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僕と死した筈の君と

作者: ユキネ

 お風呂場から出る時、ふと、視線を感じた。

「また来たのかい?」

 脱衣所の床の方へと目をやる。

 其処には死んだ筈の君が床に寝そべり待っていた。

「何か心配事?」

 床に寝そべり待つその子の頭を撫でるような仕草をして話し掛ける。

 実際、死んでいるから、触る事など出来ないけれど。君は嬉しそうに掌に頭を押し付け、撫でられていた。

「それともただ逢いたかっただけかな?」

 そう話し掛けても答えは返って来ない。

 でも、此処に来るって事は何かしら想う事があるのだろう。

 撫でていた頭から手を離す。身体を拭いて、服を着て……いつもの僕のお気に入りの場所へ移動する。

 その後をちょこちょこと半透明な君は付いて来て、僕がお気に入りの場所であるシーソーチェアに座るなり、いつもの定位置だった僕の膝の上へ。

 身体を丸め、寝る体勢を作り、ものの数分で安心して寝始めた。

「君は、本当……ふふ……何しに来たんだい?」

 死んでいるから寝る必要もないだろうに……。

 いつもそうだ。僕の元へ現れる度、君は生前と同じように行動する。

 寝て、食べて、遊んで、またそれを繰り返して。

 そしてある程度すれば、いつの間にかいなくなっていて。

 本当に気紛れだね、君は。僕の気持ちは置き去りかい?

 なにも言わずに。跡も残さないで。

 君はいつも、ふらりと来ては還るを繰り返す。

 僕の傍をまるで忘れる事をしないでと訴えるように。

 午前零時。消えたベッドの温もり。……いや、温もりなんて……あの子は死んでいるから最初からないのだけれど。

「忘れる訳……ないじゃない」

 あの子の寝ていた場所。ベッドのシーツを優しく撫でる。

「何年一緒にいたと想っているの?」

 僕はずっと君と生きてきた。君と生きて、君と成長して……。

「置いていくのは君の方なのにね」

 生まれ変わるのさえ君の方が早い。僕は君と違う。生まれも、種族も。

 それでも……。

「……また、おいで」

 泣くのはやめた筈だった。君の死んだ日にありったけ泣いて……別れを告げて。

「大好きだよ……愛してる……×××……いつまでも僕の……」


 僕の大切なーーーー。


 ふと、視線を感じた。

 優しい……その、視線を。

「ふふ……お帰り」

 喉元を撫でて、頭に触れて。

「今日は何をご所望かな? なんて」

 冗談を言っても君は、首を傾げるだけ。……けれど。

「可愛いなぁ……本当に」

 君を選んで。その実、君が僕を選んだ。

「大好きだよ」


 小さな小さな愛しき君。

 もう戻らない大切な刻の命ーーーー。

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