日常
朝になり窓から差し込む光で僕は目を覚ました。枕元にあるスマートフォンで時間を確認し、そのまま脳が覚醒するのを待つ。
数分するといつも通り襖の奥から声が飛んでくる。
「一佐、朝ごはん出来てるぞ」
なかなか起きようとしない体に鞭を打ち、何とか布団から出るのに成功する。僕は太陽の光を体一杯に浴びてから、布団をたたみ、リビングのテーブルに着いた。
「いただきます」
最近の朝食はパンではなくご飯だ。大体半年くらいでブームが変わる。おそらく四か月後くらいには僕の朝食はパンになっているだろう。
ふりかけをかけ、ちゃっちゃと口にかきこみ、お吸い物も体に流し込む。
「ごちそうさま」
食器を台所に運んでから学校へ行く準備をする。準備といってもほとんど着替えるだけなのだが。
「行ってきます」
母の遺影と父に言ってから玄関を出る。
「今日はかなり冷え込んでるな」
空は雲一つない快晴だが空気が肌を突き刺すような寒さだった。今日は最高気温でも二桁行かないとニュースで言っていたことを思い出す。
手をセーターの中に引っ込めながら自転車に跨る。
自転車を漕いでる途中、白い息が口から洩れる。道行く人はみんな寒そうに縮こまって、それそれ職場や学校に急いでいた。
学校に着き、もうすっかり慣れた行動を繰り返す。駐輪場に自転車を止め、靴を履き替え、階段を上り、教室に入る。
僕は基本的に長く寝ていたいのでいつも割と遅めに学校へ向かう。教室に入るころにはみんな登校していて賑わっていて、いつも一番最後に僕が登校する。
誰とも話さずに窓側の一番後ろの自分の席へとまっすぐに向かう。
数分すると朝のホームルームが始まった。
「起立、礼」
日直の生徒が号令をしてから先生から事務的な連絡が伝えられる。
「じゃあ、今週もあと二日で終わりなので頑張りましょう」
そう締めくくられ学校が始まる。といっても退屈な授業があるだけなのだが。
つまらない授業がすべて終わると皆それぞれの行動に移る。部活に行く者、友達と遊ぶ者、僕はそのどちらでもなくただ家に帰る。部活はとくにやりたいことがなかったから入らなかったし、友達といえるような人間もいない。必然的に家に帰るしかなくなるのだ。
僕は手短に帰る支度をし、学校を後にした。
外は朝よりは暖かくなっているがまだ十分寒い。夕暮れが夜に侵食されていく。
この時間帯はあまり好きじゃない。理由は自分でもよくわかっていない。なんとなくだ。それに加え、寒いのも得意ではない。だからと言って暑いのが得意かと言われたらまた別の問題と言わざるを得ない。
そんなこんなな理由でただの帰り道もなんとなく憂鬱な気分になってしまう。
「ただいま」
誰もいない家に挨拶してからはゲームをしたり、音楽を聴いたり、本を読んだりする。やりたいことなんて、とうの昔からないがこれらは暇つぶしにはなる。音楽を聴くのは僕の唯一の趣味と言っていいだろう。
数時間経つと父さんが帰ってきて夕食の時間になる。
「いただきます」
「召し上がれ」
「──」
「──」
食事中は基本話さない。僕と父さん──栄賢一の間では共通の話題というものがほとんど存在しない。というのも父さんは一年の大半を家では過ごしていない。昔は大学の教授をしていたらしいが今は教授を辞めていてどんな仕事をしているのかも僕は知らない。とはいえ、僕が父さんに興味がないわけでもない。むしろ僕は父さんを世界で一番尊敬している。ただ僕に話せることは高校のことくらいしかなく父さんは高校のことにはあまり興味を示さない。結果的に静かな食卓が完成する。
「ごちそうさま」
夕食を済ませてからは日課の筋トレをしてから風呂に入り、大して疲れていない体を癒し、また暇つぶしをしてから布団に入る。
またこれからも、何でもないつまらない毎日が続くんだろうな。そんなことを考えていると意識はだんだんと沈んでいった。
深夜に目が覚め、仕方なく台所に水を飲みに行く。時計はちょうど十二時を指している。と、一瞬、外が昼のように明るくなった気がした。コップに水を注ぎ、一気に飲み干してからベランダに出
てみたが、この辺りは田舎で街灯すら少ない。当然、外は真っ暗だ。
「疲れてんのかな、俺」
あくびをしながら布団に潜りこみ、再び眠りに着いた。