、フッフッフッフッフッフッフッ……!
――嫌らしい目付きで、”母親”と”姉ちゃん”と呼ばれた二人を、舐め回すよう見つめ……下衆な笑みを浮かべる、”貴族的なコートらしき服”を着た男。三人の中で最も背が低く、だらしなく出っぱった腹が目立つ……中世なカールへアをした太った男……!
……ククッ、ククククククククククククク……!
――鋭い目付きで、並ぶ三人を睨め付る……。そして、嗜虐的な笑みを浮かべている……”貴族的なコートらしき服”を着た男。三人の中で最も背が高く、髪を後ろに撫でつけた……筋骨隆々の偉丈夫らしき男……!
……フッ、フフフフフフフフフフフフフフ……!
――左右の二人とはまた違う……蔑んだ目付きで、並ぶ三人を睨め付ける……。そして、嘲笑と言える微笑を浮かべる、”貴族的なコートらしき服”を着た男。三人の中で二番目に背が高く、スラリとした体型に草臥れた髪を、肩甲骨の辺りまでで緩く結んだ……初老らしき男……!
そうして、各々が自己紹介でもするかのように……耳障りな笑い声を上げた後、赤い服の男の頭から……波紋の如き赤黒い色の円が広がり出ていた……!
ようこそ……恐れる事はない。今日から……お前達も「家族」だ。
――そこから、この”姉ちゃん”という人物の視界は……ジョジョにかつ、一時的に暗転してしまった……! 次に映った記憶からは……正に、彼女にとっての地獄の連続だったのだろう……。
グワァァァァァァァアァァァアァァァァッ!
……ククッ、クククク……! そう騒ぐな? 後でいくらでも、お前の家族に治してもらえるだろう……?
――背景が一切見えない。だが、”弟”と思わしき人物のツンザクような声が、部屋の中に響き渡る……ッ!
長耳は良い……実に良い……! 特に回復魔法を持っている奴が……家族になれて嬉しいよ……?
――そんな波紋の如き赤黒い色の円を、酔いしれたような恍惚とした声で出していやがったのは……いつぞやの”偉丈夫”だった。座った状態で拘束されているらしい”姉ちゃん”に向け……嗜虐的な笑みを浮かべては、彼女を見下していた……!
オレの趣味に、幾ら付き合って貰っても……勝手に治ってくれるからなぁ……?
――両手に携えていた、”何かの棒”が”姉ちゃん”の視界に迫る……! 高熱を発しているような音が、聞こえた気もしなくはないが……再びジョジョにかつ、一時的に暗転してしまった……!
……グスッ、ごめんなさい……! ごめんなさい……! アナタ……! ごめんなさい……ッ!
ヌッ、フッフッフッフ……! 大丈〜夫。そんな悲しまなくても〜君ちんの妹も、チャ〜ンと! ボクちんが、愛してあ・げ・る・からねェ〜? ベェ〜へッへッへッへッへッ……ッ!
――背景が一切見えない。だが、”母”と思わしき人物の……懺悔するかのような啜り泣く声が、部屋の中に響き渡っていた……!
ベェ〜へッへッへッへッへッ……ッ! お・待・た・せェ〜? 待たせちゃってゴメンねェ〜?
――そんな波紋の如き赤黒い色の円を……”油ぎった豚”の如き、気色の悪い声を出していやがったのは……いつぞやの”太った男”だった。
ベッドに仰向けに寝かされた状態で、拘束されているらしい”姉ちゃん”に向け……気色の悪い下衆な笑みを浮かべては、彼女を見下していた……!
もう、ボクちん達……家族だからね〜? 家族は、愛し合わないといけないからねェ〜? 君達が来る前……今まで愛していた子達もそうだしィ〜? さっき相手してあげていた……君のお姉さんのようにねェ〜?
ヌッ、フッフッフッベェ〜へッへッへッへッへッ……!
――だらしない腹をブルンブルンと振るわせつつ……酷く耳障りで粘着質な声が、”姉ちゃん”に向けられる。しかも、大変恐縮ながら……そんな、ジョジョに彼女へと伸し掛かろうとする”醜い巨体”には、服らしき白い輪郭が一切なかった……!
……だが、ここから先はR指定。私が実況するかしないかを決める以前に……またまたジョジョにかつ、一時的に暗転してゆくのであった……!
たった二つしかなかった”過程”……。だが、ここまで断片的かつ朧げだったのは……それだけ、一秒でも覚えていたく無い程に……彼女は言葉に出来ない程の、”地獄の日々”を耐え抜いてきたというのだろう……。
嫌ッ! やめて下さいッ! どうしてッ!? どうして息子や娘達と……やめて……やめて下さいッ!
――またも、真っ暗な闇の中だ。更に言えば今まで垣間見てきた記憶よりも……”姉ちゃん”の感覚によれば、空気がドンヨリとしていた……。ただ、一つ言えるのは……”嗜虐的な偉丈夫”と同じ空間にいた際と、空気の感じに似ていると言うべきか……。
そう、端的に言うなら……新鮮な空気がほとんど入ってこないような……”地下的な場所”というべきか……。
やめろ……やめろッ! クソ人間ッ! 母さんを……母さんを、何処に連れて行くつもりだッ!?
――初めに聞こえた”母さん”らしき泣き叫ぶ声が響く中……それに続くように、”弟”と呼ばれる人物の、怒り泣く声が響き渡る……!
こうなってしまうのは当然だ……。貴族の間で”たらい回し”にされる事で有名だった君らを、せっかく”家族”として向かい入れたというのに……その恩義を、君達は感じていなかったからなのだよ……?
――そう言いつつ、優雅な足取りで”姉ちゃん”の視界に入ってきたのは、いつぞやの”初老らしき男”。奴に遮られた先に居る”母さん”を含め……この家族に向け、物腰柔らかな口調で語り掛けてはいた……。
だが……相変わらずその目は、見つめる”姉ちゃん”を含め……彼女達を”家族”と呼ぶにも関わらず、蔑んだ冷酷な目付きのままであった……!
だが、我々は”家族”として友好を暖めてきた……だからこそ今、ちょっとした遊び……”賭け”をしようじゃあないか?
――”初老らしき男”がそう語った時……奴の背後で続いていた否定的な叫び声が、ピタリと止まる。
……やめて。やめてッ! ■■■■ッ! ■■■■ッ! 耳を貸さないでッ! 私は大丈夫だから、貴方達は絶対に……!
〜 ドガッ! 〜
……いい加減、静かにしろ。いつまでその、訳の分からない森人の言葉を……言い続けるつもりなんだ……ッ!?
ッ!? このドグソ野郎ッ! 母さんに何しやがるんだッ!? 殺してやるッ! 絶対にテメェをブッ殺してやるからなッ! このッ、筋肉ダルマッ!
〜 ブゥォォンッ! ゴンッ! 〜
ヴッ!?
――何らかの”小さな丸い物”が、両手首、両足首を拘束されていた”弟”の腹に飛来するッ! 鈍い音共に、彼の腹に命中したかと思えば……その後、彼はグッタリと動かなくなってしまった……!
……お前もいい加減しろ。黒肌の長耳め……! お前の世話が、お前達”家族”の中で……最も手が掛かって、厄介だと言うのに……ッ!
……殺してはないな? ヴァイオよ?
……エェ。大丈夫です兄上。加減はキチンといたしました。……まぁ多少、いくつかの骨は折れているかもしれませんが……。
なら良い。そこの母親と一緒に連れて行け。治療をさせろ。
――”姉ちゃん”に向けられていた視線を……”ヴァイオ”と呼んだ弟らしき人物向け、話し掛ける”初老らしき男”。途中から何故か声を潜めていたようだが……この彼女、耳が良いのか全てが筒抜けとなっていた……!
だが、ヴァイオが”母親”をぞんざいに床に置いた後……”弟”の方に向かったのを見た瞬間、彼女からは強い”拒絶感”などが伝わって来る……!
……さて、話が逸れてしまって申し訳ないな……?
――そう言いつつ、優雅な足取りで”姉ちゃん”へと歩み寄る”初老らしき男”。彼女の視界の外からは、カチャカチャと何かを解錠するような音がしていた……。
もう分かっていると思うが……手短に言おう。
〜 カチャン! 〜
――上記の音がした際に、”姉ちゃん”の視界は、自身の目の前でしゃがみ込もうとしていた”初老らしき男”の顔から、素早くその音の方向へと向けられた……!
だが、その光景をまじまじと見る事は叶わなかった……。自身の両頬を、握り潰されんばかりに掴まれたかと思えば、次の瞬間……! 彼女の視界に、再び全く温かみのない”冷酷な目付き”をした……”初老らしき男”顔の方へと、無理やり振り向かされていたのだから……!
……自由になりたいか?
――”姉ちゃん”は一瞬、耳を疑った。だが、続け様に言葉が紡がれる……!
……言葉は分かっているのだろう? 分かっているのであれば、何かしら反応を示せ……!
〜 ズリズリズリズリ…… 〜
――”姉ちゃん”は一瞬、戸惑った。だが、再び自身の両頬を、握り潰されんばかりに掴まれたかと思えば、”初老の男”へと視界を引き戻され……続け様に言葉が紡がれる……!
……別に答えなくてもいいぞ? それなら一生……貴様らは我が”ディシード家”の……「家族」のままだ。
――”姉ちゃん”の表情が一瞬、戦慄するかのように強張る。だが、続け様に言葉が紡がれる……!
私はともかく……我が愚弟二人は、貴様らの事を大層気に入っているようでな……? ”今までいた家族”よりも一番……長く可愛がって貰っているようだからなぁ? 私も驚く程の”最長記録”……。
無論、貴様らも……可愛がってもらって、嬉しいのだろう?
〜 ズリズリズリズリ…… 〜
――【嬉しい……なんて……一度…たりとも……思った事は……ッ!】――ここに来て初めて、”姉ちゃん”の具体的かつ悲痛な思いが私へと流れ出る……! そして確実に、自分との距離が離れていく音の方向に……視線を向けようともしていた。
だが……生憎にも再び、自身の両頬を……握り潰されんばかりに掴まれたかと思えば、”初老の男”へと視界を引き戻され……続け様に言葉が紡がれる……!
流石の御慈愛だ。自身の母はおろか……あの下賎な黒肌の耳長……いや、”ダークエルフ”だったか? そんな貴様ら耳長よりも、”価値の劣るような奴”を……傷付いた自身より先に……治療しようとするのだからなぁ……?
全く……”価値無き者”を優先するなど、酔狂な物だと言うのに……?
〜 ズリズリズリズリ……ギィィィィ……バタン! ボッ、ボボボボボッ! 〜
――【……生きとし……生ける…もの達…全てに……博愛を……。その……私の…信念を……思わず……揺るがし…そうになる……貴方に……! 欲に…塗れ…汚れ切った……貴方…なんかに……ッ!
私と…■■■■の……愛を……姉弟と…しての……愛が……! 理解…なんて……ッ!】――再び、”姉ちゃん”の具体的かつ初めてとも言える激情が、私へと流れ出る……!
そして、ドンドンと確実に自分との距離が離れていく音の方向に視線を向けようともしていた。だが……生憎にも三度、自身の両頬を……握り潰されんばかりに掴まれたかと思えば、”初老の男”へと視界を引き戻され……続け様に言葉が紡がれる……!
……再び問おう? 自由になりたいか?
――”姉ちゃん”は、その音だけが見える世界の中……”初老の男”の顔の輪郭だけを、激情渦巻く心中を抱えたまま……ただ黙って見つめていた。
……フンッ。本当……高慢で、強情な種族と言う物だなぁ……? 貴様ら長耳は……ッ! 落ち延びて……我々の”家族”になった身とは言えど……まだ、”誇り”など……下らぬ物を持つとでも言うのか……?
――”姉ちゃん”は、その音だけが見える世界の中……”初老の男”の顔の輪郭だけを、激情渦巻く心中を抱えたまま……ただ黙って見つめていた。
……答えたくなければ、答えなくて良い。そうなれば……貴様が、あの扉の向こうで未だ心配する、”本当の家族”と……同じ末路を辿るだけだ……。
ッ!?
……そう、例えるなら……歴史の闇に葬られるような……惨めで、無残で、残酷な……魔物に食い散らかされるだけの……憐れな最期と言う奴だ。お前達の同族からも憐れまれる事なく……我ら人類の役にも立てず……と言う物だ。
――”姉ちゃん”は何を思ったのか……ジョジョにその体を震わせて行く……!
……フッ。どうした? 青ざめているぞ? 寒いのであれば、”篝火”の一つでも持ってきてやろうか……?
――”姉ちゃん”の視界が、”画面酔い”を起こしそうな程に……左右にブンブンと高速で動く……!
……フフッ。やっと反応してくれたか……? 全く、私達は親愛なる家族だと言うのに……手間を掛けさせないでくれ……。
――そう物腰柔らかに言うが……”姉ちゃん”の視界が捉えていたのは、相変わらずの”冷酷な目付き”であった……!
……では、最後のチャンスだ……。自由になりたいか?
――”拒否感”と”悔しさ”が入り混じる感情が、私に流れ込む中……”姉ちゃん”の視界が、ゆっくりと上下に動く……!
……では、私の”賭け”に応じるか……?
――再び、”拒否感”と”悔しさ”が入り混じる感情が、私に流れ込む中……”姉ちゃん”の視界が、ゆっくりと上下に動く……!
……グッド! やっと聞けましたよ……これで、ようやく愚弟達との”賭け”よりも……面白そうな事が出来ると言う物だ……!
――不適な笑い声を上げる”初老の男”。
では、賭けの内容を言っておきましょうか……?
――【お母さんと……■■■■の…ためにも……! 絶対に…勝たないと……!】――そんな決意が私に流れ込む中、彼女は真っ直ぐ……目の前の”初老の男”の顔の輪郭を睨むように見つめていた……。
明日から一週間……”貴方”と”黒肌の長耳”のみを解放しよう。
――【……え? 何で……!? お母さんは……ッ!?】――”お姉ちゃん”から一瞬、戸惑う気持ちが私の中に流れ込む……!
そして……私が放つ”追手”から、逃げ続けるのです。捕まらず。殺されず……。
――【……待って。待って!? お母さんは……ッ!? お母さんは、一週間……! どうなるのッ!?】――”お姉ちゃん”から一瞬、”戸惑い”と”強烈な拒否感”の気持ちが、私の中に流れ込む……!
そうして……上手く逃げ切る事が出来れば……貴方達を解放しましょう。親子共々、永久に……無罪放免。……私達、家族の元からね……?
――【……そんな、そんな……お母さん…の事が……! 一切、分からない……賭け…なんて……ッ!? 出来る…訳が……ッ!?】――”お姉ちゃん”から再び、”戸惑い”と”強烈な拒否感”の気持ちが、私の中に流れ込む……!
どうしました? 貴方はさっき……賭けに応じると頷きましたよね……? まさか……今更、自ら望んで魔物の餌になるとでも言うのですか……?
――【……あぁ、母なる…大地よ……大いなる…自然よ……! これが…これが……! 人族の……人間……の悪意という…物なのですか……ッ!? こんな…にも……醜く……私でも…憎まなければ……ならない……物…だと…言うのですか……!?】――”貴族にたらい回し”にされていたにも関わらず、今更かとツッコミたくはなるが……。
だがある意味、それらが児戯にも等しいレベルに、生温かったのか……。そうとも思ってしまう程に、私に流れてくる気持ちはここ一番に……”重くドス黒い気持ち”であったのだ……!
……どうしました? 矢張り、私の”賭け”から……降りると言うのですか?
――”姉ちゃん”の視界が、僅かに項垂れるかのように下を向く。だが、少しした後……力無く、その視界はゆっくりと……左右に振られていた……。
……後悔、悔しさ、悲しさ、そして初めてとも言える……”沸々と湧き始めた怨み”……! そんな……筆舌しがたい、”ごった煮された気持ち”が……私の中に流れ込みながら……!
……グッド! 楽しくなってきましたねェ……! ムッフッフッフッフッフッ……!
――その不気味かつ嫌らしい含み笑いを最後に……この”姉ちゃん”という人物の視界は……ジョジョにかつ、暗転していったのであった……! その後の記憶は……。
〜 ガバサァッ! 〜
「ッ!? ハァ……ハァ……ハァ……ッ!」
――眠っていた彼女が起きてしまった以上……この悪夢の続きは、見られなかったのである……!
「ハァ……ハァ……ハァ……?」
――おっと? まだ私は、”姉ちゃん”と同じ視点にいるようだ。……どうやら戻れなくもないが、せっかくなので、もう少しだけこの形で実況をお送りしよう……! ただ最善は尽くすが……途中、表現に困り……彼女目線の表現になっている部分が、あるかもしれないと言う事は……あらかじめ伝えておこう。
早速だが、先程の”悪夢”から飛び起きた彼女は……それはもう、それから全力で逃げ続けたかのように”荒い息”と、もう出る筈もない”汗”で、全身がビッショリとなっていた。
自身に何が起こったのか……? ジョジョに収まる息の中……そんな事を思いつつも、辺りを見回す彼女であったが、それは……益々彼女の”疑問符”を、増大させてゆくだけであった……!
「スゥ……ニャァ……スゥ……ニャァ……スゥ……ニャァ……」
「? ……!?」
――上半身だけを起こした体で、右側を見渡していた”姉ちゃん”。彼女の視界には”光”はなかったが……実際は、ボンヤリとした薄明かりの中……その”音だけが見える世界”に飛び込んでいたのは、どれも彼女が”初めて”遭遇する物ばかりであった……!
見た事のない空間、見た事もない明かり、見た事もない手触りの敷物、見た事もない手触りに……圧倒的な暖かさの寝具と不思議な寝心地の寝台、見た事もないほのかな暖かさを出す壺、そして……自身と同じ寝具をマトい、丸まった状態で寝る獣人らしき少女……!
一瞬、ここが”あの世”なのかと思っていた”姉ちゃん”だったが……ふと見た自身の”両腕”や”両手”を見て、その”仮説”が即座に間違いだと気付くのであった……!
「……ッ!?」
――一週間近く追われ続け、常に追い詰められる中……いつもギリギリの魔力量で、何度も何度も”自身”と”弟”の治療を繰り返し、逃げ続けていた筈……。それにそんな中……”食糧探し”どころか、自分達は”身を清める”余裕すらなかった筈……!?
なのに、汚れ塗れだった筈の両手が、両腕が……綺麗になっている……! 傷があった筈の場所に、(少々雑だが……)いつのまにか包帯が巻かれている……! 何よりも、毎日逃げ回る中……僅かな睡眠だけでは絶対に取れる事のなかった、全身の”気怠さ”や”痛み”さえも無くなっている……!
何よりも、ここが”あの世”でない確証となったのは……全く見覚えのない衣の上から触った……自身の”胸の鼓動”を、感じ取っていたからだ……。
〜 ……スンッ、スンスン……ッ! 〜
「……ウ〜ン、何のニオイ……?」
――そんな”姉ちゃん”が、両手を”胸の鼓動”を感じられる位置に置き……その鼓動に思わず涙しそうになった時……右側で横たわって寝ていた筈の”獣人の少女”が、モゾモゾと起き出す……!
耳が良いのか”姉ちゃん”は、その僅かな布が擦れる音に対して……警戒するかのように、素早く視線を向けていた……! だが、眠そうな目を擦りながら上半身を起こしてきた”獣人の少女”を、その”音だけが見える世界”で凝視しては……その”警戒心”を、いつのまにか何処かにほっぽり投げてしまっていたのだ……!?
彼女の中にある知識では……獣人とは、自身達”エルフ”のように……自然と共に生きる種族であるとあったのだ。だが、決定的な違いとしては……彼ら”獣人”は自然と共に生きるにしても、自分達”エルフ”のような「自然との調和」を重んじるのではなく……端的に言えば「弱肉強食」。
強い者が正義。……という価値観を持つような、言って仕舞えばある意味”野蛮な種族”であったのだ。だが、目の前の彼女はどうであろか……?
「……フニャァァァァァ……ッ!」
――獣人特有の、顎が外れんばかりの独特な欠伸と共に……最初に腕と肩を、次に下半身と両足を……周囲の警戒も無しに、馬鹿みたいにノンビリ伸び伸びと”伸ばす行為”を行うこの様……!? あの本に書いてあった事、両親からの話や物語にあった事は、嘘だったのか……ッ!?
僅かな間にそう思っていた彼女だったが……それを上塗りする光景がまたあった。それは、獣人の少女が身にマトウ服だ。いいか? 身にマトウ服だぞ?
彼女の知識よれば……獣人は、基本的に”生まれたままの姿”で生涯を過ごすらしい。そこは自身達と大差ない事だが、それでも”自身の強さ”を誇示する証として……討ち取った強大な”魔物の皮”や、名のある武人の”服や鎧”などを頂戴しては、それを身にマトっている事があるという、”例外”がある事は知っていた……。
だが、寝ぼけ眼を擦りつつ……こちらを見つめてくる”獣人の少女”は、そのどちらにも当て嵌まらない……! 流石、”知識人”や”森の賢者”などとして現代じゃあ有名な、”エルフ”であろう彼女だが……周囲は疎か、目の前に広がる光景を前に……この時だけは流石に、”実に奇妙だ”……としか言いようがなかった……!
そんな彼女の中では、更に更に”疑問符”が増大していく……!
「……ウゥゥ〜ン……アッ! エルちゃん、オきたんだね!」
――四つん這いに、ジョジョに自身に迫りつつ………そう自身を呼ぶ獣人少女の呼び方に、戸惑いを隠せない”姉ちゃん”。だが、”嬉しそうな表情”で獣人少女が迫るためか、何故か表情を歪ませる気にはなれなかった……。
「ねェねェ、エルちゃん! ボクの言っている事、分かる?」
――変わらない獣人少女の呼び方に、苦言を漏らしたい気分になった”姉ちゃん”。だが、質問に対しては特に断る理由もなかったのか……大人しく首を縦に振ったのであった……!
「……アァ〜良かった! ちょっとマってて! ボスをヨブねッ!」
――『ボスを呼ぶ』……”姉ちゃん”には意味が分からなかった。何故なら、そう言ったのにも関わらず……目の前の獣人少女は、この空間から出ていこうともせずに、そっぽを向いては……右手を首の側面に当てただけなのだ……!?
「ボスゥ! エルちゃんがオきたよ〜!」
――なのに……まるで、目の前で話しているかのように語る獣人少女……!? そんな”姉ちゃん”の中では、更に更に更に”疑問符”が増大していく……!
「えっ? 何で”エルちゃん”って呼ぶのかって? ナマエが分からないからだよ〜。だから、ボスが言っていた”エルフ”から、”エルちゃん”……って、呼んでるのさ〜」
――多少は納得した気持ちを漏らす”姉ちゃん”。だが……機会があれば、何かしらでその呼び方をやめて欲しいという思いは、まだ残っているようだ……。
「シツレイにオモッテいるカンじはないよ〜? ……えっ、イヤ……ネてない! ネてないってばッ! ちゃんとオキて、カンビョウしてたってばッ!」
■■■ー? 詳しくは分からないけど……どうやらそこの獣人は、”何かの魔法”を使って話しているみたいだよ?
だね〜。全く見た事ない魔法〜。
……話したのは私じゃあないぞ? 恐らくだが……たぶん”姉ちゃん”の”悪夢”の中に出ていた……そう! ”妖精の兄妹”なのだろう! そうだッ! そうじゃあないと、今の急に増えた会話に対しての説明がつかないッ!
「……ウン。テントの中は、アッタカクしてるよ? ボスからモラッた”ヒバチ”にも……ちゃんと”ビンチョウタン”……だっけ? とにかく、それを入れてアッタメテるから! サムくないからね!」
……ちょっと? 勝手に決めつけないでくれるかな? 僕らは歴とした”風の精霊”さ。妖精じゃあないッ!
そ〜だよ! ”ヴォン兄ちゃん”の言うトオり、マチガワないでよ〜!? それに、あんまり大声出さないでよ〜! ダレカサンッ!
……エッ!? 私に干渉してきただとッ!? 一体、どう言う事だってばよッ!?
「……ウン、ウンウン……分かった。ハナして、オチツカせてれば……イイんだね? ウン、分かったッ! 早くしてね〜? ボスゥ?」
……済まないが……ヴォンさん? ヴォエナさん?
……何だよ?
……何よ!? ダレカサンッ!?
……ダレカサンじゃあないッ! 私は……私は、そうッ! 「ミスター・N」と申す者だ。
……ミスター……?
……ナレン……?
――そうだ。大変恐縮だが、お二人さん。貴方方が大事にしているそこの”エルフ”に、私は悪影響を及ぼすつもりは毛頭ない。だから、またも恐縮だが……そちらには、うるさくて大変申し訳ないかもしれないが……! 今後は極力、私に干渉する事は……ご遠慮願いたい……ッ!
……エェ〜今もウルサイんだけどな〜?
……エェ……!? そんな事を言われてしまうと……ッ!?
……まぁ、待てヴォエナ? 一応、この”ナレンさん”のお願いを飲んでやろうぜ?
……エェ〜何で〜”ヴォン兄ちゃん”〜?
僕らが、■■■ーと一緒に……”あの地獄”にいた際、こんな声は聞こえてたか?
……あっ、そっか! そう言う事なんだね! ”ヴォン兄ちゃん”ッ!
……何が、そう言う事なのだろうか……?
黙れよ、ナレンさん。アンタが俺らより”偉そ〜な存在”だったとしても……俺の妹についてケチ付けるなら、俺は黙っちゃあいないぞッ!?
――あっ、ハイ……すみませんでした……。(お願いする身とは言え、何で私が謝るの……!?)
……ヨシッ! じゃあ、なるべく……あの獣人と、獣人が言っていた”ボス”って奴って時だけに、喋れよ? じゃあないと……!
――分かりました、分かりましたよッ! 何か訳分からない内に、話の主導権が持って行かれた気がするけど!? 善処しますから、マスカラ、分かりましたよッ!?
……モォ〜ヴォン兄ちゃんッ! ナレンさんに、イジワルはメッ!
……アッ、アァ……ゴメンなヴォエナ? 僕が悪かったよ……。
……(この精霊さん……とんだ、シスコンかもしれない……ッ!?)
何か言ったか?
――嫌ァァァァァァ!? 何もッ!?
……本当か?
――ゔぉ、ヴォンさん!? と、とにかくッ! ホラッ! 今後は、お互い”良好な関係”で行きましょうねッ!? ジュワアッ!
おい、ちょっと待てッ!?
バイバ〜イ! ナレンさ〜ん! また、オハナシしようね〜?
「オ・マ・タ・セェ〜! リルちゃん! ボスが来るから、ちょっとマっててホシイんだって! ダイジョ〜ブ?」
――た、大変申し訳なかった……! ◯者の諸君ッ! 予想外の緊急事態”宣言”……じゃあない! 緊急事態にッ! その対処に手こずってしまっていたッ! 本当に申し訳ない……ッ! この間に、数十分もの時間が過ぎて、とっくの昔にボス達はご就寝してるんじゃあ……と思うかもしれないが、ご安心して欲しいッ!
今回は”特別措置”として、緊急事態が発覚した際から……極限まで、時間を引き伸ばしておいたのだッ! それはもう、”スロー再生”の如く……! 一言一句の声がブッサイクに聞こえる程に……ッ!
だから、上記のように……オルセットの会話内容としては……ホラッ! 一ミリたりとも進んでないであろうッ!? こう言う事は、私の中のルールでは多用してはいけないのだが……今回だけは、本当に特別だッ!
だから、大変恐縮ながらッ! ”私の実況”と”この物語”を、出荷直前の養豚場の豚を見るような……”冷めた目付き”などで見ず、読んで欲しいのであるッ! 確実かつ、切実なッ! 私からの”必死こいたお願い”なのであるッ!
〜 ……コクリ。 〜
「アリガトねェ〜。……ところで、エルちゃん? そのクビをタテにフッテいるってのは……”ハイ”とか”ウン”って、コトでイイんだよねェ?」
〜 ……コクリ。 〜
「……フ〜ン。じゃあ何で、さっきから……シャベろうとしないの?」
――そう、オルセットさんよ……良く聞いてくれたッ! 私もずっと”奇妙”に思っていたのだが……。
この”姉ちゃん”と言われた人物……。先程の”悪夢”……いや、それ以前に”鉄決傭兵団”に追い回され、森を彷徨っていた時も含めそうだが……何故に一切、言葉を喋ろうとしないのであろうか……?
一応、明言しておくと……先程の”悪夢”の中で、彼女が喋っていたのは……全て”胸の内”。一言も、声に出してはいなかったのである……! だからなのだ。だからこそ、極度の恥ずかしがり屋であろうと……”吐息”や”呼吸音”以外に、短くとも”何かしらの声”を漏らす物だと……私は思うのだが……?
だが、彼女の視点からは……自身を見つめつつ、小首を傾げるオルセットに続くように、彼女もまた”困り気味の気持ち”をこちらに流しつつ、首を傾げていたのであった……。
「……ノドがイタイの?」
〜 ……フルフル。 〜
「……そのクビをヨコにフッテいるってのは……”イイエ”とか”チガ〜ウ”って、コトでイイんだよねェ?」
〜 ……コクコク。 〜
「ナルホド〜。でも、やっぱシャベレないんだよね?」
〜 ……コクリ。 〜
「……ノドをケガしたの?」
〜 ……フルフル。 〜
「……エルちゃんのキズを、ボクがオウキュウショチしたトキに……”ポーション”をツカッタんだけど……それでも”ナオらないケガ”なの?」
〜 ……フルフル。 〜
「エッ? じゃあ、ナオッタの?」
〜 ……フルフル。 〜
「ウ〜ン、分かんないよ〜ッ! ……ホントに、何もシャベレないの?」
――両手で軽くながらもグチャグチャと、髪の毛を掻き回すオルセット。それを見た所為なのか……この時だけは、チョッピリ申し訳なさそうな気持ちが私に流れながら……その”姉ちゃん”の視界は、ゆっくり縦にへと振られたのであった……!
だが、もう聞くネタが尽きてしまったのか……オルセットは、彼女を真っ直ぐと見つめたまま黙ってしまうのであった……!
「……あっ、そうだッ! ねェねェ、エルちゃん! ボスをマっているアイダ……オモチ、タベるゥ〜?」
「……?」
「ボスのコキョウのタベモノなんだって! ボクは見た事ないんだけど……何でも”モチゴメ”ってモノを、”ハンマー”でブッタタキマクッテ作るんだって!」
――その”オモチ”と”モチゴメ”……更にその”物騒な作り方”に対し、全く想像の付かない表情をする”姉ちゃん”。一方その視点では、オルセットが近場にあった奇妙な箱の中身を漁っては……これまた見たこともない袋を取り出していた。
そして……その取り出した袋から、またも見た事ない”四角い塊”が入った袋を取り出すオルセット。だが、さらに”姉ちゃん”は驚いていた……! 更にその取り出した袋を、手で破いていたのだ……!
彼女の検討が全く付かないまま……オルセットはその”四角い塊”を、先程見た”奇妙な壺”の上にある網に、乗っけるのであった……!
「ボクがスキな”オニク”じゃあないけど……タベてみたら、オニクみたいな……クチャクチャ! ……って、ハゴタエにビックリしたんだよ! それにそれにィ〜しばらくカンデるとォ……ダンダンと”甘く”なってくるんだよ〜オモチって!
それがオイシクテね〜? イガイとボク、スキなんだ〜」
――彼女の知識か経験則なのか……”姉ちゃん”は、そのオルセットの拙い説明から”モチゴメ”は、何かしら植物であり……四角い塊が”オモチ”であると、いつのまにか推測していた……! 癖なのか……彼女の視点からは、”口元に添えた親指”がチョッピリだけ見えていた……!
そして”奇妙な壺”に、”オモチ”らしき”四角い塊”を網の上にセットし終えたオルセットは……楽しそうな表情で、再び彼女を真っ直ぐと見つめるのであった……!
「アァ〜けど……ヤケルまで、ジカンがカカルから……もうちょっとだけ、マっててね? エルちゃん?」
「……フフ」
「……エッ? エルちゃん……笑った?」
――警戒していたのが馬鹿馬鹿しい……そんな思いが私に流れ込む中、”姉ちゃん”はゆっくりと首を縦に振るのであった……。
「エェ〜、ナニナニィ〜? ボクの何がオモシロかったのさ〜?」
――少々困った感情が私に流れ込む中……”姉ちゃん”は、軽く小首を傾げていた……。
「ウ〜ン、シャベレないって分かってても……やっぱ、分かんないよ〜!」
〜 バサァ……! 〜
「よぉッ! 待たせたな、オルセット?」
<異傭なるTips> 獣人族
オルセットが”エルちゃん(仮称)”と呼んでいたエルフ……。彼女の知る限り知識だと、オルセットのような獣人族は、下記のような特徴があるらしい……。
(生態、思考)
・エルフと同様、自然と共に生きる種族らしい。
・端的に言えば「弱肉強食」……あるいは、「強い者が正義」。……という価値観を持つらしい。
・基本的に”生まれたままの姿”で生涯を過ごすらしい。
・それでも”自身の強さ”を誇示する証として……討ち取った強大な”魔物の皮”や、名のある武人の”服や鎧”などを頂戴しては……それを身にマトっている事があるという、”例外”があるらしい……。
・また、争いなどで負けた者は……基本的に勝った者の下に付くという風習が、種族全体であるらしい……。
・基本的に……神様を信じるよりかは、「己の力」と考える者が多いらしい……。
・種族全体の特徴として……主に人間よりも、”腕力”や”走力”など……様々な身体能力に秀でた者が多いらしい。
・また、種族によっては……空を飛んだり、圧倒的に長く水中に潜っていられる種族など、一芸に特化したような種族もいるらしい……。(一例として、ほとんどの時間を水中で過ごす海生哺乳類の”アザラシ”は、脾臓がかなり大きいらしい……)
・全体的に、身体能力に秀でた種族であるが……”エルフ”とは違い、魔法の適正や魔法を使えたりする者は非常に少ないらしい……。
・ただ、使えたりする者は少なくとも……それは”火魔法”などの属性に関する魔法で、身体能力を強化するような魔法では、結構使える者が多いらしい……。
・だが、中に身体強化の魔法以外を上手く用いて戦う者もいるが……大体の種族では、そう言う者は「卑怯者」や「臆病者」、「一族の恥晒し」などと、軽蔑される傾向が強いらしい……。
・基本的に、「強者が正義」な価値観だが……一応、物々交換が出来る程の文化の発達や、社会性はあるらしい……。
・その生涯を生まれた場所からほとんど離れる事なく……人間の社会に進出する者は、種族全体の十パーセントも満たないらしい……。
・また、進出できたとしても……大体は、人間からの”差別の対象”にされやすいらしい。
・更に言えば、人間者社会に進出し……一定の地位や財産を築ける者は、進出した十パーセントよりも少なくなる上に、大抵は”奴隷落ち”してしまうらしい……。
・ただ、不条理に”奴隷落ち”ばかりになるのではなく……大半は、人間が与える仕事をこなすも満足がいかず……耐えかねた末に”乱暴を働いてしまう者”が、後を絶たないらしい……。
・それでも、「愛玩動物」の如く……”人間の悪意”によって、不条理に囚われては奴隷生活を送る羽目に陥る者も、少なからずいるらしい……。
・しかも……ここ最近で、その種族の総数は……急激に少なくなってきているらしい……。
・使用する言語は、基本的に”各地に根ざした言語”を使うらしい。(王国の付近なら「王国語」、教国の付近なら「教国語」と言う風らしい……)
・だが、非常に訛りが強く……最早、各種獣人族毎に、”独自の言語”と化している場合が多いらしい……。
・平均的な寿命は、六十歳前後。最長でも、人間よりも短い”百年”を越す者は多くないらしい。
(趣向、癖)
・主食は主に肉類。しかも、”生肉”で食べても大丈夫な頑強な胃袋を持ち……料理をするという文化を持つ部族もほぼないらしい。(参考に、地球の肉食動物が何故、”生肉”を食べても平気なのか……ザックリ言えば、根本的に、人間と肉食動物の体の構造が異なるそうだからしい……)
・また、肉ばかりではなく、植物類しか食べられない種族もいれば……肉や植物類など何でも食べる種族もいるらしい……。
・身体能力を”誇り”や”命”にする者が多い種族故か……寝起きなどには必ず”準備運動”や、体を伸び伸びと伸ばす者が多いらしい……。
(伝承、噂)
・好意を示す際には……相手の頭などに、自身の頭を擦り付けるようにして、”自身の匂い”を擦り込ませるらしい……?
・基本的に、獣人族は神を信じない種族ではあるが……彼らの祖となったらしい”フェンリル”には、本能的に頭が上がらないらしい……?
・ウォーダリアの北……”人類”及び、”亜人”などの様々な多種族でも到達出来ないような、「未開の大地」には……その中で生き延びている上に、”竜をも屠る”と言われる程の強さを持つ……メチャンコ強い獣人族がいるらしい……?
……だそうだぜ? ボッヨヨ〜〜〜ン! (by,噂話が大好きな奇妙な石)