表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/76

戦友と言う意味での友達かもしれない

 改めて、セリウスとティナは廊下の脇で立ち話を始めていた。


 聞くとセリウスは最初から外交メンバーに入っていたらしい。護衛として一番豪奢だった馬車の横を追随し、町についてからも付き従っていたのだとか。

 今回の外交メンバーの最高位となる方々の護衛とは。先程の高官と思わしき男達の180度入れ替えたような態度といい、もしやこれは唯一の同志と思われたセリウスもやんごとなき立場なのかもしれない。

 ティナはそそくさとセリウスから距離を取った。


「それで、何しにこっちの宿屋に来たの?」

「ああ、さる方の命でちょっとな。ティナは初外交どうだ?」

「うーん。控えめに言って最悪」

「そりゃあよかった。俺と一緒だ」


 あちらはあちらで何やら苦労があるらしい。予想している人物が間違いではないならば、確かに彼の傍で四六時中遣えているのは大変そうだとティナは思う。


「アストロス管理官は?一緒じゃないのか?」

 聞かれて目を瞬かせる。

 どうやらセリウスまでがティナの近状を把握しているらしい。情報源はどこだろう。

「なんか、ここに着いてからすぐにどこかへ行っちゃったのよね。私も探してるんだけど」

 困惑しながら答えると、セリウスも「あぁ」と疲れた声で返事をする。

「あの人も自由人だからなー。今回も何がなんでも馬で行くって譲らなかったし」

「馬でって…他にどんな手段があるの?え?まさか歩き?」

 あの距離を徒歩でとなると想像するだけで嫌気が差す。思わず上官に感謝するティナである。

「違ぇよ一体どんな発想だ。歩兵なんて恐れ多いことあの人にさせられるか。馬車だ馬車」

 けれど続く言葉にますますティナは目を大きくする。

 馬車に乗る予定だった?

 あのうさん臭さからは考えられないが、どうやらかの上官もやんごとなき身分らしい。

 思い至れば、何か無礼はしなかったかと冷や汗をかく。とりあえずさん付けはまずかったかもしれないと、だけどあの時点ではあの人の肩書きすら教えてもらえなかったのだから仕方がないではないかと考える。

「まあ、あの人の行動は俺の上官以上にわからんから放っといても大丈夫だろ。それで、ティナはもう寝るのか?」

「え?ああ、そうね。ちょっと気になることがあるから確かめに行こうかと思って」

「あん?気になること?」

「耳に入れるほど大したことでもないんだけどね。それよりセリウスの用事は大丈夫なの?あ、内容は言わないでね絶対。お願いだから巻き込まないで」

「……その抵抗、無駄だと思うぞ?」

「不吉なこと言わないで」

「まぁ、抗いたい気持ちはわかる」


 やはり彼は同志である。

 同志であるが、共に戦うつもりはないティナはじゃあまたね、と巻き込まれない内にさっさとその場を後にする。足早に逃げ去るティナの後ろをけれどセリウスがついてきた。


 訝しげにセリウスを見る。

 彼もこちらへ用事だろうか?と思案するが、セリウスの場合は来た道を引き返す形になるのでどうにもおかしい。ティナの行き先とまったく同じに外に出ても、海に続く道を歩いてもついてくる。

 とうとうティナが駆け出すと、同じ速度でセリウスもついてきた。思わず全速力になるティナである。


「ちょっと!一体なんなの!?」

「いや、俺もちょうどそっちに用事があるというか」

「じゃあさっさと行きなさいよ!私の後についてこないで」

「いや、それがティナが聞きたくないって言うから黙ってたけど、俺の用事っていうのが、ティナのよ」

「言わないで!それ聞いたらどうせ巻き込まれるやつでしょ!?勘弁して」

「じゃあまあ諦めて一緒に行こうぜ」

「それもなんか嫌なんだけど――――っ!?」

げんなりと言い放つティナは、けれどふいに強い力で腕を引かれて小さな悲鳴と共にセリウスにぶつかる。今度はなんだと文句を言おうとしたら

「あっぶね~、ちゃんと前見て走れよな」

 セリウスの呆れた声が聞こえた。

「へ?」

 間抜けな声がもれるティナである。


 ふいにばしゃん、と水音が聞こえ、そういえば塩の匂いも濃くなっていたことに気が付いた。

 進行方向を確認すれば、眼前に暗闇が広がり、海がぽっかりと口を開けていた。

 ティナのいる場所は、堤防の役目もあり結構な高さにある。水面は見下ろす形となるが、ごおっと海風が吹く度にざぱん、と波が打ち付けられ、上がる水しぶきがティナを濡らした。


「…セリウスさん、今私海に投身しようとしてた?」

「そうだな。この視界も悪い中、寒中水泳だなんて正気の沙汰じゃねえよな」

「ですよね。………セリウスさん」

「なんだ?」

「ありがと」

「……おう」


 これは洒落にならないドジを踏むところだったらしい。そもそもは追ってきたセリウスのせいではあるが 前方不注意にも程があった。

 ティナは慎重になった歩行で海岸沿いを歩きだす。今度はセリウスも横に続いた。

「それで、結局どこ行くんだ?」

「んー。まぁ、別に内緒でも何でもないんだけど」

 彼を巻き込んで良いのだろうかと思うとなんだか口が重くなるが、先の失態に邪険な態度に出にくいティナは、船着き場へ着くまでの道のりをポテポテと歩きながら、これまでの経緯を説明した。





 海沿いを歩いたためか迷子にもならずに船着き場に到着すると、既にいくつかの明かりがあった。

 それに気付いたタイミングで相手もこちらの明かりを見つけたのか明るい声が飛んで来る。

「あ!お姉さん来た!」

 続いて他の二人のほんとだ、来たのかよ、なんて声が続いて合流すると、子ども達の視線はセリウスを見つけて興味深げに留まった。

「お兄さんだれ?」

「お姉さんの彼氏でしょ!?」

「え!?」

 きょとんと見つめるディスクに、確信を得たり!と自信満々のアンナ。そして何故かガーン、と効果音が聞こえてきそうな程目に見えてショックを受けるケントと三者三様の反応だった。

 そんなケントの反応に首を傾げるティナとディスクに、ははぁ、としたり顔をするセリウス。

 そして、ぷくりと頬を膨らませるアンナが、ケントの頭を手加減もなく殴った。

「あんたその惚れやすい性格なんとかしなさいよね!」

「ばっ!!そんなんじゃねえよ!誰がこんなおばさん!!」

 そして話題に置いて行かれていたティナが、不穏な単語に食らいつくなりケントの顔を押しつぶして、心配顔のディスクが慌てて仲裁に入った。



「それで、お兄さんは誰なの?」

 幽霊船の現れない地平線をぼんやりと眺めて、冷える海岸で身を寄せ合いながらディスクが改めて尋ねてくる。セリウスはティナの友達だと当たり障りなく返事をすると、まだ友達以上恋人未満なのね、とアンナが目を輝かせて推理した。実際は知り合い以上友達未満くらいの関係なのだがこれ以上話をややこしくしたくない空気の読めるよい子のティナは口を噤んで成り行きを伺った。


「にしても幽霊船来ねえな」

 ケントがつまらなそうに唇を突き出すと、本当よね、とアンナが同意する。

 吹き付ける風と水しぶきは体温を奪っていくばかりである。

 ただ何もせずここに居続けるのもツライ、と解散のタイミングを見計らい始めた頃

「…ん?あそこ、なんかいねえか?」

 一番に気付いたセリウスが声を上げる。

 暗闇の中、まるで野生の獣の目のように光る何かが遠くに見えた。

 じっと目を凝らしていると、それが船首に取り付けらた灯りだと気付く。

 一台の船がゆっくりと岸に向かって来ていた。


「幽霊船!?」

「光ってないじゃない!!」

「本当に出た!!」

 一気に興奮する子ども達の横でセリウスは冷静に声を出す。

「この港に、夜に船が着く事ってあるのか?」

「え?」

「ないわよ!早朝の暗い時間から出る船はたくさんあるけど、こんな夜更けになんて漁船はもちろん、貿易船だって見たことないもの!」

 戸惑い、1テンポ遅れるディスクの代わりに口達者なアンナが答える。

 セリウスはそれを聞きながら、目を細めて船を眺めた。


 幽霊の存在を基本的に信じていないティナには、その船はただの不審な船にしか見えない。

 そもそも話を聞いた時からきな臭い感じしかしなかったが、本当に現れるかといえば半信半疑であった。

 だからあまり警戒もしていなかったが、怪しい船は現れてしまった。

 冒険したくなる子ども心はわかる。だからそっと見守ればいいかとその危険を軽視していたティナは子ども達を止めなかったことを後悔する。


 闇に紛れて船が岸付けされる理由など、密輸や密入国などの後ろ暗い理由しか見つからない。

 ティナは背中に汗が流れるままに子ども達へと身を寄せた。


 暗闇の中不気味に現れたその船は、船首を旋回させ、船着き場ではなくその奥の建物の影へと向かい始める。

 興奮した子ども達がそちらへ走り出そうとするのを焦燥に駆られながらも引き留める。

 とにかく目立つ照明を消すため大急ぎで魔法石を取り外した。


「え!?何するの!?」

「真っ暗になっちゃうじゃない!?」

「離せよ!」


 慌てた子ども達を壁際へと誘導する。ティナがアンナの手を引けば、セリウスが同じようにディスクとケントを抱えてそっと身を潜めた。

 その間にも死角へと入った船の方向からザバン、と碇を落としたような音が聞こえ、下船する人や足音が波の音と混じって聞こえてきた。


 セリウスに抱えられていたケントがとうとう我慢ならないと暴れ出した。

 両手両足をバタバタと動かしてはセリウスの腕から逃げ出そうとするが、彼の拘束はびくともしない。おい!と叫び声を上げる口を今度はティナが慌てて手で塞いだ。

 目を白黒させる子ども達にティナは人差し指を立てて、シィとジェスチャーをする。緊迫した雰囲気にようやく3人ともが押し黙った。やがて小声で

「どうして静かにしないといけないの?」

「一体どういうことですか?」

「早く幽霊を見に行こうぜ」

「っていうか、足音しない?幽霊って足が生えているかしら?」

「声も普通の人間みたいだな」

 口々に疑問の声を上げる。

 訳も分からずまだまだ呑気な子ども達とは裏腹に、すぐ向こうで得体の知れない相手がいると思うと今にも逃げ出したくなるティナは、焦燥に騒ぐ胸をなんとか大きく深呼吸することで落ち着けた。


「幽霊に見つかってしまうわ。今は身を隠すのが先よ」

「けど、船はあっちに行っちまったぜ?追いかけないと見失うぞ?」

「ようやく見つけた幽霊船よ?早く追いかけないと!」

「足の生えた幽霊なんて見たこともないよ僕!」

「悪いが子どものお遊びに付き合ってる暇はねえんだ。お前らはここでじっとしてろ」

 大冒険を始めようと、好奇心に目をキラキラと輝かせた子ども達を前に、ぴしゃりと冷たく言い放ったのはセリウスだった。


 ばか、とティナが舌打ちをして、子ども達をなんとか止めようとしていた口は、今度は宥めようとして開かれる。けれど非難の目を強くした彼らが、加減も忘れて反論する方が早かった。

「お前、勝手に出てきて好き勝手言ってんじゃねえよ!」

「そうよ!これは私達が探していた船なんだからアンタこそ関係ないでしょ!!」

「わ、ちょっと二人ともそんな大きな声を出しちゃ

「誰だ!?」


 突然、第三者の声が聞こえた。

 努力虚しく簡単にピンチに陥ったことを悟ったティナは、もはや取り繕うこともなく一目散に逃亡する。

 セリウスが少年たちを抱えたままに先導し、ティナはアンナの手を引いて後を追う。

 それぞれ悲鳴を上げる子ども達に構う暇もなく、全速力でひた走る後ろから、誰かいたぞ、追え、逃がすな、と様々な怒声が聞こえてくる。

 結構な人数だと頭の片隅で理解しながらティナは坂を駆け上がった。


 幸い、地の利がある子ども達がいるのでなんとか逃げ切れるはずだと思った瞬間

「あっ!」

 アンナが何かに躓いて転んだ。ぐん、と手を繋いでいたティナも後方へ引っ張られ、抗えずに尻もちをつく。

「見つけたぞ!」「あそこだ!」

 すぐに不審者たちの声が大きくなってくる。

 ティナは慌ててアンナに耳打ちする。

「せいの、でケントたちの方へ全力で走って。良いわね」

 え?とアンナが聞き返す間もなく、男達が凄い形相で走り寄ってくるのが見えた。


「せいの!」

ティナの言うことの意味。恐怖すら感じる男達形相。その数。幽霊ではないのか、という疑問。そのどれもを頭で理解するより先にティナの声が頭に木霊する。

 条件反射に町へと走り出すアンナと反対に、ティナは不審者たちへと両手を広げて走り出した。

「え?お姉さん!?」

 慌てて振り返ろうとするアンナに、走りなさい!早く!と喝が飛ぶ。

 前方からは、こっちだ!はやく!とアンナを呼ぶ大好きな二人の声が聞こえ、無我夢中でアンナは足を出す。

 どんどんと遠くなる、飛び交う不審者の声と、悲鳴と、波の音に、遅れて恐怖がせり上がってきた。足も手も息ですらも震えだす中、アンナはただただ夢中で前へと駆けた。

 ようやくその両手を馴染みある二つの手に掴まれて、行くぞ、と叫ぶ声がアンナにいくらかの安心をくれた。

 その、横を。


 アンナ達が駆ける方向とは反対に、一つの気配が驚く速さで通り過ぎた。

 驚いて思わず振り返るが、すぐ引かれる両手の力強さにまた前へと走り出す。




 駆けて行ったそれが、先ほどのお兄さんだと頭のどこかで理解しながら。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ