RE:Contact-14 ¨怪シキ傭兵団¨ヲ撃退セヨ - 1
「……何だァ……? この野営地は……?」
――無数の樹木の枝や低木を切り開き、道の邪魔となる背の高い草を幾重も踏み潰しては……ようやく辿り着いた場所。そこは、”スップリ森”に近いこの原生林の中に出来ていた、小さな広場であった。その中に、この声の持ち主が生涯を通して全く見た事もないような……”奇妙な天幕”が数個、並べられたいたのだ。
【見た事もねェ天幕があるな……しかも、それ以外にも全くオレが知らないような物も、幾つか……。何処か貴族のボンボンが、道楽でもしてるのか……?】――そう心の中で疑念を持つが……しかしながら、それだけでは何も前に進まない。声の持ち主は、そう結論付けると、後方に酷く汚い怒鳴り声を飛ばす。
「オイッ! テメェらッ! 早くコッチ来い!」
「「「「「「「アイアイサ〜ッ!」」」」」」」
〜 ドドドドドドドドドドドドドドドド……ッ! 〜
――複数の足音が、怒声を上げた男らしき者の元へ一直線に集まる。そして……奇妙な天幕付近で焚かれていた”焚き火の灯り”によって、その姿はボンヤリと浮かび上がる……!
「アニキィ! 探しやしたぜ〜? 途中でオレらの松明がダメになっちまうんモンだから……暗くて暗くて……」
「……」
――機嫌の悪そうな表情と共に、呆れ果てたような視線もその声の持ち主に送る、”アニキ”と呼ばれた男。
「あっ、トコロでアニキィ? 何でオレ達を呼んだんッスかぁ〜?」
「このッ、バカ野郎供がッ! 道理で付いてこないと思ってた理由がそれだとッ!? ふざけんなッ!?」
「ヒィィッ!? すいやせんッ! ……ところで、何を見つけたやしたんと……?」
「あの”長耳のガキ共”が隠れてそうな天幕を見つけたんだよッ!? このッ、バカ野郎供がッ!」
――今まで人生の中で、”知恵”や”賢さ”を一才合切投げ捨ててきたような……そんな返事しかしない部下らしき男達を前に、アニキと呼ばれた男の怒声が響き渡る。
「「「「「「「ヒィィッ!? すいやせんッ! アニキッ!?」」」」」」」
「そこで声を合わせなくて良いんだよッ!? クソ供がッ! 後、俺様の事は”ラグジャー様”と呼べって言っているだろうがッ!?」
「「「「「「「……いえ、アニキはアニキですからッ!」」」」」」」
――”ラグジャー”と言う、アニキと呼ばれていた男に”人望”はあるのか……複数の野郎供の”熱き視線”が、彼に一点集中する……!
「だから何で、返事以外で合わせているんだ!? クソ供がッ! 俺様が、いつ!? 返事以外の事で声を合わせろと言ったッ!? というか……もう時間ねェんだぞッ!? テメェらッ!? 今日中に、あの”長耳のガキ共”をブッ殺さないと……!?」
「……全く、こんな夜更けに……ギャーギャーギャーギャーやかましいですよ……? 発情期なら、他所でヤッて下さいよ……?」
――ラグジャーは一瞬、ビクッと身震いする。……いや、自分の部下に”馬鹿しかいない事”に恐怖したんじゃあない……! いくら馬鹿な部下達とは言え……彼は部下達の声は、全て覚えている自信があった……!
だが……今し方に聞こえた声は、その部下達の声の、ドレにも当て嵌まらなかったのだ……!
〜 ザッ…ザッ…ザッ…ザッ…ザッ……! 〜
「……初めまして、こんばんは……。こんな真夜中に、そんな大人数で私達のベース……いえ、野営地に何の用ですか……?」
――声のした方向に、ラグジャー達御一行は一斉に振り向く。そこには一人の男が、一つの天幕の陰から優雅な足取りで現れては……両手を後ろに組みながら、御一行様に向けて微笑んでいたのであった……!
【でっ、デカイ……!? なっ、何だこの男……ッ!? どっから現れたんだ……ッ!?】――声にはしなかったが、ラグジャーの内心は動揺しまくっていた……!
ここに来る以前に契約した領主……その兄弟には及ばないが、それでも確実に自分の身長を越す巨体に……! その物腰柔らかな口調なのに、何故か得体の知れない”威圧感”が含まれていた事に……ッ!?
「なっ……何だテメェは……!?」
「質問を質問を返さないで下さい。恐縮ながら……貴方達は、別に”お貴族様”とかのお偉い身分と言う訳でもないでしょう? そんなみずぼらしく、手入れのなっていない……粗野な”革鎧”やら”武器”やらを、携えている所をお見受けするに……?」
「グッ……!?」
【きっ、貴族っぽい格好をした……テメェが偉そ〜に言ってんじゃあねェよッ!?】――だが、その言葉を心の中で言っている時点で、ある意味……”権力に屈している”と言っても過言じゃあないだろう……。
だが、そう悔しげに思いつつも……つい、長年の自身の人生経験を元に……舐め回すように目を動かしていた……! いかにも上等そうな上着、丈夫そうなズボン、全く見た事がないが……それでも見事な仕立ての皮靴……!
その他にも、天幕などを含め……全く見慣れない物がゴロゴロと、”宝の山”如く転がっていた……! これを不慮の事故などで、目の前の”生意気な貴族のボンボン”がいなくなった際に、自分達の手に出来れば……! 一体、金貨何百枚分の価値になるのか……!? ……そう、試算していたのであった……!
「……何、ジロジロ見ているんですか? そんな事をした後で、私にお世辞やオダてを言ったとしても……何もあげる物はありませんよ?」
――ラグジャーに対し……和やかながらも、あからさまな嫌悪感の込もった口調で話す、”貴族のボンボン”らしき男。
「うっ、ウルセェッ!? オレらを乞食か何かと勘違いするんじゃあねェッ!?」
「ほぉ……? では、失礼な乞食でなければ……一体何だというのですか?」
――今まで和かに閉じていた目が見開かれ、鋭い眼差しで繁々と……ラグジャー達を見つめる、”貴族のボンボン”らしき男。
「ハッ! 知らねェのかッ!? オレらは最近……王国と帝国との紛争で、名を挙げてきている、今や売れっ子の傭兵団ッ! ”鉄決傭兵団”様だッ!」
「「「「「「「そうだッ! 受けた依頼は、必ず守るでお馴染みのッ!」」」」」」」
「そして、その栄えある傭兵団の団長様が、この俺様、ラグジャー様よッ!」
「「「「「「「そうさッ! それこそ”アニキ”さッ! 誰もが知ってるッ! オレらのアニキッ!」」」」」」」
「だから何で、勝手に答えてんだッ!? このッ、バカ野郎供がッ!?」
「「「「「「「ヒィィッ!? すいやせんッ! アニキッ!?」」」」」」」
――【……何だ、この新手のコント集団は……? これが傭兵? ……マジかよ……?】――一方で、一斉にこの”寸劇(?)”を一方的に見せつけられていた”貴族のボンボン”らしき男はと言うと……それはそれは、養豚場の豚を見るような……徹底的に蔑んだ目で、寸劇を行った彼らを睨め付けているのであった……。
ある意味、幸いなのは……数秒程度のその彼の行為を、鉄決傭兵団の皆さんは見ずに済んだと言うトコロか……。
「……恐縮ながら、全く知りませんねェ……? まぁ、ただ……そちらの団長さんの名前は、こちらが叩き起こされる程の、酷く汚い声が嫌でも聞こえていたので……知っていましたが……」
――首が痒くなったのか、さりげなく頸動脈がある付近を右手で擦りつつ……そう語る”貴族のボンボン”らしき男。
「きっ、汚い……? 汚いだと……ッ!?」
「えぇ、誠に恐縮ながら……下品ですよ? 本当は言いたくなかったのですけどね? 叩き起こされるような怒声で……機嫌が悪くなってしまった物なので……」
――全く悪びれる様子もなく……慇懃無礼にそう申し上げる”貴族のボンボン”らしき男。それに対し、ラグジャーは己のコンプレックスだったのか……彼に言われた事に、ガックシと項垂れては……プルプルと身震いをしていた……!
「おいテメェッ! アニキの弱みを指摘するんじゃねェよッ!?」
「「「「「「そうだ! そうだッ!」」」」」」
「アニキはなぁ!? この雄々しい声で、何度も心折れそうになった……オレらの心を奮い立たせてくれたんだッ!」
「「「「「「そうだ! そうだッ!」」」」」」
「それで、何度も負けそうな逆境を超えてきた……! 数えきれない武勇伝を……! オレ達、鉄ケツ傭兵団が築き上げられてきたのも……! アニキが居てこそだッ!」
「「「「「「そうだ! そうだッ! それこそ、オレらのアニキだッ!」」」」」」
「オメェら……! このッ、バカ野郎供が……ッ!」
――【……”愛すべきバカ達”って、奴なんだろうけど……。ホント、こんな奴らが、”武勇伝”を何個も築き上げてんのかぁ……? ……まさか、七五調なリズム芸を何個も考えてるだけじゃあ……?】――涙と鼻水でグチャグチャになりつつも……どこか嬉しそうな口調で、自身の後ろで控えては、一斉に声を上げる部下達に向けて、声を掛けるラグジャー。
その光景を、”貴族のボンボン”らしき男は……再び、呆れた視線で眺めているのであった……。
「そうだ! そうだ! それに、この声で十年近く……彼女が出来なくても、アニキはオレ達のために……!」
「「「「「「アッ、バカッ!? それ以上を言うな……ッ!?」」」」」」
〜 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッ! 〜
――背後に守護霊を顕現させそうな……凄味ある気迫を、唐突にプンプンと撒き散らし始めるラグジャー。
「……おいッ、テメェら……ッ!」
「「「「「「「ヒィィッ!? なっ、何ですか……!? アニキィッ!?」」」」」」」
――ラグジャーの声に、アーティスティックスイミングの選手もビックリしそうな一体感で……飛び上がるように、一斉に一歩下がる部下達……。
「……この仕事……終わったら覚悟しとけよ……? クソ供が……ッ!?」
「「「「「「「ヒィィッ!? すいやせんッ! アニキッ!?」」」」」」」
――そのラグジャーのドスの効いた一言に……”貴族のボンボン”らしき男は、一瞬ながらも彼の”傭兵としての貫禄”を、垣間見るような気がしたのであった……。
まぁ、相変わらず……部下達に向けては、呆れた視線で眺めてはいたが……。
「……それで? いい加減、貴方方の要件は一体何なんですか? コッチは眠い上に……その眠る前にでも、やらなきゃいけない大事な事があるのですが……?」
――笑顔を努めようとするが……瞬間的に何度か眉間にシワを寄せたり、口元が歪かつ怒りでピク付いてしまう……”貴族のボンボン”らしき男。
「おぉっと、そうだ! なぁ、えぇ〜っと……」
「……”ジョン”とでもお呼び下さい……」
「そっ? そうか……? じゃあジョンさんよ? ここに、”長耳のガキ供”が来たのを見てないか?」
――”貴族のボンボン”……もとい、割と気さくに名前を教えてくれた……”ジョン”という男の態度に少々戸惑いつつも、素早く顔の汚物を腕で拭い取った後に、ラグジャーは尋ねる。
「……”長耳のガキ供”……ナルホド? それは、”エルフ”と言う種族の人達の事を言うのですか……?」
――物腰柔らかな口調だが、目が一切笑っていないジョン。
「エルフ? 長耳は長耳だ。高慢なクソ供である、人間じゃあないアイツらの事を聞いて……何になるってんだ? ジョンさんよ?」
「……いえ、お気になさらず……。私のちょっとした趣味みたいなモノです……好奇心が強い故のね……?」
――再び首が痒くなったのか、さりげなく頸動脈がある付近を右手で擦りつつ……そう語るジョン。……だが、相変わらず……ラグジャー率いる”鉄決傭兵団”に向ける視線は、凍りついたかのように冷たかった……!
だが、ラグジャーはそんな視線に一切気付かず……太々しい口調で、彼に尋ねる。
「フ〜ン。で? 見たのか? 見てねェのか?」
「う〜ん、そうですねェ……? その人達の”見た目”や”特徴”……それに、貴方方が”何でその人達を探している”のか……? それらを聞けないと、私が知っている事を話しても……って感じですねェ……?」
――腕を組んでは、ワザとらしそうにウンウン唸りつつ……悩む素振りを見せながら、そう語るジョン。それを見ては、あからさまに機嫌が悪くなるラグジャー。
「チッ、何でだ?」
「人違いをしたくないのと……私にとって、”全く利がない事”ですからねェ……? 教えたとしても……?」
――再び両手を後ろに組んでは……呆れたような横目で、ラグジャーを見るジョン。
「……チッ、じゃあ何だ? 金か? 幾ら欲しいんだ?」
――そう悪態付きつつも、腰の背中側に着いていた……”ウェストポーチ”のような革鞄に手を伸ばす。しかし、ジョンは彼に向けて右手を伸ばし……”待った”とでも言うように、手のひらを見せる。
「いえ、お金は結構です」
「……アッ?」
「その代わり、さっきも言った……探している人達の”見た目”や”特徴”……それに、貴方方が”何でその人達を探している”のか……? そう言った”情報”を話してくれるなら……お教えしましょう」
「……ハッ? 何でそんな……」
「先程言いましたよ? 私は好奇心が強い……と。私にとって、”情報”とは……時に”お金”より素晴らしい価値になる物だと、考えていますのでね……?」
――ラグジャーに向けて伸ばしていた手を、人差し指だけを残して握り……”チッチッ”とでも言わんばかりに、人差し指を左右に振らせるジョン。一方のラグジャーは……それを聞いて、難しい顔を少ししていたが……?
「チッ、まぁ良いか……やっぱ、ジョンさんみたいな”お貴族様”が考えている事は、分かりませんねェ……?」
――【……オレが貴族? ほぉ……?】――黙り込んでいたが、内心では……ほくそ笑むかのような事を呟くジョン。
「オレらが追っていた”奴隷”は、長耳の二人組です。一人は、女のガキです。特徴としては、ビックリするぐらいの”白い肌”に……やや黄色っぽい赤色の髪が何本か混ざった……”金髪”ですかねェ?
後は……何考えてるか分からねェ、”ボヤッとした緑っぽい眼”ですかねェ……?」
「……ボヤッとした緑っぽい眼……?」
「エェ、依頼主から詳しくは聞いてないんッスが……何でも目が見えないようで……。全く……それを聞いたから、楽な仕事だと思ったのに……ッ!」
――【……だからか? 最初に会った際……”オレの目”を、ハッキリ見ているような感じがしなかったのは……?】――一才、表情を崩さなかった物の……胸の内ではそう思案していたジョン。
「それじゃあ……もう”一人のエルフ”と言うのは?」
「……何で、長耳を長耳って言わないんッスかねェ……?」
――何かしらの違和感を感じ取ったのか……少々訝しげな表情をするラグジャー。
「……ここだけの話、私は”隠し子”でね? 最近まで世間知らずだったんだ。だから……成人に近い今、偏った知識のままではいけないと……こうして見聞のため、旅をしているんだよ……」
――【……クソッタレ。別に意味が通ってんなら、怪しむんじゃあねェよ……クソがッ!】――内心、苛つきつつも……表情に出さないように心掛けしつつ、彼の違和感を拭う理由を語るジョン。
「……フ〜ン、左様で?」
「……まぁ、隠し子とは言えど……公爵が父である、私の機嫌を損ねたくないのであれば……大人しく質問に答え給え、ラグジャー君?」
「……エッ!? こ、侯爵ッ!?」
「あぁ、そうだ……あの宰相でもある公爵だ……お前達は、そんな父を持つ私に逆らうと言うのか……?」
「こっ、コレは失礼しましたッ! 公爵様ッ!」
――そう言っては、慌てて王に仕える臣下の如く……片足の膝を地面に付けて、カシヅくラグジャー。だが、何を思ったのか……ふと、背後を見ると……?
「……ッ!? バッ、バカ野郎ッ!? 何してんだよ、テメェら!? サッサとカシヅけッ! 首をチョン切られたいのかッ!?」
「「「「「「……ハッ!? ハッ、ハハァァァァァァッ! 申し訳ありません、コウシャク様ッ!」」」」」」
――【……ワ〜オ、ココだけ封建国家万歳! ……まぁ、バカばっかで助かったよ……。これなら、もう少し有利に情報を聞き出せそうだ……! ただ……オレ以外だったら、”様”じゃあなくて”閣下”と言わなきゃ、アウトだったぞ〜?】――と、胸の内で”ほくそ笑み”が止まらないジョン。
……まぁもう、◯者の諸君は……この”ジョン”と言う男の正体は、知ってて当然だろうが……。
「ウム、ヨキニハカラエ〜」
「「「「「「「……エッ?」」」」」」」
「……じゃあなくて、そんな畏まらなくて大丈夫ですよ? 最低限、身分の違いを分かって頂けるのであれば……これぐらいは、見逃してあげますから……」
「おぉぉぉッ!? 寛大な処置を、クソありがとうございますッ!」
「「「「「「クソありがとうございますッ! コウシャク様ッ!」」」」」」
――【……ヤベ、調子乗りすぎてバレるトコだった……何で、そんなトコで妙に勘が良いんだよ……ッ!?】――有利に舌戦を運んでたと言うのに……まさかの”意味違い”で、凡ミスをヤラかすトコロだったとは……ププッ。
ウッセェッ! 黙れっての……ッ!
「……それで? 先程聞いた質問の答えは? あぁ……因みにもう、カシヅかなくても良いぞ? 君達……?」
――少しでも失敗を取り戻そうとするのか……寛大な処置(笑)を促す、大貴族のジョン公爵閣下。それを聞き入れたのか、恐れ多いような態度や表情をしつつも……ジョジョにジョジョに、鉄決傭兵団の皆さんは立ち上がってゆく……!
……お前、絶対からかってやがるだろ……!? ナァッ!?
「そ、そうでしたね……もう一人は、男のガキです。特徴としては、枯れ木のような”黒い肌”に……血とクソみたいな色の髪が、グチャグチャに何本か混ざった……”汚ねェ赤髪”ですかねェ? 後は……オレの部下を……オレの部下達を……! あの、クソ野郎は……! 四十人以上もブッ殺しやがったんだッ!」
――ラグジャーの部下達も、何人かが嗚咽を漏らす中……ラグジャーは、恨みの込もった怒鳴り声でそのエルフの事を罵り上げる……ッ!
【……四十人以上も!? じゃあ……あのボロ服にあった血痕のほとんどは、”返り血”って事か? 地味にスゲェなぁ……あの黒肌のエルフボーイ……ッ!】――またもポーカーフェイスを貫いていたが、内心驚きを隠せないジョン。
「それは何とも……御労しい事で……」
――右片手を胸に当てながら、目を瞑って痛ましそうな表情でそう呟くジョン。……だが、その胸の内では……思いっきり”両手の中指を突き立てている”のが、何とも滑稽ではあるが……。
おい、別に取り上げなくてもイイ事だろうがッ!?
「そうなんですよッ!? 聞いてくださいよ、公爵様ッ!? あの黒肌の長耳のガキッ!? 頭おかしいんですよッ!?」
「……ほお? 何処がおかしいと言うのだ?」
「『丸腰だから捕まえるのも楽であろう』……そう、依頼主から聞いていたのに……ッ! あのガキッ! あの黒肌の、長耳のクソガキは……そうじゃあねェッ! そんなんじゃあ、全くねェ……! ”バケモノ”だったんですよッ!」
――余程、悔しい事でもあったのか……その両手の爪が、拳に食い込みそうな程に握り締めるラグジャー。
「……ほう? では何故、バケモノだったのだ?」
――好奇心が刺激されたのか、そう興味深そうに聞くジョン。
「奴らの首に付いた”奴隷の首輪”を、探知できる魔道具を依頼主から借りてやしたんで……見つけるのは、案外簡単でした。まぁ、それでも……大雑把な方向しか分からない”粗悪品なみたいな物”だったので、苦労しやしたけどね……?」
「……それの何処が、”黒肌のエルフ”がバケモノだと言う理由に繋がるのだ?」
――チョッピリ苛ついたように、そう尋ねるジョン。
「しっ、失礼しました! 公爵様ッ! 何分、その時も後も……変わらないぐらいに苦労しやしたモンで……つい、愚痴が……」
「フン、まぁ良い……続きを申せ」
「ヘッ、ヘイッ! えぇっと……それから、苦労しつつもその長耳のガキ供を……オレ達、傭兵団は見つけたんですよ。その時は、五十人近くの大戦力で見つけていたんですよ? 余裕の仕事だと思ってましたでさァ……!」
――【五十人……つまり、ここの残り八人はその”生き残り”って事か?】――そう胸の内で呟くジョン。
「ほぉ、五十人……! 小隊級の戦力とは……! 貴方達、鉄血傭兵団は中々の戦力をお持ちだったようですねェ……? では、確実な仕事をするために……援軍の一つや二つは、あったのではないでしょうか? ……ホラ、”仕事仲間”と言えるような……他の傭兵団の皆さんとか……?」
「……そんなの居たら、こんな人数にはなってませんよ……公爵様。オレ達、鉄血傭兵団は……もう、この八人以外……誰も居ないんでサァ……」
――ラグジャーの後ろに控える部下達の、咽び泣く声が一層深まる……!
「……本当なのか? その依頼主は、全くの保険を掛けていなかったと言うのか……!?」
――非常に驚く(……という、迫真の演技をする)ジョン。
「エェ、そうでサァッ! あの領主ッ! 報酬は良いクセに、意外とケチ臭かったんでさァッ! オレ達に援軍があれば……こんな、こんな……ッ!?」
「「「「「「アッ、アニキィィィィィィッ! な、泣かないで下せェ〜ッ!」」」」」」
「このッ、バカ野朗供がッ!? 公爵様の前で、テメェらの汚ねェ涙を見せるゥゥ……見せるんじゃあねェよッ!?」
「「「「「「「……スッ、すいやせんッ! アッ、アニキィィィィィィッ!」」」」」」」
――【……つまりだ。コイツらを”始末”しても……今んトコは援軍とかの追手が来る可能性は、”低い”って事か……。
まぁ、オルセットがもうあの二人に、ポーションを飲ませ終わったって聞いてるし……もう嘘がバレても構わねェけど……せっかく、お貴族様になれたんだ……。
コイツらに依頼した、その”領主”ってクソ野郎の事は……絶対に、吐かせないとな】――とまぁ、随分”冷酷な事”を考えているボ……じゃあなかった、ジョン。
「……貴方達が、亡くなった戦友に対する思いは痛い程、伝わりました……。ですが、そろそろ話に戻って頂けませんか? 貴方達の話を聞いてきて……”心当たり”はあるのですが……どうも、確信がなくて……」
「ほっ、本当ですかいッ!?」
「エェ。知っている事を全て話してくれたら……その心当たりを、お教えして差し上げますよ?」
――【……もっとも……そん時にテメェらが生きて帰れる保証は、何処にもねェけどな……?】――和かな表情とは裏腹に、ある意味”漆黒の意志”とも表現出来るような……そんな”腹黒い事”を企んでいたジョン。
「へっ、ヘェ! え〜っと、そうだ! あのガキ供を見つけたところでした…よね? 公爵様?」
「……まぁ、そうだな」
「ヘェ! ……けど、コレを聞いても……面白くないですし……只々、痛ましいだけですよ……?」
「……構いません。貴方方の話を聞いている内に……私も貴方達の気持ちに、少しでも寄り添いたいと思うようになったのです……! ですから、心苦しいかもしれませんが……お願いします……!」
――【……ホントは、寄り添うどころか……コイツらの顔面に、ゲロ吐きたいけどな……? まぁ、思ったより時間が稼げそうだから……オルセットにあの二人への、”応急処置”を指示しちまった以上……!
もう少し慈悲深いお貴族様を演じてやりますか……全く、やれやれだぜ……】――まぁ、何かと苦労人な事を思っていたジョン。
そして……その慈悲深さに、傭兵団の皆さんは再び一斉に”感謝の意”を示した後……ラグジャーが語り出す……!
「……あのクソガキ供に追い着いた時……依頼主の言う通り、二人は丸腰でやした。それに……奴隷の首輪には、主人への反抗が出来ないよう……”魔力阻害の印”を刻んでいるとも聞いてやした。
魔法が得意だと聞く長耳だろうと……それがある限り、その長耳は魔法を使えない農民も同然……! 魔法への対抗手段がないオレ達”鉄決傭兵団”でも……特に反抗される事なく、容易に捕まえる事が出来ると踏んでいやした……!」
――【……”魔力阻害の印”を刻んでいる……? 何だ? この世界の”奴隷の首輪”ってのは……”〇〇を使う事を許可しない……的な、カスタマイズ機能でもあるってのかぁ……? ……まぁ、ジックリな考察は後だ……】――己の経験則から、そのような推測を立てるジョン。
「ほぉ、エルフは魔法が得意なのか……! と言う事は……弓矢などのように、遠距離から一方的に攻撃される心配はないと踏んで……一気に捕縛しようと、傭兵団全員で襲い掛かったのだな?」
「ヘェ、そうでさぁ……。ただ……」
「待った。だが、不用心過ぎないか?」
「ヘェ?」
「相手は魔法が得意だと言う、エルフなのだろう……? なら、人間が扱える魔法はおろか、人間が知らないような魔法を使用出来るかもしれない……! それこそ、その”奴隷の首輪”だとか言う……魔法の道具一つで、何故にそんなにも安心し切れるのだ? 会った時に、既に解除されていると思わなかったのか?」
――己の経験則が、そう囁くまま……ジョンはラグジャーに、そう問い掛ける。
「なっ、なんと……!? 公爵様は”予知の魔法”を使えると……!?」
「使えませんよ? ただ、”可能性”を考えただけです……」
「そっ、そうですか……えぇ、そうです。何故か、二人の長耳は……見つかったオレらに反撃してきたんですッ!」
「……でも、丸腰に”四十人以上”も殺られたなんて、チョッピリどころか……現実味が無さ過ぎる気が、するんじゃあないかと思いますけど……?」
「こ、公爵様……お…オレだって……チョイとは、そう思ってたんです……! ですが……オレはその場に居たんです、その他の野郎供も傍に居たんです、でも……! 誰も勝てなかったんです……! そんな……そんな、現実が……!」
「落ちこんどる場合かァァァァッ!?」
「「「「「「「「……エッ!?」」」」」」」」
〜 パシッ! 〜
――【……ヤッ、ヤベェェェェッ!? なっ、何で”シュト○ハ◯ム少佐”っぽい……話の流れを言ってきやがるんだよッ!? つい、ノッちまったじゃあねェかッ!?】――もう、何と言うか……貴方には何も言えませんね……とても哀れ過ぎて……何も言えませんよ……。
やめてッ!? その後ォ! 『もしかしてオ◯オラですかァァァッ!?』……って、感じに責めないでくれよッ!? 挽回はするからさァッ!?
「どっ、どうしました……公爵様……? 何で、口なんかを手で押さえて……?」
「……ウォホンッ! 申し訳ありません……。いつか、私も臣下が出来た際に……こうやって激励が出来たらと思っていた物で……つい…その……貴方達の様子と……重なって…しまって……」
――しどろもどろかつ、口に右拳を当てつつ、かなり目が泳ぎつつも……弁解をするジョン。
……もう、許して……ッ!
「……おっ、オォォォォォ……ッ!? あっ、ありがとうございますゥゥゥゥッ! 公爵様ァァァッ!」
「「「「「「クソありがとうございますッ! コウシャク様ッ!」」」」」」
――【……バカばっかで助かったァァァァッ!? ただ、まぁ……とりあえず、結果オーライか? ……時間は稼げているワケだしィ……?】――目の前で、一斉にカシヅく傭兵団の皆さんに……思わず冷や汗を流しつつ、そう思うジョン。
「まぁ、話を逸らしてしまって申し訳ありません……宜しければ続きを……」
「……わっ、分かりました……えぇっと……」
「二人のエルフが反撃してきた所です」
「そっ、そうでしたね! えぇっと……そう、引っ捕まえようと……一斉に、数人掛かりで取り囲んだんです……! 女のガキを守るように、男のガキが動いていやしたから……楽勝だと思ったんです……ッ!」
「……成程? 何とかして、女のエルフを人質にでも取れば……容易に捕縛できるとでも思ってたのですね……?」
「……そうです。でも……でも、違ったんです! アイツは……あのクソガキは……!? 丸腰にも関わらず、ワケの分からねェ”身のこなし”をしたかと思えば……オレらの武器を奪いやがったんです!」
「……そして、丸腰だったのが一変……貴方達の今の数になってしまう程に、その黒い男のエルフは……武器を使った戦いが強かったと……?」
「……えぇ、しかも……それだけじゃあないんですよ、公爵様! あのクソガキは……剣だけしか使えなかったワケじゃあないんです……! ナイフ、短剣、手斧、戦斧、槍に棍棒、弓矢かと思えば石投げまで……!
オレらのそこそこ良かったハズの武器を、まるで”ナマクラ”を扱ったかのように……使い潰しては、奪い、使い潰しては、奪いと……! 長耳とは思えねェ、”力”と”技”で……! あのクソガキは、オレの仲間を殺しまくったんですよッ!?」
「「「「「「「そうだッ! あのクソガキッ! アイツは悪魔だッ!」」」」」」」
――【……黙れ、クソ野朗供……ッ! ……って、このラグジャーとか言う、傭兵のオッサンの取り巻きに言ってやりたいが……今はガマンだ……ッ!】――締め付けられるような胸の内を秘めつつも……表情に出さずに、再び語り出すジョン。
「……つまり? ”弓”と”魔法”だけが取り柄と思っていたエルフに……貴方達は、得意の”剣”とかの武器で……負けたと言うのですね? その”黒肌の男のエルフ”に……?」
「でもヤられてばかりじゃありませんでしたよッ!? 公爵様ッ!? オレらだってやり返してやりましたよッ!? 一人二人ならまだしも……一気に六人以上でヤリに掛かれば、一撃や二撃を喰らわせる事は出来たんですよッ!
しかしですよッ!? そうなると、すぐに女のガキが……男のクソガキの腕を引っ張って逃げやがるんですよッ!?」
――【……ナルホドな。黒肌のエルフボーイは、”エルフ流武術の師範代”……って感じに、武器の扱いが上手いのか……。
後、ワケの分からねェ”身のこなし”ってのは……たぶん”CQC”みたいな、近接格闘術なんだろうなぁ……イイねェ? 仲間に出来るなら……是非、ご教授願いたい物だ……!】――とことん悔しげかつ、今にも号泣しそうな感じで、訴えるように話すラグジャーを前に……ジョンは表情を変える事なく、胸の内でほくそ笑んでいた……!
「それはそれは……。でも、傷を負っているなら……到底遠くへは逃げられないでしょう? 簡単に追い詰めて、捕縛するのも容易なハズじゃあ……?」
「それが違ったんですよ、公爵様ッ!? あのクソガキ供の逃げた先を追ってみれば……何が居たと思いますッ!?」
「……その口振りだと、逃げた先に居たのは、そのエルフ二人じゃあなかったと言う事ですね……?」
「えぇ、そうですよッ! あのクソガキ供が逃げた先に居たのは……”ウルエナの群れ”だの、”ゴブリンの巣穴”だの、”マグズリーの狩場”だの……! そう言った、魔物ばかりに遭遇したんですよッ!? それで、あのガキ供の姿はどこにもいなんでさぁッ!?
まるで、妖精のイタズラにでもあったかのように……ッ!?」
「……それはただの、”不注意”という奴ではないのか?」
「とんでもないッ!? あの黒肌のクソガキが、怪我する度にですよッ!? あのクソガキ程ではないにしろ……それで、どれだけ仲間を失ったかッ!?」
「「「「「「「そうだッ! あのヒキョ〜者の、クソガキ供めッ! 恥を知れッ!」」」」」」」
――【……五十人掛かりで襲い掛かっている……テメェら、クソ供に言われたかねェよ……ッ!? オレどころかたぶん、あのエルフの二人も……!】――要するに、”大人気ない”言いたいのだろうが……表情を崩さずにそう思うジョン。
「……それはそれは、お悔やみ申し上げます……。だが、貴方達は諦めず……ここまで追跡を続けて来たと……?」
――【自分で言ったのも何だが……報酬のためとは言えど、とんだ”ロリ◯ン集団”だよなぁ……? お巡りさんが居ないのが、悔やまれるぜ……!】――表情に出さずも、内心では呆れ果てていたジョン。
「……そうです、そうですよ! 簡単な仕事と思っていたのに……もう、文句も言えない程遠く……もう、引き下がれない程に、仲間を失ってきました……! オレ達は……あのクソガキ供に、復讐を果たすと……ッ! 森の中で探し彷徨い歩く中……仲間達の無念を前に、誓い合ったんですッ!」
「「「「「「「そうさッ! 依頼以外に、誓いも絶対果たすッ! それがオレ達、鉄決傭兵団さッ!」」」」」」」
――【……なんか、ここまでコイツらの事を聞いてると……始末するのが惜しくなってくるよなぁ……。まぁ、結局……目的が違い過ぎて……分かり合えないんだろうけど……】――表情に出さずも、ほんのチョッピリ……虚しい思いが、胸によぎるジョン。
「……余程……いい仲間に、巡り会えたんですね……」
「……えぇ、そうです。そうなんですよ……! だけど、あのクソガキ供は悪魔なんですよッ!」
「……と言うと?」
「何人もの仲間が必死になって……やっと、与えられた一撃が……! 何人もが犠牲になって……ようやく、与えられた一撃が……ッ! 次にその姿を見た際には、キレイサッパリッ! 傷が! 黒肌のクソガキに”あったハズの傷”が……無くなってたんですよッ!?」
「「「「「「「チクショウッ! オレらの苦労を返せッ! あのクソガキ供! 悪魔供ッ!」」」」」」」
――【……まさか、”回復魔法”持ちかッ!? あのエルフガールッ!? ……イイねェ、策士な魔法使い……ッ! 仲間にでもなってくれれば、これで面倒な”応急手当て”ともオサラバ……ッ!
いや待て……? それ以前に……アイツら、エルフとは言えど……子供……なんだよな……?】――表情には出さなかったが、一瞬舞い上がるような歓喜に溢れるジョン。だが次の瞬間には、一気に頭が冷えたかのように……何故か、”落ち込んだ気分”となっていた。
「……申し訳ありませんね。私には……本当、お悔やみの言葉を申し上げる事しか……出来ません……」
――またも首が痒くなったのか、さりげなく頸動脈がある付近を右手で擦りつつも……痛ましそうな表情で、そう語るジョン。
「も、もったいないお言葉でさぁ……公爵様ァ……こんな、薄汚ねェような……オレら、傭兵団に……」
「「「「「「アニキィッ!? そんな事、言わないで欲しいでさぁッ!?」」」」」」
「何言ってんだッ!? このッ、バカ野郎供がッ! 公爵様の前だぞッ!?」
「「「「「「ヒィィッ!? すいやせんッ! アニキッ!?」」」」」」
「バカッ! 謝んなら、公爵様の方だろッ!?」
「「「「「「ヒィィッ!? すいやせんッ! コウシャクサマッ!?」」」」」」
「……大丈夫です、気にしなくていいですよ?」
「おぉぉぉッ!? 寛大な処置を、クソありがとうございますッ!」
「「「「「「クソありがとうございますッ! コウシャク様ッ!」」」」」」
――【……ハァ、ほんのチョッピリ心苦しいが……まぁこの後の、エルフ達二人への事実確認のためだ……ようやく、コイツらの”雇い主”の事を聞き出す事が出来そうだなぁ……?】――表情には出さなかったが、長くなっていた”傭兵団への聞き込み”が終わりそうな兆しが見え、心の中で若干の安堵を見せるジョン。
「……では最後に二つ、確認したい事があるので……それを教えて頂いたら、コチラも貴方達が探していると言う人達の、”心辺り”を……お教えして差し上げましょう……!」
――そう、和かに語るジョン。
「おぉ、やっとですかッ!? では……何を!?」
「まず、一つ目。ここまで、心苦しいながらも……貴方達は、”鉄決傭兵団の悲劇”を語ってきてくれましたが……その”エルフ達”の遣り口によって、貴方達はここまで数が減ってしまった。
そして、その増援の見込みもなく……それを呼ぶ手段もないと……? そう言う事ですね?」
「……えぇ、そうでさぁ。援軍を呼ぶ手段どころか……あの黒肌のクソガキが、借りていた”奴隷の首輪”を探知する魔道具を、ブッ壊しやがったもんで……! 途中からの探索が、ホント辛かったですよ……!」
「「「「「「ホント、辛かった! クナンの連続ッ!」」」」」」
――【……聴き忘れてたから、ちょっと焦ってたけど……万が一、あの二人を逃す事になったとしても……まず、すぐには見つからないみたいだな。それに、援軍の心配もナシ……ヨシヨシ……ッ!】――表情には出さなかったが……心の中で安堵しつつも、ほくそ笑むジョン。
「では、最後です……貴方達に依頼を出したのは、何処の誰ですか?」
――ちょ、ジョン君ッ!? 声が! 声がッ!? 声がその……和かな表情とは、真逆を突きってしまっているような……ジョジョに最後には、悪徳貴族のような声に……なってますよ〜!? 我慢してきたのは分かりますけど〜ッ!? バレちまいますよ〜ッ!?
「……へっ?」
「いえ、少し聞き疲れてしまったので……私の声や口調は気にしないでください……。それで? 貴方達に依頼を出したのは、何処の誰ですか?」
「いえッ……それは……」
「あぁ、聞きたい理由ですか? 簡単な話ですよ。お忍びながらも……貴方達と縁のあった方に、ご挨拶をしておこうと思いましてね……?」
――いやだから!? 弁解しても……”圧迫面接”みたく、違和感が拭い切れてませんよ!?
……いや、コイツらを始末するために、”最後のピース”が必要なんだよ……!
「いやッ……だから……」
「……何ですか? 疾しい事でもあるんですか? まさか、隠し子とは言え……公爵を父に持つ私に今更、逆らうと言うのですか……?」
「いや、ですから……申し訳ないんですが……!」
「デキるワケがねェだろォッ!?」
〜 ググググ……ググッ! 〜
「「「「「「「「ッ!?」」」」」」」」
――ラグジャー及び、ジョンを含め……その場に居た全員がその叫び声に、一斉に振り向く……ッ! その一斉に視線が集まった場所には……ジョンに向け、文字通り矢を番え、弓を引いていた……血管が今にもプッツンしそうな男の姿があったのだ……ッ!
「「「「「「あ、アホベールッ!?」」」」」」
「うるせェェェェェッ! オレは、アホベールじゃあねェッ! オレは、アルベールだァッ! ボケ供ォォォォォッ!」
――叫びつつも、ジョンに向ける弓を引くのをやめないアホ……もとい、アルベールという男。更にその気迫は、馴染みがある筈の鉄決傭兵団の全員を……一歩、思わず下がらせる程もあったのだ……!
「……何のつもりですか、貴方? 今……貴方がしている事を、理解しているのですか?」
「うるせェェェェェッ! 黙れェェェッ! クソ貴族がァァァァァッ! それ以上、そのクサッたクソマミレな口を、開けるんじゃあねェェェェェッ!」
「ばっ、バカ野郎ッ! ヤメやがれ、アホベールッ! 公爵様の言う通り……お前、何をしてるのか……ッ!?」
「うるせェェェェェッ! 黙れェェェェェッ! このッ、ボケ団長がァァァッ! ここまで来てそこのクソ貴族に……ヘコヘコするって、言うのかァァァァァッ!?」
――恐らく、貴族によって”酷い目にあった過去”でもあるのか……。その目から、今にも血涙を流すかの如く……血走った目と共に、その弓矢の狙いの先に居るジョンに向け……弓の弦を、更に強く引き絞るアルベール。
「「「「「「おっ、おいッ! アホベール、止めろォォォォォッ!?」」」」」」
「うるせェェェェェッ! 黙れェェェェェッ! テメェら、ボケ供もだよォォォォォッ! オレらが何で傭兵になったと思ってんだ!? エェッ!? クソ貴族に人生を狂わされた奴は、いねェってのかァァァァァッ!?」
「「「「「「「ッ!?」」」」」」」
「……フン、いつもオレをバカにしやがって……ッ! そんなオレに、そう言われて……そうすぐに言い返せねェなら……ッ! オレの行動を止めるんじゃあねェェェェェヨォォォォォッ!」
「「「「「「「バカッ!? 止めろ、アホベールッ!」」」」」」」
〜 バヒュゥゥゥゥンッ! 〜
――鉄決傭兵団の全員が、アルベールを取り押さえるよりも早く……放たれてしまった矢は、ジョンの”頭”目掛け……真っ直ぐ飛んで行く……ッ!
〜 バシィィッ! 〜
「「「「「「「「ッ!?」」」」」」」」
「……全く、まだ”サイン”も考えていないのに……こんな荒っぽいオファーをされても、困りますねェ……?」
――【……あ、危ねェェェェェェェェェェッ!? 何度か、ハンデ戦していないオルセット相手に、死合てて良かったわァ……!?
まぁ、危ない橋だったが……コレで”最後のピース”はゲットした……ッ!】――そう思うのは、首を僅かに動かして”凶弾と化した矢”を躱しつつ……その”首の左側面”を通り過ぎようとした矢を、右手でムンズと掴み取った……ジョン。いや、もとい……ボスッ!
『……ボスゥ、さっきも言ったケド……もうとっくに二人の”オウキュウショチ”はオワッタし、ソッチに出てイイかなァ〜? もう、さっきから……イヤな声とニオイがプンプンして、ボク……もうガマンならないんだけど……ッ!?』
――左手で首の左側面の頸動脈を擦っていたボスの脳内では……もう、今にも怒りが爆発しそうな、オルセットの声が流れていた……!
『……我慢しろ、オルセット。さっきから”打ち合わせ”している通り……お前が思いっきり訓練の成果を出せるよう、目印をしておくって言ったろ?』
『ケッキョク、”メジルシ”って……何なの?』
『……”銃声”がしたらテントから出て来い。そうしたら話すから』
『モォ〜ハヤクしてネェ〜、ボスゥ? さっきからムズカシイ話ばかりで、ネチャいそうだよ〜』
――オルセットの欠伸の声も聞こえてきて、思わず口角が緩みそうになるボス。
『あとちょっとだ。辛抱しろ、オルセット』
『リョ〜カ〜イ。オルセット、アウト〜』
『あぁ。ボス、アウト』
――さて、この間に◯者の諸君の間じゃあ、”数分”が経ったように思えるだろうが……実は”数十秒”にも満たない時間しか、経っていなかったのである……ッ!
よって、このボスとオルセットの”念話”が行なわれている間……鉄決傭兵団の皆さんは、”鏡餅”か”亀の親子”の如く……未だ、ボスに向けて凶行を行ったアルベールの上に、積み重なった状態だった……!
そして、素手で矢を掴み取り、首を擦りつつ”澄まし顔”をしていたボスに対し……誰もが、驚愕の表情をせずにはいられなかった……ッ!
「……こ、公爵様? お、おっ、お怪我は……?」
――ある意味、絶望的な表情で……ボスへと恐る恐る声を掛けるラグジャー。因みに彼は、アルベールの直ぐ上に積み重なっていた。
「……んっ? あぁ……心配してくれたのね? 別イイよ、もう……」
「「「「「「「「……ヘッ!?」」」」」」」」
〜 ザッ、ザッザッザッザッ! ドゲシャァァァッ! 〜
「「「「「「「「ドワァァァァァッ!?」」」」」」」」
〜 ゴロンゴロンゴロンゴロンゴロン……ドサァッ! 〜
――おっと、ここまで鬱憤が溜まりきっていたのは……どうやら、オルセットだけじゃあないようであった……! 正体を現したボスの言葉に理解が及ばず、未だ積み重なったまま呆けていた鉄決傭兵団の皆さんに向けて……軽い助走からの、”サッカーボールキック”を叩き込んだのであるッ!
するとどうだ? まるで”ストライクされたボーリングのピン”の如く……ボスの反対側方向に、四方八方へと転がっていったのだ……!
「……イッ、テテテテテ……ハッ!? もっ、申し訳ありませんッ! 公爵様ッ! アホベールのバカには、キツく言い聞かせますので……どうか! どうかご容赦をッ!」
――平伏し、全力で謝罪した後のラグジャーの目には……野営地の”焚き火”を背にするボスの姿が見えていた……! そして……ボスの背によって、ほとんど遮られてしまっていた灯りの中……僅かに浮かび上がる”ボスの口元”が、ラグジャーに向けて歪に歪んで行く……!
「フンッ、コレで良く十年も……彼女にフラれつつ、生き残ってきたモンだな?」
「……へッ?」
「まだ、気付かなねェのか……? どんだけアホなんだよ、この傭兵団は……?」
――ラグジャーにはハッキリ見えなかったが……左手で両目を覆いつつ、”やれやれだぜ”と言わんばかりに、首を左右に振るボス。
「こ、公爵様……? これは、どう言う……?」
「あのなぁッ!? オレは公爵どころか、貴族ですらねェんだよ!? クソッタレ供がッ!?」
「「「「「「「「……えっ、エェェェェェェェェェェェェェェェェェッ!?」」」」」」」」
――【もう……イヤッ! この傭兵団ッ!? 同情していたオレが、馬鹿だと思っちゃうぐらいに……ホント、コイツらどうやって戦争を生き延びてきたんだよッ!? アホ過ぎるだろッ!?】――ボスの中で、目の前のバカ供に対する、ストップ安が止まらない……ッ!
「じゃ、じゃあ……公爵……いや、テメェは一体ッ!?」
「……別にオレが誰かだなんて、ド〜でもいいだろ? それに……それを、テメェらに教える義理すらもねェんだよ……ッ!」
――ようやく”傭兵の目付き”とも言える、怒りの眼差しを向けてきたラグジャー。だが、それを軽く上回りそうな、鋭い睨みを返しつつ……ジョジョにドスの利いた声を響かせるボス。その一声に、傭兵団の部下達は思わずたじろぐ……!
……さぁ、ここからが……ボス達の本番である……!
<異傭なるTips> ポーション
飲んだり、負傷した患部にかける事で、瞬時に患部の治療が行われる……異世界産の治療薬。ボス達が、エルフの少年少女に使用しようとしていたのは……「ハイポーション」と言う物らしい。(因みに、傷や生命力を回復するポーションは、主に「緑色」の色をした液体になる)
これは「ベルガの家の地下室」にあった、”ベルガ”自らが調合して作成していたらしいの遺品の一つであり……この世界の市場だと”通常のポーション”よりもグレードが高く、上等な物らしい。
そんな高級品を”数十本”程、ボス達は所有していたようなのだが……どうやら、テント生活を送る上で、使わざるを得ない状況に陥る場面が、何度かあった模様……。そのために、”残り少ない”とオルセットが言っていたのであろう……。
自ら調合を行なった事もある”ベルガ”の話によれば……『色が薄い程「粗悪品」、濃厚な色になっている程「良質品」』という法則があるらしい……。(恐らく、調合に使用した”薬草の成分”の抽出が、上手くいってるかいないか違いなのだろう……)
現状、その調合方法は不明ではあるが……その治療効果は、ある意味”万能”の一言に尽きる。使用すると、即座に激痛を感じなくなる程の”鎮痛効果”を発揮。そして、負傷した患部の時間がまるで巻き戻るかの如く……傷が瞬く間に治療されていくのである。
盗賊団との戦闘の際、肋骨が折れた感覚があったボスが飲んだ後は、平然と動けていた事から、「骨折」にも効果がある模様。(だが、手や脚の骨折に効果があるかは、ボス達自身も体験する前に、ほぼ”応急処置”後の自然治癒に任せていたため、効果は不明)
ただし……左手にポーションをかけるだけで、全身の傷が回復する訳じゃあない。更に言えば、切り落とされた”右脚”や”右腕”の患部に、”ポーション”を振り掛けた後……切断された部分を押し付けて”接着”出来るかどうかも、不明である。
……と言うよりも、一般にでも出回っているようなポーションに、そんな過度の期待をしてはいけない……。主人公が、”化け物”な訳ではないのだ……。