RE:Contact-14 ¨怪シキ傭兵団¨ヲ撃退セヨ - 2
「……て、テメェ……汚ねェぞッ!? オレらを騙しやがってッ!」
「「「「「「「そうだ、汚ねェぞッ! ”同じ人間”として恥を知れッ!」」」」」」」
――返す言葉が見つからなかったのか、ラグジャー含めバカ供の皆さんは……苦し紛れそうな表情で、これらの言葉を絞り出す……!
「クフフフ……ハハハハハハハッ!」
――だがボスは……バカ供の言葉を聞いては唐突に、腹を抱えて笑い出す……!
「……ハァァ〜ハハハハッ! ハァァ、ハァァ、ハァァ、ハハハハハハハハハハッ!」
――未だに笑い続けるボス。一方のバカ供の皆さんは、この笑いに関しては、全くもって理解不能に陥ってしまったのか……数人が後退りを初めていた。
蹴られた後も、彼に最も近く……怒り全開で、彼に弓を引いていた”アルベール”。だが、そんな彼でさえも……今は恐怖に顔を引きつらせ、後ずさる中で思わず尻餅を付いてしまう……! そして、そのままバカ供の皆さんの元へと……”惨めに這う虫”如く、急いで下がる事しか出来なかった……!
自身も得体の知れない”恐怖”に飲み込まれかけていたラグジャーは、勇気を振り絞るかのように……笑い狂う彼へと声を張り上げる……!
「……なっ、何が可笑しいッ!?」
「……ハァァ〜ハァァ〜ハハハハッ! オレを……オレを笑い殺す気かぁ? ……ハハハハッ!」
「だから、何が可笑しいッ!?」
「……ハァァ〜ハァァ〜分かった、分かった……良いだろう。久しぶりに、クソくだらねェ冗談を聞かせてもらった礼だ……チョッピリだけ答えてやる」
「ちょ、チョッピリ……?」
「そもそも、仕事のためとは言え……”五十人近くの大人数”で、”二人の子供”を追いかけ回す事事態……恥ずかしい事だと思わねェのか? エェ?」
――やはり、思うトコロはあったのか……一瞬だが、一斉に目の色を変えるバカ供。
「それで? そんな、恥ずかしい奴らと……オレが同じ人間だって……? ……ハハハハッ!」
――再び腹を抱えて笑い出すボス。その様子に……?
「……ハハハハハハハハ……同じにするんじゃねェよ、クソ供が」
〜 メキャァッ! ポイッ! 〜
……わっ、笑い狂っていたかと思えば、次の瞬間……ッ! まるで冷水でもブッ掛けられたかのように、その笑い声は唐突として消える……! そして右手に握られていた矢は、容易く真っ二つに握り折られ、ゴミ屑のように投げ捨てられては……地面に向いていた視線がバカ供に向けられる……ッ!
それと同時に”平常心”のようだが……聞いた者が即座に身震いをしてしまう程の、”ドスの効いた声”……更にはその目が”魔眼”でもあったら、確実に相手を睨み殺していそうな”冷酷な眼差し”を……ボスはバカ供に向け、睨め付けていた……!
「もうちょっとお喋りしたかったが……もういい」
「……え?」
「そこの”アルベール”とか言う奴のように……お前らには、お前らの人生があったんだろうが……悪いな。ここで終止符を打たせもらうぞ……?」
「ッ!? なっ、何を勝手な事を言いやがる……ッ!?」
――だが、そんなラグジャーの声を無視しては……ボスは腰のベルト、その背中側に挟んでいた”SAA”を引っ張り出すと……前後にクルクルと銃本体を回す、”ガンプレイ”を見せ付けた後に語り出す……!
「こいつは”ある”世界で最も高貴な銃……シングル・アクション・アーミーだ」
――右手で銃把を握りつつ、左手で剥き出しの銃身を掌の上で、撫でるかのように左右に滑らせながら、そう語るボス。
〜 クルクルクルクルクルクル……カチャ、チキキ……チャキ、チャキ、チャキ、チャキ、チャキ、チャキ……キン、キン、キン、キン、キン、キン……! 〜
「6発だ。6発以上、生き延びた奴はいない……!」
〜 ……チャキ、キリッ、チャキ、キリッ、チャキ、キリッ、チャキ、キリッ、チャキ、キリッ、チャキ、キリッ、カチャン……クルクルクルクルクルクル……! 〜
――上記の台詞を言い終わる頃に、滑らかな再装填を終えるボス。そして、再装填後……再びクルクルと銃を回す”ガンプレイ”を見せつけ、右手で掴んでは腰辺りに構える。……あれ? でも”落ちた薬莢”に、弾頭が……?
ゼッテェやりたい事なんだから……黙っとけッ!
「オレが何故、リボルバーと呼ばれているか……じっくりと味合わせてやる……ッ!」
――【……ホントはこの一連のセリフ、オルセットに言って欲しかったんだけどなぁ……】――まぁまた、色々とツッコミたいが……この状況に訳も分からず、全員が唖然としていたバカ供に向け、再び鋭い視線を向ける……ッ!
「さぁ……来いよ?」
「へっ?」
「掛かって来い!! ……って、言ってんだよ!? クソ野郎供がッ!」
――轟くボスの怒号。それにたじろぐ鉄決傭兵団……! だが、その中でも素早く体勢を立て直したのは、一番初めに弓を引いていた”アルベール”と言う男であった……!
「ハッ! テメェが貴族じゃあなかろうと、最初から気に入らなかったんだよッ! だから、得意げにその訳の分からねェ”魔道具”を取り出そうと……テメェをブッ殺す事は、何の変わりもな……」
〜 ……パアァァァァンッン! ビスッ! 〜
「……ある”兄貴分なギャング”は言った……ブッ殺す。そんな事は……常に行動を終えた後に言うべきだってな……?」
――銃口から硝煙立ち上る”SAA”を、右片手で構えつつ……ボスはそう語る。無論、放たれた弾丸は……(恐縮ながら)大仏様の眉間にある”白毫”の如く、アルベールの眉間に見事な穴を穿っては……彼の人生の終わりを、物語らせていたのであった……!
〜 ……グラッ、バタンッ! 〜
「「「「「「「あっ、アルベェェェェルゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!?」」」」」」」
――穿たれた銃弾によって……見事なまでに脳ミソの内部が、グチャグチャにシェイキングされたアルベール。
倒れる寸前、ボスに向けて一矢報いるかの如く……引き絞られていた矢が放たれて行く……! だがそれは、見当違いな方向に放たれつつ……全くもって掠りすらもしなかった……。
そして、奴の体は膝から崩れ落ち、ジョジョに仰け反って行っては、流れるように倒れて行くのであった……!
仲間達がようやく……彼を”蔑称”で呼ぶ事を辞めては、一斉に叫ぶがもう遅い……! 今は物言わぬ、”糸の切れた人形”の如き彼を……気にしている場合じゃあなかったのだ……ッ!
「まずは一人……!」
〜 クルクルクル……スチャッ、パパアァァァァンッン! ビビッスッ! 〜
「ギィィヤァァァァァァァァァッ!?」
――まるで”初めての痛み”を味わったかのような悲鳴が、ラグジャーから上がっては、その両膝が力なく地面へと崩れ落ちる……! よく見てみれば……彼の両膝には、”小さな穴”がいつの間にか一つずつ開いており……そこからタラタラと止めどもなく、血が溢れ出ていたのだ……!
「なっ、何だ……コレはァァァァァァァ……ッ!?」
「「「「「「あっ、アニキィィィィィィィッ!?」」」」」」
――途方もない激痛なのだろう。声を出すのも億劫なように、ラグジャーが苦悶の声を漏らす。だが、彼と同様に……バカ供も、何が起きたかは分からなかった……!
「……ファニングショット、成功……ッ! やっぱ、訓練の甲斐はあったなぁ……ッ!」
――ボスが扱う”SAA”は、現代の主流な拳銃とは異なり……連射できる機構が全く存在しないのだ。詳しい事は現在、割愛させて頂くが……それでも連射を行いたい場合は、”撃鉄”を上げては、”引き金”を引く……! この一連の動作、「シングルアクション」を、繰り返し”手動”で行わなければならない。
そして、今さっきボスが行った……”引き金”を引いたまま、繰り返し”撃鉄”をファニングするように上げ、手動で連射を行う事を……「ファニング」、あるいは「ファニングショット」と言うのだ。
【元の世界以上に、この一ヶ月間……練習する”弾”も”時間”も、腐る程あったんだ……! ファニングで両膝を撃ち抜くなんて、ワケねェぜッ!】――こう、心の中で豪語しているボスだ。そのタユまぬ努力を前には、素直に拍手を送るざるを得ないだろう……。
因みにだが、上記で豪語したボスの「ファニング」は……二秒で六連射できるらしい……。
だが、達人の領域ともなれば、瞬時に”三連射”を行えるテクニックがあったり……更には”機関銃”や”短機関銃”を凌ぐ程の速さで、複数の的を撃ち抜く……なんて、世の中には彼を軽く超える猛者も、意外と居たりするモノなのだ……!
『ボスゥ? ジュ〜セェ〜したけど、もう出てイ〜イ?』
「あぁ、もう良いぞ」
――未だ硝煙上る”SAA”を右手に携えながら、ボスはそう呟く。どうやら彼らの”念話”は、黙ったまま以外にも……”声に出して喋る事”でも、相手側に意思疎通する事が可能なようだ。
……どうしてそう言えるかって? それはだなぁ……?
〜 ……バサァ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ……! 〜
「フゥ〜、やっとボクのデバンかぁ……オソいよ〜ボスゥ……!」
……このように、先程の”念話”が伝わってなければ……まずこのように、ノコノコとオルセットが、彼女のテントの中から出てくるであろうか……?
「悪いな、”仕込み”にだいぶ時間が掛っちまった……。ただ、さっきから伝えてた”打ち合わせ”の内容……チャンと覚えてるよな?」
「大丈夫だよ〜ボスゥ。それなら……」
「おっと、待った。確認するなら……「コール」のスキルの中で……だろ? 頼むぞ〜?」
「あっ、ゴメン……ボスゥ」
――どうやら、前話から使用している”念話”の正体は……「コール」というボスのスキルから、行えているようだ。
成る程。全く声が聞こえずに話せるというのは……結局、今も起こっている状況に理解が追いつかず、今もポカンと顎を外し続けている”バカ供”みたいな敵達に対し……情報や作戦を全く理解させずに、一方的に戦えると言う訳だ。
道理で、”バカ供”との会話中……しきりに彼の”首の頸動脈”付近が、痒くなっては掻いていた訳だ……!
「クゥゥアァァクゥゥゥゥ……ッ!? なっ、何で獣人の奴隷を……いや!? どっ、奴隷の首輪ナシのじゅ、獣人を……!? 手懐けて……ッ!?」
「口を慎め、クソ野郎……ッ! 手懐けたぁ? 奴隷〜? ……んな、”クソ塗れな言葉”を吐いてじゃあねェよ、ボケがッ!」
「なっ、何を言って……!?」
「ねェ〜ボスゥ? ”テナヅケ”たって……ナニ?」
「……まぁ……ホラ、前話した……”ペット”……みたいな事だ。この世界じゃあ、たぶん……”奴隷”も同然なんだろうけど……」
〜 プッツン! 〜
「……フゥゥゥゥゥゥゥゥ……フザケルナァァァッ!」
――ほぼ一瞬で猛獣の如き、怒りの眼となったオルセットが……バカ供に向けて怒声を放つ……ッ! 元々バカ達は、オルセットを目にした時点で……一斉に”嫌悪感”丸出しな視線となっていた。
だが、今はそれが一瞬にして”恐れ”の視線へと塗り替えられ……一部の者は更に”後退り”する始末であった……。
「ボクがボスの”ドレイ”だって!? フザケナイデッ! ボクはボスの”ナカマ”だッ!」
――バカ達の誰か一人に、今にも飛び掛かりそうな怒りの形相で、再び怒声を飛ばすオルセット。恐らく、今はまだ自覚はないのであろうが……”ボスの仲間”である事が、彼女の中で一種の誇りと化しているのかもしれない……!
「そうだぁ……口を慎め、クソ野郎供……ッ! 手懐けたんじゃあない……! オルセットはなぁ、俺の大事な……仲間だッ!」
――飄々とした口振りだったが、その胸の内に秘めた怒りは、オルセットと変わりないと物語るかのように……最後の最後には”バカ供”向け、怒鳴り付けるボス。
「……じゃあ、ボスゥ? もうやっちゃって……」
「待て待て、確認するって言ったろ?」
――左手の人差し指と中指を揃え、首左側面の頸動脈をポンポンと軽く叩きながら……横に並ぶオルセットに、そう言い聞かせるボス。
「エェェ〜、ケッキョクするの〜?」
「訓練後、初めてとも言える……マトモな人間相手の実戦だ。夜中にたまに襲ってきた”野党”とは……全然違うんだよ、オルセット。だからだ」
「……分かったよ〜モォ〜」
「あっ、ありえねェ……!? なっ、何で獣人が……人間に……ッ!?」
――そう再び呟くラグジャーであったが、それは彼の周囲に存在する他のバカ供も、同等の事を思っているであろう……。互いが決して相容れない筈の、”人間”と”亜人”……! 更にそれが、一言も言葉を交してもないのに……丸で普通に話をしているかのように、頷き合ったりするなどをしているのだ……!
人は太古の昔より……”理解の及ばない物”には、本能的に恐怖を抱くと言う。地球の人類は、それを”科学”などの学問で理解する事によって、様々な”恐怖”を克服してきた……!
だが、果たして……このバカ供は、目の前に広がる”恐怖”を……克服出来る時が、来るのであろうか……?
「さて……命令だ、オルセット。殺すな。だが……徹底的にブチのめせ……ッ!」
「りょ〜かい、ボスゥッ!」
――バカ供に向け、指差しながら指示するボスに……それを受けては、バカ供に向けて身構えるオルセット。
【ありえない……! こんな事、ありえない……ッ!】――今にも逃げ出したい思いで一杯だが、両膝を撃たれたが故に……その場から一歩も動けず、ただ必死に顔を絶望で歪ませる事しか出来なかったラグジャー。
だが、そんな”後ろ向きな表情”ばかりのバカ供を見たボスは、不敵な笑みを浮かべる……!
「……おっと、そうだ。このままだと不公平だな……?」
「「「「「「「……へっ?」」」」」」」
――思わず、マヌケな声をあげてしまう……ラグジャーとバカ供。
「お前らがお探しの、二人のエルフ……それなら多分、オレらの後ろにある”テント”の中に居るぞ?」
――バカ供を見据えたまま、左手の親指でテントの方向を指差すボス。
「「「「「「「……ッ!?」」」」」」」
「オレらはたったの”二人”。対して、バカでマヌけ揃いだろうと……お前ら傭兵団は”七人”だ……!」
「「「「「「「……何だと……ッ!?」」」」」」」
「俺ら一人に対して、最低三人……いや、これ以上言ったとしても……バカでマヌけ揃いじゃあ、理解なんてとても……」
――両手を頭の両側面に上げ、首を左右に振っては”やれやれだぜ”……という、呆れ果てたようなジェスチャーをするボス。無論……ここまでコケにされた以上、バカ供と言えば……?
「野朗供ッ! オレ達、鉄決傭兵団の意地を見せろッ! あのスカしたクソ野郎を、ブッ殺せッ!」
〜 シャランッ! 〜
――そう叫ぶラグジャーを守るかのように……バカ供が横一列に並ぶよう、一斉に奴の前に歩み出る。そして、各々が帯刀していた剣を一斉に引き抜いては、それを掲げるように持ち……?
「「「「「「……アイアイサ〜ッ! アニキィィィッ!」」」」」」
――雄叫び一発! そうして、一斉にボスに向けて殺到して行くのであった……!
〜 ドドドドドドド……ッ! 〜
「ヒャッハァーッ! オレが一番乗りだァァァァッ!」
――殺到するバカ供の中でも、特に足が早かったのか……一人の傭兵が殺到するバカ供の先頭に躍り出つつ、そう叫ぶ。だが勿論……奴が向かう先に、素早くオルセットがボスを守るかのように……前に躍り出ては、身構える。
「……フゥゥゥゥゥゥ……ッ!」
「ヒャッハァーッ! 間抜けヤロウがッ! ケモノ女だろうと……剣も持たねェ丸腰に、何がデキるゥゥゥ〜ッ!?」
――己の恐れを殺したいのか……完全に舐め腐った口振りで、丸腰のまま身構えるオルセットに向け、傭兵は掲げていた剣を振り下ろすッ!
〜 ガシッ! グリィッ! 〜
「ギャァラァイッ!?」
〜 ……カラン! キキキキキキキ……ッ! 〜
「「「「「……へッ!?」」」」」
――しかし、振り下ろされた剣が……オルセットを斬り裂く事はなかった……! むしろ、その剣を振る手は容易く受け止められ、手首の関節が外れたかと錯覚する程に……思いっきり捻られたのだッ!
味わった事ない痛みと共に……その傭兵はマヌけな悲鳴を上げつつ、剣を手放してしまう。そして、取り落とした音に釣られ……後続していた筈のバカ供も、一斉に足を止めては、理解できない光景を前に、マヌけな声を上げてしまう。
「……オソイね、ソレ……?」
「なっ、何で……!?」
「ニャラァッ!」
〜 ゴシャァァッ! 〜
――捻られた右手首を、左手でガッチリ掴んだまま……オルセットは、”右裏拳”をフックパンチの要領で、傭兵の側頭部に向けて殴り抜けるッ!
「オバギャイッ!?」
――ただの”裏拳”とは言え、人間以上の身体能力を持つ”獣人”の一撃だ。それは、”金属バッド”や”頑丈なハンマー”でブン殴られたが如く……傭兵の頭部を大きく右に傾かせる……ッ!
「ニャラァァァッ!」
〜 ブゥォォォォンッ! ゴキャァァァッ! 〜
――そして、トドメとばかりに……その大きく右に傾いた頭部に向け、オルセットは空手で言う”左上段後ろ回し蹴り”を、その傾いた側頭部に叩き込むッ! 音速と錯覚しそうな勢いで、側頭部へと蹴り上がるように叩き込まれる踵……! この際、嫌な音がした事は、気の所為と願いたいが……。
〜 フォン、フォン、フォン……ドサァッ! 〜
……それでも、高速の側転をするかの如く……喰らった傭兵が、錐揉み回転した後……地面に不時着させたオルセットの蹴りは凄まじい物だ……! コレは確実に、ボスの訓練による賜物と言えるだろう……ッ!
【……ウワァァ……アレ、首の骨……絶対折れてるよな……? まぁ……一応、打ち合わせ通りだから……問題ないけど……】――彼女の後方で、背中に当たる焚き火の熱が暖かいと呑気に思いつつも……見守っていたボスは、ホンのチョッピリ……ドン引きしていた。
だが……それでも彼女の成長を、どうやら嬉しく思っているようだ。
「キミタチ……ボスの事、”ブッコロス”……って言ったよね?」
――構えを解きつつ、自然体に立つようにしながらそう語るオルセット。だが、その声は”静かな怒り”に満ちていた……!
「キミタチが、ボスの事を”ブッコロス”……って言うなら……キミタチの方も、”ブッコロ”されるかもしれないって事を……カクゴして言ったんだよね……?」
――何処ぞの”コロネ頭のギャングスター”が言いそうな事を、バカ供に向けて言い放つオルセット。その時のバカ供は、数秒も掛からずに仲間が再起不能された光景を目の当たりにし……誰もが足を、後ずさりさせようとしていた……!
「なのに、ニゲルの……? ハズカシクないの……? ボスにも、バカにしていたボクにも言われて……キミタチの”イジ”ってヤツは……そんなモンなの〜?」
――おっと、ボスから”挑発する”と言う事も学んだのか……不敵な笑みをしつつ、そう語るオルセット。これに関しては、バカ供の誰しもが押し黙ってしまう。……が、何人かは歯を強くも噛み締めていたようだ……!
「……まぁケド、ボクはそんな事……ド〜デモイイんだ。……ボクはボスを守りたい……! キミタチが、ボスを”ブッコロス”って言ったイジョウ……! ボクもキミタチをニがさないし……!」
〜 ドンッ! 〜
「キミタチゼンイン……ゼッタイにボクが、ブットバシてやるから……ッ!」
――右足で、軽く地面にクレーターが出来る程の踏み込みを行うと同時に、再び身構えてはそう言い放つオルセット。【ワァ〜オ、ウチのオルセットさん……言葉遣いはまだ拙いけど、マジイケメンだわ〜!】――後方で余裕たっぷりに腕組みをしつつ、何度も首を上下させるよう頷いては、そう思うボス。
「……いっ、イイ気になるなよォォォッ! このッ、ケモノ女がァァァッ!」
――オルセットの挑発に奮起したか……はたまた、ただの蛮勇なのか……足を止めていたバカ供の中から、また一人……彼女に向けて剣を振り上げ、突貫する傭兵がいた。
無論、その剣は……一人目を再起不能にさせた所から、動いてなかったオルセットに向けて振り下ろされ……?
「……ジュウセンキャク……ッ!」
〜 ブギャァァンッ! 〜
「……へっ?」
――【……あ、アレ? 剣を振り下ろしたハズなのに……何で、俺の腕の感覚が……?】――そう奇妙に思った傭兵が、己の右手を見ると……?
「……は、ハハッ……アレェ? オレの腕……何処に行った……?」
――涙目にそう語る傭兵が、右に左に辺りを見回す。だが……その肩の根元から無くなった右腕と武器は、夜の森へと飲み込まれた後だったのか……全くもって、その姿形は見当たらなかったのである……!
〜 プシャァァァ……ッ! ドバドバドバ……! 〜
「ギニャァァァッ!? オレの腕がァァァァァァ!? なっ、何をしやがったァァァァァァァァァッ!?」
「……ただの”ジョウダンマワしゲリ”だよ? それで、キミの”ケンをモッた手”をケットバシただけさ。でも……キミやボスでさえも、見えないハヤサだけどね……?」
――そんな”冗談な蹴り”は願い下げ……いや、それでも喰らった傭兵にとっては、代え難い現実であった……!
目の前で、スプラッター映画張りの”残虐シーン”を作り出したにも関わらず、まるで歯牙にも掛けないかのような……”真顔”でそう語るオルセット。勿論、この状態になった傭兵は……止血がままならず、ジョジョにその顔の血の気が失せて行く……ッ!
「……でも、ボクはジワジワと苦しめる……ってのは、スキじゃあないと思うから……!」
〜 ブギャァァンッ! ドゲシャァァァッ! ゴロンゴロンゴロンゴロン……ガサァァァ! 〜
「キッチリ、トドメはサシテ上げるね……?」
――岩石を叩き割る鶴橋の如く……オルセットの”ハイキック”は、右腕を失った傭兵の顔面に、陥没という形でクッキリと……足型を残す勢いで叩き込まれたッ!
その凄まじい衝撃を傭兵の体は受け流しきれず……ゴロンゴロンと転がって行っては、夜の森の茂みの中へと消えていくのであった……! 因みにその転がった距離、おおよそ五メートルである……!
【ワァ〜オ……チョッピリ、ノリ目に名付けした”獣閃脚”……! たぶん、漢字は思い浮かべてねェだろうけど……それでも使ってくれるのは、嬉しいモンだねェ〜?】――現状、アドバイスは一切告げてはないが……ボクシングのセコンドの如く、今までの特訓の情景を脳裏に浮かべていたボス。
「……な、何なんだよ……テメェッ!? 何なんだよ、一体ッ!?」
――ようやく、自分達が相手していた相手が尋常じゃあない……いや、それすら超える”化け物”の如き存在だと、ようやく理解し始めたバカ供のバカ達。
上記のように、一人の傭兵がそうオルセットを罵倒するが……それすらももう、”後の祭り”という奴である……!
〜 ザッギュゥゥゥゥンッ! キキィッ! 〜
「ヒィッ!?」
――聞いた事もない疾走音。傭兵の一人が驚くのも無理はない……その眼前に、いつのまにか”オルセットの顔”が、現れていたのだから……!
「……もう来ないの? ホラ、ボクがここまで来てアゲタんだから……やる事は分かってるんでしょ?」
――真顔のまま、その傭兵の顔を覗き込むように……底冷えするような声で、そう煽るオルセット。
「……ち、チキショォォォォォォ! このッ、クソケモノがァァァァァァァァッ!」
――キスしてしまいそうな至近距離にも関わらず……恐怖に飲まれそうな傭兵は、高く掲げた剣を振り下ろす……ッ!
〜 ドゴォォォォッ! 〜
「オボファァァァァッ!?」
――胴の革鎧を貫通するかの如き、途方もない衝撃……! 何が起こったかを理解出来ないまま、傭兵は体を”くの字”に宙を飛ぶ……!
〜 ドガァァァァッ! ガサササァァァッ! 〜
「ゴホッ! ゴホッ! オゲェェェェッ! 何が……起こって……ッ!?」
――数時間前に食べた干し肉やエールなど、それらをリバースしそうな感覚を必死に抑えながら、何とか立ち上がる傭兵。項垂れていた際に”木の根”が見えた事から……どうやら樹木が、自身を受け止めてくれたらしい。
そう理解しつつ、傭兵は顔を上げると……?
〜 キラン! 〜
「……へっ?」
〜 ドグサァァァァッ! 〜
「グハァァァァァァァァッ!?」
――【何で!? 何で、オレが持っていたハズの剣が、オレの腹にィィィィッ!?】――顔を上げた傭兵が初めに目にした物……それは、”高速で飛来する自らの剣”であった。
次に傭兵が感じた物……それは上記のように、”後方の樹木と共に刺さった、自らの腹の生暖かい感触”である……!
「ウワァ……”カ◯ブの海賊”のワンシーンかよ……!?」
――そう思わず、ボヤいてしまうボス。その脳裏には、トアル夢の国のアトラクションにある、トアル情景が思い浮かんでいた……!
種明かしは簡単である。オルセットはまず……傭兵の腹に”前蹴り”を叩き込む。次に……その衝撃で吹き飛ぶ傭兵が、思わず手放し宙を舞っていた”剣”を、跳んでは掴み取る。
最後に……着地した後に、起き上がる最中の傭兵の腹目がけ……大きく振りかぶっていたその剣をブン投げれば、そのアトラクションのワンシーン再現が完了だ。
三角帽子を被っていないので、完全再現とはいかないが……それよりも、獣人の腕力と言うのは、ホントに凄まじい物だ。その華奢そうな細腕の何処に、そんな剣を”ナイフ投げ”……いや、ブロードソード投げを成し得る”筋力”があると言うのであろうか……? ある意味……”異世界の神秘”と言う奴の一つであろう……。
〜 ザッギュゥゥゥゥンッ! ドゴンッ! 〜
「ギィヤァァァァァァァッ!?」
――何てこった。オルセットが”消失マジックの如き速さ”で駆け出した! しかも、樹木に縫い付けられた傭兵の……その剣の”柄頭”目掛け、”左後ろ回し蹴り”を叩き込み、ダメ押しと言わんばかりに剣を押し込んだのだッ!?
「……ゆ、夢だ……! こんなの……夢なんだ……!」
――刀身どころか、”剣の鍔”まで腹に喰い込んだ光景を目の当たりにし……ついには、正気を失い始める傭兵……!
「……もう、シャベらないで……!」
〜 ブゥゥゥゥンッ! ボコォォォォッ! 〜
――そうして、そこにトドメと言わんばかりの”右ストレート”ッ! 顔面に叩き込まれ、大人しく沈黙した傭兵は……これで今夜も安心して熟睡できるだろう……! ただし……”永遠の眠り”と言う物ではあるが……。
「……クッ、クソォォォッ! こんな事やってられるかァァァッ!?」
「あっ、オイッ!? 逃げるなァッ!?」
――恐怖が臨界点に達したのか……傭兵の一人が、ラグジャーの怒声に振り切るかのように、ボスの野営地から背を向け逃げ出した!
〜 ……パアァァァァンッン! ビスッ、バタンッ! 〜
「ギィヤァァァァァァ!?」
――オヤマー? 石にツマヅいたのか……突如スッ転んでは、逃走が失敗に終わる傭兵。
「オイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイ……ッ! 逃すワケねェだろ、クソッタレ供が……ッ!」
――右片手に”SAA”を構えつつ、そう呆れたように語るボス。無論……その銃の銃口からは、真っ白な硝煙が立ち上っていた……!
〜 ザッギュゥゥゥゥンッ! ザザザザザザザザ……ッ! 〜
「ヒィィィィッ!? 来るな、来るなァァァァァッ!」
――ボスの銃声に反応したのか、素早く周囲を見渡したオルセット。そして、その結果で見つけた”転んだ傭兵”を見つけた彼女は、一目散に駆け出した……ッ!
〜 ブゥゥンッ! 〜
「ヒィィッ!?」
――一抹の風切り音と共に、頭を両手で押さえ……地面に助けを乞うように縮こまる傭兵。だが、少ししても奴に破滅はやって来なかった。一瞬、ホッと安心すると……気づけなかった太もも辺りの傷が、酷く痛むのにようやく気づいた。
これは大変だ。すぐに治療せねば……! そう思って頭を上げれば……?
〜 グゥオォォォンッ! 〜
「……あっ」
〜 ドゲグシャァァァァァァッ! 〜
――恒例の”マヌケな断末魔”を上げる暇もなく……その傭兵の顔面は、地面に熱烈なキスをしたまま沈黙した……。何が起こったか分からないだろうが……催眠術だの、超スピードだの、そんなチャチなもんじゃあ断じてなかった……!
「……新体操選手もやれそうだよな……オルセットって……」
――そう。もっと恐ろしいものの片鱗なんて物はなく……”消失マジックの如き助走”からの”前方倒立回転”! そして、逆立つ両脚が流れるように倒れての……”踵落とし”ッ! ソイツを”傭兵の頭頂部”目掛けて叩き込み……叫ばせる暇なく、頭をカチ割ったと言う訳なのだ……!
頭だけでなく、頭がメリ込んだ地面にも……より大きな”クレーター”が出来ていたと言えば、今までの蹴りよりも”威力が高い事”が伺えるだろう……!
「さて……オレも、オルセットに任せっぱなしじゃあ……カッコ付かないよなぁ……?」
――肩を回し、首をコキコキと鳴らしながら……余裕の歩みで、地面に横向きに倒れ伏すラグジャーの元へと向かうボス。
〜 ザッ、ザッ、ザッ、ザッ……ザザッ! 〜
「んっ?」
「くっ、来るんじゃあねェッ! アニキの元へと行かせるかッ!」
――そんなボスの向かう道を塞ぐのは……倒れ伏すラグジャーの元で、ジョジョに恐怖に歪がまされて行った表情で、今までの一部始終を眺めていた二人の傭兵の内の一人だった。
奴らにとっては、絶望に変わりない状況である。だがそれでも……ヘッピリ腰ながらもボスの行く道を立ち塞がり、ラグジャーの事を慕う傭兵の気持ちは……どうやら、”本物”のようである……!
『ボスゥッ!? 今行くねッ!』
『待て、オルセット! オレは大丈夫だ、打ち合わせ通りにやってくれ』
――少し離れた場所から、心配そうな視線を送ってくるオルセット。それと共に送られる、「コール」と言う”念話のスキル”によって頭に響く言葉に対し……心配ないと宥めるボス。
だが、たった数秒にも満たない間と言えど……態々立ち塞がった相手を待たせては、何をしでかすか分かったもんじゃあない。会話を済ませたボスは、すみやかに視線を戻し……不敵な笑みで語り始める……!
「……おいおい、一丁前に剣を構えて……オレに勝算があるってのか?」
――自身の一挙一動にビビり散らかす敵に対し、飄々とそう語り掛けるボス。
「……て、テメェに近づければ……! 少なくとも……あの、バケモノ何かよりは……ッ!」
「ガアァァァァァァッ!?」
「ヒィィィッ!?」
――自身達の後方辺りに存在していた、オルセットの猛獣の如き強烈な威嚇音に……小便を漏らしそうな勢いで、震え上がる傭兵。
『オルセット、ステイッ! 待て待て。こんなショ〜もない奴らの言う事を聞いて……イチイチ、キレるんじゃあねェよ……!』
『エェェ〜ボスゥ〜でも〜!』
『でもじゃあねェよ、怒る価値すらコイツらにはねェんだ。それよりも……他二人が逃げないよう、見張っておいてくれ』
『……ハ〜イ』
「やれやれ……さて、待たせたな? ちょっとは時間をやったんだ……勝つための勝算は考えられたか?」
――そう、飄々と語り掛けるボス。だが、立ち塞がる傭兵と言えば……先程よりもより酷く恐怖に顔が歪んでしまっていた……! これはもう、ヤケクソ開始五秒前と言った所か……! ヨシッ! ならば、四、三……!
「チキショウッ! ブッ殺してやるゥゥゥゥゥゥッ!」
……数え切る前、暴発気味のフライングである……! 両手にガッチリ剣を掴み、大上段に構えては……血走った目で真っ直ぐ、ボスに目掛けて突撃して行く……ッ!
〜 ……パアァァァァンッン! ビスッ! 〜
「ギィヤァァァアァァァァッ!?」
――十メートルにも満たない距離。剣を構えたまま、死兵な気迫で突撃してくる相手とは、誰もが怯んでしまいそうなモノだが……その揺れ動いていた”右腕”を冷静に撃ち抜き、武装解除を見事に成功させるボス。
〜 ……カランッ! 〜
「……言ったよな? ”勝算”は考えたかって? そんなクソダセェ行動が、テメェの答えなのか?」
――硝煙立ち上る銃を両手に構えつつ、そう呆れた口調で語るボス。その照準の先で……傷口を手で必死に抑え、涙を流しながらウメく傭兵。……だが?
「……フゥゥゥ……フゥゥゥゥゥゥッ! クッソォォォォォォォッ!」
〜 ブゥゥゥンッ! パシィィィッ! 〜
「ッ!?」
――追い詰められたが故の、一矢報いる一撃……! そんな思いが込められた傭兵の”左ストレート”だったが……それは虚しく容易く、ボスの右手に収まってしまう……!
「……ほぉ? 良いガッツじゃあねェか? エェ?」
「うっ、嘘だろ……ッ!? オレの全力だぞッ!?」
――ありったけの力をかき集め、ボスから逃れようとモガく傭兵。だが、その言葉は”込めたパンチ”か、あるいは”逃れようとモガく力”なのか……? どうでもいいが、とにかくピクリとも……彼から逃れる事は出来ていなかった……!
「……学んでねェなぁ……? まっ、ちょうど良い。実験に付き合って貰うぞ? ……タフネスッ!」
〜 キィィィンッ! 〜
――何かが覚醒するような音が響き渡り、同時にボスの全身から……”闘気”とも呼べそうな”青いオーラ”が立ち上り始める……!
〜 ギュウゥゥゥ……ミシィッ! 〜
「ギィヤァァウァオアォォォォォッ!?」
――掴まり握られていた傭兵の様子がおかしい。まるで、今にも拳の骨が……バッキバキに砕かれそうに苦しんで……!
「フン、来世でもっと鍛えとくんだな……いくぜ? ……拳砕きの極みッ!」
〜 ギュ、ギュッ、ギュッ! ギュウゥゥゥゥゥ……グシャァァァッ! 〜
「ギィヤァァァァァァァァァァァァァッ!?」
――前言撤回、比喩かつ冗談で言ったつもりが……本当にやりやがったッ!? 潰れたトマトの如く、握り締められたボスの右手の隙間から……次々ドバドバと血が流れ落ちるッ!
『オルセット、構えろ。今からコイツをソッチに投げつける……!』
『エッ!? ど、どうしてッ!?』
『前の訓練の時に教えたろ? 実戦はできなかったけど……複数の敵を相手する際は、相手する敵でさえも、”武器”として使えって……!』
『……あっ、そっかッ!』
『理解したか? じゃあ行くぞ?』
――そう伝えると、左手に持ち替えていた銃を……ズボンの背中側のベルトへと再び挟み、仕舞い込むボス。
「おっ、オレの……オレの手がァァァッ!?」
〜 ブゥゥンッ! メキャァァァァッ! 〜
「オベェェェェッ!?」
――容赦のないボスの”左ボディブロー”ッ! 素早く手首に掴み変えられ、跡形も無く原型を失った左手を、号泣する涙目に眺めていた……傭兵の体は深く深くお辞儀されゆく……ッ!
〜 ガシィィッ! ブンッ! ブンッブンッブンッブンッ……! 〜
――そこから素早く、ボスは傭兵の頭をガッチリ右脇に挟み込む……! 何を仕出かすかと思えば、その”頭蓋骨固め”から奴の頭を軸に、体全体をブン回し始めたのだ……ッ!
周囲にまだ他の傭兵でもいれば、プロレス技の”ジャイアントスイング”如く……次々にブチ当たっては、薙ぎ倒しそうな勢いである……!
「なっ、何をする気なんだ……?」
「ウォォォォォォラァァッ!」
〜 ……ブンッブンッブンッブンッ……ブゥォォォンッ! 〜
――不安を隠しきれないラグジャーの呟きも虚しく……既に声を上げない傭兵は、錐揉み回転しながら宙を飛んで行く……ッ! 高さは二メートルあったか疑わしいが……それでも、オルセットの元へと充分に届きそうではあった……!
スキルで強化されてるらしいとは言え……流石、「人外(笑)」な身体能力を言うだけある……ッ!
……おい、こんな時にバカにしてんじゃあねェよッ!? クソッタレがッ!?
〜 フォン、フォン、フォン……! 〜
「フゥゥ……ジュウホウキャクッ!」
〜 ズゥゥオォォォンッ! ドギャァァァッ! 〜
――飛んでくる傭兵に対し、オルセットは軽い精神統一をするような呼吸をしたかと思えば……それは先程も行った、クルッと回って足を正面に突き出す、只の”後ろ回し蹴り”であった。だが、その威力は尋常じゃあない……!
「……エェッ!? ボビャァァァッ!?」
〜 ドゴオォォォッ! ゴロンゴロンゴロンゴロン……ジュウゥゥゥゥッ! 〜
「ギィヤァァァァァァッ!? 熱いッ! 熱いィィィィィッ!」
「おいおい、オルセット……? オレは”盗賊の丸焼き”なんて、注文してないぞ?」
――何てこった! 蹴り出された傭兵は、まるで砲弾の如く……ラグジャーの傍に、引きつった表情で佇んでいた、最後のバカ達の一人にブチ当たったのだッ!
そして、二人はハンバーグのタネでも作られるかの如く、揉みくちゃに重なり合いながら転がって行き……ボス達の野営地を照らしていた、”焚き火”の中へとボッシュートされたのであった……!
ボスの冗談に乗るのは癪ではあるが……その蹴りの一部始終は、何処ぞの”海賊コック”を彷彿とさせるような、凄まじさであった……ッ!
因みにだが……ボス達の野営地が火事になるんじゃないかと、心配する優しい”◯者の諸君”が居ると思うが、ご心配なく……! 揉みくちゃに転がる過程で、蹴られた一人は既に息絶えており……もう一人の方は、その間に幾つかの”腕と足の関節”が、あらぬ方向に曲がっていたのだ……!
そのために、喚き立てる事は出来ても、周囲を火の海にする事なく……”丸焼きになる運命”からは、逃れられないであろう……!
「アァ〜ゴメン、ボスゥ……。大丈夫ゥ〜? 当たらなかったァ〜?」
「大丈夫だ。て言うか……遊戯用のゴムボールを出して、それで”オルセットの蹴りの威力”をある程度測った際に……散々蹴ったし、それをオレが避ける訓練もしてただろ?」
「……アァ、そっか! だから、ヨケられたんだねッ!」
――【まぁ、ギリギリかつヒヤヒヤしたけどな……今も? 一人だけ、ハリウッドとかの”アクションスター”か、”ジャ◯プ漫画の主人公”張りの戦い方してるしで……まぁ、”基礎の指導”をしたのはオレだけど……】――途中から、やや訳の分からない愚痴らしき事を言っていたが……薄暗くも目の前に広がる惨状に、何の感慨も思わないボス。
――【サァ〜てッ! ボクもボスのトコロに、モドろっとッ! ニャフフ……ボスゥ、アトでホメテくれるかなァ……?】――ボスの訓練の賜物と願いたいが、彼女も大概……横切る惨状に対し、何の感慨も持っていなかった……! いや、ただ臆病だった頃と比べれば……これでも”成長”していると言えるのだろうか……?
「……おい、何なんだよお前らッ!? 何で、殺すなって言ったクセに、何で……何でッ!? 何で、オレの部下達を殺しまくってるんだよッ!?」
――自身を哀れな目付きで見据えるボスと、そんな彼に歩み寄っては、その肩に寄り添うオルセットに対し……恐怖と怒りで”ごった煮”となった感情を、見下す彼らにブチ撒けるラグジャー。
「……誰が”絶対”……殺すなって言ったか? ……誰が”誰を”……殺すなって言ったか?」
「……エッ?」
「フンッ、”敵の情報”をホイホイ鵜呑みにしやがって……! そんな”情報管理の甘さ”で、良く彼女にフラれながらも……傭兵として十年生き延びてこれたモンだなぁ? て言うか……ホント、お前傭兵なのか? ただ”ヨーヘイ”とかの本名を、偉そ〜に言ってる訳じゃあねェよな?」
「フザケんじゃあねェよッ!? クソ野郎がッ!?」
〜 ゲシャァッ! 〜
「オベェェッ!?」
――いかにも不機嫌な表情のオルセットが、横たわるラグジャーの腹目掛け……”右ローキック”を叩き込む……! ”消失マジック”な速さはなかったが、それでも食い込んだ爪先が、奴の嘔吐を促しそうになる……!
「シャベラないで。ボスがシャベってるでしょ?」
「よせ、オルセット。コイツにはまだ吐いてもらう事がある……!」
「でも……!」
「オレの事、思ってくれてるのは嬉しいよ。けどな? いつも言っているように、やって”良い事”と”悪い事”はあるって……教えてるだろ?」
――オルセットを宥めるかのように、ボスは左手で彼女の頭を優しく撫でる。こんな状況でも微笑ましい光景だが……蹴られたラグジャーにとっては、ひたすら不気味にしか見えてなかった……!
「てっ、テメェらは一体……!?」
「んっ? そうだなぁ……あしながお兄さんとだけ言っておこうか?」
――自身のスラっと”引き締まった脚”を指差しながら、そう飄々と語るボス。
「テメェ……ッ!? フザケてんじゃ……ッ!」
〜 ゲシャァッ! 〜
「オバァァッ!?」
――ボスに甘えるような……そんな”嬉しそうな表情”だったのが一変! 再び”不機嫌な表情”に逆戻りしたオルセットが、横たわるラグジャーの腹目掛け……”右ローキック”を叩き込む……!
先程よりも弱かったようであるが……それでも食い込んだ爪先が、奴の嘔吐を再び促しそうになる……!
「だから、シャベラないでッ! ……アッ、そうだボスゥ?」
「あっ、アァ……何だ?」
――【こっ、コレが”女”って奴なのか……?】――オルセットの切り替えの速さを前に……何か”勘違い的な恐怖”を、失礼に感じつつも応答するボス。
「アシナガオニイサン……って、何?」
「あぁ、それか? それは……まぁ、話すと長くなるから、まずはそこで転がってる”ゲス野郎”の始末が先だ」
「エェェ〜? 気・に・なァ・るゥ〜!」
「……簡単に言えば、本当は”あしながおじさん”。その人は……本当は違うけど、オルセットやテントで寝てるエルフ達みたいな……不幸や理不尽に遭っている亜人や、人間でさえも助けてくれる……物好きな良い人だ……」
「……ヘェ〜。ヨウは、ボスみたいニンゲンかぁ〜! イイなァ〜会ってみたいなァ〜」
――【まぁた、このクセかぁ……嬉しい時とかに良くやってくるんだよなぁ……】――少々困り気味だが、満更でもないように思うボス。そんな彼に、上記のように言いつつ……幸せそうな表情で、”自身の頭”をボスの首辺りに擦り付けるオルセット。
奇妙な光景だが……これが現代の猫であれば、それは「親しみや甘え」、「愛情表現」などを意味するのだ……!
「おいおい……悪りィが、”あしながおじさん”は物語の人物だ。残念だけど、本当には会えねェよ……」
「……そう。まっ、イイや! ボクには、ボスがイるモン……!」
――一瞬、本気で残念そうにシュンと落ち込むが__瞬時に切り替えては、再びボスに頭を擦り付け始めるオルセット。
「おいおい、オルセット? 一応、今はマジメな場面だぞ? そう、オレにイチャ付くのは終わってからでも……」
「気色悪いモン、見せるんじゃあねェよ!? このッ、クソッタレ野郎供が……ッ!」
〜 ゲゲシャァッ! 〜
「オバベェェェェッ!?」
「……ボスゥ? ボクにヤメロッて言わなかった?」
――ボスに甘えるような……そんな”嬉しそうな表情”だったのが一変! 再び”不機嫌な表情”に逆戻りしたオルセットが、横たわるラグジャーの腹目掛け……”右ローキック”を叩き込む……!
先程より足が一つ増えたような気もするが……それでも食い込んだ爪先が、奴の嘔吐を再び促しそうになる……!
「悪りィ。思わず、足が滑っちまった……。まっ、今のは気にしないでくれ……」
「……この、クソ野朗供……!」
――必死に両手で蹴られた腹を抱えるラグジャー。その呟いた言葉が、ボスとオルセットの二人に聞こえなかったのは幸いであろう……!
「……御言葉ですが。自分の置かれた状況が、分かって言ってんのか? エェ? 仕事のためとは言え……二人の”子供のエルフ”を散々、ブッ殺そうとしてきた、テメェらの方が……”クソ野郎”以上の”ゲス野郎”供と、思わねェのかァ……? エェェッ!?」
……前言撤回、しっかり二人には聴こえていたようだ。猛獣の如き睨みに、犬歯を剥き出し、威嚇音を唸らせるオルセット……! そして、鬼のような形相なボスが、”SAA”の銃口を横たわるラグジャーの眉間に、グリグリと捩じ込んでは、鼓膜を破らんと怒鳴り散らすッ!
これには、流石の図太かった奴も……自身が”断頭台”に掛けられたと、ようやく理解したようだ……!
「やっ、やめてくれ……! こっ、殺さないでくれ……!」
――歯をガチガチ鳴らし、迫り来るボスの顔面に対し……必死に懇願するラグジャー。もうそこには、彼の傭兵としての”意地”どころか”誇り”でさえ、微塵にも残っていなかった……!
「……あぁ、殺さねェさ……」
「……エッ? じゃあ……?」
――眉間から離れる冷たい感触に安堵しつつ……顔を上げては、離れたボスの表情を伺うラグジャー。だが……その表情は、ラグジャーの恐怖を拭い去ってくれる物ではなかった……!
「テメェが知っている事……全部、吐いてくれるならなぁッ!?」
〜 ドゲシャァッ! 〜
――不適な笑みから一変! 再び”鬼の形相”に戻ったボスが放つ”右ローキック”によって、頭を蹴り飛ばされるラグジャー。先程からの”両膝からの出血”も相まって、意識が朦朧とし始めていたのか……蹴られても、マヌケな悲鳴を上げる気力もなかった。
【済まねェ、オルセット。気絶したこのゲス野郎を……ベースキャンプの端にある適当な木に、縛り付けといてくれ。その間……オルセットが対処出来なかった応急処置を、オレはやっておく】――そんな会話が聞こえたような気がしながら……ラグジャーは、意識を失うのであった……!
<異傭なるTips> ポーション(2)
唐突に恐縮ながら、そもそも身も蓋もない事を言って仕舞えば……この世界の”ポーション”もそうだが……更に言えば、国民的RPGに登場する”やくそう”でさえも、同じ事を言えるのだが……この「瞬時に”傷の治療”や”生命力”及び”魔力”の回復」をしてしまう薬品は、現代に至った今でも開発されている事はないのだ。
端的に言って仕舞えば……”回復薬”という存在は、◯者の皆さんが大好きであろう、”チート”なのである。
色々と便利な現代の技術だが……この”ポーション及びやくそう”などに至っては、現代から見れば十分な”チート”の類に入ってしまうのだ。
現代的に言い換えるのであれば……ある意味”再生医療”の完成形の一つと言える物を、「ファンタジーの回復薬」は……”いとも容易く行っている程のえげつない事”で、平然とやってのけているのである……!
現代風に「回復薬の概要」をザックリ言うならば……(存在の真偽は不明だが……)「飲むSTAP細胞」や、「患部にかけるだけで即治療するiPS細胞」といった感じである。この二つは、厳密には仕組みなど色々と違うのだが……ある意味共通する事と言えば、「どんな細胞にもなれる多様性を持つ」と言えるだろう。
”ジクソーパズル”を想像して欲しい。このパズルの完成形が、◯者の皆さんの「傷及び病気一つない健康な体」なのだ。そして、この”パズルのピース”が何処かしら欠けてしまうのが、皆さんが傷付いたり、病気になったりする時なのだ。
そして、現代の医療が行なっている事としては……その”欠けたパズルピース”が、欠けた部分がから自然に……”ニョキニョキ”っと……植物の如く、時間を掛けて生えてくるのを手助けしたり……歪な形で生えてこないように、お世話するのが……現状の医療現場の限界なのだ。
そして、”ポーション及びやくそう”などの「ファンタジーの回復薬」と言うのは……この”欠けたパズルピース”の部分に、ビッシャッ! ……とかけるだけで、次の瞬間には”欠けたパズルピース”が瞬時に、ニョキッと生えてくるのである……!
しかも……個人によって、「パズルの完成形」というのは全く違う。”欠けたパズルピース”の部分が大きかったり、小さかったり……あるいは誰の形にもハマらないような歪な形だったりと……すぐに代用として使えるパズルピースはないのである。
「ファンタジーの回復薬」と言うのは、そう言った「多様性の問題」と言う治療に関する過程をブッ飛ばしては、即座に傷の治療を行えてしまう”ヤバイクスリ”であったのだ……!
一つの解釈を言うのであれば……服薬するか、あるいは患部に直接かけた際の”回復薬の成分”が、その傷周辺の患部の細胞を”瞬時にコピー”……。
そして次の瞬間には、「適合率100%の細胞のクローン」として”回復薬の成分”が変身しては、欠損した細胞の補填を瞬時に行っている……と言った、想像上の解釈が出来るだろう……。
随分と奇妙な光景の連続だと思うが……私が想像しうる限りだと、これが一番”ポーションによる治療”に関して、分かりやすく解説出来ている事だと思うので、勘弁して欲しい……。