エイリアン!?
あいつだ――。宇宙飛行士のエリオットは咄嗟に思った。が、すぐにかぶりを振り、
「そんなはずはない」言葉に出して否定した。
宇宙ステーションを飛び立つとき、船内を何度もチェックしたではないか――。
エリオットは、「気のせいに違いない」もう一度声に出し、先刻耳にしたカサカサという不気味な音を頭から追い払った。
それでも、不安は拭えなかった。もしかしたら、宇宙ステーションであいつが繁殖しているのかもしれない。人知れず繁殖し、そのうちの一匹がこの船に侵入し……。この船には俺しかいない。もし、奴が入り込んでいるとしたら……。
そこまで考えて、エリオットはもう一度かぶりを振った。
「そんなはずはない」
同じ言葉を繰り返し、背筋の凍るような音をもう決して聞きたくないとばかりに、耳を塞いだ。
しかし、エリオットの悪い予感は現実となった。ついにエリオットは、目にしてしまった。忌わしい黒い影を――。
「やっぱり、あいつがいた」
震える声で呟き、エリオットは火炎放射器を手に取った。こいつで焼き殺してやる。身構えて、黒い影が走り去った方へ向かった。
そこに、奴はいた。長い触角をしならせながら、黒光りする羽を小刻みに震わせ、エリオットを窺うようにして、じっとしていた。
「あ、ああ」
その姿を見て、エリオットは吐息のような声を漏らした。恐ろしさのあまり、火炎放射器を落とした。その音に反応したように、奴が走りだした。エリオットに向かってきた。
エリオットは「うわあっ」と叫んだ。奴に背を向け、一目散に駆けだした。脱出ポッドにたどりつくと、そこに入り込み、バタンと扉を閉めた。そうして、ポッドの中から宇宙ステーションに連絡を取った。
「あ、あいつが、船内にいるんだ。わ、私は今からポッドで脱出します」
エリオットが叫ぶと、宇宙ステーションから、
「あいつって?」呑気な声が帰ってきた。
「宇宙ステーションで、繁殖してるぞ」エリオットはなおも叫んだ。
「だから、何が?」
「俺はこれから、あいつもろとも、船を爆破する。き、君たちも、あいつらを根絶やしにするんだっ」
エリオットが泣き叫ぶようにそう言うと、宇宙ステーションがしばらく黙り込んだ。
まさか、彼らも、あいつらに――。
エリオットは怖くなった。もはや、人類存亡の危機なのだ。どうしたらいいんだ。
エリオットが恐怖に震えていると、やがて、宇宙ステーションから声がした。
「君の船をスキャンした。君が言っている〝あいつ〟って、ゴキブリのこと?」