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愚者の自覚と猛省とそれからすること

結論から言えば、ティナは確かに青い光を発していたらしい。


クレアは正確には青龍にあたるらしく、その影響か魔力にもその髪にも青い光が混じるらしい。

5年前のあの日、彼の魔力を借りたティナはその影響下に確かに居て、その姿を目撃した証言者達は姫君を青髪碧眼だと誤認した。

そして本当のティナを知る者の、そのほとんどは敗戦の末に殺された。


その姫君の行く末を探す者は実は多く居たのだが、クレアを始めとした面々が、ティナを見つけることが出来なかったのは、その外見も少なからず影響したというわけである。


「あのアルバートって人、私の事吹聴するかな」

平和が最大のピンチである。

現時点でも大概平和とは言い難いが、それを考えると頭痛がするので突っ込まない。

とにかく今を脅かす危機的状況に、ティナはげっそりと項垂れた。

「しないでしょ。向こうもティナの存在が明るみに出ると色々不都合が出るだろうし」

「不都合?」

「そう。…手が止まってるんだけど。ちゃんと集中してやってよね」

「してもらっといて偉そうなんだから。クレアこそ動かないでよね」


ティナは、クレアの腰に乗り掛かると、両肩のマッサージを再開する。

龍のくせに筋肉が固まるとかなんなんだと悪態を吐きながら、手のひら全体で肩に力を圧し当てる。

「筋肉ある生物は皆凝り固まるもんでしょ。もっと力入れてよ。くすぐったいだけなんだけど」

「…………」

揉み返しで明日苦しめ、と呪いを込めながら体重をかけて揉んでいくと、クレアは全身をリラックスさせてふぅ、と息を吐き出した。

「お姫様とは思えないぐらいに上手いじゃん。整体師の才能あるんじゃない?」

前世で通った整骨院の見よう見まねだったが、どうやら悪くないようだとその様子に安堵する。

こうなったら徹底的に気持ちがいいと思わせてやる、と謎の闘志を滾らせて、ティナは丁寧に時間をかけて筋肉を揉み解していった。

「それで、不都合ってなんなの?」

「んー?カンターバラの奇跡の姫君って言ったら、今やどこの国でも英雄扱いだからね。味方にしといて損はないでしょ?」

「益もない気がするけど」

「貴族の支持を集めやすくなるし、癒しの魔法は希少だからね。しかもあの夜ティナは失くした四肢さえ治してた。正に奇跡の業だよね。どう考えてもお買い得でしょ」

「あれは、クレアのおかげで出来ただけで、独力では絶対に無理なんだけど」

「そんなこと知ってるわけないでしょ?真実何が起きたかもわかってないお偉いさん方は、ティナを都合の良い道具として持っておきたいことだろうね」

「大迷惑」

「同感。あいつと同じ考えなのは不本意だけど、アルバートも多分そう思ってる。ティナの存在が明るみに出て、横からかっ拐われたら困るしね」

「誰だとしても手前勝手な話だわ。こっちはたまったものじゃない」

「利用されたくないならせいぜい足掻くしかないね。そもそもここに来たことですら、ハルに利用されてる訳だしね。ティナを囮にしようとか、ほんと何を何処まで知ってるんだか」

「え?囮に…?」

一気に顔が青ざめる。

ハルの執務室に忍び込んだ時の会話を必死に思い出しては振り替える。

彼は何と言っていた?

「囮って、何の?」

「ティナを狙うのは誰かわかるだけでも、相手の目的を図りやすいでしょ」

「目的って?貴族の支持と回復能力…戦争を仕掛けたい人物ってこと?」

「そうだね。大体はそうだ。けど、アルバートは違う」


先ほどの事を思い出して、ドキッと心臓が跳ねる。

彼は、悪魔の話を持ち出した。

ハルは悪魔の話はタブーだと言っていた。

にも関わらず、いとも簡単にその単語を口にしていた。

それは、私が相手だったから?

私の反応を見て、私の正体と、知識と、鍵の信憑度を知りたかった?


けれど物語では、私は魔王を使役出来なかった。

その前に死ぬのがほとんどで、ひとつだけ魔王と出会うルートはあるが、出会った瞬間に彼の放つ黒炎に焼かれて結局死んでしまう。

魔王に存在を認識されたかどうかも怪しい悲しい結末である。

となれぱしつこいくらいに訴えてくる悪魔に関する夢が、ただの夢なのか、本当の約束なのかもわからない。

いや、あれほどの約束を交わした相手に気付かず殺してしまいましたとか、あり得る?

少なくとも夢の中ではそんなお間抜けな悪魔とは思えなかった。

ってことは魔王が召喚されたとして、私は鍵にはなり得ない。一瞬で焼かれる運命だということ。

ならば私も世界も滅ぶだけだ。だって、ヒロインがまだ登場してない。

何か打つ手を考えなければ。悪魔を呼び出す前に阻止するしかない。


「………ちなみに、クレアは悪魔って知ってるの?」

ティナが一人で真っ青になっていくのを静観していたクレアだったが、続く話題が悪魔であることに、面倒くさそうに顔をしかめる。

「知ってるよ。会ったこともある。あんまり反りは合わないかな」

声すらもうんざりしていて、ティナはその声に疑問符を浮かべてクレアを見る。

「手が止まってる」

けれどすぐに指摘されて、今は腰へと位置を移したマッサージを再開する。

「悪魔ってどんな外見なの?もしかして、しろーい感じのイメージに、赤い目とかしてたりする?」

「何その具体的そうでぼんやりした外見。悪魔っていうのは空間軸が違うだけで、人と同じようにわんさか居るよ。そんな悪魔も居るだろうし、人の形状を為してない悪魔だってたくさん居る」

「そうなの?モンスターみたいなやつ?」

「そう。力が強いほど人の形に近くなる。だから人型の方がずっと少ないし警戒しなきゃいけない。…そういえば白いって言えば、最古の悪魔ってのがそうだね」

「それ!それ聞きたい!」

「何?また手が止まってるんだけど」

「マッサージとか呑気にやってる場合じゃないんだって。ねえ、ちゃんとその話が聞きたいわ」

「興味津々過ぎて怖いんだけど。その悪魔に何かあるわけ?」

「うーん。えっと、まあ、ないこともないというか」

「急に歯切れ悪いねなんなの。情報欲しいならティナも出しなよ」

「えー?でもちょっと、頭オカシイとか言われそうだし」

「ティナが頭オカシイのなんて今に始まったことじゃないでしょ。最初に俺見て正体見抜いた時から充分オカシイから」

「出会って一発目からそんなこと思ってたの!?酷い!!」

「ティナは自分を過大評価しすぎじゃない?王女が国捨てて逃げるとか、平民になって普通に適応してるとか、権力を取り戻せるのに拒否するとか、結構めちゃくちゃしてるからね?どう好意的に見ても変人でしょ」

「がーん!!!客観的に冷静に言わないで!」

「何を今更言ってんのさ。それより悪魔の話でしょ?」

「ちょっとそれどころじゃなくなったから放っておいて!」

「面倒臭いなもー」


よくよく考えればその通りだ。

王族が国民置いて逃げ出したとか最低じゃないか?

他の王族はその首すらも差し出して国民を守ったというのに!

何が奇跡の姫君だ。

一番の無責任が厚顔下げてのうのうと生きていただけだった!!


自己嫌悪に打ちひしがれて、ティナは蹲って動かなくなった。

「何?自分の変人さに打ちひしがれてるの?今更?」

そんな可愛い問題ではない。

「違う。………最低だと自覚した」

「何が?あぁ、国民を守る義務を放棄したこと?それこそ今更だよね」

いちいちグサグサと胸を突きさしてくる容赦ないクレアの言葉にティナは瀕死状態である。

吐血しそうな精神状態で、過去の自分を嫌悪して猛省する。


考えなしだった。

いくら混乱してたとはいえ、最低最悪じゃないか。

カンターバラの国民は、皆さぞ私に失望したことだろう。

「あのね。あそこで死ぬことが義務だとか思ってるんなら、それこそ傲慢だからね」

「…え?」

「死んで償うやり方を否定するつもりもないけど、俺からしたらそれこそ問題を投げ出して、死に逃げるだけの自己満足の極みだね。生きて国民の為に何かを為す方が、よっぽど建設的だと思うけど?」

「………」

けれど自分は敗戦してから、平民が良いと逃げ回っていただけだ。

「今やカンターバラはヴィルシュタットの傘下になる。ヴィルシュタットが倒れたら総崩れになるのは当然だよね。つまり、ティナにも出来ることはあるんじゃない?」

乙女ゲーム目線でしか考えられなかった愚かな自分を悔いながら、ティナはクレアの言葉に目を見開く。

今からでも、出来ることはあるだろうか。


「クレア。聞いて欲しい話があるの」

もしもアルバートが悪魔を召喚するつもりなら。

それで世界を掌握できると思っているなら。

「止めないといけない。計画が明るみに出る前に」



真っ直ぐ前に向けた瞳を不遜に笑うクレアの目が受け止めた。



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