甘いかもしれないけど
約束していた時間から
もう三十分も過ぎている
初めてだな
こんなこと
まだ片手で数えるくらいしか
待ち合わせたことないんだけれど
待ち合わせの三十分前には
僕は来ていたから
待たせて
怒らせて
帰らせて
なんて訳はないと思うし
見切りを付けられただけなのかな
約束すっぽかしてしまえば
僕の性格上
もう二度と連絡も取ってこないだろうって
それとも
もっと格好良い人からの誘いがあったとか
いやそれより
何かあったのかも
体調崩したとか
事故にあったとか
さっき送ったメッセージ
既読すらつかないままだし
駅の改札口
人の波が押し出されてくる度に
君の姿を探しているけど
さっきから
溜め息吐いて
携帯を確認しての繰り返し
流石にもう帰ろうかな
これが最後と決めた
人の波を見つめながら
僕は踏ん切りをつけるように
背筋を伸ばす
やっぱり来ないか
僕は俯いて
もう一度と
諦め悪く顔を上げる
その時
小走りで改札から出てくる
一人の女性を見つけたんだ
僕を見つけた君は喜んだ子犬のように
なんて言い草
よく耳にするけど
多分
この瞬間
子犬のような顔をしているのは
僕の方だ
安堵の思いが胸の中に広がっていく
甘いかもしれないけれど
もうこれでいいや
明らかに焦った様子で誰かを探している
普段冷静な君から考えられないような
そんな珍しい姿を見たら
愛しさが溢れてくる
だから
もうこれでいいや
ただもう少しだけ
声をかけないで君を見ていよう
君が僕に気付いてくれるまで
後で聞いた話だけど
携帯、忘れてくるくらい
焦って家を出たんだって聞いて
やっぱり甘いかもしれないけど
それくらい焦ってくれたことが
たまらなく愛しくなった