情報整理
完全なる説明会です。
退屈な方すいません。
【龍と精霊のサンクチュエール】にはラスボスが存在する。
そもそもこのゲームのコンセプトは世界を救う!という壮大なものであり、ラスボスをやっつけることで世界に平和をもたらすと共に、愛を育む仕様なのだ。
ファンタジーのラスボスと言えばその人、いわゆる魔王というのがお約束である。
魔王は最初から世界に君臨している訳ではなく、馬鹿で低俗な王様が召喚して使役しようというところから物語は始まる。
そしてその、馬鹿で低俗な王様とは、ラッフェコルタの国王その人であるのは話してる内に思い出した新たな事実である。
ラッフェコルタ王国は、争いの絶えない土地であった。
小さな国がいくつも集まって出来ており、領土を広げようと侵略、再侵略を繰り返し、王は次々と討たれては入れ変わっていった。
大きな領土を持つこともあれば、いくつもの王が小さな領土を治めている時代もあった。
その中で王族の血は薄れ、やがてはその色を失くしていく。
天帝の血を引く者はいつしか途絶え、魔法を使役出来る者は例外を置いていなくなった。
例外とは、つまりは他国の王族との婚姻である。
魔法具に依存することでしかその恩恵に預かれない国で、他国を侵略するための武器となりうるもの。
打ち勝つための対抗策として、彼らは悪魔を召喚するための研究を始めることになる。
長い研究の中でわかってきた事は、悪魔召喚に必要なものは事細かないくつかの決まりと呪い。
そして条件を満たす生贄と、膨大なエネルギーであった。
その材料のひとつとしての巨大なエネルギーを得る為、ラッフェコルタは最高級の魔法石を手当たり次第かき集めていた。
そしてもう一つ。
生贄の条件として、天帝の血を引く王女の魂が必要であった。
遠い神話の時代、天帝から産み落とされたとされる悪魔と精霊。
そのほとんどを相対させる彼らが、共通して欲するのがその色を残した人の魔素なのだ。
そこに天帝の気配を感じることが出来るからだという説もあるが、その理由は解明されてはいない。
ただ、確かに人の魔素は彼らを引き寄せるための餌となり、取引のための条件となるのだ。
精霊がその魔素を少し譲受してもらうのに対して、悪魔はその魂ごと奪い取る。
その凶悪さから悪魔召喚は禁呪とされ、いつしか歴史から姿を消していった。
けれど知識はけして失くなりはしない。
悪魔に侵され何度も絶望を味わったとしても、繰り返す愚者は必ずいつの時代も存在した。
その詳細を認めた書物は、何度燃やしても何故か燃え尽きることはなかった。
悪魔召喚が成功したとして、使役出来るかどうかはまた別の話である。
悪魔社会は至極単純で、その力量こそが順位を決める決め手となる。
つまり、力でねじ伏せればいいのだ。
けれど普通に対峙して、人が悪夢に勝てる要素など万が一にもあり得ない。
そこで悪魔に対抗しうる手段として、出現場所に拘束効果のある魔方陣を描いておき、それに悪魔が手こずる間に使役の呪術をかけるという手段が有効であった。
この魔方陣の維持にも、使役の呪術にも、多くの魔力が必要となる。
召喚する悪魔が強ければ強いほどより強大な魔力が必要となり、魔法の持ち得ないラッフェコルタ国民には、その手段はやはり魔法石一択なのである。
つまり、魔法石が尽きた瞬間に悪魔が暴れだし牙を向く。綱渡り状態の危険な手段であり、けれど返る利益は計り知れない。ハイリスクではあるものの、ハイリターンの魅力に取りつかれて、彼らは愚かにも最後の召喚までこの悪行を止められずに進むのだ。
そう、強靭な悪魔を召喚してしまったとしたら。
魔王なんてラスボスをもしも彼らが召喚してしまうとしたならば。
物語ではそれに立ち向かう攻略対象達が魔法と武力で対抗し、聖なる力を持つ主人公が、パートナーとの絆を力に変えて命かながら魔王を封じ込めてのハッピーエンドか、絆ゲージが低ければ、力及ばずのバッドエンド。
バッドエンドのその先はゲームオーバーという形で詳しくは描かれてはいなかった。
けれど、世界を巻き込んで魔王は頂点へと君臨するだろう。対抗する手段など、脆弱な人間は持ち合わせてなどいないのだから。
ここまでの流れなら、悪役令嬢が死ぬフラグがないと思うかもしれないが、物語が進む中、悪役令嬢にはなんと悪の血が流れてると最終決戦の前に極刑となるのだ。
とんだ言いがかりである。
もちろん王道に則って聖なる乙女を傷付けたとして処刑というパターンも存在する。
他にも誘拐して処刑。悪魔の仲間と言われて処刑。陰謀の黒幕扱いで処刑。処刑。処刑。処刑処刑処刑。最後に極めつけは魔王に殺されるなんていう、ざまあ扱いの自爆エンドである。
スタッフそんなにクリスティーナが嫌いかと思わず毒吐きたくなるほどに、とにかく何があろうと死ぬ運命なのだ。
というのも自爆を除く罪名に上がる通り、魔王を使役する鍵が、カンターバラに関与するためである。
太古の昔に交わされた約束。
その契りに則る手段こそが、物語のキーワードとなるのだ。
ゲームの話になぞらえるなら、主人公の少女は男爵家の娘で、学園に入学するところから物語は始まる。
学園では身分の差からほとんど攻略対象たちと出会う接点のない主人公だが、ある事件をきっかけに環境がガラリと一変する。
その出来事こそが悪魔の襲来なのである。
最初に現れるのは下位の悪魔で、学園に襲い掛かるその悪魔を主人公が聖なる力で消滅させてしまうのだ。
先にも述べていた聖なる力とは、天帝にも精霊にも依存しない、神に愛された者だけに受け継がれる奇跡の力である。
いわゆる主人公チートという恐るべきご都合主義の力であり、彼女が《神の愛し子》と呼ばれる所以である。
その力を持つ者が生まれるのは数百年に一度とも言われ、規則性も共通した特徴もないために発見されずに生涯を終えるパターンもあるらしい。
主人公の場合はこの出来事をきっかけにその能力が露呈され、王族やら何やらに祀り上げられてはもてはやされる。
けれどそれを快く思わないのが悪役令嬢を始めとする高貴なご令嬢の方々である。
身分的には下位も下位の小娘が、学園カーストの上位ばかりにモテて、もてはやされる図を面白く眺めていられるわけがない。
隙を見つけては攻撃してくるご令嬢や少しずつ凶悪化していく悪魔と戦いながら、真の愛を深めていくというのがおおよそのストーリーなのである。
さて。
もしこの筋書きに入っていたとして、彼らが戦争を起こす目的とはなんだ?
ゲームでは国が傾いたという曖昧な表現しかなく、詳しくは語られていなかった。
ハルの行った国情調査では、ラッフェコルタの経済景気はここ数年右肩下がりを示していた。
その原因は、無理な魔法石や武器の調達である。
費用は嵩む一方で、国の借金や税金の徴収額は右肩上がりとなり続ける。
徴収額が上がれば上がるほど、当然国民の平均所持金額は落ち込み続ける。
出し渋りが常習化すれば、市場を賑わせる流通額も当然低下する。
売り上げが減れば、国民の所得額も低下する。けれど税だけは増す一方。
国民の不満は増大し、爆発寸前といったところだろう。
けれどこれさえ乗りきって、念願の侵略が叶ってしまえば彼らには裕福な暮らしが待っている。
そのためどうしても失敗する訳にはいかず、また表立って動いて他国にばれるのも避けなければいけない。
大々的に国民に方針を伝え聞かせるわけにはいかず、彼らの不満を発散させる手段として、敵意を他国へ向けさせる政治が行われる。
悪役となる国が必要だった。
どうせならばこれから占領したい国がいい。
それに巻き込まれたのがヴィルシュタットだった。
ほとんど独占状態の輸出品である魔法具に目を付けた。
魔法具は他と比べても高級品で、けれどラッフェコルタにとっても生活必需品である。
技術者の居ないラッフェコルタで独自の開発は困難で、現在輸入に全面依存状態となっていた。
その魔法具に、意図的に不具合を起こさせては自国の技術者が修理を担う。
技術者達は知識がなくとも、自国で仕掛けた不具合を正せばよいだけなので難しい技術は必要ない。
高価な割によく不具合を起こす魔法具を売り付けるヴィルシュタットの印象は悪くなり、それらを安価で直すラッフェコルタの印象は良くなるだろう。
安価とはいえ、修理に支払う費用はそのまま国財にも回せ、一石二鳥となる仕組みである。
市場が潤わない原因は他にもあった。
ここ数年続く悪天候の繰り返しである。作物は育ちが悪く、こちらも自国で賄いきれず、輸入品に頼る状態となっている。
あれもこれもが赤い中、唯一右肩上がりなのが宝石業だった。
表向き官吏に調べさせてはみたが、宝石自体の流れはそれほど変化が見られなかった。
けれどその裏から探りを入れると、闇取引にて売買される慈光石が飛ぶように売れているのが原因だそうだ。
慈光石。聞き覚えのない名前だと思えば、どうにもフェアリーストーンの別名らしい。
フェアリーストーンは宝石としての価値も高く、また戦争を仕掛けるのであれば毒ガス生成にも役に立つ。
流れを読んだ貴族たちが買い集めているらしく、結果そこの経済だけは飛びぬけて好景気をもたらしているようなのだ。
少しでも多くの魔法石を手にすることが、そのまま将来への投資になる。
どれだけ窮屈でも先が見えれば耐えられるはずだ。
ヴィルシュタットの印象を悪くさせ、最後に魔法具の不調は彼らの陰謀だと噂を流せば敵意に変わる。
かの国を落とせば貧困も解消できると士気を上げさせ、そのまま戦争へともつれ込ませる算段かもしれない。
けれど、ここでひとつ疑問が生じる。
ハルに多くの令嬢を紹介して国交を強めようとしている点だ。
国交が強まれば、魔法石も魔法具も輸入しやすくなるだろう。けれど戦争を仕掛けるのであれば、その存在は邪魔になるはず。
天帝の血を継ぐものとして、種付け役にしたいのか。
それともハル自身を悪魔への生け贄にするのか。
それとも国交を深めておくことで、情報を集めやすくする、いわゆる間者役に妃を据えたいのか。
けれど物語ではハルの婚約者はクリスティーナで、最終的に恋に落ちるのは主人公である。
つまり、この戦略は上手くいかないということだ。
けれど。
人の命をなんだと思ってる?
机上の駒を動かすように、そこに熱を伴わないやんごとなき戯れなのだとしたら、考えるだけで腸が煮える。
皇后までもが誘惑に来ていた。
ハルの前に吊り下げられた誘惑が何であったかは不明だが、王族が、国のトップがそういう考えなのだとしたら。
ぐらりと腹に熱が溜まるのを感じなから、ティナは歯を食い縛る。
国民の幸せを願うだけの行動だったとしても。
そこに巻き込むのは、他人の蜜を吸い取る手段であってはならない。
5年前に強く憤ったのは、その絶望に胸に去来した感情は、身を焼くほどの嫌悪であったというのに。
人は学ばない。
対岸の火事に血の通わない見方しか示さない。
クレアは、こんな人ばかりを見てきた?
こんな愚かな生き物だと、彼は蔑んで来たのだろうか。
だけど彼は、5年前力を貸してくれた。
愚かな人間に、見切りをつけずに手を差し伸べた。
そこにあるものは、けして無慈悲ばかりではないと信じたい。
戦争の可能性はある。
悪魔の召喚に関しては断言できるものではないが、現に大量の魔法石を彼らは秘密裏に集めているようだった。
ハルにも、人づてに聞いたとある程度の情報を流すことが出来た。
心配なのは、アナシフィア王女殿下の身の安全である。
彼女は魔法を使えると言っていた。
つまりは生け贄候補だということだ。
ハルに聞けば、アナシフィア王女殿下は他の王族と母を違えているらしく、魔法を扱える王族が他に居るかは定かでない。
それにより重宝される反面、髪色を始めとした陰口を囁かれる対象になっているようである。
彼女の境遇はどこか、ゲーム中のティナの立ち位置にも重なる気がする。
とにかく彼女の元へと戻らなければ。
愛くるしい姫を想い、ティナは憂いに瞬きをした。




