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マッチとポンプで異世界神様業  作者: ゆうと
第Ⅰ部:ダンジョン創設編
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第7話:天啓は確実に

 

「そういえばさぁ」

「何でしょう?」

「ヒュム族は、何かしらの宗教に入ってるの? 」

 オレを神とした宗教。あるいは先代のパイセン女神を神とした宗教。

 もしそんなのがあるなら、マズいことになるかもしれない。オレの天啓が、その宗教の価値観や教義なんかと違っちゃったら……混乱するよね。

 いや、信心深い信者は混乱だけじゃすまないか。思いっきり反発するかもしれない。信心深い信者がどんどん離れていっちゃうと……量的な信仰心の獲得量が低下しちゃう。

「いえ。そうではございません」

「じゃあ、オレが今から宗教つくるの?」

「そうとも言えません」

「どういうこと?」

「カイト様は神様業を行うのであって、教義などを設けた宗教を立ち上げる必要は別にございません。もちろん、立ち上げて頂いても問題ありません。そういう他種族の神もいらっしゃいますので」

 なるほどね。特定の宗教や、宗教上の決まり事や束縛が存在してはいないわけだ。

「なら……ヒュム族は自然崇拝っぽいのかもね」

 神のことは、信じている。でも、自然や自然現象の背後に存在している偉大なる何か―――そう神を認識してるのかも。雷や雨、冬に夏、虹や洪水に台風……人には生み出せない、コントロールもできない自然現象。それを生み出しコントロールできる超越者として―――神を見出した。そしてその大いなる力を(おそ)れ敬っている。そんな感じかな。

「なおヒュム族は、偶発的であっても願いが叶う可能性があることは理解しております」

「でも、オレや先輩女神から特定の価値観や守るべき教義が伝わってるわけではないってことだね?」

「そうなります」

 まぁでも、オレも宗教を立ち上げる気はないかな。

 目的は信仰心を集めること。教えを伝えて、それをヒュム族に順守させることじゃない。君臨も統治もしたくない。面倒くさいことになりそうだし……。

 もちろん、神様業、やるからにはちゃんとしたい。願いが不幸な叶い方をして……傷つく人を見るのは嫌だし。個人的な動機だけど、報酬もゲットしたいし。待ってろよフルリメイク……!

「ところで……ヒュム族には、宗教があるにはあります。集落や地域ごとに、カイト様とは無関係の、他の神々も無関係の宗教が幾つか存在しております」

「それって例えば自然発生したものや、特定の人物たちによる権力装置として生み出された、あるいはそう利用されている宗教ってこと?」

「おっしゃる通りです」

「なるほどなぁ」

 どこの世界でも同じかぁ。ま、似たようなアイデアは、環境が整えばどこでも発生しうるってことだよね。

「カイト様?」

「ん~? あ、ごめん。ついクセで」

 ロココさんの丸い背中部分をザリザリ撫でてた。無意識に。

 もはや日課になってきた気さえする。

 これ……なぜか落ち着くんだよねぇ。

 そして謎の中毒性! このザラザラザリザリ感。もはや病みつき! 例えるなら……野球部の剃りたて坊主頭。それをグリグリと撫でまわしてるのと似たような感触で……ヤバい。

 そして……なんか急に餌付けしたくなってきた。

 野球部って単語を思い出した途端、無性に坊主に餌付けをしたくなってきた……。なんかモヤモヤするから、きっとまた思い出せない系記憶に違いない。

 ま、いいや。ちいさなことは気にしないっと。

 それよりも今は……神の力!

「じゃあ、神権使ってみよっか!」

「承知しました。ただ一つ……ご留意ください」

「ん? なに?」

「【夢で逢えたら】の神権は、声を届けたり、簡単な画像を断片的に見せたりすることは可能です。ただ、本人がそれを覚えているか、あるいは理解できるかは、定かではありません」

「………なるほど。夢で見たことあんまり覚えてない説だね」

「該当する理論が確認できません。申し訳ございません」

「あ、適当に言った説だから気にしないでね」

 ちょっとテンション下がった気配の背中を、ザリザリザリリと撫でて元気注入!

 ちなみに何回ザリザリしても、オレの(てのひら)は全く痛くない。オレのバディは神体だからね!

「あたたかいお言葉、ありがとうございます」

「いえいえ」

 ロココさんにはオレも、あったかいお言葉を大量供給してもらってますから!

「では、神権を発動なさいますか?」

「う~ん……ちょっと待ってね」

「はい」

「えっと……起きたら覚えてないかもしれない……んでしょ? それなら、覚えてる間―――夢の中で願いを言わせちゃえばいいかも!」

 どう?

 どうどう?

「………なるほど。それは興味深い試みです」

 っしゃあ!

「だよね! やってみる価値あるよね!」

「同意いたします。では、【夢で逢えたら】を行使するターゲットを設定してください」

「了解。それじゃまず、世界○見得(みえ)……発動!」

 空中に浮かび上がった球体に見とれたいところだけど……今はそれどころじゃない。

「ヒュム族の居住地域に焦点化。当該地域を平面で拡大表示!」

 おぉ……やっぱカッコいい! 球体が切り取られて、ヒュム族の住む地域が地図のようになる。

「くぅっっ……やっぱ我慢無理! たまらん!」

「どうしました?」

「いや、この次世代マシーンを操作してる感じがね……テンション上がっちゃう!」

 いやもうこれは自然の摂理だよ。どうしたってニマニマしちゃうね!

「それは何よりでございます」

「ありがと! やっぱ仕事に楽しみがあるっていいよね!」

「まったく同意見でございます!」

 なぜか握手を交わしているけど……気にしないったら気にしない。なにせ職場で友を得た気分なのであるからして。

「それじゃロココさん、対象になる人物のリストアップお願い!」

「オーダー、承りました」

 おぉ……地図の横にリストが登場。

 う~ん……五百人くらいか。ちょっと多いな。

「対象地域を絞って……この集落に限定。かつ、この五分間に願い事を呟いた人物をリストアップ!」

「承知しました」

 地図の横に、リストが並ぶ。十人の名前と、願い事の概要一覧だ。

「リストにある人を黄色から赤色に変更して表示」

 該当人物の表示が赤色になって、吹き出しが横につくんだよね。この吹き出しの中にさ、願い事の概要や、当該人物の年齢などの基礎情報が表示されるんだよね。

 神様業を支援してくれる神権……超便利!

「いかがでしょうか?」

「完璧!」

 疲れたから休みたい。酒が飲みたい。服が欲しい。恋人がほしい。生まれ変わりたい。身長伸ばしたい。恋人と別れたい。怪我をした弟の身代わりになりたい……か。 

 ん? この最後のヒュム、気になる。

 姉の年齢十五歳、弟十歳。

 二人とも今のオレと近い年齢だ。いいお姉ちゃんをもって幸せだな弟君よ。

「ターゲットを彼女に設定!」

「オーダー、承知しました」

 途端、自分が地図の中に引き込まれるような感覚に襲われる。

 次の瞬間、オレは姉の部屋にいた。ターゲットとして設定したお姉ちゃんの前に、透明の自分が立っている感じで。

 どうやら姉の方は、弟の手を握りながら眠りに落ちたっぽい。弟は……痛みでうなされてる。

「ロココさん?」

「聞こえております」

「弟の怪我って、どこかわかる?」

「少々お待ちください……」

 おぉ! 弟の横にモニターが浮かび上がった!

 これって……全身のスキャン画像? オレ、多分医者じゃないからわかんないけど。怪我しているのはきっと、赤く表示されている左腕だ。

 今は、布団の下に隠れて見えないけど……。

 でも、不思議なことに、オレが見たいと念じた瞬間、布団がスケスケに。服の下の左腕が見えた。どうやら左手の甲から(ひじ)の辺りにかけて―――

「―――っ」

 かなり広範囲だ。

 相当ひどい。

 とんでもなく痛いだろうな。十歳の子どもには、耐えがたい苦痛だろう……。

「原因は?」

 疑問を口に出した瞬間……少年の左手から別の小さなモニターが浮き上がった。タブレット端末みたいに、動画が再生され始める。神の力やべぇ……。

 モニターに映し出されたのは……元気よく動き回る少年の姿。

 それに腹を立てた父。父をたしなめる姉。怒りの矛先を姉に向けて殴り掛かった父の前に飛び出す少年。投げ飛ばされた彼の手に、テーブルの上の鍋から……熱湯が……。

「なるほどな」

 いい姉弟じゃん。

 お父さんも我に返ったのか、弟を抱きしめて謝ってるし。きっと、お父さんにも何かあったんだろう。イライラする何かが。暮らしぶりは貧しいみたいだし……母親の姿は見当たらないし……。

 でも、子どもに手を出すのはアウト。何があっても許されない。

「身代わりになってくれた弟の身代わりになりたいか……」

 そっと姉の頭上に手をかざし、唱える。

「【夢で逢えたら】……発動!」

「オーダー、承知しました!」

 あぁ……すごい。神権……ヤバい。

 姉の意識の中に、オレの意識が飛び込んじゃう感覚がして……入り込んだっぽい。彼女の夢の中に。オレの意識が存在してるっぽい。

「我の声が聞こえるか?」

 夢の中で泣きながら祈りを捧げる姉に、背後から声をかける。

「―――っ⁉ だ、誰なの?」

「そなたの願い、我が耳に届いた」

「………ひょっとして神様? ですか?」

「汝の願いを定義せよ」

「……え?」

「その願いの叶うやもしれぬチャンスを与えよう。汝の願いを明確に定義せよ」

 ギュっと涙を堪え、姉は祈りを唱え始める。

「神様お願いです。弟の手を治してくださいっ」

「まだ、足りぬ。願いを明確に定義せよ」

「弟の手、私をかばって火傷しました。痛みが強くて、前みたいに動かせるか、ちゃんと治るかどうかわからないって、どうしようもないって………大人たちは言うんです。でも、そんなの嫌なの……。だから、火傷する前に、痛みがなくて、きちんと動いて、いつものようにいたずらもできるくらい元通りに、弟の手を治してください! ずっとずっと、弟が元気で生活できるように治してください! そのためだったら私っ 」

「もうよい」

 弟の身代わりになることが願い―――そう神樹が判断したら、この子が傷ついてしまう。

 そしたら今度は弟がきっと姉の快復を祈るだろう。願い事ループが止まらない可能性がある。

 ふむ。

 願い事ループか……。思いつきながら……これはこれで興味深いテーマだ。

 でも今は、仮説A、B、Cの検証に集中する必要がある。

「‥‥わかりました。でも、お願いします!」

「汝の願い、確かに受け取った」

 そう告げた瞬間、妹のセリフが文字化され空中に浮かび上がる。

 吹き出しに手を触れると、それは天高く飛び上がって………空の向こうに消え去っていった。

「目が覚めて後、弟の手を見るといい。汝の定義が適切なら、願いは叶うであろう」

「ありがとうございます! ありがとう……本当に、本当にありがとう……ございます」

「礼には及ばぬ。弟を思う汝の気持ちが奇跡を呼んだだけのこと」

 そっと頭を撫でるけれど、やっぱり触ることはできない。

 直接的な干渉はできないってことか。

「神権……解除」

 ぼそりと呟くと、自分の体が浮遊する感覚があって。

 いつもの部屋に着いた……と思ったらバランスを崩して、ロココさんのザリザリ背中に顔面ダイブ。

「むぎゅぅ……」

 鼻が潰されて……も、痛くない。痛くないったら痛くない。神体だから。

 でも、帰還方法は練習したい。カッコ悪すぎる。神様として。

「お帰りなさいませ」

 ロココさん、さすが! ここで大人の対応奥義―――見て見ぬふりを繰り出してくれるとは。

「ただいま。弟は? どうなった?」

「仮説は支持されました。あちらをご覧ください」

 ロココさんが指さしたモニター。わんわんと、大きな声をあげる姉と……ポカンとした少年。

「さすがカイト様!」

「まだA、B、C……全ての可能性が残されてるけどね」

「でも、大きな前進です!」

「ありがと! 褒められて伸びるタイプだからオレ!」

「結果もですが、その結果を得るプロセスでのご尽力に最大の敬意を」

 ペコリと頭を下げたロココさんに、ムギュっと抱き着く。

「ロココさんのおかげだよ。何とかオレ、神様業できそう。ありがとう!」

「恐縮です」

 背中をザリザリ撫でて……達成感をフル吸収!

「これであと、二百九十九人ですね。あ、弟も感謝の祈りを捧げているようなので、残り二百九十八人です」

「……そうでした。あれ? これって、とんでもなく効率悪い? 」

「左様でございますね」

 にこりと笑ったロココさんに、ですよねーと乾いた笑顔が零れる自分。

 でも次の瞬間、互いに大爆笑。

 それはもう、地面を転げまわって大爆笑! 達成感を大満喫!

「ではカイト様の、記念すべき最初の偉業を収録いたしましょう!」

「え? 収録?」

「はい! ‘かくのごとく記録せよ’と、お唱えください」

「えっと……かくのごとく記録せよ?」

「承知しました」

 あっという間に、ロココさんが巨大な黄金の辞典に大変身。

 そのまま空中に浮かび上がって………おごそかに白紙のページが開かれていく。そこに見慣れない文字が浮かんで、先ほどの姉弟の画像と動画が収録された。

「ロ、ロココさん? なの?」

「もちろんでございます」

 空中でアルマジロに変身して……回転しながらカッコよく着地。さっきのオレとは大違いだ。にくいよこのっ! よっ! イケメンアルマジロ!

「てかロココさんて、いったい何者なの?」

「カイト様にお仕えするものでございます」

 イケボが静かに響き渡り―――

「………グゥ~」

 ―――オレの腹は間抜けな音で返事を繰り出した。






 さっきの更新を最後にしようと思いつつも、眠る前に時間ができたので、本日最後のひと投稿。最後まで目を通してくださりありがとうございました!

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