第5話:神様業は感情労働かもしれません
主人公やアルマジロ以外の人物が、力尽きているシーンがございます。苦手な方は、回避してください。
「基本的神権② ――神樹へのアクセスって、何かまずい力なの?」
不快な力って、ちょっと怖いけど。
「何と申し上げたらよいのでしょうか……」
「大丈夫だよ。覚悟決めたから」
「……承知しました。では、実例を挙げましょう」
「うん。よろしく」
ふわふわと浮遊したロココさんが<いい感じボード>に触れると、映像が映し出された。
マジで有能な道具だ。あ、それを出してくれたロココさんも、もちろんマジ有能。大感謝です。
「信仰を集めるために、創造神は、各種族の‘願いを叶える’という仕組みを、この宇宙に設けておられます」
「えっと……願いを叶えるのはオレや他の神様たち? それとも創造神?」
「厳密には異なります」
「なんだ。違うんだね」
神様が「願いを叶えてしんぜよう」って感じかと思ったのに。
でも、そっか。オッスオラ○○の人が主人公の神話でも、神様じゃなくてボールから出た龍が願いを叶えてたっけ。
「神様たちは、各種族の願いを持つ者が、祈りなどを通して神樹にアクセスするのを助ける役割を担っておいでです」
「つまり、それが神樹へのアクセス権ってことだね。じゃあ願いを叶えるのは神樹?」
「ご明察です」
「なるほど」
「では、動画を再生しましょう。こちら、ノンフィクションです」
<いい感じボード>=======================
一人の女性が、苦しそうに横たわる男性の前で祈りを捧げている。
必死に、どうかこの人を助けてほしいと。
『お前の声、確かに届いた』
「この声は?」
『私は女神。願いが叶うように、祈れ。もっと強く、必死に祈れ』
姿の見えぬ女神の声に反応して、さらに祈る女性の傍で、男性の体が光り輝く。苦しそうな男性の表情が和らぎ女性に優しく微笑みかける。
歓喜の涙を浮かべ抱き合う二人。
しかし次の瞬間、安らかな表情で、男性は瞳を閉じた。
力をなくした両手が地面に向かって垂れ下がり…… 女性の悲鳴が痛々しく響き渡る。
=======================
「記録はここまででございます」
「……ちょっと待って」
なんだアレは。
助けてという女性の願いを、女神が神樹にアクセスして届けたってことは、何となくわかる。
けど、男性は一瞬回復して、結局、力尽きたように見えた。
まさか……安楽死か?
「助けるって、苦しみから解放したってこと? 」
「はい。おそらく神樹はそのように願いを判断し、叶えたのだと思われます」
「……ポンコツじゃん」
「神樹は気まぐれと言いましょうか……」
「やっぱりポンコツじゃん」
「膨大なエネルギーの集積体のようなもののため、神樹のコントロールはたいへん困難です。また、神樹には、意思のようなものはないと考えられています」
ロココさんは、複雑な表情を浮かべている。
きっとオレの表情が、複雑だからだろうな。
女性のことを思うと、男性のことを思うと………どうしても涙が零れちゃう。だって……ひどくない? 助かったと思った次の瞬間、離れ離れになった二人のその先を思うと……胸が痛い。
「オレたち神には、願う者と神樹とを繋ぐためのアクセス権しかない」
「仰せの通りです」
「願いがどのように叶うかの調整も、叶った結果の修正もできないわけだ」
「適切なご理解です」
「神樹は願いを叶えてくれる。その願いのエネルギーは信仰心として神樹の資源になる。けど、結果については、最善を保障してはくれない……」
どう考えても詐欺じゃん。
それに結果が伴わなければ、信仰心は薄れるだろうに。
でも……そっか。地球でもそうだったじゃん。
人は、祈りを捧げる。叶わないと知りつつ……それでも苦しい状況に置かれると、祈りを捧げるんだ。祈りを捧げること自体が救いになることがあるから。
そして神樹は、その祈りからも資源を獲得できるわけだ。願いがちゃんと叶わないって話が広まれば、信者が減る。そうなると信仰心は量的には低下する。でも、少数の切実な祈り―――つまり信仰心の質によって……神樹の資源はゼロにはならない。
「先代様は、苦しい思いをたくさん重ねられたとのこと。ついには、ご自身の感情を閉ざされてしまったようです」
それで神様業を引退することにしたのか。
こんな福利厚生が手厚いのに、この仕事から退くなんておかしいと思ったんだ。
「ロココさん、お願いがあるんだけど」
「何なりと」
「可能な限りたくさん、映像を見せて。神樹の攻略パターンを見出す。じゃないとオレ、神様業始められない」
「先ほどのような苦しいケースも多くございますが……」
オレが苦しまないようにと案じてくれるロココさんの優しさ……胸にしみるよ。
「ありがと。でも、神様業引き受けたからには、頑張るよ」
ニコリと笑ってみた。
きっと、いや絶対にうまく笑えてないけど。
「カイト様にお仕えできて……私めは幸せです」
優しそうなその声が、やっぱり安心感を与えてくれた。
目が霞んでよく見えないけど、きっと、微笑んでくれてる。
「ありがと!」
神様が泣いてちゃ、情けないよな。
ゴシゴシと、腕で涙を拭って、両手で頬をパンと叩く。
よし! 気合注入完了!
神樹攻略……開始だ!
前書きの注意表現が難しく、読後に不快な思いをされた方がいらっしゃいましたら、お詫び申し上げます。申し訳ございません。
<20210504:セリフ等加筆修正済み>